【春雪桜浪】その身、その願い
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月07日〜04月12日
リプレイ公開日:2007年04月16日
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●オープニング
●春の手前
ここは日ノ本。関八州の中心となる都市、江戸。
そこに横たわる不忍池には変事が起きていた。
「嫌に寒いや」
「全くな。しっかし、窮屈でいけねぇや」
奉行所の采配で周囲の住民は、数日は不忍池に近付くことが禁じられている。
「御奉行所が言うにゃ、この寒さの原因は突き止めているから、お上が何とかするまで近付くんじゃないとよ」
「禁が解かれるまで近付く者は召し取る。問答無用ってんだから恐れ入るぜ」
「あの遠山様が‥‥ってんだから本気ってことなんだろうな」
「でもよ。何があるんだろうな?」
「さぁ? 立て書きには『荒ぶる冬神を鎮め、春を呼ぶ祭事を行う。故に緒人、近寄るべからず』って書いてあったっけ」
「まぁ、暖かくならなきゃ困るしな」
「それじゃ、俺は仕事に行ってくらぁ」
「おう、仕事が終わったら、いつもの酒屋でな。でも、気になるっちゃあ、気になるよな。覗くなって言われるとよ」
男たちは江戸の町の日常へと消えていく。
さて‥‥
ここは江戸冒険者ギルド。
ギルドの親仁から声を掛けられた冒険者に次のような依頼が示された。
『冒険者による探索の結果、雪女と雪狼らしきものが不忍池の氷の上を移動する様子が確認されています。
現地で局所的に起こっている寒波の原因と思われる、これを除くように奉行所からギルドへ依頼がありました。
奉行所は冬鎮祭を行うためとし、数日間は周辺住民に近寄らないよう触れを出しています。
この間に、依頼を達成してほしい。なお、解決方法は問わないとのこと』
「依頼を解決する方法は問わないとあるから、それはお前さんたちに任せるよ。
ただ、周囲に被害を出すのだけはマズイだろうな。
周辺住民は奉行所の与力や岡引たちが近寄らないようにしちゃいるが、完璧にとはいかんだろうしな。
あと、わかってると思うが、冬鎮祭なんてのは方便だ。奉行所の計らいを無駄にしないように。
それから寒さと足場には注意するんだぞ。
じゃあ、しっかりと頼むぜ」
親仁は、君たちにそう言うとニッコリ笑った。
●その身、その願い
氷の上に横たわるは真白き毛皮。
狼の顔は勇敢さを湛え、気遣うように人の女を、その毛皮で包むように身を寄せている。
「この身さえ‥‥」
女は、力ない表情で狼の顔に頬を寄せる。
狼は目を細めて僅かに唸り声を放つ。
「唯一つの願い‥‥ あなたにわかる?」
寂しげな表情に一筋‥‥
●リプレイ本文
●予兆の予感
不忍池の一画に冷気で白く靄(もや)の掛かった場所がある。
魔法の大凧に乗り、知人と一緒に上空から様子を確認したカイ・ローン(ea3054)は、それを報告した。
「話すなら、人に危害を加えていない今しかないよ」
「奉行所も冬鎮祭という方便を使っているからね。平和的手段で解決できるなら、それでいいってことだと思う」
沖田光(ea0029)とカイの言葉に反論はない。
冒険者と見れば、とかく妖や鬼を倒す英雄譚で語られるが、避けられる戦いなら避けたいという者も多いということである。
「あっ、実は僕、雪女さんに会うの今年に入って三度目なんですよ。今年は当たり年なのかな?」
「雪女とね‥‥ ぞっとしない巡り合わせだが、今度のことは気になるな。もしかしたら動けない理由があるのかもしれん」
「春ともなれば居心地が悪いはずだろうに。それでも居続けているんだからな」
「あぁ、何とかしたいところではあるが、まず会わなきゃならないか」
腕組みする陸堂明士郎(eb0712)だけでなく、双海一刃(ea3947)や山下剣清(ea6764)たちも思いは同じであった。
「雪女さんも怖い人ばかりじゃありませんからね」
沖田は笑顔で同意する‥‥と、そこへ現れたのは遊び人風の男。
「よぉ、どんな具合なんだ?」
「奉行所は何やってるんだ‥‥ 野次馬は任せとけって言ってたのに」
気安く声をかけてくる男に、双海は溜め息一つ‥‥
「けひゃひゃひゃ、ここは一般人の立ち入りは禁止中だよ〜。おやおや、耐えますか」
ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)がコアギュレイトを唱えるが、遊び人は普通に焚き火に当たっている。
「何者?」
双海たちは身構えた。
「花見酒の雪見酒、駆け付け三杯なのです〜」
「こいつはありがてぇ♪」
