【泡沫の美】生ゆえの怒涛

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 21 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月02日〜04月10日

リプレイ公開日:2007年04月09日

●オープニング

●酒の肴
「もうすぐ本格的に春だな。だんだん暖かくなってきやがったし、鳥の鳴き声もほら‥‥」
「ホントだな。気がつきゃ、こんなに鳥の声も近くなったか」
「春といえばヤッパ桜だろ。桜と言えば〜〜」
「「花見ぃ〜〜〜♪」」
 花は、まだだが?
 下野国那須藩にて起きた数年前の鬼騒動や妖狐の江戸襲撃は周辺諸国人々には昔話になりつつある。
 当の那須藩領民たちも、一昨年来に比べ藩内で大規模な戦がなかったため安心しつつある‥‥というか気が緩みつつあると言った方がよいのか‥‥
 どかっと酒の容器を置くと思わず笑顔が浮かぶ。
「そう言えばよ。聞いたか?」
「あぁ、聞いた聞いた。大ふくろうの話だろ?」
「違う違う。お化け鼠の話さ」
 したかったのと違う話題でかち合って首を傾げあう2人。
「「どんな話なんだ?」」
 今度は思わず同じ台詞が口をついたことに自然と大笑い。
 かちゃり♪
 肴ができたことに喜ぶ2人は酒を注いだ椀を合わせるのだった。

●怒涛どとう‥‥
 どどつ、どどう‥‥
「お?」
「地震か?」
 作業をしていた農夫が手を止めて辺りを見渡す。
 ぶばきっ、ばりばりばり‥‥
「うっ、ほ‥‥ うぇ?」
「嘘だろ‥‥」
 逃げ出そうとするが、木々を薙ぎ倒しながら毛皮を波のようにうねらせて押し寄せる生き物の群れを前に、脚は言うことを聞かない。
「くっ‥‥ばぁ!!」
 爪に引き裂かれ、吹き飛ばされ、踏み潰され、喰らいつかれて引き千切られる。
 それは農夫だけではない‥‥
「きゃぁああ!」
「くそっ!!」
「ひひぃ‥‥いん、ひんぃぃぃぃぃ‥‥」
 ばばき、どどん、ずどど‥‥
 家は押しつぶされ、作物は踏み潰され、家畜は食い荒らされていく‥‥

 数日後‥‥
「十頭前後というところか。熊が群れるなんて尋常じゃないぞ」
 2人の那須藩士に同行する猟師が、足跡や破壊された家屋などを調べながら呟いた。
「だろうな。被害も甚大だ。この時期にな」
 10名ほどの足軽たちが村人と共に遺体を埋葬したりしているのが見える。
 村人の被害は死者6名、重傷軽傷を含めて負傷者23名、倒壊家屋4戸‥‥
 これから作付けの時期だというのに‥‥
 那須藩士は、思わず溜め息をつくと猟師を見やった。
「厄介だなぁ。こりゃ大物ばかりだ」
 猟師の声に再び溜め息。
 本格的な軍を起こして対処するとなれば、農繁期に入ろうとする百姓たちを足軽として組み込まなければならないだろう。
 田畑が気になるため士気は上がらず、長引けば一揆の危険もある。
「ここは、やはり‥‥」
「十矢隊を呼ぶのが一番か」
 那須藩士たちは顔を見合わせ、互いに頷いた。

 後日、江戸の冒険者ギルドに依頼が張り出された。

『那須藩南部の村が熊の群れに襲われた。那須藩からの依頼で、君たちはこれを討たなければならない。
 時折、熊が村を覗っているようだが、駐屯している那須兵を警戒してか、今のところ村へは踏み込んでいない模様』

※ 関連情報 ※

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓と馬、加えて近年では薬草が特産品。

【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
 那須藩主。弓の名手。
 喜連川宗高、那須守宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【喜連川】
 下野国中部(那須藩南西部)にある那須藩主・喜連川那須守与一宗高の直轄地。

