【東風西乱・上州征伐】運ぶべき書状

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月29日〜12月09日

リプレイ公開日:2006年12月22日

●オープニング

●上州沼田・北方戦線
「攻め立てよ!! 家康公が前橋を攻め立てておるからには沼田への援軍など在り得ぬ。一気に押し潰せえ!!」
 毘の旗が靡き、沼田の地に戦塵が舞う。
 田畑は刈り取られ、葉は落ち、雨も少なく、空気は乾いている。
 農民たちは農閑期であり、これほど戦に適う季節であれば、侍たちの士気が、そのまま全軍の士気と成りえた。
 しかし、沼田勢は各地に築かれた出城とは言えないまでも、砦としての機能を充分に持った拠点を多数構築し、効果的な迎撃で上杉勢の進軍を阻んでいた。
 とはいえ、越後上杉勢は精強で、寡兵しか配備できない砦では長く持ちこたえることはできない。それでも夜襲、伏兵、強襲を繰り返され、あまつさえ地の利を活かされ、攻めば退き、退けば攻めるを反復されれば進軍は遅々として進まなかった。
「流石は謙信公‥‥ 生半可な攻めではありませんな」
「心配するな、六郎。此度の戦、我らの勝ちだ。
 秋の収穫も終え、こちらの備えは万全。敵が兵を集めやすいということは、我らとて同じこと。
 然れば時間が我らに味方してくれよう」
「ですな。戦は大殿の読みどおりに運びましょう。後は我らが沼田を堅守できるか否か」
「上杉勢の背後には敵が迫っておる。それがわかっておられるからこそ、攻め急いでいるのよ。
 無駄な動きは付け入る隙を与える。それにだ。仮に沼田が落とされても問題はない」
「むしろ今、問題なのは南方の那須勢でしょうな。北方から兵を引き抜けば、果たして支えきれるかどうか。
 今のところ、我ら忍軍で那須の前方と上杉の後背を乱しておりますが、それもどこまで続くか」
「頑張るのは良いが無駄に死ぬなよ。我らの死に場所は父上が用意してくださる。結局は最後まで生き延びた者が勝ちだ」
「御意」
 真田の家紋を身に纏った武者の青年が、傍らに控える男を話し込んでいる。
 この生真面目な表情の青年は、沼田城方面の主将、真田信之。
 上杉謙信公の軍を相手に、ここまで戦えるとすれば、将としての力量はかなりのものと評価できよう。
 さて、何気に話しているが、沼田城の物見櫓の北方には上杉の旗が、じわじわと寄せてくるのがわかる。
「伝令!」
「はっ」
「伍の砦に重則の隊を差し向け、撤退を助けよ。砦の兵には、この信之、奮戦しかと見たと伝えるのだぞ」
「承知」
 櫓の下にいた伝令の旗を差した足軽が、足早に消えていく。
「常道でいけば搦め手の兵がいるか、あの辺りを突いてくるだろうな」
「信之様、我ら真田忍軍がそれらの物見を行い、寡兵なら出鼻を挫いて参りましょうか」
「六郎、しかと頼んだ」
「御意」
 短く返事をして櫓を駆け下りるのは、真田忍者の束ね役、海野六郎。
 上杉の進軍を影から阻み、南方の那須の進撃を暗に食い止めている張本人である。
「さて‥‥ どうしてくれようか」
 その顔には職人が仕事の手順を吟味するような、一種の精悍さが漂う‥‥

