【毛州三国志・義経】決戦決算、改名開運

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月17日〜10月24日

リプレイ公開日:2009年10月29日

●オープニング

 鬼退治をして、鬼が蓄えていた財宝を持ち帰るなんて御伽噺は、よく聞く話‥‥
 だが、手に入れた城が本当に鬼の居城だったとしたら、頭を抱えるのではなかろうか?
 これは、そんな話‥‥

 関八州の北方に位置する下野国にあって、そのまた北半国にあたる那須藩。
 その那須藩の八溝山の地では、つい最近まで奥州の赤頭率いる200鬼との戦いが繰り広げられていた。
 まぁ、当然ながら、鬼といえど兵を養うには物資がいるわけで、略奪金なのか持参金なのか財宝が残されていた。
「こういうのは得意ではないんだがな‥‥」
「御用の奥州商人に見積もりさせましょうか?」
 最近の義経軍は武将も増え、戦闘力に関しては充実したといえる。
 だが、軍需物資は関東の奥州商人に任せる部分が多く、軍内部に金勘定が得意な者がいない弱点を露呈していた。
「しかし、義経殿。これを、このままというわけにもいくまい?」
「ここの城主は陸堂です。財宝の采配は、彼に任せます。彼なら心強い仲間もいるでしょうし、良い方法を考えるでしょう」
「若者たちが羨ましいよ。時代がいいのか悪いのか‥‥ 己の力を試すことができ、人と人の繋がりが生きる」
「僕だって若者の1人なんですけどね。それに重蔵殿も、気だけは若いじゃないですか」
「若造が、生意気なっ♪ あ、いたたたた」
「あぁもぅ、無理するから腰を痛めるんですよ」
「自分の闘気で治せるわい。ふんぬらば」
「おぉ、毎度ながら見事っ♪」
 宇都宮が戦局の収拾前に武蔵へ出陣したこともあり、褒賞では多少もめた経緯がある。
 戦利品の分配に宇都宮が口を出してきた場合、渡さないでは済まないのも確かだ。
 宇都宮軍のせいで最後に赤頭を取り逃したから、取り分を要求する資格はないなどとは口が裂けても‥‥
 外交の材料にはなるだろうが、これまで戦線の後方の大半を支えていたのが宇都宮なのも間違いないのだから。
 勿論、城主が独り占めすることもできる。それが戦の倣いだ。

 城自体に関しても問題がないわけではない。
 岩嶽城というのは通称で、古の鬼との大戦で悪鬼・岩嶽丸が根城にしたから岩嶽城と呼ばれているだけ。
 人が支配下に置くのだから、相応しい名前をつけるべきという意見があるのも頷ける。
 それに、あらかたの鬼の死体は片付けたものの、何年も鬼が暮らした生活臭が染み付いている。
 そのまま暮らすのは精神衛生上よろしくないということもある。
 ほら、夜中に一人でいると連れていかれちゃぞ‥‥みたな。
 子供のしつけに使われる慣用句ならいいのだが、この世の中、実際に起きかねないから洒落にならない‥‥
 そういうのを払拭する意味でも、大掃除をしたり、生活しやすいように設備を整えたりすることは大切であった。
 また、これから長く、本気で城として使うなら、戦闘で破壊された施設の補修や改修なども必要だろう。
 歩兵中心の鬼の軍ではなく、騎兵を中核とする人の軍なのだから、当然であろう。

 それに、それに、だが‥‥
 中には所領を拝領した者もいる。昇進した者もいる。仕官の成った者もいるだろう。
 そういった者たちは、それぞれの立場での働き場所を見つけたり、今後のことで意見具申することができる。
 これまでのことに関して、上司に諫言が叶う立場になった、現場の指揮権を振るえるようになった者もいるだろう。
 目標を失った者もいるだろう。環境の激変に不満を持つ者もいるだろう。
 急に外へ目を向けて、戦国の世とでもいうべき激動の時代に驚愕する者もいるだろう。
 あらたなる門出に何ができるのか、何をしてあげられるのか‥‥
 考えることは、やることは、幾らでもある。
 取り合えず、少しずつでもできることから片付けることが掃除の極意であろうか。


※ 関連情報 ※

■義経■

 兵数250(八溝山麓砦に義経隊150、八溝山城兵50、喜連川療養所に看護兵傷病兵50)
 義経親衛隊、天義隊(元源徳騎馬隊)、伊達騎馬隊、歩兵隊、猟兵隊、僧兵隊などに分業されている。

