【華の乱】落ち武者狩り狩り
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月20日〜05月25日
リプレイ公開日:2007年05月28日
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●オープニング
江戸城陥落‥‥
衝撃的な事件から日数が経ち、ある者はそれを受け入れようとし、未だ受け入れられずにいる者もいた。
表面的には、乱は終わった事になっていたが、終わらぬ戦の中に居る者も少なからず存在した。
「簡単に通すわけにはいかん。不穏な者が通らぬように見張っておるのでな」
「そんな乱暴な‥‥」
江戸へ入ろうとした旅商人を取り囲んでいるのは武装した集団。
槍や弓、刀や太刀と得物はそれぞれ。鎧具足を着けており、こんなやつらに囲まれれば身も縮む思いに違いない。
腕組みする男は、商人が自分の懐に金を差し入れるのを気付かぬふりでいる。
「どうか、通してもらえないでしょうか?」
「騒ぎなど起こさぬと誓えるか?」
「それはもう」
「なら良かろう。通れ」
ホッとした様子の商人は、脱兎の如く、その場を去っていく。
江戸城を押さえたとはいえ、伊達政宗の兵力は多くない。政宗が江戸城に居られるのは奥州藤原氏、そして新田武田上杉の圧力あってのことだ。
即ち関東を囲む奥羽、上野、甲信、越後の反源徳包囲網とも言うべき輩。親源徳勢は常陸、房総、相模、三河、下野等だが、正直源徳側の旗色は悪い。安房、伊豆、駿河、遠江は未だ旗幟不鮮明だ。急な情勢の変化ならば当然とも言えた。これから各藩の思惑が交錯していく事となるだろうが、ともあれ武蔵である。
江戸から一歩外に出れば、依然として武蔵は源徳の御膝元といっても過言ではなく、『各陣屋は治安を維持するように』との達しが出ても各地の武士たちの動きが良いとは言えなかった。
簡単に伊達に従えば面目が潰れる‥‥
唯々諾々と伊達公に協力などしていて、家康公が江戸奪還に成功したらどうなるか‥‥。治安維持は言われるまでもない事ながら、それぞれの思惑や事情もあれば動きは遅い。たまらないのは民衆である。
冒険者ギルドが源徳に肩入れしているのではないことは、此度の戦いぶりでわかった。
現在の江戸城主・伊達政宗公は、そう言ったという。
「戦が起きれば落ち武者狩りがあるのは常。それは仕方ない。
だが、それが徒党を組み、いつまでも居ついて住民や通行人に迷惑をかけるとなれば、話は別だ。本来なら現地の陣屋が対処する所だが、あちらも忙しいらしい。動きがすこぶる鈍いのだそうだ。
とはいえ伊達兵は江戸を動かせないっていうので、そこで政宗公から依頼が来た。
悪質な落ち武者狩りの掃討を冒険者に依頼する‥‥だと。
政宗公の意向は置いとくとしても、世の中の役に立てる仕事だ。皆、頑張ってくれよ」
ギルドの親仁は、冒険者たちに、そう説明し始めた。
●リプレイ本文
●遭遇
「明るい所は苦手‥‥」
日向陽照(eb3619)は、数人の仲間と車の荷台に隠れていた。
「どうしてでしょうかね。なぜか放っておけないのです」
人殺しの罪を犯してしまったとはいえ、同情も禁じえない落ち武者の事件に関わったのが先日のこと。
修行の旅をするエルディン・アトワイト(ec0290)にとって、この巡り合せは神の思し召しなのかもしれない。
「だがよ。随分と筋の通らない事をしてる連中には、相応の罰を受けてもらわないとな」
「無常ですね‥‥」
額を突き合わせるレオナール・ミドゥ(ec2726)とエルディンは日向の独り言に頷き、日向の方が彼らの顔を見渡す。
「油断させられれば勝てますわ」
「にはは、悪人とは限らないですよ」
荷台に座る星宮綾葉(eb9531)と、女装した桐乃森心(eb3897)の他に徒歩の僧と武士が1人ずつ。
「善人なら、あんなことはせん。ほら、来たぞ‥‥」
荷車の馬の手綱を引く室斐鷹蔵(ec2786)は、僅かに鼻息を鳴らした。
まぁ、盗賊なら、大した武装もせずに荷物満載の荷車を運ぶ一行を放っておく訳がないだろうという訳だ。
‥‥と、案の定、道を塞ぐように4人の武装した男たちが現れた。
ミミクリーの術で鳥に化けて偵察をした雀尾嵐淡(ec0843)の偵察では、これで全部。
移動を繰り返しながら、頃合を見計らって、時折、物取りをする。なんと計画的な奴らだろう‥‥
だが、それに真っ向から異を唱えたのが桐乃森。
断片的に見える事実からは、そう見えるかもしれない。
でも、金子に困ったときに無言の暴力で金をせしめているのだとすれば、極悪人じゃないはず‥‥
おっと、男たちが近付いてきた‥‥
「しかし、馬に荷車を引かせるとは、どこの誰なんだ‥‥」
日本では馬は武士たちの貴重な戦力。それを荷物引きに使い、飼っているのか犬を抱いている女までがいるからには貴族の一団か何か‥‥ そう思わせることには成功したようだ。
「拙僧らに何か用ですか? 先を急ぐのですが?」
僧衣の雀尾が会釈すると、男たちも軽くそれに返してきた。
まさか本当に桐乃森が言っていたように単なる無法者ではない、事情を抱えた者たちなのか?
