【春雪桜浪】嵐の雪
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 10 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月23日〜03月29日
リプレイ公開日:2007年03月31日
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●オープニング
草木が芽生え、虫たちが起き、蕾は膨らみを増し、時折感じる身震いを呼ぶ寒さが春が近いことを実感させてくれる。
ここ、江戸の町にも春はやって来つつあるようだ。
「美味いぜぇ、ちょいと買っていかねぇかい?」
「あら、美味しそうね」
野菜売りの篭からも春の香はやってくる。
人々も周囲が春めきあっていくのに合わせて活気づいているかのよう。
「そういや、聞いたかい? 不忍池の氷が融けないって話」
「おうおう! 何だか寒くてたまんねぇって話だな」
「何かおかしなことの前触れとかじゃなきゃいいんだけどね。あ、これとこれを頂戴」
「へぃ、まいど♪ また美味しいのを仕入れて来やすんで」
手を振る野菜売りに、小さく振り向いて、これまた小さく会釈をして女は去っていった。
「ぶるるぁ‥‥ ちきしょい、神田の辺りも寒くなってきやがった」
ふと気がつけば、はらはらと舞う白いもの。桜吹雪には、まだ早い。
「雪‥‥かよ。寒いわけだ。さっさと売って、帰って飲むか」
男は手拭いを首に巻いて、襟を合わせると篭を担ぐと、歩き出す。
おお〜〜ん‥‥
「犬も寒いのかね‥‥っと仕事仕事ぉ。え〜、鍋で美味しい、野菜はいらねぇか〜♪ あったかい鍋の具だぜ〜♪」
くしょい。
どうやら江戸の町に春が来るのは、もう少し先の話のようである‥‥
『不忍池を中心に寒波が広がっています。
もしや妖怪変化の仕業では‥‥という町衆からの不安を払拭するために見回りを続けていますが、成果は上がっていない様子。
自然現象かもしれない事件に、これ以上、与力や岡引の人手を割くことは、市中の治安にも良くないとギルドへ依頼がありました。
何が起きているのか、冒険者の視点から探索し、報告を願いたい』
「町の人の安心が掛かってるからな。今回の依頼は、確実にいくために手練の冒険者にやってもらうことにした。
それでな。奉行所からは与力の只野様が繋ぎになってくれるらしい。銭投げの親分さんと、その子分も手伝ってくれるらしいな。
しっかりと頼むぜ」
地図を広げるギルドの親仁は、君たちにそう言うとニッコリ笑った。
●リプレイ本文
●春を忘れた雪の嵐
ぶるっ‥‥
不忍池に訪れた双海一刃(ea3947)と忍犬の藤丸。
「じきに春だというのに‥‥」
艶やかな光沢を持つ皮の装束の襟に巻いた布地を巻き直し、身を震わせた。
その息は白い。
藤丸の首にも布を巻いてやるが、防寒具を着込んでいる双海ほどには持つまい。
何より自慢の鼻も風邪を引いて鼻水を垂らすようになってしまっては役には立つまい。
「どこから調べるか‥‥」
手の甲を下にして中指で叩くと、池の氷はしっかりと張っていた。
「この寒波が異常なのかどうかすら分かってないのだから、一つずつ可能性を潰していこう」
彼の後ろから姿を現したのは、青き守護者を名乗る巡回医師カイ・ローン(ea3054)。
幾つもの桶を抱えている。
「それは?」
「池の周囲に置いて氷の張り具合を見るんです。不自然な点がないか見つけられるかもしれない」
「成る程。いい考えだ」
桶を半分受け取ると、双海は池の周囲に沿って行ってしまった。
『この時期だってのに、こんなに寒いのは、この辺だけなんでさ』
『氷が融けないのは不忍池だけだし、おかしな天気ですよ。住んでる者にしてみりゃ、堪らないですよ』
これは岡引たちの話だ。
