【華の乱】徳姫脱出行
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:05月26日〜06月05日
リプレイ公開日:2007年06月07日
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●オープニング
「ふぅ、どうする‥‥」
僅かに光の差す格子の先には人の気配‥‥
遠くにはドンチャン騒ぎの声が聞こえ、吹き込む風のように男女の嬌声が流れてくる。
「御方様、何とも、このような場所で申し訳ありません」
山内志賀之助は武士の礼で楚々と佇む女性に頭を下げた。
山内馴染みの楼閣の離れに引きこもって数日。江戸は僅かに落ち着きを取り戻しつつあるが、混乱していることに変わりはない。
「そう思うのであれば方策を考えなされ。
何とか江戸を脱出し、源徳の勢力下へ向かうことはならぬのですか? この際、平織の地でも構いませぬ」
そう言う女性の発する気は、楼閣の離れという地味ながら嗜好を凝らしてある部屋の中でも、生まれの気高さと親譲りの気丈さを失ってはいない。
「船で脱出することが叶えば、一気に江戸から抜けることも可能でしょうが、湊には伊達の目が光っております。
かと言って、街道を進んでも危険がないわけではありません。
伊達兵、真田忍者、奥州忍者‥‥ 挙げれば幾らでもありましょう。それに‥‥」
山内は、どもった。そして渋い顔をして、ないと思いたいですが‥‥と前置きして話し始めた。
「政宗公に摺り寄ろうと意図する武蔵武士が五徳の方様のことを知れば、脱出を阻止される可能性もあります‥‥」
江戸市中でも心ある武士などに保護を求めることはできよう。
そうすれば少しの間の身の安全だけは確保することができるかもしれない。
一瞬、そう考えて山内は、その考えを頭から吹き払った。
忍びにでも嗅ぎつけられ、あるいは謀や裏切りで徳姫の所在がハッキリすれば伊達政宗の政治の材料にされる可能性が高い。
源徳信康の奥方にして平織虎長公の娘、その利用価値は計り知れないのだ。
一番安全なのは源徳勢力下へ落ち延びること。
それに、江戸城が攻撃されても我先にと江戸城防衛に駆けつけなかったような者たちを信じて大切な方の身を預けるなど、山内にはできないし、徳姫も武蔵から逃れることを望んでいた。
それは兎も角‥‥
このような場所に徳姫を匿ったのは、これまでの付き合いで信頼が置けるから。その一点に過ぎない。
「食事をお持ちしました」
楼閣の女が膳を差し出すと、毒見役の侍女が箸をつけ、それを徳姫はジッと待っている。
山内と楼閣の女は部屋の外へ出ると、殆んど聞えない小声で話し始めた。
「市中を一通り調べた伊達勢が探索の手を伸ばしてるわ。
敵もまさかこんな所にお方様を匿っているとは思ってないのでしょうけど、ここもそろそろ危ないわね」
「危険を承知で脱出するしかないか‥‥」
「私たちも同行するわ」
「いや、俺だけ同行し、護衛は手練の冒険者に頼もう。お前さんたちには‥‥」
山内の言葉に女は小さく頷いた。
※ 関連情報 ※
【徳姫】
源徳信康の奥方。平織虎長の娘。五徳様、五徳の方とも呼ばれる。
江戸城陥落の直前に地下空洞から落ちようとしていたところを、遠山金四郎らによる大手門攻撃の別働隊により発見・保護された。(【華の乱】江戸っ子の心意気)
【山内志賀之助】
冒険者長屋のヌシ的存在。腕っ節が強いが、巨体に似合わず身のこなしは軽い。
●リプレイ本文
●裏の裏をかく
「何をするのです!」
「ええぃ、御用だ! 舟改めを行う」
伊達の兵が船に乗り込んで荷を改めるが、次第に指揮をする侍の顔が険しくなっていく。
「う〜〜む、異常はないぞ‥‥どういうことなのだ? まさか蜂起の噂の方が本命か?」
どういう訳か、いくら荷を改めようと何も出てこない‥‥
さて、時は遡る‥‥
「噂を流して敵を惹き付け、その隙に一気に船で脱出できないか?」
「いや、情報の動くところ、何かの意図が介在することくらい忍に見抜けないはずはない」
「成る程。こちらが動いたのを敵に悟らせ、警戒を強めるのは上手くないな」
上杉藤政(eb3701)の策に山内は首を振り、黒崎流(eb0833)は思案を巡らせた。
追従した武士がいるとは言え、伊達の自由勝手に動かせる手勢は多くはない。
江戸城を押さえているからこそ、伊達は江戸に居座ることができるのだから。
