【華の乱】華の臭い‥‥

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2007年04月28日

●オープニング

 春が香る‥‥
 草木は青く茂り、枝を伸ばし、花をつける‥‥
 そんな心躍る季節に、そぐわない鉄の臭い‥‥
 嗅いだことのある者であれば何の臭いか見当はつく。

 血‥‥

 そう、血の臭いだ。
 ずしゃ‥‥ びびっ‥‥
 何か音がする‥‥
 あれは?
 あぁ、そうだ。
 鎧武者が山の中を歩いているんで、おかしいと思って見に来たんだった。
 栗毛色の顔‥‥
 そう。それは馬に違いない。
 だが、それは2足で立ち、大斧を担ぎ、黒の鎧具足を付けている。
 何だろう? 子供がいる?
 危ない‥‥
 あぁ、声が出ない‥‥
 知らせなきゃ‥‥
 あれ? やけに長い八重歯だなぁ‥‥ 何で斧なんか持ってるんだ?
 意識が遠のき、血の臭いが鼻をついた。
 あぁ、これは自分の血?
 男は薄れゆく意識の中で妙に冷静に、視界が暗闇に飲み込まれていくのを感じていた‥‥

 この事件から数日‥‥
 江戸冒険者ギルドには、このような依頼が張り出された。
「江戸から北東に徒歩1日の村で惨殺事件が起きた。
 太刀か斧で潰されるように斬り殺されており、鎧姿の人影が目撃されていることから、陣屋では浪人崩れの山賊だろうと言っている。
 これを探索し、捕縛するか、止むを得ない場合は殺しても構わないとのこと。
 諸君らの健闘を期待する」

●今回の参加者

 eb3619 日向 陽照(51歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0244 大蔵 南洋(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec0777 アクティオン・ニアス(36歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec1073 石動 流水(41歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2189 とら こーら(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイト・マクミラン(eb7721)/ レイ・カナン(eb8739)/ 水之江 政清(eb9679)/ 王 冬華(ec1223

●リプレイ本文

●情報の指し示す先
「惨殺とは穏やかじゃないねぇ」
「最近は鬼との遭遇が多いようだね。この残忍さは、もしかしたら鬼の仕業なのかもしれない」
「成る程‥‥ 江戸から徒歩一日の村でこんな事件が起こるんだから、今の世はどうなってんのかねぇ」
 情報の集中する江戸に残り、近々の事件の様子を調べていた、浪人中の石動流水(ec1073)は溜め息をつく。
「助かるよ。情報は多いほど良いからねぇ」
 奉行所やギルドに入っている情報に加えて、旅人や商人たちからの話などを総合するが、いかにもキナ臭くていけない。
 上州へ家康公が出陣したのは知っている。しかし、それに前後するように街道には山賊が頻発し、鬼の襲撃を受けた村もあるという。
 あまりの恐怖に晒されたのか、心が壊れ、鬼の軍隊が現れたと言っている者までいるという。
「何だろう? この胸騒ぎは‥‥」
「急いだ方がいい。」
 石動は旅支度を済ませると、だだっと駆け出した。

 一方、先行して現地の情報を集めている者たちはというと‥‥
「惨殺だなんて酷いわ。誰が犯人か知らないけど許せない」
「全くです‥‥」
 遺体発見時の様子を聞いた十六夜りく(eb9708)は、親を亡くしたときのことを思い出したのか唇を噛み締め、日向陽照(eb3619)が痩せこけた頬にやや不気味さを宿した苦笑いを浮かべている。
「山賊が襲うのは金品を奪うため。惨殺までするかしら」
 冒険者たちの到着までに起こった数件の惨殺事件を聞いた大蔵南洋(ec0244)は、役人の話を総合して思案顔。
「だな。物取りの仕業には思えない‥‥」
 山賊であれば金品を持っていそうな者を襲うのだが、そうではないようだし、襲われたのは人間だけではないらしい。
 離れの民家が惨殺に遭い、駆けつけたときには牛が1頭いなくなっていたという話。
 おまけに大きな鎧姿の人影の他に見かけられたのは対照的に背が小さかったと言う。
「子供のような‥‥というのは、間違いなく小鬼だろうな。鎧姿の人影は見当付かないが‥‥」
 相手は何であれ、油断は出来ないと、アクティオン・ニアス(ec0777)は言う。
「小鬼? 魔物は嫌いよ‥‥」
 十六夜の瞳には、固い決意の色が宿るのだった。