【源義経】
 源徳台頭以前の京都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 赤子の義経が政争の具となることを恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 八溝山の鬼軍退治に一区切りつき、次の活躍の場を求められることに‥‥

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士から、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕と称される。
 主君の家臣が増えて、負担が減りつつある。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
 剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。


■那須■

 八溝山決戦の総動員を終え、物資も兵力も不足気味。
 赤士虎隊は、継続して八溝山の麓で索敵中。

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山岩嶽城】
 那須藩東部の山岳地帯にあり、峻険な地形に出城と砦といった防御施設も備える堅牢な山城。

【福原神田城】
 那須藩の政治・軍事・信仰を束ねる中枢。

【白河小峰城】
 奥州へ向かう兵の集結地点として知られる軍事と交通の要衝。
 城主は那須藩宿老・小山朝政。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
 城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散。
 後に汚名返上して、那須藩預かりの冒険者部隊に『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。

【小山朝政】
 与一公の右腕として活躍する勇将。那須藩宿老。白河小峰城城主。
 下野南部を地盤とする豪族。源氏との繋がりが深い。結城秀康の兄。

【杉田玄白】
 欧州遊学の経験と博識で活躍する那須軍師。那須医局長。矢板川崎城代。

【福原資広】
 志士。与一公の甥。父・福原久隆の命により京より帰国。
 那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊50を率いる。

【結城秀康】
 白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。結城朝光、結城朝康、結城秀康、源徳秀康と改名。
 前宇都宮藩主・宇都宮朝綱を養父に、実父の源徳家康を烏帽子親に持つ。
 宇都宮の軍事を掌握し、武蔵へと2000の軍を進める。


■赤頭■

 軍勢は壊滅。上層部は捜索中。

【赤頭(せきとう)】
 奥州で名の売れた、赤毛の子供の姿をした鬼。
 飛行したり、水晶剣を使ったり、地震を起こしたのが確認されている。

【狼神(おおかみ)】
 山伏風の赤黒い僧衣と鴉羽根の陣羽織を着けた、狼顔の剣士。
 天狗級の霊力の証とされる九枚の黒羽太刀は、瘴気渦巻く黒旋風を起こす。
 白狼神君とは鞍馬山での修行仲間だが、今は修羅道を突き進んでいる。

【異痕(いこん)】
 部下も含め、美しい女性の姿をしていると噂される正体不明の悪鬼。
 牛頭鬼・迅雷や宇都宮朝綱公など、再生した死者を従えているようだが情報に乏しい。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

琥龍 蒼羅(ea1442)/ 静守 宗風(eb2585)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●現場
「そろそろ休憩にしよ?」
 将門雅(eb1645)が運ぶ白湯と漬物を手に取って、メグレズ・ファウンテン(eb5451)ら人夫たちは一息。
「御疲れさん。見張り櫓は目処がたちそうなん?」
「大丈夫、材料は確保できました。他に石材も調達できそうです」
 将門から濡れ手拭いを受け取って、クーリア・デルファ(eb2244)もは深呼吸。
「内装するのに邪魔で掘り出した石なんかは、どうする?」
「城壁に積んでおいて、使わなければ投石用にします」
「そうね。了解」
 現場監督の九紋竜桃化(ea8553)は、奥向きとして幹部区画の内装をリフォームしている。
 ただ、城の完成度の高さには、九紋竜も驚嘆するしかない。
「もう少し粘れたと思うのだけど‥‥」
「赤頭軍のこと?」
 長期間に渡って攻撃を跳ね返してきた敵だけに、短い総掛かりで落ちたのは拍子抜けで気になる。
 まぁ、不謹慎な言い方だが、赤頭幹部が別所で現れれば安心できるのだが‥‥
「まずは、この城を人々の希望が集まる城に変えましょう♪」
 九紋竜は、作業用兜をかぶると岩屋の中へ消えた。