だからこそ、江戸の治安を守る奉行所を源徳武士に任せているのだし、この際は付け入る隙と言えよう。
「手薄そうな街道については仕入れてきた。飛脚からの情報だから新しいはずだ」
氷川玲(ea2988)たちの得てきた情報も、それを裏付けていた。
「相手が情報の練達だということは、この際、こちらの有利に働くかもしれないかな‥‥」
限られた人手で数多在る情報を効率的に取捨するコツは、ハッキリとした情報の探索優先度を低くすることだ‥‥と山内は言う。
「そうか。隠したがっている情報を探るのが仕事だからな」
そこまで聞いて、それならば‥‥と、上杉の策士としての本能に火が着いたようである。
「箱根方面に目を惹き付ける源徳家要人を纏め役とした蜂起準備の噂を流し、江戸から少し離れた湊で一気に船で脱出すると見せかける。
そうしておいて実際には、さっさと陸路で房総を目指すというのはどうだろう?」
「問題は、まず江戸を上手く出られるか‥‥ですよ?」
「ん、それは噂を流しても流さなくても同じだと思う」
確かに‥‥と思うからこそ、上杉の言葉に黒崎は頷くしかない。
「何にしろ、徳姫様の江戸脱出‥‥ 相当に骨が折れそうだな」
「それなんですけど、人によって関所の取り調べが厳しかったり、時間によって結構差があると思うんですよ」
天風誠志郎(ea8191)と沖田光(ea0029)の情報も摺り合わせるが、敵方の勢力が集中している江戸脱出が一番困難に思えた‥‥
「無礼を承知で申しあげます。五徳様が、そのままのお姿で人の目に触れるは危険でありましょう」
「でありますか」
黒崎の進言に徳姫は言葉だけを返した。
「となると、やはり冒険者に扮してもらうしかありません。徳姫様、何卒、ご容赦を」
「リアナ、そなたも同じ考えか?」
「はい、真に申し訳ありません」
「そなたらは気にするでない。我が屈辱は政宗に因るものぞ」
地下空洞から徳姫を助け出した縁で旅の間の側守を命じられた限間灯一(ea1488)とリアナ・レジーネス(eb1421)は礼を尽くす。
この結果が、あの舟改めであり、伊達の支配に不満を持つ源徳武士の蜂起の噂であった。
さて‥‥
船の情報がガセであったと気付いた伊達勢が箱根方面に忍びの手を割き、江戸の出入りに警戒を強めた頃には辛うじて徳姫ら一行は江戸を脱出することに成功していた。
兵隊が完全に起き出す前、朝一番に最低限の護衛で楼閣を抜け出し、仲間を分けて江戸を抜けたのも図に当たっていた。
「遠山さんの件は上手くいくといいですが‥‥ 自分たちが徳姫様を助ける事ができたのも、彼の決断あってこそであります故」
「でありますな。我が殿や御父上の捲土重来には、あのような忠臣こそ必要」
「そのためにも徳姫様を無事に房総へお届けしなくては。遠山様が無茶しそうで心配ですから」
限間が引く馬に跨る姿は、流石は虎長公の娘。
髪を纏め上げて縛り、陣鉢をしめ、晒を巻いて華国風の旅衣装の上には脇差を差し、薙刀を備え、威風堂々。
気配を抑えようとしても凛々しくなってしまうのは血のせいか‥‥
「履き物がきつい時は、こことかに布を宛うと大分楽になりますよ」
「かたじけのう御座います」
優しく笑う沖田に侍女の頬が染まる。
「もう少しで源徳領。山内さんが無事に先行できていればいいけど」
限間は繋ぎに先行した仲間を思いやった。
ここまでは何とか切り抜けてきたのだから‥‥
逸る気持ちを抑えながら、旅路を急ぐ。
●敵はいずこに
「あら、酌してくれない?」
シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は、宿の酒場で酒を舐めている氷川に色目を使う。
俺たちと飲もうぜと声を掛けてきた飲み客へ、シルフィリアは流げキッスを投げた。
「俺でよければいいが、連れくらいいないのか?」
「この辺、いい男がいないのよ。ちょっかい出してくる男は、1人、2人、いそうだけど」
伏せ勢の気配はなし。関所は1つか2つ抜けなければならないという符丁だ。
翌日、同じように道中を進む徳姫らの周辺に異変が‥‥
「追手でしょうか‥‥ 3人が付かず離れずついてきます」
「先行している皆に知らせてください。自分たちは後方の警戒に当たります」
限間が徳姫らに事の次第を伝えにゆくと、沖田は敵襲の恐れありの符丁の動きをする。
「背後から追手?」
沖田の符丁を確認し、リアナからのヴェントリラキュイで状況を把握したシルフィリアら斥候組は、目配せをすると集結を開始。
