シフール特急便 〜お願い! 特急便〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月03日〜08月08日

リプレイ公開日:2007年08月12日

●オープニング

 みんなの七夕の願いは叶っただろうか‥‥
 願いは叶うだろうか‥‥
 喧噪賑わう江戸の町。少女は見えるはずもない織姫と彦星を昼間の空に探しているのか、空を見上げて溜め息をついた。
「これ、下げそびれちゃったなぁ」
 精一杯のお洒落なのか、小さな桔梗を拵えた簪を挿した1人の少女が寂しそうに歩いている。
 視線を落とした胸元には短冊の端がチラッと見えている。
 これが、あのときに使う短冊なら、半月以上も胸にしまったままということなのか?
「よぉ、元気がねぇなぁ」
「きゃぁ」
 ばいんと背中を叩かれて、思わずよろめきながら、少女は落としそうになった短冊を大事そうに胸に抱き、そのせいで転んで‥‥
「おいおい、大丈夫かい、桔梗ちゃん?」
 いや、キュッと縛った捻り鉢巻の男に抱きかかえられて転ばずには済んだようだ。
「う、うん‥‥ 大丈夫、結太兄ちゃん」
「脅かしてごめんな?」
「ううん。大丈夫」
 桔梗と呼ばれた少女の顔は赤い。
「熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫。近頃、蒸し暑いから、そのせいよ。きっと‥‥ それより、大工のお仕事があるんでしょ?」
 おでことおでこを合わせる結太を離して、後ろを向いた桔梗は耳まで真っ赤にしている。
「おっと、いけねぇ。気をつけて歩くんだぜ! じゃあな」
 手を振る姿を困った風味の笑顔で見送り、思わず溜め息‥‥

 さて‥‥
 とぼとぼ歩く桔梗は、いつしかシフール飛脚便江戸局の前に差し掛かっていた。
「あれ? 桔梗ちゃん、どうしたの?」
「あ、な‥‥ なんでもないよ、月華ちゃん♪」
 手にしていた短冊を慌てて胸元に仕舞いこんで笑う。
「何か隠したでしょ〜〜」
「何でもないって♪ えっと、あ、御使いの途中なのよ。じゃね!」
 桔梗はトタトタと小走りに去っていく。
 シフールである月華であれば飛んで追いつくのは簡単だが‥‥
「あ、何が書いてあるか、ボク、わかちゃったもんね。しふしふ〜♪」
 ニパッと笑った月華が向かった先は‥‥
「また、いらんことに首を突っ込みおって」
 窓から覗いていた月華の上司の声が聞えた‥‥

 少し後の江戸冒険者ギルド。

『桔梗ちゃんに気付かれないように、幼馴染みの鉄太くんとの仲をとりなしてあげたいの。手伝ってくれる人、この指、とーまれ♪』

「おやっさん? これ依頼?」
「人助けと言うよりは、お節介だな。報酬も出ないし」
 ギルドの親仁は冒険者と一緒に苦笑いするのだった。

 ※ 関連情報 ※

【月華】
 冒険者も多くが利用しているであろうシフール飛脚便の江戸局員。
 正規の飛脚業務を越えて心と心の架け橋となるべく、東奔西走。
 そのせいで思わぬ騒動に巻き込まれたりしているが、上司曰く、いらんことするからだ‥‥とのこと。
 看板娘を狙っているとかいう話もあるが、如何に‥‥

●今回の参加者

 ea0946 ベル・ベル(25歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●月華の忍
「さくや、頼むね♪ まずは結太くんに付き合ってる人がいないか調べて。ボクの見立てでは間違いないと思うんだけどね」
「わかったでござる。月華らしい依頼でござるな」
 自然と笑みを浮かべて通りへ消えて行った甲斐さくや(ea2482)はというと‥‥
 待ち伏せしているかのような桔梗とすれ違い、ちょいと朝飯を掻き込んで溜め息。
 そんな結太の後ろをつけている。
「どうも意気地なしでいけねぇや‥‥ おっと、ごっそうさん」
「あいよ。今日も一日、頑張ってきな」
「任せときな」
 御代を置いて、道具を担ぐとヒョイと足も軽く仕事場へ向かう‥‥かと思いきや、あっちへフラフラこっちへフラフラ。
 あちこち寄り道をしながらだが、仕事には間に合ったよう。
「小間物屋に細工職人でござるか‥‥ それに呉服屋‥‥ どうやら贈り物をする気のようでござるが」
 甲斐は、とりあえずそこらで朝飯を頬張るのだった。