 相手が残虐な鬼と聞いて、これ以上の被害はナシにしてほしいと奮起した陣屋の役人たちは、村人たちに協力を要請し、冒険者たちとの探索を強化した。
 村はずれの廃屋には異常なし。あちらの岩屋も‥‥
 猟師たちには獣の水場などを中心に冒険者たちと調べを進めた。
 そうした調査の結果、北の里山の沢に、それらしい影があると分かったのだった。
 隠密の心得があるアクティオンと十六夜は、日向と大蔵を残し、沢へと近付いていく。
(「あれは‥‥ やっぱり鬼ね」)
 大鎧を着込んだ髪の長い人影は大きな斧を持っている。
 驚くことに、その顔は栗毛の馬である。
 首から下は大鎧を着込み、2足で歩いている。
(「確かに、後姿だけなら荒くれ武者に見えなくはないか‥‥」)
 アクティオンは、抑え切れないように短刀に手をかけようとする十六夜を無言で制すると、戻ろうと手で合図した。
 地形は確認した。敵の数は、馬頭の鎧武者1、小奇麗な布鎧と陣鉢を着けた小鬼が3。
 仕掛けるのは石動が合流してからでも遅くはない‥‥

 さて‥‥
 一旦退いた冒険者たちを、陣屋で石動が待ち受けていた。
「それなら江戸で集めた報告書にありました」
 事情を聞いた石動は、ごくりと唾を飲んだ。
「1つは牛の頭をした鬼、牛頭(ごず)‥‥ そして、いま1つは馬の頭をした鬼、馬頭(めず)‥‥
 地獄の卒鬼が現れるようでは、此度の戦は荒れるかもしれないと、旅の行者が言っていた」
 ということは、あれは馬頭鬼ということになる。
 何でも強力な鬼らしい。想像も付かないが、赤鬼青鬼で知られる山鬼を従えるほどだと、その行者は言っていた。

●5人の用心棒
 隊列組み、周囲を警戒しながら移動する大蔵。
 顔を見るなり泣かれてしまった村の子供のことが頭をよぎる‥‥
「ああいう者たちを守るのが武士(もののふ)の役目‥‥ 必ず倒さねばならんな‥‥」
「それはそうですが‥‥」
「ん?」
「いやぁ、独り言が多いんですよ、僕」
 互いの独り言で思わず苦笑い。日向は肩を竦めている。
 役人や村人たちに見送られて彼らは陣屋を後にした。
 狙うは不意打ちからのガチンコ勝負。
「血の臭いですね」
 アクティオンは、血と臓物の独特の臭いをかいで仲間たちに注意を促す。
「それでは作戦通りに‥‥」
 十六夜とアクティオンは攻撃のための位置取りにかかるが、どちらも隠密行動に心得のある者同士。
 楽しそうに下卑た笑いをする鬼たちに気付かれることなく、所定の位置についた。
「僕は術で援護‥‥ 無いよりは‥‥よっぽどマシです‥‥」
 合図を待って日向はホーリーフィールドを唱えた。
「流石に気付かれたか‥‥」
 向けられた殺気は石動に突き刺さるようだ。
 ニヤッと笑うと大蔵や日向の方へ退いてみせる。
「ひひぃいん!」
 逃がすかとでも言ったのか、嘶いた馬頭は巨大な斧を手に立ち上がる。
「あれを片手でいくか‥‥ 相当な馬鹿力だぞ。気を引き締めてかからんと大怪我することになりそうだ」
「ふむ、確かにあれなら潰されるように斬り殺すことができるだろう‥‥ しかし、当たらなければどうということはない」
 ぶんと振られた斧に急かされるように、小鬼たちは、ぎぎっと奇声を発しながら近付いてくる。
 その手には小太刀が握られている。
 蛇行しながら近付いてくる様子は、見た目に変だが、装備が統一されているというのは、明らかに軍隊‥‥
 まさか、本当に鬼の軍隊が江戸に迫っているというのか‥‥
「油断大敵‥‥ 目の前の戦(いくさ)に集中せねば‥‥」
 一瞬で我に返った大蔵が見たのは、十六夜が火遁の術で鬼たちを焼いている姿。
 ごおおおお‥‥
 小鬼たちは炎に驚いていたが、あまり威力がないことを身を以て知ると、高台の十六夜を置き去りに日向たちの方へ駆け出す。
「茶々音、らい、行って!」
 柴犬と熊犬が飛び出す。
 しかし、その心配は無用だったようだ。
 1匹の小鬼は石動が仕掛けておいた縄に足を取られ、残る2匹の小鬼たちもホーリーフィールドの障壁に阻まれて、もんどりうった。
 そこを大きく振り下ろした大蔵の太刀「三条宗近」と鬼殺しの剣と謳われる石動の草早が叩き込まれる。
「まず小鬼は終わり。だけど、本番はこれから‥‥」
 狙い澄ましたアクティオンの矢が、痛みもがき動きを鈍らせた小鬼に突き刺さり、その命を奪う‥‥