【那須支局】
 正式名称『江戸冒険者ギルド那須支局』、通称『那須支局』。
 江戸ギルドの出城といった役割の冒険者の拠点。
 簡易宿泊施設、調理場、厩、中庭、広間などに加えて、薬草庫や書庫(書物は那須情報中心)もあって拠点としての能力は高い。
 依頼斡旋はしていないが、依頼の受付代行は行っており那須での依頼の窓口となっている。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 八溝山決戦に至る那須動乱を勝利に導いた立役者として那須の民に絶大な人気を誇る。
 茶臼山決戦の後、藩財政再建にも多くの献策を行ったが謀反の疑いをかけられ部隊は解散した。
 現在、与一公の意向により、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与えられている。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

南天 流香(ea2476)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ 南天 陣(eb2719

●リプレイ本文

●蒼天の絆
「お前は‥‥ 末蔵?」
 当地の村へ入った刀根要(ea2473)は、出迎えの武士を見て言葉を失った。
「お久しぶりです。今は藩士となり、杉田蒼馬と名乗り、杉田玄白様の下で働いています」
 大小を佩いた武士の腕には懐かしい蒼天十矢隊の腕章が‥‥
「十壱本の矢は、未だ折れては折らぬ。そして、この土地を案ずる矢は、十壱本だけにあらず‥‥」
 荷物持ちの赤毛の男が誰に言うでもなく呟く。
「小賢しいな‥‥ あの人は。俺は、この地が好かんというのに」
 燃える心と冷ややかな表情を鬼の面で隠した夜十字信人(ea3094)は、僅かに息を吐く。その表情は知れない。
 では‥‥と蒼馬の案内で陣屋代わりの家に着くと、一行は間を置かず打ち合わせを始めた。
「熊が群れるだけでも不可思議な話だが、人里を襲うなど前代未聞でござるな。何やら凶事の前触れでなければよいが‥‥」
「あぁ、何やら他にも事件が起きているようだしな」
 結城友矩(ea2046)や南天輝(ea2557)の言葉で場の空気が張り詰める‥‥
「冬の眠りから目覚めたばかりで寝ぼけたか?」
 場の空気を和ませられず、鬼面の男は溜め息。すぐに話し合いの熱が戻った。
「冬眠から目覚める季節とはいえ、こう群れるのは明らかにおかしゅう思いまする‥‥ 最近、付近で何か変わった事はありませぬか?」
 火乃瀬紅葉(ea8917)の問い対する蒼馬の答えは、事件は起きているが異常という程ではない‥‥と。
「止むを得なく人里近くまで下りて来てるのなら解決してあげたいけど」
「だが、何か怪しい感じがひしひしとする‥‥ 異国では悪魔の動きが活発になってきたと言うし」
 御陰桜(eb4757)の意見もわかるが、西中島導仁(ea2741)の考えも捨て置くことはできない。
「原因を探るのも重要でござるが、まずは目の前の現実を何とかするでござる」
 結城の言葉に、思わず一同は頷くのだった。