カイたちの聞き込みでも住民の辟易した様子が、ひしひしと伝わってきて思わず溜め息をつかずには入られなかったほどである。
「さて、行こう。おや?」
はらり、はらり‥‥
受け止めた白いものがカイの手の平で融けて消えた。
●大宴会
「さすが姉様。この事あるを予想して、送ってくださったに違いありませぬ」
温もりを感じながら、池の周囲をよたよた歩く巨大なコマドリ。
「おおぅ、具が勝手にやって来たですよ」
声は風に消されたのか、気付かぬふりなのか、もこもこに着込んだ七瀬水穂(ea3744)は頬を紅に染めながら歓声をあげた。
寒い中、毛皮の敷物をして、毛布にくるまって焚き火で鍋をほこほこ煮込んでいるらしい‥‥
「そんなことばかりしているゆえ、猛女などと言われるのでござりまする」
慌てて、まるごとコマドリをめくり、顔を露わにした火乃瀬紅葉(ea8917)が苦笑いした。
「こらそこの紅葉ちゃん、嫁入り前の乙女を捕まえて『猛女』はないですよ。ぷんぷんです。せめて乙女(お・と・め)にするですよ〜」
「けひゃひゃひゃ、まぁ、食べるといい。体が温まるね〜」
きらーんと何かが光る。
「あら、ドクターまでいたのでござりまするか? ギルドで調べものをすると言っておられましたが」
自身を象った白いきぐるみに身を包んだドクターことトマス・ウェスト(ea8714)から受け取った椀を一口。
やっぱり寒い時には暖かいものを食べるのが一番‥‥って‥‥
「ぶっ‥‥」
火乃瀬の顔色が一瞬で変わる。
「大げさですよ〜。お野菜いっぱいの美味しい鍋なのですよ。はにゃ?」
その顔色が青ざめていくのを見て、七瀬が首を傾げ、ドクターを見た。
何か入れてる‥‥
「薬湯鍋にしようと思って我が輩が新薬を入れたが何か」
「それなのですよ〜※♪% 解毒解毒〜」
「毒ではなく、体が温まる新薬なのだがね」
慌てる七瀬とは対照的にドクターは邪悪な笑いを浮かべながら冷静にアンチドートする。
「な‥‥何か凄い蝶のようなものが見えたような気が致しまする‥‥」
火乃瀬は力なく微笑みを返す。健気である。
さて‥‥
「焼き芋しておいて良かったですよ〜」
七瀬のファイヤーコントロールで火勢を調節して火の中から芋を取り出し、かぶりつく3人。
「只の天気の気まぐれならようございまするが、雪の物の怪も、さっと浮かぶだけで、雪女、雪男、雪狼とおりまするし‥‥」
「雪狼ね〜。昨年も似たようなことがあったのだがね〜」
顎に指を当てて思案顔の火乃瀬。ドクターは1年前に参加した依頼を思い出していた。そのことを話し始める。
「精霊の仕業かもしれないしね。うう〜、調べることが多すぎる〜」
「ほうほう。もう少し調べなひとわからないでふよ」
そうそうとばかりに、七瀬は幸せそうに芋をはふはふ。
「そこらの冒険者では雪狼には歯が立ちませぬ。雪女さんの仕業だった場合は、足跡が人間と区別つかなくて困りそうにございますね」
「ふにゅ、湖が凍ってしまうなんて冷気系の妖怪さんの仕業だと思うですよ。
火を扱えば過剰反応して正体見せるかもしれないと思ったですけど〜」
吹雪になったり、急に温度が下がったりということはなく、今のところ反応がないのが現状だ。
「しかし、この池の中心に原因があるのは間違いなさそうだぞ」
双海とカイが手を振っている。
「御疲れ様なのです。焼き芋、食べるですよ。体が温まるです♪」
「ありがとう」
七瀬から芋を受け取って頬張ると、息が一気に白くなる。
「氷の張り方を調べてみたんだけど、池から離れると冷気が弱くなり、近付くに従って強くなっている」
「つまり、原因は池にあるという訳なのだね〜」
カイの説明にドクターが頷く。
「そう。何か見た者がいないか調べる必要があるな」
「それに池の中心で何が起こっているのかも‥‥で、ござりまするね」
食べ差し半分を藤丸に分け与える双海と次の芋を頬張る火乃瀬の言葉に全員が頷く。