●上州沼田・南方、那須の陣
 総大将である那須藩主・那須与一公が率いる本陣450。
 那須藩士・結城朝光を筆頭とする侍と御家人のみで編成された那須軽騎兵200。
 それに、客将・福原資広が率いる兵50を加えた総勢700余の那須勢が、沼田城南方に布陣している。
「ははっ、真田などという田舎侍、何するものぞ。我ら50の兵を押し留めることも叶わんのだからな」
 その本陣では連日の軍議が開かれていた。
 小なりとは言え、砦2つを陥とし、意気上がるは、客将として参陣している、与一公の兄・久隆の子、京帰りの志士・福原資広。
 忍者が戦場全体に暗躍している可能性を掴んでいる那須勢としては、機を見て一気に沼田城に肉薄したいところだが、彼のように考えなしに突撃されたのではたまらない。
 猪突猛進は止めてくれ‥‥と喉まで出掛かるが、与一公の甥御とあれば口酸っぱくもできない。
 この場に重臣の小山朝政殿でもいてくれれば上手く収まったのだろうが、いないものは仕方ないのだ。
 それに、戦闘力だけ見れば、兵力50全てが志士や侍、浪人たちである以上、100や200の兵に匹敵するだろうと期待できる。
 実際、砦を圧倒的に粉砕したと報告されており、文句を言えない状況でもあるのである。
「沼田城の北では上杉勢が果敢に攻めているようです。
 我らが呼応すれば前後からの挟み撃ちとなり、いかに城を頼みとしようと陥とせましょう」
 那須藩士・結城朝光の言に、他の者も頷く‥‥が、それだけでは済まぬ者もいる。
「ならば即刻、陣を進めるべし。上州兵など恐るるに足らず!」
「問題は‥‥」
 福原の火のような言に水を差したのは与一公。
 赤黒い鎧を僅かに鳴らして立ち上がり、間を取ると語り始めた。
「連携せずに上杉兵と我らが反復攻撃すれば、敵の消耗は誘えても、結局は兵力差を活かせず、こちらも消耗するでしょう。
 そうなれば篭城側に有利。軍を進めて砦を攻略しつつ準備を整え、上杉勢との連絡を機に総攻めをかけます。
 上杉勢への連絡には足軽数隊と蒼天隊を向かわせることとします」
「「「「「承知」」」」」
 また足止めか‥‥とでも言いたげな福原を含め、一同は与一公の命を拝した。

 その後、江戸冒険者ギルドには、那須藩からの依頼が張り出された。

『那須藩正規軍遊撃部隊・蒼天隊の一隊を務めてくれる者を募集。
 現地では上州兵や忍者との戦闘が予想されるため、命の保障はないが、その分、高額の報酬を保障する。
 また、提示されている報酬以外に、働き次第で褒賞金や褒美を与えることとする。
 隊士の冒険者は依頼の期間中は準藩士として扱われ、働き次第では藩士への登用もある。良き働きを期待する』

●今回の参加者

 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ジュディ・フローライト(ea9494)/ 乱 雪華(eb5818

●リプレイ本文

●それぞれの道
 騎馬駆けの冒険者7人。
「下手な弓矢も数撃ちゃ当たると申しまするが、それが油断につながる事も、肝に銘じておかねばなりませぬ」
「自分たちも、それぞれに密書を手にしておりまする。誰かが必ず届けよと言われておりまするが‥‥」
「全員、生きて辿り着けという与一公の叱咤なのでしょう」
 限間灯一(ea1488)の馬に同乗する火乃瀬紅葉(ea8917)に目配せし、隊長の白羽与一(ea4536)は不思議そうに笑う。
「生きて会おうという言葉は貰いましたが‥‥ 兎も角、書状を無事に届けるのが先決」
 刀根要(ea2473)は、警戒しながら馬を進める。
「うむ。城が堕ちるかどうかの瀬戸際。抵抗も苛烈なはずだ」
 超美人(ea2831)の言うように、今もあちこちで鬨の声が風に乗って流れてくる。
 那須軍も陽動のために周囲の砦の攻略を始めている今、任務を果たすのみ‥‥である。
 そして‥‥
 出発した他の蒼天隊の背を見送るように別の道を行く女が1人。
「あの人たちは目立ちすぎるのよ。なら‥‥」
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、正面突破を試みる仲間たちとは別の道を行くことを選んだのだった。

●会敵
 愛馬を撫で撫でしながら進む七瀬水穂(ea3744)に、カイ・ローン(ea3054)は警戒を怠らないように注意しながら手綱を捌く。
「しっかり食べさせて来たから瑪瑙も元気なのです♪」
「あぁ、与一公や隊長には感謝しなければ」
 那須藩の馬周りの世話を受け、精の付くものを食べさせてもらった馬たちの足踏みは力強い。
「いざとなれば戦場を一気に駆け抜けなければなりませんからね。心強い」
 刀根は昔の部下との懐かしい再会を思い起こして安心しながら、仲間たちを見渡す。
「稜線が切れまするな」
 白羽の指示で、カイら数人が姿勢を低くして行く。
「ん‥‥ 私なら、ここに忍びを投入するな。少数で最も効果を狙える。必ず来るぞ」
 稜線から顔を覗かせ、超は確信的に断言した。
「必ずしも襲撃に向くとは言えないですが、私たちを阻止するなら、やはりここしかないですかね」
「ん? 何か動かなかったか?」
 兵を伏せる場所や危地について話す限間と超の話の腰を折るようにカイが2人の肩を揺さぶった。