 暫くして‥‥
「簡単な罠で心許ないでござるな」
「俺は猟師ではないからな。熊に効果あればいいんだがね」
 見張りから帰ってきた音無藤丸(ea7755)を南天が宥める。
 流石に時間的に村の全周を防御できなかったが、篝火を焚いて敵を警戒させることはできる。
 相手が村を襲うなら手薄な場所を狙うだろう。敵が野生動物なら警戒心を逆手に取れる。それは火乃瀬も村の狩人も同意見だった。
 ならば、以前、熊たちに荒らされた場所を戦場として設定するのが上策。そこへ誘い込むことにした。
 村人たちの同意を得られたのは大きい。蒼馬は、そう言った。
 その証拠に逆茂木や脚払いの縄の罠に使う物資は容易に集まったし、工作にも殆んど時間は掛かっていない。
 一段落したら、見晴らせるように草を刈ったり、野生の動物を追い払う罠や接近を知らせる仕掛けなどをする手筈になっているが、今はその時ではない。
「怪しい者は居らぬようでござりまするが‥‥」
「今のところ、わからないってとこね」
 火乃瀬と共に別班として見張りに出ていた御陰は愛犬たちを撫でてやる。
 調べた足跡は熊のものと恐らくは村人のもの。それ以上は、わからない。
「報告で聞かされていた通り、山へ帰った後も何度か村の近くまで来たらしい」
「らしい♪」
 西中島に同行する妖精の如月が枯れずに残っていた木にグリーンワードを使ったと説明し、報告した。
「来ないなら、こちらから仕掛けまするか?」
「早駆けに次ぐ防備で御疲れでしょう。明日まで動きがなければ、何か考えましょう」
 火乃瀬に答える蒼馬を見て、刀根は微笑む。
「何か?」
「いいえ、成長したのですね。末蔵、いや、蒼馬殿」
「止めてくださいよ‥‥ ほら、男衆は夜の見張りに備えて、半数は寝ておくように言ったはずですよ!」
 照れ隠しなのか、蒼馬は村人を捕まえて指示を出している。
「そうね。疲れたから温泉にでも入りたいわねぇ」
「少し行ったところにあります。しかし、熊が出るのでは温泉どころではなく‥‥」
「ん〜、やる気、出てきた。退治したら温泉に入って宴会。決定ね。お酒は、あたしが注いであげるわよ♪」
 御陰の言葉に上がった男どもの歓声が尻つぼみなのは‥‥

●襲撃
 状況が動いたのは一夜明けてから。
「来たでござる! 何者かに操られているような不自然な動きは、今のところ見えないでござるよ」
 屋根の上で警戒に当たっていた音無が巨体に似合わない身軽さで飛び降り、小さく叫ぶ。
「来ましたか」
 座って眠っていた刀根は、傍らの得物に手をかけて立ち上がった。
「前に現れて何日も経ちますし、腹が減ってきたのかもしれませんね」
「なら、こちらは熊鍋にするか」
 夜十字の言葉に狩人が笑う。
「我らは村人を避難させて防備を固めます。そちらは頼みますね」
「承知した。得物が振り回せるなら、これを使うか!」
 ぶぶん!
 ビッシリと針の生えた金棒を振り回しながら結城は歩き出した。

「思ったより強烈ですね」
 逆茂木や縄で稼いだ僅かな時間で戦場に布陣し、オーラエリベイションやオーラシールドを準備した刀根たちは突進してくる熊たちと対峙した。
「奇襲されなかっただけ良しとしなければなりませぬ」
 火乃瀬は、早速、従えた鬼火たちに指示を出し、自身も詠唱に入る。
「日ノ本最強の侍、結城友矩がお相手いたそう。我と思わんものは掛かって来い!」
「先を越されたか。まあいい‥‥ 黄泉路への案内仕る‥‥!」
 挑発するように名乗りを上げる結城と夜十字。
「フン、いくら力があろうと、この攻撃は防げないだろ。まだまだ行くぜ」
「ちっ、俺の台詞だ。それは」
 再び先を越された夜十字が南天のソニックブームに続いて熊の出端を挫こうとするが、傷を負いながらも怒涛は突き進んでくる。
「流石に凄い体力‥‥ 桃、瑠璃、皆を援護して!」
 御陰の放った春花の香は何頭か眠らせたが、最後尾の1頭を残して衝撃で目を覚まし、突っ込んでくる。
『何故、人里に来たのです? 住処で何かあったのですか!?』
 熊の突進を受け流し、組み付かれないように距離を保ちつつ、刀根がオーラテレパスで呼びかけた。
『お前たち、仲間、傷つけた! 腹へってるだけなのに。お前、倒して、お腹一杯になるまで食べる!!』
「くっ、これでは話になりません‥‥」
「相手は熊! 当たり前でござる!!」
 傷を負いながらもカウンターを狙ってハンマーを振り下ろす音無が刀根に叫ぶ!
 一瞬の思考の空白に刀根の血が凍った。
「あんたらしくもない!」
 振り下ろされた熊の腕の関節を狙って南天の野太刀が一閃。
 運よく急所を捉えられたのか、ダラリと腕を垂らし、熊は背中を見せた。
『済みません! 今は!!』
 気合の篭った刀根の一撃が、熊の背中に突き刺さり、衝撃に耐え切れずに、どう! と地面を鳴らす。
「輝、忝い!」
「礼は無用! 親父と流華に要を宜しくと頼まれていただけのこと!!」
 肉の壁の迫る様は歴戦の勇士をも怯ませるのか‥‥
 否! 刀根は盾で熊の一撃を受け止めると、風を切る金棒が熊の腹を一撃! そこへ結城の金棒が振り下ろされる!!
「よし、次だ!」
 咄嗟に庇った前脚に針が突き刺さり、肉と骨の砕ける音が響いた。

