【華の乱】お祭り騒ぎは乱行の薫り
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月26日〜05月01日
リプレイ公開日:2007年05月05日
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●オープニング
●お忍びの家康公
「ほほほ、女はまだか? もっと酒を持ってこぬかぁ〜〜」
鼻の下を伸ばしているが、着物には三つ葉葵の紋を付け、年恰好を考えれば、間違いなく時の摂政・源徳家康公‥‥
上州で戦の指揮をしているはずの摂政様が、なぜこんなところに?
しかし、そんなことを口に出して聞ける者などおろうか‥‥
下手に口を挟んで手打ちにでもされたら堪らない。
「お待たせしました。酒に肴でございます。摂政様のような高貴な方が、このような所へ遊びに来られるとは光栄の至り」
「おお、苦しゅうない。それより女はまだか? 狸オヤジだと侮るか!」
「いえいえ、すぐに芸女が参ります。暫し、お待ちを」
「そうか。楽しみだのう♪」
家康公は御機嫌で酒をあおり、下品に溢しながら肴を手づかみで食している‥‥
「あれが天下の摂政? 源氏の棟梁なのか?」
こそりと呟いた店の者の声は、果たして家康公には届かなかったのか‥‥
くわばら、くわばら‥‥
●怒りの導線
その翌日。
江戸城主の源徳信康に注進する武士がいた。
「某(それがし)、噂を聞いてまさかと思いましたが、見た限り、我が主君、家康様に間違いありません」
「馬鹿者、それが父上でないことくらい自明であろうが」
「口が滑り申した。大殿を語る不届き者でござる。しかし‥‥」
武士は上目遣いに顔を動かす。
「かような時期に、お前が何故、そのようなところに行ったかは聞くまい。
ギルドに依頼して、騒ぎが大きくなる前に不届き者を捕えよ‥‥ いや、問答無用で討っても構わん」
「奉行所に捕えさせては」
「騒ぎが大きくなる前に‥‥と言ったはずだが?」
信康が何か怖い‥‥
「ギルドへ行き、内密に処理するように依頼を出すのだ」
「はっ、直ちに!!」
武士は脱兎の如く退出した。
江戸冒険者ギルドで何人かの冒険者に声がかけられた。
『江戸の女郎屋に家康公を語る不届き者がいる。正体を暴き、これを内密に処理せよ。不届き者を懲らしめる手段は問わないとのこと』
●リプレイ本文
●大事の前の小事?
「この大変な時期に‥‥ こまった、こまった」
駄目元で源徳家に手形のようなものをもらえないかと思い、依頼を出した武士と繋ぎを取った桐乃森心(eb3897)だが、主家は騒ぎを大きくするだけだと渋るだろうし、江戸城は伊達勢と戦闘中。とても、このような些事に心を配る余裕はない‥‥ いや、大事の前に城代である信康様を煩わせることはできないと断られてしまった。
初めから無理そうだなと思っていただけに、必要以上に焦る武士を見て、桐乃森、思わず苦笑い。
「実際のところ、本物だろうと偽者だろうと構やしないんでしょうねぇ。綺麗に遊んでくれるお客であれば‥‥」
「そうでございますが、何か?」
悪びれずに言う女郎屋の主人。
「そういう訳でお願いしますよ、依頼人殿」
神島屋七之助(eb7816)の振りに、依頼人の武士は承知とばかり、ちゃりっと金の音のする包みを差し出す。
主人の側に控えていた男がそれを受け取ると、冒険者たちに見えないように主人に見せた。
「勿論、半金でございましょうな?」
ぬけぬけと言う主人に、冒険者たちからは微笑むように苦笑いが漏れた。
「当たり前だ。恩も今後の見返りもなし。それだけ守ってくれるならいい。その代わり、事を漏らせば‥‥ 分かっておろうな?」
「どうにかすれば、どこかから事が漏れますぞ。余計なことは気にしないことです」
慇懃無礼に主人は去っていく。
「ふぅ‥‥」
これくらいでなければこんなところの主人は務まらないのでしょうが、いつか身を滅ぼしますよ‥‥
伊勢誠一(eb9659)は思わず静かな溜め息をつくのだった。
●宴会騒げ