●武者対武者
 十六夜の火遁を何事もないように突っ切ってくる馬頭武者‥‥
 毛の焦げた臭いが漂ってくるが、ものともしていないようだ。
 射掛けた矢は鎧に阻まれ、急所を狙ったアクティオンの一矢は不敵に嘶く馬頭にかわされてしまった‥‥
「まさか‥‥ ここまでの相手とは‥‥」
 アクティオンは、せめて少しでも気を引ければと弓を引き続けるしかなかった。
「彼の者に試練を‥‥」
 恐怖を感じながら日向がディスカリッジの術を唱える。
 一瞬表情が変化したような気がするところをみると効いたのか?
 日向は大蔵と石動の後ろに隠れると、再び印を組んで術を唱え始めた。
 格下に見て油断している相手に、この戦い方なら勝機はある。
 やるしかないのだ‥‥
「私が相手になろう」
 宝石をあしらった西洋兜に鬼相の惣面を着け、鬼気迫る天魔の顔が彫り込まれた禍々しい鎧の上には純白の羽織 。
 首一つ分は馬頭より小さいが、大蔵は堂々と立ち合っている。
「ぶるる‥‥」
 僅かに馬頭の方が速いか‥‥
 しかし、斧の一撃が大蔵を捉えることはなかった。
 ぎゃ〜〜ん‥‥
 球状の淡い黒い光が浮かび上がり、薄れるように霧散する。
 何が起こったのかと馬頭は目を開く。
「いざ、尋常に勝負!」
 はっとしたように身を硬くした馬頭武者に太刀が叩き込まれる。しかし、手応えは薄い。
 当たらないかもしれない‥‥
 しかし、倒すには太刀の重さを乗せなければ‥‥
 ぎゃりぃいん‥‥
「なん‥‥て怪力‥‥」
 馬頭武者が振るう大振りを太刀で受けた大蔵は、その一撃に歯を食いしばる。
 足元で茶々音やらいといった犬たちが懸命に気を引こうとしているが、眼中にないらしい。
「間に合ってください‥‥」
 唸りを上げる一撃がホーリーフィールドの障壁を消したところで‥‥
「はぁあ!」
 充分に振り抜いた太刀を討ち込む!!
 これが効かなければ、こちらがヤバイ‥‥
 そんな大蔵の一撃が馬頭武者の胴を捉えた。
 窪んだ胴丸の下からは血が滲み、馬頭は血の泡を吐いている。
「よし‥‥ 今度こそ効いたろ!」
 アクティオンの矢が、馬頭の目に命中した。
 痛みに耐えかねて馬頭武者自身が引き抜いた矢には眼球が付いている‥‥
「ぶもぁおお、びいぃぃいいひひん」
「貰った! って、何て奴だ‥‥」
 死角に回り込んだ石動の剣を討ち込むが、手応えは少ない。
 しかし、息を整えて討ち込まれた大蔵の必殺の太刀に、さしもの馬頭武者も苦悶の息を吐いた。
「馬頭なら馬頭らしく、地獄にいるんだな!!」
 これならどうだとばかりに撃ち出したアクティオンが叫ぶ。
「ぶほっ、ぶほっ‥‥」
 残る目玉を矢の半分ほども深々と貫き、馬頭武者は大地を揺らした。
「凄い敵だったな‥‥ こんなのが何匹も現れたら大変なことになるぞ‥‥」
「それでも倒すわ。泣く人が出るもの‥‥」
 溜め息をつく石動を見る十六夜の視線は怒りと恐怖を帯びている。
「地獄にいた気分です‥‥」
 日向の独り言に‥‥
 ふぅ‥‥
 一同は思わず安堵の息を漏らすのだった‥‥