 さて‥‥
 奥の内装は、重蔵に指南で、倒壊した麓の廃寺からリサイクルしている。
 徹底的に掃除し清め、土石の床を板張りにしただけだが、かなり落ち着くものだ。
「なかなか、良い城ですね。明士郎」
 風通しの天窓や空気穴や、香草や香木も雰囲気を助けている。
「義経公の座所も用意しました。赤頭四幹部の部屋を改装したもので申し訳ないですが」
 一部を畳敷き、襖張りにし、茶室なども作る予定だ。
「そうだ、義経殿♪ 継信、忠信、明士郎、咲耶の四人を義経四天王と呼んでは?」
「何を言い出すんですかぁ、重蔵さん」
「いや、格好いいよ。そうしよう。数が増えたら五虎将とか♪」
 慌てる陸堂明士郎(eb0712)を、義経が制して笑う。
「えと、実は、将門雅殿の将門屋を御用商人に推したいのです」
「まいど。万屋『将門屋』店主の将門雅や。ご贔屓に」
 江戸支店長クーリアを紹介し、将門は義経公に頭を下げる。
「うちは『将門屋』という小さな国の主や。せやから対等な立場で信用できる相手やないと取引せん。
 その上でやりたい仕事しか請けん。それでええなら義経はんと商いをするけど?」
 尾張藩や新撰組と商取引があること、また、手数料は相場の一分としたいと話すと、義経は承諾した。
「諸侯には尾張藩や新撰組と繋がりがあると思われますね」
「大丈夫、今でも奥州との繋りを言われているよ。それに、信長公とお市殿、どちらの尾張藩と付き合うかで違うだろうしね。
 将門さんは信用できそうな人だし、商取引の相手としては、それで十分だよ」
「面白い人やから言っとくな。陸堂はんは金売吉次を警戒して御用商人に推してくれたんよ」
 那須や江戸での金売吉次の蛮行を引き合いに出すと、なるほどと義経は頷いた。
「金売吉次は、藤原公に特に許された何人かの奥州商人のこと。そして、明士郎が見たのは、おそらく吉次を騙る忍者だね。
 あと、赤子の僕を救い出してくれた吉次は、父上の御用商人だったと聞いている。
 今付き合いのある吉次たちも、将門屋のように会って取引を決めたしね。信用できると思うよ」
「那須の吉次と黒脛巾組、奥州の吉次、伊達の黒脛巾組、どれが同じで、どれが違うのか‥‥ということですか?」
「そう。持っている情報が1つの結論に結びつくとも限らないしね」
 吉次への警戒を緩めるわけにはいきませんがと付け加え、明士郎は話題を変えた。
「話に出たついでで失礼ですが、父君から義経公に託された望みなどあるのでしょうか?」
「父が命を落とした事情は、鞍馬山の御坊様や吉次が助け出してくれた以外、僕も詳しくは知らないんだ。
 そういえば懐かしいなぁ。小さい頃に吉次と京に上ったとき、鞍馬山で修行したなぁ」
 話の流れで、関東の戦乱の元凶たる新田家への対応も話題がのぼる。
「新田義貞は上杉家に国司の権を返すべきだと思うけど、彼に国司の任が下っていれば完全に手遅れだね」
 確かに不当性を問えなくなる‥‥ 陸堂は言葉を失った。

●八溝衆
「素晴らしい在庫ですわ」
「丸薬や粉薬にして輸出もしています。普段の生活にも役に立つだけでなく、戦では他国の情勢も運ぶ万能薬なんですよ」
「まぁ」
 医局員の説明に七神斗織(ea3225)は苦笑いした。
「もし、八溝の新しい領主様でございますか?」
 無礼であろう言いかけた医局員を、七神が遮る。
「この人たちが、私たちの領民ですか‥‥」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)たちを歓迎する宴席が用意される。
「みんな明るくて安心しました」
「そうですね。あの踊り、楽しそう」
 馬頭宗の念仏躍りで騒いでいる領民たちを見て、七神もフィリッパも思わず笑顔を浮かべている。
「楽しんでおられますかな?」
 酒で顔を赤らめた纏め役の1人が、故郷に帰れる時期を真面目な顔で語りかけてきた。
「できるだけ早くとしか約束できませんが、必ず近いうちに」
「皆さんの事情はわかっていますから、悪いようにはしません」
 冷静に告げるフィリッパに八溝衆の表情が強張るが、毅然とした態度が混乱を避けると信じるしかない。

 一つ、鬼族被害に鑑みて、復興援助のために2〜3年は税を半免する
 一つ、領主の定めた労役に就けば、「税の軽減、開拓物資の獲得」を選べる
 一つ、労役は、主に「領内整備、見回り、技術教育、開拓」を指す
 一つ、開拓物資は、食糧、薬草、種籾、薪、道具など「生活用品や開拓用品」を指す