 そのころ‥‥
「敵の隊が通ります。7名。風体から冒険者と思われます」
 音も無く駆け込んできた忍びは、そのまま沼田城へと駆けて行く。
「侍衆、ここで仕掛けますぞ」
「ふ、忍びの力なぞ借りずとも討ち取って見せようにな」
「抜かせるわけにはいかないのです。信之様の命にて、ご容赦を」
「元より承知。此度の戦、我らの出番が少ないのを愚痴てみただけのこと」
 侍大将は茂みに身を隠しながら息を潜める。
「左様で」
 暫時、稜線を超えて現れたのは、戦馬を先頭に仕立てた突破の構えの一隊。
 侍大将の片手が上がり、ぎゅぎゅっと弦の引き絞られる音が僅かに響く。
 ところが‥‥
 先頭の戦馬たちが馬首を巡らせた数秒後、侍たちの周囲が突然、爆音とともに炎に包まれた。
「ごほぁ‥‥ あの‥‥爆炎の妖術使いが来ておるのか‥‥」
「えぇい! 怯むなぁ突っ込めえ!!」
 侍大将の怒声にビクッと反応した侍たちは即座に弓を捨て、抜刀しながら突入して行く。
 足軽たちも状況を理解できないままに短弓を捨て、慌てた者は槍も捨てて続く。
「我こそは蒼天の刀根」
「俺は真田家臣‥‥」
 的を目掛ける矢の如く、愛馬・潮風を操る刀根は、すれ違い様に霞刀の一撃を繰り出す。
「ごおぅ、ばがなぁ」
「おぅ、止めるなら全力で来い」
 侍の繰り出した必殺の突きは、オーラの盾で弾かれていた。
「南無八幡大菩薩‥‥」
「通しませぬ! 姉さまは紅葉が守りまする!!」
 白羽の矢が足軽の喉に突き刺さるが、仲間たちに押し出されるように、その歩みは止まらない。
 隊列に隠していた鬼火と自らを壁代わりに配し、火乃瀬は敵隊列の後方をファイヤートラップで撹乱していく。
 それでも抜けてくる敵はカイの張ったホーリーフィールドに出鼻を挫かれた。
「ちっ‥‥ 侍衆を援護せよ」
 忍者たちが散って行く。
「忍びがいることがわかっていれば惑わされることは無い!」
「くっ、馬鹿な」
 忍法での人外な跳躍を読んでいた超は着地地点で待ち受けるように一撃を加え、忍者刀を打ち砕く。
 数では沼田兵の方が勝っているが、これだけの乱戦であれば実戦力は冒険者の方が上。
 ましてや、これだけ炎に巻かれた戦場の経験となれば‥‥
「大将、退くぞ。分が悪い!」
「えぇい、功名はどこじゃあ!!」
 忍びが撹乱する中、敵部隊は撤退を始めた。甚大な被害を出しながら‥‥

●死の影
 縄ひょうを投げると、かわした先に撃ち込まれる数倍の手裏剣‥‥ 
 まずい、まずいと思いながらも、多勢に無勢では危地へと追い込まれていく。
 広い場所でなら縄ひょうの特性を活かした戦いができるのに‥‥ 
(「私が見つかっても、那須密偵に向かう忍者が減るのなら‥‥」)
 アイーダは心の中で強がる。
「潰せる間者は真っ先に潰す命令でね」
 覆面の上からでも忍者たちの余裕の笑みは見て取れる。
 こんなところで死んでしまうの?
 一斉に手裏剣が投げ込まれる刹那、周囲に矢が突き刺さる。
「ぐぉお‥‥」
 振り返った忍者たちが見たのは、盛り土の上に位置取る那須軽騎兵の何本もの半槍に貫かれた忍者の姿が‥‥ 
「体勢を立て直せ!!」
 機動力を活かした那須軽騎兵の波状攻撃に翻弄されながらも、直ぐに対応してくるのは流石は真田忍軍といったところか。
「来なさい!」
 出された手を握り、腕が引き千切れそうな痛みに耐えながら、アイーダは馬の背に乗った。
 合図と共に騎馬は一糸乱れぬ動きで那須本陣へと駆け帰って行く。
「助かったわ。ありがとう」
 我に返り、思い出したかのように湧いてくる痛みに顔を歪めながら呟く‥‥ 
「礼には及ばない。殿の命だ。我らも忍者の2、3人は倒したろう。それで充分」
 そう言う彼が那須軽騎兵総大将の結城朝光だとアイーダが知ったのは、帰陣してからのことだった。