僅かに違和感を感じるが、信じる材料にしては弱すぎた。
さて‥‥
前日のこと‥‥
「捜したぜ。おおおおれおれも落ちむしゃかりしたいずら」
「な、何だ? 異人?」
雀尾の情報を元に男たちに接触していたジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)。
得物に手を掛け、男たちは騎乗の赤毛の男を迎えた。
「どういうことか?」
「オー、ユーたち、落ち武者狩りね? ミーも仲間に入れて欲しいぜ!」
「そう言われてもな」
「まずはせんべいをくれ。そなえあれば、うれしいということ」
「は?」
多少ちぐはぐながら、ジョンガラブシたちは言葉を交わし始めた。
互いに敵ではないということは理解したようで‥‥
「落ちむしゃかりの有力なてがかりには、マサムネもてがらの立て放題と言っていた‥‥きがした」
「それで我らと?」
「そう。今こそマサムネに取り入るチャンスなのかもしれない。ユーたちはショックを受けている場合では無い」
「そうか‥‥ 俺たちは伊達に組する者と思われているのか‥‥」
近隣の村を襲ったりする無法はしていないのは調べでわかっている。
にしても、この落ち込み様‥‥
「おれおれ頑張ってカネ儲ける。一緒に行く。いいか?」
「ま、今日は泊まってゆけ。酒の肴に異国の話でも聞かせてくれぬか?」
「しょうちのすけ」
思わず笑いが巻き起こった。
●戦いは武士の本分?
話は戻る‥‥
「道をあけてもらおう」
室斐は日本刀を鞘に収めたまま、挑戦的な鋭い目つきで、一歩一歩とにじり寄った。
物静かで、このような状況でも落ち着いて見えるのが、実に尊大。
「何者かと聞いている」
「答える必要などない。‥‥ なるほど。うぬらか‥‥ 巷で評判の野盗と言うのは」
抜いたら斬る。そして抜かせるのが室斐の目的。
「ククククククッ‥‥ どうした? うぬら、俺が怖いか?」
「ええい、愚弄しおって」
起こすべくして起こった必然の戦いだ。
「罪を憎んで人を憎まず。って思いたいが、これじゃ、どっちが悪いんだか‥‥」
レオナールはロープを断ち切り、身を隠していた布を太刀の男に投げた。
「伏せ勢か。どうやら謀られたようだな」
男は投げつけられた布を太刀で斬り裂こうとするが、完全には上手くいかず、纏わりついた布で動きを阻害されている。
「大人しく捕まれ! 裁きは受けさせてやる」
「罪の謂れなどない! 故に捕まる訳にはいかん!」
レオナールの太い木棍も、男の拳も中らない。
「やるな‥‥」
「俺の相手をしてもらう」
男は布を引き裂くと、レオナールに向いて太刀を構えた。
男たちの後方、2つの地点から矢が飛んでくる‥‥
『4人じゃ、いや、5人じゃなかったのか!?』
鳥に変身した雀尾は確認のために危険を承知で接近する。勿論、この体だ。撃たれれば即死もあり得る。だから木々に隠れてだが‥‥
1人はジョンガラブシ。そして、もう1人は雀尾の知らない男だった。強弓を引き絞っては放っている。
しかも、ジョンガラブシが仕事熱心にこちらを襲ってくるものだからたまらない。
『敵はジョンガラブシを含めて6人‥‥』
雀尾は仲間に伝えようとして、鳥のさえずりであることに気が付き、変身しなおすために高度を下げた。
「ヤーハハハ」
矢は命中しないが、不意を突かれるような矢音は、戦闘に集中させてくれない。
必死に他に1人いるとアピールしているのだが、仕事熱心が仇になっていた。
「悪い冗談は、よして欲しいな‥‥」
室斐に同意し、いっそイリュージョンで黙ってもらおうかと思った星宮だが‥‥
『こいつら浪人。全部でで5人だ。しかんさき捜してる。金に困ったときだけ、くめんしてると言ってた』
そういうこと‥‥ でも、どうやって戦いを止めたらいいの? 星宮は顔を青ざめさせるのだった。
