【華の乱・遠山桜】武士の粋ざま

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜05月31日

リプレイ公開日:2007年06月09日

●オープニング

 家康公の新田討伐の失敗は、関東武士に大きな波紋を立てていた。
 噂では、この機に新田が上州国主になるのではとも聞くが、賛否両論で反応は区々(まちまち)といえる。
 さて‥‥
「江戸を力と謀で治められるなんて思わねぇことだ! 登城して、源徳武士の、江戸っ子の意地って奴を見せてやらぁ!!」
「御奉行、落ち着いてください」
「そもそも、ぐだぐだやっときながら主人の城を落とされ、何食わぬ顔で伊達の野郎に靡いている旗本御家人が許せねぇんだ。
 源徳武士の名を貶めやがって! 侍の生き様を、いや、粋ざまを見せてやる」
「しかし、御奉行! 幾らなんでも、その格好は挑発のしすぎです‥‥」
 江戸市中の者たちを巻き込み、江戸城大手門攻撃に参加した責を取るといって自ら閉門蟄居しているはずの遠山金四郎。
 派手な桜吹雪の錦を羽織った遠山を諌めているのは、与力・只野新三郎以下、遠山配下の数名。
「これくらいで丁度いいのよ。伊達の戦人(いくさびと)の器量も、どの程度のものか見極めてやる」
「しかし‥‥」
 本来なら閉門蟄居として外出はおろか、客と会うことも許されないはず。
『民が大手門へ押しかけた件の処断は如何様にも受け申す。我が一身を以て責任を取りたく候』と、逃げも隠れもしないという遠山の宣言があったからか、伊達から警備の兵は殆んど出ておらず、見て見ぬ振り。実質、外部との接触は自由となっていた。尤も源徳武士の動きなりが試されているのかもしれないが‥‥
「それにしても、いつまでも沙汰がないとは、存外、独眼竜も肝が座っていないとみえる」
「勝ち負けは武門の習い。ですから、命を粗末にしないで下さいって‥‥」
 あんな格好で江戸城へ登城し、見得など切ろうものなら、即刻、斬首にされても文句は言えまい。
 不機嫌な顔で真鉄の煙管をふかし、細工の施された扇を鳴らす遠山に、与力の只野は深く溜め息をつくのだった。

 遠山の様子を見かねた与力の只野から、冒険者ギルドへ一つの依頼が舞い込んだ。

『江戸町奉行・遠山金四郎様を救う術がないか、知恵を貸してはもらえないだろうか?』

 と、同時に江戸城の伊達政宗公から

『市民と徒党を組み、部下を巻き込んで御役目を放り出した遠山だが、その処遇をどうすれば最も良いと思うか、冒険者の意見を参考に聞きたい』

 という依頼が舞い込むのだった。

※ 関連情報 ※
【遠山金四郎】
 江戸の町奉行の一人。どこか人懐っこい性格で、部下の人望は篤い。
 先の江戸城攻防戦では少数ながら江戸市民を決起させ、手勢を纏めて大手門攻撃に参加した。(【華の乱】江戸っ子の心意気)

【只野新三郎】
 江戸町奉行である遠山の与力。神田を主な縄張りとし、平治や三輪などの岡引を束ねる。

【伊達政宗】
 仙台藩藩主。その風貌から独眼竜の二つ名を持つ。
 現在の江戸城の主であり、裏切り者の謗りを受けているが、結果として難攻不落の江戸城を寡兵で落とした手腕を評価する者も居る。
 

●今回の参加者

 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4889 イリス・ファングオール(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5303 スギノヒコ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec2786 室斐 鷹蔵(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●遠山インパクト
 どんどんどん‥‥
「たく、うるせぇ。無茶はせんと約束しただろうが‥‥」
 戸を開けた遠山の胸に飛び込む幼女‥‥
「みねあ・こーくすくりゅ〜〜〜♪」
「ぐぼぁ」
 じゃねぇ‥‥ 飛び込みコークスクリューアッパーが遠山の顎を天に向けさせた。
「源徳おじちゃんが居ない今だからこそ、岡引を纏めて江戸の暮らしを守らなきゃいけないんじゃないの?
 遠山おじちゃんのやってることは只の我儘だよ! ミネアより子供だよっ! ふぅ、言ってやった、言ってやった」
「あの‥‥ きっと聞こえてませんよ」
 幼い胸を張って、あははと笑うミネア・ウェルロッド(ea4591)が見ると、リカバーをかけるイリス・ファングオール(ea4889)の横で遠山が倒れている。
「この手紙、読んじゃって♪ 誰からか聞いちゃ野暮だからね」
 縁側に運ばれ、気がついた遠山に突きつけられたのは一枚の短冊。