関係者以外を締め出すために宿を借り上げた冒険者たちは、宴会を始めた。
別室で控える凹み気味な依頼主を思い出し‥‥
(「あの金子の殆んどは手出しか‥‥ 可哀想に‥‥」)
材木問屋伊勢屋の若旦那に扮する伊勢は、酒を舐めながら心で苦笑いしながら顔で笑う。
「もっと騒ぎましょう、旦那」
上品な様子に異人の顔立ち。背丈も低く、美形であるが故に、女物の服を着れば、日本では容易に女性に化けられる。
本気で女に変装しようと思えば、化粧は兎も角、声だけは何とかしなければならないようだが、今回はスケベ爺と前評判の偽家康。
何とかなろう‥‥と、ディファレンス・リング(ea1401)が、予行演習とばかりに伊勢の側で仕草を作ってみせる。
てけ、てけてけつく、べべん‥‥
店の女郎から楽器を借りたのはいいが、適当に探りを入れた音階を組み合わせるだけ。
それでも何とかなるもんだ。鴨が葱しょってやって来た。
「何だ何だ? 楽しそうなことしてるんじゃないのか?」
戸を開けて現れたのは家康公。いや、偽家康だ。
「おや、なかなか粋な遊び方をなさる方がいらっしゃるとのことでしたが、家康公で御座いましたか。
このようなところで会ったのは何かの縁。
魚心あれば水心とも申しますが‥‥ この場は、ただただ、お楽しみになさりませ。席は私共でもちます故‥‥」
「うむ、苦しゅうない。じゃんじゃん、酒と女を持って来〜〜い」
兎に角、下品。あの顔、あの家紋の入った着物でなければ、殴り飛ばしたい気がするし、あの顔、あの家紋だからこそ、殴り飛ばしたいのかもしれない‥‥と、伊勢は席を一緒にすることを提案しながら、ふつふつと怒りのようなものを感じていた。
「さあさあ♪ 家康様☆ ぐぐっとお酒をどうぞ」
「でへへ、こっち来て座らんしゃい。ぐへへ」
胸元をバックリ開け、胸の谷間がチラ見している着物で偽家康の隣に座る神山神奈(ec2197)。
着物の裾は合わせが短くなっており、動くたびに素足が、これまたチラチラと見える。
「にょほほ〜、この美味しそうな大根にかぶりつきた〜い」
豊満な肉体に飛びつこうとする偽家康を、触られるのは何か嫌だと、腕で器用に捌く。
「いけず〜♪」
「お楽しみはこれからですわよ☆ い・え・や・す・様♪」
どうやら趣向は気に入ってもらえたようだ。
(「これが本物の家康公だったら幻滅だよね。僕は本物をよくみたわけじゃないけどさ。
まあ、ニセモノだってんだから、とりあえず好きにしちゃっても問題ないよね☆」)
「まずは一杯」
「御意〜〜☆」
偽家康は、2人の注いだ杯を飲み干した。
さて‥‥
場が暖まってきたところで、神島屋が伊勢が仕掛ける。
「上州で戦いが続けば、何かと入用でしょう?」
「まぁ、そうですね。戦になれば金は動くもの」
それでですが‥‥ 神島屋が伊勢に摺り寄る。
「伊勢屋さんの利権の端にでも加えていただけないかと‥‥ 若旦那、これでどうか便宜を図って貰えますよう」
「まぁ、何とかしてみましょうか」
こっそり袖の下に手を入れ、わざと金の音をさせるのは忘れない。
米問屋が、どうやって材木問屋の利権にあやかれるのかは不明だが、その辺の不備は偽家康公には気付かれなかったよう。
「わしに献金すれば源徳家に便宜を図って進ぜるでござるよ。源徳家ごぼう立つの看板を掲げる事を許してやっても良いぞよ」
その口調に加え、御用達を微妙に間違っているのが妙に笑えたが、実際に笑ってしまっては元も子もない。
世話女役として酌を続ける桐乃森は、気付かれないように顔を背けては微妙に肩を震わせていた。
(「放っておいても無害なようでございますけれど、放置すると家康様の評判に傷が付きまするな‥‥」)
これだけ間抜けなのだから、よもやどこかの間者などではあるまい。
評判を貶める策略であれば、もっと上手くやるに違いない。
(「物言わぬは腹ふくるる業と申しますが、人の口に戸は立て難い物で御座いますし‥‥」)
桐乃森は酒の追加を取りに行くふりをして、女郎宿の中を探索しに行くことにした。
「それでは一曲‥‥」
ディファレンスの演奏が始まる‥‥