差しつ、差されつ‥‥ 七瀬水穂(ea3744)とは気が合いそうな雰囲気。
しかし、七瀬‥‥ ちゃっかり冬鎮祭の祭壇に飾る桜の枝を貰ってきている辺り、抜け目がない。
「お奉行ぉ〜‥‥ うろちょろせんで下さい」
「何だ、只野。硬いこと言うな。気になるんだからしょうがないだろうが」
走ってきた与力は息を切らせている。
「お奉行? ‥‥ってことは?」
「遊び人の金さんだ。堅苦しいのは抜き。これ、いいかい?」
どうしたものかという笑顔で日向大輝(ea3597)は、焚き火で焼いていた団子を差し出す。
「桜色に冬の名残の白と、これからやって来る緑の三色で花見団子だからね。白一色の花見団子にしてたまるかってんだ」
「わかってるよ。そのために奉行所も動いてんだ」
三色団子に齧り付きながら、杯を空けて至福の一息。直後、真面目な顔で金さんが言う。
「お前さんたちからの意見書も参考にして手配りはした。野次馬に関しては安心してくれ。うん、美味いな」
建立中の冬鎮祭の祭壇に野次馬の目が向いているうちに依頼を達成して欲しいと言い、金さんは視線で只野を促した。
「あ、それで頼まれていたことですが‥‥」
只野は調査結果を話し始める。
「不忍池を中心として、周辺の神社仏閣や古い言い伝えがある場所を調べました。
僧侶や神官の殺害、行方不明などの事件の報告はありません。
封印や結界の破壊、逆にそれらが施されてないか‥‥ということに関しては、本格的に調べるなら時間が掛かるそうです。
ただ、それぞれの寺社では、そういう事態は把握していないということです」
「今回の騒ぎに、もっと別なものに絡むか、何かの前触れでなければいいと思ったが‥‥考え過ぎか?」
「何か起きてからでは遅いと言いたいんだろうが、それが難しいんだよな」
「お奉行〜〜〜‥‥」
肩を落とす只野に陸堂は笑った。ともあれ、これが騒動や疑惑の中心ではなさそうなことは僥倖であろう。
●説得
「交渉が上手く行けば何よりなわけだが‥‥」
「信じるしかないね」
陸堂や山下の視線の先では人影が動いている。
「しかし、冷えるね」
キッチリ防寒具を着込んでいても何時間ももつまい。
「けひゃひゃひゃ、動いていれば寒さは紛れるのだね〜」
万が一、氷が割れたときの保険に持参したソリに乗って指図しているのが、ドクターこと、トマス・ウェスト。
それを引いている、沖田、カイ、日向、双海の4人を加えて交渉役という訳だ。
びゅ‥‥ びょう‥‥
突然の冷気に沖田が身を固める。
「こんなところに何をしに来たの? 帰って」
「待って、話を聞いてください。貴女が何かの理由で困って、ここに止まらざる得ないなら、力になりたいんです」
「どうしても帰れと言うなら帰る。だが、湖1つ凍らせるような騒ぎを、お上は放ってはおけない」
女の声に沖田と双海が答えた。
「これ以上、迷惑になれば、主に腕力で解決することにのだね〜」
「警戒させてどうするんですか‥‥ 本当に、我々でできることなら助力したいのです」
ドクターの言葉を慌ててカイが取り繕うが、冷気が強まった‥‥ ヤバい‥‥
「ほら、武器は置いてきたんだ。本当に話が聞きたいんだよ。貴女が悪い人のように思えなくて‥‥」
双海に倣って両手を上げて敵意がないことを示すと、沖田の声に釣られるように女と真っ白い狼が現れた。
「この状況は貴女たちの力によるものですよね?」
警戒心が解けないのか、カイの問いに女は無言で答える。
「そうだ‥‥ 名乗ってませんでしたね。僕は光って言います。貴女は?」
「青の守護者カイ・ローンと申す」
「双海一刃。頼むよ」
「俺は日向大輝。なぁ、俺たち江戸の住民に原因があったなら、上に掛け合う。だから‥‥」
真摯な表情に女の顔が戸惑いの色を見せている。
「立ち退けないなら、せめて理由を聞かせて欲しい」
「雪女さんに知り合いがいるけど、こんな顔色じゃなかった」
「そう言えば、この前よろけて、そいつにもたれかかるのを遠目にみたな。具合が悪いのか? だから動けないのか?」
日向、沖田、双海と矢継ぎ早に質問攻めされ、女は、ほろりと涙を流した。
「私は雪と言います。この子は白風‥‥ 実は‥‥ ううっ‥‥」
「とりあえず、ここじゃ何です。陸(おか)に上がりませんか?」
雪と名乗った女は、その申し出に従うのだった‥‥
●暖炎の宴
岸で合流した一行だが、雪は涙で簡単に話しだせない。
「誰かを好きになって帰れないとか‥‥」
「雪女と人の恋、叶わぬ恋ならいっそ・・・、なーんて御伽話みたいな話かな‥‥とは、チラッと思ったけど‥‥」
静かに首を振る雪に、沖田と日向は小さく安心の溜め息ひとつ‥‥
じゃあ、この事態の原因は何だろう‥‥ 考えられるのは彼女の様子にあるのか?