『とくとく言っても聞きはしないのでしょう。しかし、咲かずに散る華は美しくありません。 織女』

 遠山の知っている女(ひと)からの手紙だと伝えると、眉間に皺を寄せて溜め息をついた。
「俺は、まだ蕾(つぼみ)だってことか?」
「とりあえず、おじちゃんが死なないって決めるのが大事だとミネアは思うよ」
 再び溜め息をつく遠山の額からは皺が消えていた。
(「誇り高い人だから、色んな事が悔しくてはがゆくて、仕方が無いんでしょうね‥‥」)
 イリスは十字架のネックレスに手をあてた。
「戦争は終わりました。束の間の休憩みたいなものでしか無いとしても。
 だからってワケじゃないですケド‥‥
 色んな人達の希望や、叶わなかった想い、生き残った人が、ちゃんと大事にしてあげられれば良いなって、私は思います」
 その言葉に、はにかむように遠山は笑みを浮かべている。
「絶望でも諦めでもなく、希望を口にして、どんな形でも生きて欲しいです。
 これ以上、誰かに悲しい想いとかさせないで欲しいですよっ」
 微笑むイリスに遠山は鼻を掻く。
「結局のところ、伊達殿に喧嘩を売った振りをして武士として死にたいだけだろう。己の責任も何も水に流せるものな。死ねばさ。
 でも、俺からすれば負け犬だな。そんな事で散らされる桜吹雪が不憫でならん」
 言うだけ言って、屋敷の縁側で岩峰君影(ea7675)は昼寝を決め込んだ。
「遠山さん、俺は『志士』だ。本来なら、この身は神皇さまのためにある。
 その俺がこうやって源徳に力を貸すのは、俺自身の借りがあるからだ。
 それを返せるまでは‥‥ 伊達を江戸から叩き出すまでは‥‥ 俺も生きなければと思っている。
 恥を忍んでも生きてやることをやる。それも武士道と違うか?」
「そう。ヤケになっちゃだめだよ。江戸城の主が誰であれ、キミのお仕事って、江戸を護る事でしょ。
 伊達を挑発するのが、キミの武士の見せ方なのかな? キミがいなくなって、誰が江戸を護るのさ」
 柚衛秋人(eb5106)やスギノヒコ(eb5303)も穏やかに、しかし、情熱的に、その想いを遠山にぶつけてくる。
「考え無しに動いたわけじゃないさ」
 遠山は寂しそうに呟く。
「だぁ〜〜、わかった。自ら命を断つことはしない。約束だ」
 背伸びすると遠山は大きく息を吸い込んで、ドタッと岩峰の横に寝転がる。
「ミネアも〜♪」
 ダウン攻撃をかますミネアを遠山は転がっていなした。
 とばっちりでゲホゲホ言う岩峰を笑い、春の暖かさが戻ったかのような空気に包まれるのだった。

●横槍
 江戸城に招かれた冒険者たち‥‥
「遠山さんの言うように、江戸は力と謀で治められるようなところではないと思う。だからこそ江戸奉行の役目は重い。
 町民たちが暴動など起こさぬよう、止められる人物は、そう多くいないだろうし、遠山さんは、その数少ない人物のひとりだろう」
 一緒に大手門攻撃に参加した柚衛にとって、遠山にこんなところで散ってもらうわけにはいかない。
 江戸の民の心を掴める人物を失うのは、敵味方を越えて利点がないことを丁寧に説明していく。
「ちゃんと奉行をやっていた人でしょ?
 罰を御領地やお屋敷を取り上げるとかにして、お仕事は江戸町奉行のままにすれば、キミの市民からの人気も上がると思うんだけど」
「訳ありとはいえ、先の戦で町の治安を荒らした身。奉行として治安を回復させるのが何よりの罰ではないかな。
 無論、遠山が従わなければ、それを理由に如何様にでも‥‥ってとこかね。それにしても伊達殿もご苦労なようで」
 口調から他意はないことは見て取れるが、伊達家臣の殺気がスギノヒコや岩峰に突き刺さる。
「私は、人が人を裁く事に良いとも悪いとも言えません。信賞必罰も秩序に必要だって分かるし‥‥
 でも、慈悲を忘れずにいてほしいと思います。遠山さんにはこれからの働きで取り返して貰うとか、ダメでしょうか?
 それに遠山さんの放り出したお役目は、政宗さんではなく、家康さんからもらったお仕事だったと思います。
 政宗さんが罰を与えてしまうと、ただの仕返しみたいに見えるし、家康さんの代わりの人が罰するのが本当じゃないでしょうか?」
「だそうだぞ。石川」
 あの家紋は源徳の、いや、元源徳の有力武将・石川数正‥‥
 岩峰が小声で仲間に彼の素性を促すと、動揺が走った。
「江戸の治安を守らなければならない立場にありながら、遠山金四郎は、その職を全うしなかった。
 治安を乱す者は身分を問わず、切り捨て御免。などという触れを出したこと自体、乱心したとしか思えませんぬ。
 しかも、遠山が、あの触れを出したせいで、江戸市民の一部が大手門攻撃に参加したというではありませぬか。
 元源徳武士の立場として遠山は切腹して然るべきと存ずる。そうでなくては政は守られませぬ」
「では、この助命嘆願の署名は、一体、何でござるか?」
「ほう、それが江戸の総意とでも言いたいのか? 片腹痛い」
 足繁く集めて回った書名の束を突き出す甲斐さくや(ea2482)を、石川は一笑に付した。
「伊達の者が町人を取締ろうとしても反発を買うと思うでござるよ。
 町人に慕われている遠山様を監督する役人をつけて処分を保留してはどうでござろう。一時様子を見ても遅くないと思うでござるよ」
「歯向かうと分かっている虎を飼う馬鹿はおるまい?」
 伊達公に釘を刺され、甲斐は二の句を失う。