●三しふ寄れば文殊も形無し
「月華さん、面白くなってきたですね〜☆ これはもう間違いなく恋のよ・か・ん☆」
「流石、ベル姉さまと呼ばせてもらいます。ちゃ〜、ボクもそんな風に色気がほしいしふ〜♪」
 指をふりふり、ウインクするベル・ベル(ea0946)に月華は羨望の眼差しを向けている。
 月華の上司が呆れ顔で茶を啜り、溜め息をついているが、聞き耳を立てている辺り興味津々らしい。
「何だかドキドキするのじゃ。本当に桔梗さんは結太さんのこと好きなのかの?」
 レダ・シリウス(ea5930)は頬を赤らめている。
「これは間違いなく。お天道様が西から昇らないのと同じくらいにね♪」
「そうなのか。凄いのじゃ」
 で、結太と桔梗をくっつける算段でも始めるのかと思いきや、茶菓子が美味いだの、この茶葉がどうだのと‥‥
 三人寄れば文殊の知恵と言うが、シフール3人ではそうはいかないらしい‥‥
「切りのいいとこで仕事しろよ、月華。それから来客用の茶を使った分は給金から引いとくぞ」
「アハハ、ばれちゃった♪」
 今、自分でバラしてたろうが‥‥と、上司も呆れて仕事を始める。
「それじゃ、仕事が一区切り付いたら手伝うから♪」
「それよりも、3人でやれば早く済むのじゃ」
「そしたら月華さんも依頼に参加できるのですよ〜ん☆」
 しふ娘3人の視線を感じて、上司は溜め息1つ。
「仕事をこなせば問題ない」
 苦笑い。
「ありがと、みんな♪」
「いいってことですよ〜ん☆ しふ馬の友って言うですからね〜☆」
「羽摺りあうも多少の縁。気にしないのじゃ」
「桔梗さんも大船に乗った気持ちで待っててくださいですよ〜☆」
「「「おおぅ♪☆じゃ」」」
 とまぁ、3しふ娘は江戸の町へ飛び立っていった。

●結太の想い人
「結太に恋人? いねぇ、いねぇ。威勢がいい割に甲斐性がないのさ。
 この前だって、文をくれた娘がいたのに、手紙の書き方なんて知らねぇなんて言ってさ。返事は何だったと思う? ごめんの一言だぜ」
 大工の親方からは散々な言われ様だが、少なくとも女っ気はないらしい。
「とすれば、誰への贈り物でござろうか」
「ん? 結太に想い人でもできたのかい?」
「あ、いや、結太さんを気にしている者がいるのでござる。どちらも想いを伝えてないし、煮え切らないのでござるよ。
 それを気にしている人がいるので調べているのでござる。くれぐれも結太さんには内緒でお願いするでござるよ」
「成る程ね。でも大変だぜ。不器用だからな、あいつは」
 勘のいい親方に釘を刺すと、甲斐は足早に去っていく。