●一生懸命にんじゃ
「うぬらは馬鹿だ。武士の本分を見失い、野盗に成り下がり、こうして刃を交える」
残忍な笑みの裏に熱き武士の魂が見え隠れし、刀が交差し、互いに血が飛ぶ‥‥
「見てみよ、我らに勝てると思っているのか? お主らこそ馬鹿者ではないか」
「馬鹿? 俺が身の程知らずと申すか?」
見れば互角に戦っているのは室斐だけ。レオナールの腕には矢が刺さっている。
「くっ‥‥ これでは狙いがつけられない」
エルディンは、五月蝿い後方の弓兵をコアギュレイトで固めたかったが、相手は木陰で身を隠すためタイミングが取りづらい。
しかも、高速詠唱では成功率が低く、成功率重視で効果を落とせば射程が足りないと来ていた。
「おとなしく捕まってください。むやみに殺生はしたくないんです」
レオナールと対峙する太刀の男に狙いを定め、高速詠唱のコアギュレイトを唱える。
息を切らすレオナールに覆いかぶさるように男が倒れ‥‥
「うっ‥‥ 痛いじゃないですか‥‥」
エルディンは肩口の矢を押さえ、うずくまった‥‥
「戦いは得意ではないけれど上手くやってみせますわ、光夜」
星宮はイリュージョンを唱える。
「くっ、油断した。この女‥‥ 術者だったか」
「きゃあ‥‥」
石突で強かに叩かれて倒れながら、星宮は崩れ落ちた。
五月蝿い矢は止んだが、相手は、まだ3人残っている。
「試練ですね‥‥」
日向はホーリーフィールドをかけるが、圧倒的に不利なのは間違いない。
「駄目です! 何か違います!!」
そのとき、煌めく刃の前に飛び出したのは桐乃森。
「どうしてこのような事をなさるのです。
父も母も、住む家すらも無くしてしまった私たちから、この上まだ何かを奪おうと言うのですか?」
可憐な少女の声が、一瞬、一同を血の臭いから目覚めさせる。
避けたつもりの刃は桐乃森を傷つけ、痛みで涙が込み上げてくるが、それも力演に利用する。
「親戚を頼り、江戸を離れなければならない私たちから‥‥」
「そなたたち、源徳ゆかりの者か‥‥」
桐乃森は答えず、涙を拭く。
星宮も日向も何も言わず、視線を投げるだけ。
「だとしたら、どうすると言うんだ? 捕まえて伊達に引き渡すか」
「いや、無駄な殺生はせぬ。頭に血が上って要らぬ怪我をさせてしまったな」
刀を突きつける室斐に対して、男たちは殺気を解いてしまった。
●旅立ち
「ふん、武具は置いてゆくがいい。武士の誇りを捨てた者たちに必要なかろうが」
「武士としての誇りか‥‥ それを取り戻すために戦おうと思う」
魂である武具だけを身に付け、せしめた金品を全て置いて立ち去ろうという男たち。
室斐は反論を飲み込んだ。今、彼らと戦えば互いに数人の死者が出かねない。それが分かっているだけに‥‥
「約束してくれませんか? これからは、こんな無法はしないと」
真摯な桐乃森の眼差しに、男たちは溜め息と『承知』の一言を残し、去っていった。
さて、その後も同行したジョンガラブシはというと‥‥
「お主はどうする? 私はいずこかで仕官の口を捜す。
冒険者になるのも良いかもしれんが、必ず仕えるべき殿に巡り会うつもりだ」
「ムムムム‥‥ おおおおれおれ、マサムネに取り入るチャンスねらう。江戸に残る」
「左様か。チャンスとやらが来ることを祈ろう」
「ああ、ではでは」
やけに清々しく去っていく男たちを見て、毒気を抜かれてしまったというか、1人では倒せるはずもなく‥‥
その後、尾行を続けていた桐乃森と合流し、彼らが当地を後にしたのを確認すると、一行は陣屋に顛末を報告した。
どこまで真実を話したかは別として‥‥
ともあれ、彼らが蓄えていた金品は没収。その中から一部が褒美として与えられ、馬車の賃料に当てることにした。
「トントンですか‥‥」
日向が独り呟く‥‥