『義理と人情、秤に掛けりゃ 遙かに重い人の情‥‥
 義理を通すは心意気 無理を通せば道理が引っ込む‥‥
 咲かせて見せるは漢華 拓いて見せよう漢道‥‥』

 聞えてくるは三菱扶桑(ea3874)の鼻歌。
 言いたいことは仲間が言ってくれると、酒を片手に部屋の外で控えていたはず。
「華が散る様を見て、美味い酒が飲める時期は過ぎちまったかねぇ‥‥」
 頬を撫でる風は湿気を帯びている。
「遠山の処遇なんざ、もう決まっているんだろ?」
 三菱は杯を煽った。
「落とし処を探っているだけなんじゃないか?」
 抜刀しかける家臣を伊達公が抑えると、冒険者一行からは本気の安堵が漏れる。
「異国の酒もあるぞ。飲まないか? 独眼竜‥‥ いやさ伊達政宗、お前の本心を聞かせてくれたら好きなモノをくれてやるぜ?」
「無礼にも程があるぞ」
 緊迫の糸は今にも切れそうな雰囲気だ。
「クックックッ‥‥」
 噛み殺した笑いが緊張を引き裂く。
「いや、失敬。政宗殿も中々に、お人が悪るうござる故。此処には、かの遠山と共に例の大門を攻めた者も居りましょうや‥‥」
 横目でミネアらをちらりと見遣り、室斐鷹蔵(ec2786)は口元をニヤッと歪めた。
「冒険者は、己が心にのみ動く、不羈(ふき)の者ども。だが、こやつらの意は客観に非ず主観。即ち、理に背く情にござる!」
 室斐の発する気は、場において1人違っていた。探り合いではなく、まさに信念一途なのである。
「遠山は奉行の責を投げ、武士として伊達殿に刃を向けたのでございましょう。
 戦場にて命を賭して散った者、落ち武者にまで身をやつし果てた者も数多。敗軍にあって遠山に限り許すなど言語道断!
 世の武士に、とても示しなどつきますまい! 遠山は潔く腹を切り、武士の本分を貫くべきと存じ上げ申す!」
 その言葉には一点の曇りもない。
 正論だろう。江戸に残る源徳武士の取る手段は大まかに三つ。降るか、戦うか、出奔するか。降る気が無く、処置を待つというなら、切腹が妥当な所だ。
「某も浪人とは言え武士の端くれ‥‥ 許されるなら、その桜、散らしてみとうございます」
 互いに目を細め、伊達公の方から視線に絡ませた気を外した。
「石川、遠山の後の町奉行職に誰か適任はおるか?」
「鳥居という者であれば、与えられた職務を粛々と全う致しましょう」
「その件は任せる」
「はっ」
 伊達公の言葉に頭を下げる石川数正。
「俺の元で遠山は活かせぬな」
 色めき立つ冒険者を残し、伊達公は部屋を後にした。
「フン、所詮その程度か‥‥ つまらん」
 そう言う室斐を、石川は興味深げに見つめていた。
 この翌日、遠山に切腹の沙汰が下る。
 伊達政宗に敗れた戦場の敗者としてでなく、勝手に触れを出して江戸市中を混乱せしめ、職務を放棄して戦に参加した町奉行として。これには石川数正ら元源徳武士達の意思が関わったと言われる。

●遠山の死
「結局、何だったんだろ」
「月華のせいではないでござるよ」
 遠山邸の縁側で御日様を見ながらお茶を飲む月華と、側に控える甲斐。
「江戸の人たちに代わって叫び、士道を示して死んでいった遠山さん‥‥ 嫌いじゃなかったけどなぁ」
「そうでござるな」
「さくや、生きなきゃ駄目だからね」
「それが月華の望みなら。しかし、辛苦をなめようとも月華は守るでござるよ。それが月華の忍びとしての忍道でござる‥‥って!」
 月華と甲斐は目を疑った‥‥ あれは‥‥
「ねえ、今の遠山さんじゃ無かった!?」
「そんな筈は無いでござる‥」
 二人は慌てて表に出たが、遠山に似た姿はどこかへ消えていた。
「ひょっとして幽霊? ねえ化けて出てきたのかなぁ」
「まさか‥‥きっと他人の空似でござるよ」