●巨大なる雄姿
「ええい、厄介な」
 受けるしかない者たちは囲まれれば防戦一方に陥ってしまう。
 状況だけ見れば蒼天隊に勝ちがあるはずなのに、蒼天隊の方が苦戦しているように見える‥‥
「いきまする!」
 その時、戦場に立ち上がった炎の壁と柱!
「助かった‥‥ 正直、危なかったぜ」
 炎の壁に戸惑う熊に、夜十字が容赦なく黒光りする切っ先を翻し、ソニックブームを叩き込む。
「恐ろしいものでござるな。野生というものは‥‥」
 立ち上がって爪を振り下ろそうとした熊をパワーチャージで引き倒した刀根に合わせて、音無が顔を潰しに一撃を入れた。
「この炎じゃ春花の術は使えないわね‥‥」
 桃と瑠璃を呼び寄せ、御陰は距離を取る。
「獣の住む世界、そこを踏み越えて人里に降りたのが不幸にございまする‥‥ 安らかにお眠りくださいませ」
 火乃瀬の作り出そうとしている炎の囲みに狂乱する熊たちが、各個撃破されるのは時間の問題であったが‥‥

 ごおおぅ‥‥
 地響きのような唸りと共に熊たちの動きが止まる。
 止めろ? 刀根は唸りを、そう聞いた。
「桃、瑠璃? 何?」
 身を低くし、唸り声を上げている愛犬たちを見て、御陰は急に不安に駆られる‥‥
「何が起きたのでござる?」
 一斉に背を向けた熊たちは、傷ついた仲間を守るようにしながら退く。
 それを目で追う結城たちは信じられないものを見た。
 ずむ‥‥
 大地を捉える脚が、震えとなって、その歩みを遠くまで伝えている。
 何頭かを従える黒毛の熊だ。尋常な大きさではない‥‥
「なんて大きさ‥‥」
 火乃瀬は思わず詠唱を忘れた。
 それもそのはずだ。周囲の熊から考えても軽く10mはあろう。
 首の周りと頭の白い毛が、まるで兜のようにも見える‥‥
 そしてヒシヒシと伝わる闘気と威厳‥‥
「白兜‥‥」
 誰となく発した言葉に思わず唾を飲む‥‥
「何が起きているんだ‥‥ 大ミミズ、大猪、大熊どころじゃない‥‥ これほど大きな者が出てくるのは変だ」
「思い過ごしとは思えなくなってきたな」
「やるか? この事件、何かの前兆に見えて仕方が無い。藪を突いて何が出ようか? 鬼か、蛇か。あるいは、両方か‥‥」
 興奮を抑えきれない南天と眉を顰める西中島の隣で、斬魔刀を担いだ夜十字が楽しそうに言う。
「止めておきましょう。何か起きているのであれば、それを調べるのが先です」
「この場の責任者が言うのなら従うまで。向こうもやりあう気はないみたいですからね」
「確かに薮蛇はマズいわよね」
 藩士である蒼馬の言葉に刀根や御陰たちは同意を示す。
「いいだろう。俺が殺気を向けても平然としてやがるヤツだ。楽しみに取っておいてやる」
 仲間が山へ入ったのを見届け、悠々と立ち去る白兜を夜十字たちは見送った。