 そうして、八溝領経営の第1歩に街道整備が告げられた。
「次なる戦いへの足がかり。後は、国を纏める戦いだ‥‥ さあ、意気揚々と、いこうか」
「大きく出やしたね、親方」
「隊長よ。それより、次の一歩が大事なんだから。何ができるのか、みんなも考えてね」
 来迎寺咲耶(ec4808)が指揮するのは猟兵隊は、木こりの護衛をしながら、索敵がてらおかず狩りに出ている。
「ほらそこ! 物資は貴重なんだから、使えるものは持って帰る。
 それと、まだ鬼の残党がいるとも限らないんだから、組を作って、適度に交代して休憩するのよ」
 指示するだけじゃ性に合わないと前線に出張るのは毎度のこと。
「八溝衆の入植までに、人の縄張りを作るんだから、頑張って狩るよ」
「まぁ、獣が増えすぎてますし、冬支度にも丁度いいか。じゃ、行ってきます」
「寒くなってきたし、私も一緒に汗を流させてもらおうかな」
「さすが親分♪」
「隊長〜♪」
 源義経が源氏の棟梁を名乗ることに反発する源徳を含め、諸侯との話し合いの場を持つべし。
 この国の、民の平和を憂慮するなら、目の前の大きな戦を見て見ぬ振りはせぬよう。
 そう憚らず、殿の命を待つだけが家臣の姿ではないと言う熱血家臣も、今や義経四天王と呼ばれる存在だ。
 固めた足場から踏み出したとき、主君に多くの賛同者が現れることを来迎寺は祈らずにはいられない‥‥

●探検
 岩嶽城は、岩屋や洞窟を利用した半地下式の山城である。その探索は、規則性のない立体構造ゆえに難航していた。
 怨霊の類を感知しないのは幸いだが、少し退屈してきたところもある。
「赤頭残党の手がかりが残ってないか、今は現場百回しかないよ」
 九竜鋼斗(ea2127)とカイ・ローン(ea3054)は、少し休憩をとることにした。
「でも、なぜ今になって『あしゅらのけん』なんて言葉が出てきたのだろうか‥‥
 赤頭やデビルには見つけられなかったのか、あるいは手に入れることができない理由でもあったのだろうか?」
「どうだろう‥‥」
「俺たちに阿修羅の剣とやらを探させるために仕組まれた可能性もあるのではないだろうか?」
「仮にそうだとしても、渡さなければいいんじゃないかな‥‥ って、これ」
 腰を下ろしたカイの足下に転がっていたのは、悪魔の存在を示すデスハートンの白い珠‥‥
「ぅわおっ!」
「カイっ!!」
 壁に吸い込まれるカイの手を掴み、九竜も引き込まれてゆく!
 デスハートンの光、洞窟をまるで奈落の底へと堕ちてゆくような浮遊感‥‥
「振り向いてはなりません。目の前のものを掴みなさい」
 焼け付く痛みの中、誰か女性の声がする‥‥
「え? もしかして阿修羅の剣?」
「あ、俺のは金だ‥‥」
 夢幻ではない。カイの手には炎の意匠の紅蓮の剣が、九竜の手には金の延べ棒があった。

 さて‥‥
 将門屋の金勘定で千両から二百両減の約八百両、発掘品や隠し財宝などが約七百両。
 結果、義経600両、那須450両、宇都宮150両、将門屋15両を取り分とし、領地経営基金150両が残された。
 なお、なくなっていた二百両は意外なところで見つかる。
「城攻めで俺が確保した二百両と、この450両を合わせても、戦費の穴埋めにもならんな」
 赤士虎隊長・福原資広の言葉に慌てた那須軍師・杉田玄白が二百両を返還したようだが、何とも人騒がせな男である‥‥

●光風霽月の門出
「雨後の晴天に吹く風や霽(晴・は)れた空の月の如く、爽快にして蟠りない気持ちを表し、世の治世が良い例え‥‥
 華国の宗史より光風霽月(こうふうせいげつ)に肖り、城の名を『霽月城(せいげつじょう)』としたく思う次第」
 メグレスらによって第一期工事を完了した正門の前に、義経軍と那須軍が並び、城主の訓告が響いている。
 礎石や柱は与一公によって既に手配されていたものを、杉田玄白が白河小峰城から運び込んだものだという。
 見取り図は完成したし、防御施設の応急処置も目処がついた。
「改名にて、城の武運の開けんことを」
 源義経の祝辞に杉田玄白が頷く。
「明士郎との誼もあるしな。これは気持ちだ、受け取ってくれ」
 見れば、重蔵が看板に光風霽月の文字を躍らせ、破顔している。
「みんなの気持ち、嬉しく思います。これからも、よろしく支えてください」
 多くの仲間たちの手で建てられた正門は、陸堂らにとって象徴的な場所と言えよう。
 良き門出とならんことを‥‥