「そろっと乗れば氷は渡れなくないですよ。割れても知らないですけどね」
七瀬の指差す先の湖には氷の融かされた跡が。
割と厚く氷が張っているのがわかる。
池の水全体が凍っていないことを見る限り、池の中に原因はなさそうだ。
「湖の中心、水面よりも上‥‥か」
へくち。
「使うですよ」
「有り難い」
くしゃみする藤丸を双海が抱き寄せると、七瀬が毛布を渡した。
●更なる調べ
おおぉぅぅうう‥‥
数度の探索で判明したこと。
まずは、何度となく池の方から遠吠えが聞えるということだ。
「気になるか?」
双海の問いに藤丸は短く池の中心を向いて吠える。
「アンデッドではなさそうだし、やはり雪狼なのかな」
氷の張る池に落ちたら洒落にならないため、池の周りから僅かの距離までしか調べることしかできないが、惑いのしゃれこうべを使った範囲ではアンデッドの気配はない。
「近所の子供たちが何人か大きな白い犬を見たと言っている。恐らく、そうだ」
せめて仲間のうち、誰かが目撃できれば奉行所へ提出する報告書は、より有用なものになるだろうに。
「あ、皆様。気になる情報が」
駆けて来るのは火乃瀬。
「子供が氷の上を歩いている女の人を見かけたようでござりまする」
「その女(ひと)は真っ白な犬に抱きつくように体を預けて歩いていたようだね〜」
その後ろをドクターが歩いている。
「現場百回が役に立ったな。藤丸も池の中心が気になっているようだし」
双海の言いたいことは、皆も分かる。
「ですよ。きっと」
いつの間にか現れ、また焼き芋を食べている七瀬も同意はするが、予想を口にして断定はしない。
「例年、こんな寒いことはないと言うし、長いこと住んでいる人も初めての経験だというしな」
「でも、考えていることが本当ならば大変だよ」
「原因が1つではないかもしれないと思ってはいたが、本当なら本当に厄介だな」
「そうだね〜。足元が、いつ崩れるかわからないのだからね〜」
そう。問題は、氷の上を歩いていた女、そして真っ白な犬、しかも、その犬は件の女に同行していたという。
それ以外にも足場の問題がある。
もし、戦いになれば安心できない足場では実力の半分も出せるかどうか‥‥
「うわっ、何をしているんです?」
「寒かったんで術を使ったですよ。これでへっちゃ。カイさんも寒かったら当たっていいですよ♪」
七瀬の体が炎に包まれている。ファイヤーバードの魔法だ。
術者自身が暖かくなるわけではないが、この程度の寒さであれば術者は寒くを凌ぐことができる。
それはそうと周囲は当然暖かい。ま、近付けば火傷するが。
即席の焚き火といったところか。藤丸などは、嬉しそうに唸っている。
「長持ちしないのが残念〜」
持続時間が短いので、あまり役に立たないのは愛嬌と言ったところか。
「けひゃひゃひゃひゃ、それでも役には立ったのかね〜。あそこを見るといい」
軽薄そうなドクターの声は少し上ずっていた。
●物の怪の女(ひと)
不忍池の中央に向かう方角に吹雪が巻き起こっている‥‥
その中には逆巻く髪の人影が。シルエットからすると女性のようだ。
「出たでござりまするな」
もう少し、はっきり見ることができれば特定できるかもしれないのに‥‥
「はにゃ?」
七瀬が思わず声をあげる。
女の人影は、よろよろと足をもつれさせたのだ。
刹那、吹雪の中から現れた白い犬のような影が、その背に女を受け止め、吹雪の中に運び去ってしまった。
「消えちゃったです〜」
「事情がありそうですね」
「十中八九、雪女と雪狼でござりまする。断言できないのが悔しゅうござりますが‥‥」
「それはしょうがないことですよ」
「ですよ〜♪」
カイと七瀬に慰められ、火乃瀬は笑みを返した。
「行って呪縛を試してみるかね〜?」
「いや、失敗して暴れだしたら、周辺にとんでもなく迷惑がかかる。ここは報告だけに留めよう」
双海の言に、ドクターは口をつぐんだ。