「暖かくなってくれば、雪のような身体の雪と白風にはきついだろ? まさか、討たれるのを待ってるなんて訳ないだろうし」
何か言いたそうにしながらも、涙が込み上げて、上手く話せないようだ。
「不忍池は思い出の場所なんですか?」
「あの時、私が手を放さなければ‥‥」
日向も沖田も心配で胸が張り裂けそうな顔で雪を見ている。
「あの‥‥ 彼女、体調が悪そうだから焚き火は消してくれませんか? 雪の精とも呼ばれる者たちです。熱いのは‥‥」
「何だよ。消しちまうのかい?」
「ぶぅ、折角、鍋を作ったですよ。冷めてしまうです」
沖田たちからの指摘に金さんと七瀬は唯々諾々とは応じる様子はなく、しかし‥‥と言おうとする沖田を金さんは言葉で制した。
「この冷気じゃ、俺らは死ぬほど寒いからな。焚き火を消しちまう訳にはいかない」
「成る程、確かにそうだ。分かってくれるか、雪殿?」
金さんの言葉の意味に気がついた陸堂の助け舟に、その意味を理解した日向たちは息を呑んだ。
「具合が悪いのなら、我が輩の薬と神の奇跡、どっちがいいかね〜‥‥っとと」
牙をむく白風に、けひゃひゃと笑いながらドクターは距離を取った。
「むう、桜で花見ができないと、猫さんも魚さんも宴会大好き江戸っ子も大迷惑なのです。水穂も、ぽかぽかの春が待ち遠しいですよ」
ほんわか笑顔に、思わず差し出された杯を受け取ってしまう雪。
一気に飲み干す七瀬に釣られて、雪も一片の桜の浮いた杯を空けた。
「苦‥‥」
だが、雪女の顔に生気が戻る‥‥
「御薬酒、効いたですか〜? 他にもあるですよ。
天護酒、どぶろく、甘酒♪ 発泡酒、ハーブワイン、ベルモット、シェリーキャンリーゼ♪ 水穂秘蔵のお酒さんたちなのです♪」
得意げに出して見せる七瀬。
「白いワンワンさんには、これをあげるです」
一瞬躊躇した雪狼だが、雪の見せた笑顔に安心したのか、差し出された干し肉を口にした。
「な、七瀬? 何やったんだ?」
「大丈夫みたいなのですよ? 美味しそうに食べてるです♪」
慌てる山下に微笑み返し。
「湯豆腐もあるです。お腹一杯で元気になれば、きっと話したくなるですよ」
「違いねぇ」
金さんに釣られて笑い声が響く。
「この池が温泉だったら、水穂、もっと大満足なのですけどね。花見酒に雪見酒、ついでに温泉で、くぴっと一杯‥‥ はぁ‥‥」
もっきゅもっきゅと団子を頬張ってなければ、ただの夢見る乙女なのだが‥‥
「実は大火で逸れた娘を探しに来たのです。ですが、心配のあまり、力を抑えられなくなって‥‥」
「それで、この寒波か」
陸堂は豆腐を口にしながら、はふと白い息を吐く。
「探すのに手を貸すよ。名前は?」
「杏子といいます」
「あんず? 俺が冒険者に母親探しを頼んで寺に預けた娘が、そんな名前だった‥‥かな」
「いきなり解決かよ‥‥」
「金さん〜?」
双海らは思わずツッコミ。
「まあ、我が輩は面白くならないのが不満だがね〜。けひゃひゃひゃ」
「冷めるですよ?」
マイペースな冒険者に、雪から笑みがこぼれた。
それから数日後‥‥
冷気は去り、氷は薄くなってきた。
「綺麗なのです♪」
太陽の光に突然の冷気がキラキラと輝く。その冷気が雪たちによるものかは定かではない‥‥