●夢の中
「これは出番がないかもしれぬのぅ」
隣の部屋の様子に耳を傾けて字倉水煙(ec1285)が呟き‥‥
「ま、大事にならない方が良いに決まってるんだがな」
酒を舐めながら、肴に箸をつけている山本剣一朗(ec0586)が、ぼやく。
今のところ、偽家康に警戒されている様子はない。忍びが関わっている様子もなさそうだ。
‥‥で、荒事にならないのであれば字倉にも山本にも出番はないのである。
「にしても、今状況で偽家康公が現れる‥‥ あやしすぎだな」
「その通りじゃがの。何でも悪い方向に考えるのはいかんのぅ」
それもそうだ‥‥と、山本は、くいっと喉を潤し、溜め息をつくのだった。
「後金で前金の倍ほど吹っかけて手打ち。こんなとこかねぇ」
「あの家康。供もいないし、あの下品さ。幾らなんでも信用しろって方が難しい話ですよ。全く」
「ま、こんな話がなければ、ふん縛っといて、源徳か、伊達か、良い値を付けてくれる方に売っちまっても良かったんだけどね‥‥」
女郎宿の主人と子分の男が話しているのが聞える。
宿の世話女に化けているので、近くを通った桐乃森のことなど気にもしていない様子。
(「宿の人たちは白っすね〜。でも‥‥悪人だぁ〜〜」)
女郎宿ぐるみという可能性も潰れた。
(「単に似た者であれば、家康公の影武者として源徳家に推挙するなんて伊勢さんたちは言ってたけど‥‥」)
熱燗を受け取ると、さらりさらりと薬を仕込み、桐乃森は宴会の席へ戻るのだった。
「でぇへへ」
「いけませんわ(はあと)」
お触りしようとした偽家康の手をディファレンスが、ツンとつねる。
薬屋で仕入れた眠り薬。以前に依頼で使ったときに比べて、効きが遅い。
分量を間違えたのか、用法を間違えたのか、それとも不良品だったのか‥‥
精進が必要だなと痛感しながら、偽家康が眠るのを待つ。
「いっそ術で眠らせましょうか?」
神島屋が伊勢に耳打ちしたのだが‥‥
「いや、その必要はないみたいです」
手を抱え込むようにして丸くなり、偽家康は眠ってしまった。
●末路
「う〜ん、もっと‥‥」
すぱ〜〜〜ん!
寝ぼける偽家康を、桐乃森がハリセンで叩く。
「な、なんじゃ? あり?」
その身は縄で雁字搦め。偽家康は動こうにも動けない。
「さて、此度の目的‥‥ 全て吐いていただきましょうかね」
「ニセモノくんは一体何者なのかな〜? 答えによっては‥‥ わかるよね?」
笑顔を浮かべながらも目は笑ってない伊勢と神山の言葉に、いまいち何が起こっているか分かっていない様子の偽家康。
「これでどうなるか、わかるかい?」
「人間、素直が一番じゃぞ」
山本の抜き放った日本刀が偽家康の首筋に当てられ、糸目を更に細めている字倉が鉄扇をバシンと鳴らす。
「いやっ、あの‥‥ 俺、人間じゃないし‥‥」
思わず口にして、口を手で塞ごうとするが、縛られていてできない‥‥ おまけに尻尾が、ぴこんと。
「たぬきの家康様、悪戯にしては度が過ぎてませんか?」
「あ‥‥ はい‥‥ 反省してます‥‥」
縮こまって恐縮しまくるのは家康公の姿である。
「悪人ではなさそうですし‥‥ 許してあげてもいいと思いますけれど」
ディファレンスの言葉に、うんうんと頷く偽家康。
「殺生すれば、恨みという業を背負うことに繋がるっすからね〜」
桐乃森が仲間を見渡すと、神島屋も伊勢も無言で頷いている。
「で、結局、お前は何者なんだ?」
「それは気になりますな」
山本と字倉の問いに、偽家康の変化がとけた。
「た、狸‥‥ 家康公に化けていたのが狸とはね‥‥」
伊勢たちが苦笑いするしかない横で、きゅ〜んと頼りなげな鳴き声で、狸が首を竦めている。
「ま、まぁ、よかろう。お前、今度江戸へ来たら、命はないぞ」
武士の言葉に一度頷いて、走り出す狸。
「これに懲りたら、二度とこんなことするなよ〜」
神山が手を振ると、離れたところで、くるんと一回転。
「今度は、もっと上手くやるだよ〜」
「な、何だと〜!!」
血相を変えて追いかける依頼人の武士を見て、冒険者たちは苦笑いで追いかけるのだった。