●毘沙門天の戦ぶり
「うぉっ‥‥ 持ちこたえろ! 援軍が来るまで‥‥」
「敵将、討ち取ったりぃ!」
 指示を出していた侍が討ち取られ、真田軍前線に動揺が走る。
 城の反対側に戦いの気配を感じた謙信公が、後方部隊との連携を重視するよりも城を落としてしまう方が速いと踏んだからだろうか、これまでの正攻法とは打って変わって猛攻撃を始めていた。
 まさに鬼神の如く、その勢いを止めることはできない。
「良将は好機を知る‥‥か」
「城内の物資の殆んどは運び出すか、隠し終わっています。撤退の下知は何時にでも」
 進めた搦め手から待ち伏せのために寡兵だけ残し、主力に合流させた謙信公は、総掛かりで沼田城の防衛網を突き崩したのである。
 戦力をシフトさせていた沼田城は一時的に混乱の渦中にあったが、総大将の真田信之と腹心の海野六郎の差配で最悪の事態だけは免れていると言って良い。
「殿、上杉の搦め手の待ち伏せをくらいました。忍び1名死亡。残りは撤退に成功して回復しておりますが、手持ちの薬は残り少なく‥‥」
 駆け込んできた忍びは、詳しく状況を説明して命令を待った。
「忍軍の消耗を避けるのは優先させなければならん。六郎、退き口を確保せよ」
「承知いたした」
 真田軍の不幸は、上杉軍の作戦に那須軍福原隊の猪突が呼応してしまったことにある。
 両軍の情報を分断している間は各個に対応すれば良いと考えていただけに、福原隊に大打撃を与えるために迎撃の兵を繰り出していた矢先、上杉軍が一丸となって襲い掛かってきたのは堪らない。
「鷲塚隊3班、侍衆と上杉陣へ向かう那須軍の小部隊を迎撃」
「始まったな」
「ですな」
 繋ぎの報告に信之は不敵に笑う。
「鷲塚隊2班、間者と思しき者を撃退。那須騎兵の襲撃を受け、討ち死に2名」
「上杉勢の強襲。なおも続いております」
「南方の隊、敵に大打撃を与えるものの、救援の那須兵に押し返されたる模様」
 次々と舞い込む報告に、流石の信之も眉を顰め始めた。
「何をしている、六郎。時の運が我らにないだけのこと。沼田城を捨てる」
「は、はっ‥‥」
 僅かに思考を混乱させていた海野六郎は、信之に諭され、配下の忍びを連れて刹那の後に消えた。
「敵も忍びの使い方を心得てきたか‥‥ うかうかしてはいられぬな」
 信之は独り呟くと、本陣に武将を招集するよう伝令を走らせた。

●沼田城炎上
「那須藩、蒼天隊! 上杉勢に御味方仕る!!」
「青き守護者、カイ・ローン参る」
 一矢の字の即席の幟を押し立て、蒼天隊が沼田城へ迫る。
「隊列を崩さないで。七瀬さんは城門の内側へ炎の術を!」
「あいあいさ〜」
 限間の的確な指示で七瀬の強力な精霊魔法が炸裂し、白羽の矢は狭間を貫いている。
「あれが蒼天の十矢と噂の者どもか」
「いえ、蒼天十矢隊は解散させられたと。今の蒼天隊は那須藩預かりの冒険者たち全てを指すのだとか」
「しかし、良い働きをする」
 側を固める武将に、謙信公は眼光鋭く笑う。
「良いか! 那須兵に負けるでないぞ! 上杉の精強さを見せてやれ」
 その凛とした声は戦場を駆け抜け、地を鳴らす上杉勢の鬨の声で返された。
 まさに疾風怒濤‥‥
 狼煙、それに法螺貝と太鼓の音が沼田城の南北で呼応するように合図され、一斉に沼田城に襲い掛かった。
 蒼天隊と前後して辿り着いた那須密偵によれば、それぞれに渡された密書は全てが本物だったようである。
 それぞれに違う手筈が書かれており、辿り着いたどれか1つの密書の手筈を行えば、上杉勢と那須勢の連携がとれるという‥‥
「上杉勢に引けを取るな! 我らには八幡様の御加護がある。突撃ぃいい!!」
 壁越しに那須武将の声が聞えてくる。
 南無八幡大菩薩の大合唱は那須主力も城内へ取り付いた証左だ。
「勝ちましたな」
「はい、与一姉様」
 上州沼田城が陥落したのは、程なくである‥‥