『打ち合わせとは少し違うけど役目は同じ。前後を入れ替えて対応するわ。みんな、よろしくっ』
テレパシーの巻物を使って指示を出すと、投げキッス♪
天風たちは手を上げて答えると、斥候組は直衛組の支援のために動き始めた。
何事もなかったように旅を続ける一行を追うように3人の影。
「怪しいな‥‥」
「あぁ、あれが徳姫なら追っ手を掛ける時間は限られているぞ。源徳領へ入られると厄介だ。お前は後続に知らせに行け」
「はっ‥‥」
1人が場を離れ、残りは徳姫らを尾行して行く。
インビジブルで姿を消していた上杉は、隠れていた物陰で術が解けたタイミングに感謝の溜め息をついた。
●調べ
街道を歩いていて、土地を治める武士の一団に呼び止められた限間たちは、相手の中に間者2人の姿を見つけて歯を噛んだ。
「ほう、それで暴れている妖怪退治に‥‥とな?」
武士からは鋭い視線を向けられているが、殺気は感じられない。
だが、嫌疑を掛けられているのは明らか。
品定めをするような視線を投げられるたびに嫌な汗が着物を湿らせていた。
「妖怪退治に、そのような戦えそうにない者まで連れてか?」
「私は用心棒を探す‥‥すために江戸まで来たのです‥‥」
配下を連れた武士に怯えて、侍女の声は震えていた。
「大丈夫、取って食われたりはしないよ」
そっと沖田が声をかけると、侍女は小さく頷く。
幾つか考えておいた受け答えをしてくれているが、ボロが出なかったのは不幸中の幸い。
「あの馬上の女武者が‥‥」
間者が武士に注進しようとした、そのとき‥‥
「おや、虎夫人! 久しぶりだな。また、妖魔覆滅の武者修行か?」
「鬼や黄泉の者を叩くには敵を知らなければネ」
近寄ってくる天風の問いに、リアナがヴェントリラキュイで徳姫の代わりに腹話術のように答える。
「何か揉めてるようだが?」
「妖怪退治に向かわなければならないのですが、人違いか何かで呼び止められてね」
限間は苦笑いを浮かべてみせるが、微妙にわざとらしい。
それを察してか、すかさず上杉が助け舟を出す。
「行き先が同じなら途中まで一緒に行くか? 物騒な目にあったばかりだしな」
「ありがたいネ」
リアナの腹話術で徳姫は頷く。
「穏やかではないな。何かあったと言うのか?」
しれっとして聞き返す武士に対して、間者は思わず『あ』と声を上げそうになり、口をつぐんだ。
「あ? これか? しつこく狙ってくる奴がいてな。そこらの陣屋にでも突き出そうと思ってな」
間者の顔色が変わったのを見て、目を伏せ、顎を横にやって不敵に笑う氷川。
馬の背には気を失った男が1人。
「そいつは俺が引き受けよう。お前たちは行っていいぞ」
「そんな‥‥」
「お前たちの方が胡散臭いんだよ。じっくり調べてやるから覚悟しておけ」
仲間が追いつくまで少しでも時間が稼げればとでも思っていたのか、間者は舌打ちする。
「させません!」
2人の男は短刀を抜くが、沖田の閃く炎の翼に刃が砕ける。
「な、何?」
徳姫ではなく、馬上の男を狙う彼らに虚を突かれた黒崎は、抜いた日本刀のやり場に窮した。
「ちぃっ!!」
氷川が足を狙って蹴りを入れるが、2人いっぺんには止められない。
男は倒れながらも天風に小柄を投げ、その隙にもう1人が急所に刃を突き立てた。
「こいつ!」
徳姫に突っ込もうとする男に一撃加える黒崎。その顔の横を刃が通り過ぎた。
「この女は‥‥ と‥‥」
「これ以上、戯言で愚弄するか」
ずずっと引き抜かれた薙刀に合わせて、武士の槍が止めを差す。
「世の中、物騒になったもんだな。まぁ、閻魔様に面会したい奴は、いつでも、この身を赤鬼として導いてやろう」
予防線を張る天風を睨みつけ、武士は口の端に笑みを浮かべる。
「凄むな、凄むな。お前さんたちは冒険者だ。その技で妖怪と戦うために旅をしている。そうだろ?」
転ばされた男は、自刃して果てていた。
「帰るぞ。こいつらは近くの寺にでも葬ってやれ。捨て置いては民が迷惑する」
武士は動揺する配下の尻を叩くようにして指示を出す。
「助かったのでしょうか?」
「でしょうね」
安堵する限間の横でリアナは肩を竦める。
「何かと面倒な世の中。虎夫人、せめて俺は道中の武運を祈りましょう」
武士は馬上から精一杯の礼をとると笑みを浮かべて去って行く。
「何者かは知らぬが、忠信の心、未だ廃れず‥‥か」
張り詰めていた徳姫の気迫が和らぐのが見て取れる。
その後、源徳武士を連れてきた山内と一行は合流するのだった‥‥