 甲斐がシフール便の江戸支局に足を運ぶと、月華とレダとベルの3人が仲良く茶を啜って恋愛談義に話を咲かせていた。
「彼氏はいないけど、さくやは大事な人かな〜。仲いいし、ボクのこと大切に想ってくれるし」
「そっか‥‥」
 ベルは何か言いたげだが、レダは2人の無言の会話についていけていない模様。
 不思議そうな顔で2人を見つめると、いいなぁとでも言いたげに小さく息を吐いた。
 と!
「けひゃひゃひゃ、聞いたのだよ。殊勝な心がけではないかね〜」
 トマス・ウェスト(ea8714)の声に甲斐は口から五臓六腑が飛び出すほど驚く。
 気を取られていたとはいえ、背後を取られるとは不覚‥‥
 それは兎も角、ドクターことトマスも手伝ってくれるらしい。
「結太さんには恋人はいなかったですよ〜ん」
「3人でじっくり観察したから間違いないしふよ」
「買い物好きみたいなのじゃ。暇を見つけては店を回っておったのじゃ」
「ふふ、レダちゃん、どんな店なのか見てないと」
「女性への贈り物を探していたのでござろう? ちなみに恋人の気配はないでござるよ」
「てことは?」
「てことは〜?」
「きっと母上への贈り物なのじゃ」
 違〜うと突っ込まれつつ、各々が手に入れた情報を摺り合わせるのだった。
「それはアレなのだね。一芝居打つしかないのだね〜」
 流石に名の知れたクレリックとでも言うべきか。
 気持ちを試す辺り、何か白のクレリックというよりは、黒のクレリックっぽいが‥‥
 作戦はこうだ。
 ‥‥っと、実際にどうなったのか話した方が早いか。

●やるときゃやる
 桔梗は箒を片手に長屋の近くを掃除している。
 野菜を洗っていたり、洗濯物を干していたり色々だが、朝のこの時間は必ず長屋の前の通りにいる。
 それは甲斐の探索、長屋のおばちゃんとシフ3人娘の井戸端会議、ついでに月華の記憶で明らか。
 桔梗ちゃんは働き者だから‥‥で通っていたが、冒険者たちの見解は違う。
「それは勿論、結太を待っているのだよ〜。けひゃひゃ」
「恋心なのじゃ‥‥」
 レダが顔を赤らめている。
「それでは、そろそろ始めるのだね〜」
 ドクターは自宅へ足を向けた。月華たちも配置につく。
 芝居さえ上手くいけば、後は結太次第。贈り物を買ったのは甲斐が確認済み。
「気をつけてね、さくや」
「大丈夫でござる♪」
 甲斐は角を曲がって桔梗の側を通ると、そこへ飛び出してきた柴犬を避けるように転んだ。
「痛っ!」
 桔梗に見えないように体の影で暗器の短剣を足に押し当てると血が流れる。
「大丈夫? あ、血が出てる‥‥」
 さくやの血を見て、桔梗はあたふたするのみ。
「すまぬが知り合いの医者のとこに連れて行ってほしいでござる。肩を貸してくれぬでござるか?」
「はい」
 2人は歩き始めた。

 少しして結太が仕事に出掛ける‥‥が、怪訝そう。
「よぉ、おばちゃん。お早う。今日は桔梗はいねぇんだな」
「ああ、そこで転んで怪我したって。医者のとこへ行ったらしいよ。心配だね」
「血‥‥流して‥‥ 桔梗さん‥‥ 医者‥‥ 行ったのじゃ。レダが悪いのじゃ。スペードから目を離したのが悪いのじゃ」
 おばちゃんに慰められるように柴犬にしがみついて泣いているシフールが1人。
 演技が上手くいくか、どきどき緊張している様が妙に緊迫感を出している。
「桔梗が!?」
 それどころではなかったか。結太は顔面蒼白。
「きっとドクターのとこですよ〜☆ 案内するですよ〜ん☆」
 なぜ『きっと』なのかは不明だが、動転している結太は思いつかないよう。
「連れてってくれ!」
 唐突に現れたベルを不審にも思わず、結太は走り出していた。

 そして辿り着いたのは有名なクレリックが住んでいるという噂の動物の骨で飾られた怪しげな家。
「こ‥‥ ここなのかい?」
「そうなのじゃ。ドクター☆」
「ちょっと待てって! おいぃ」
 迷わず入っていくベルに驚きながら、結太も続く。
「って、あれ?」
 ‥‥と、目に飛び込んできたのは真剣に話を聞く桔梗の姿。
「けひゃひゃ、この程度の怪我でも後々手遅れになるのだね〜。覚えておけば、身近な人の怪我もすぐ手当てできるのだよ〜」
 ドクターの手ほどきを受けながらさくやの足の手当てをしている。
「桔梗‥‥ 怪我は?」
「結太兄ちゃん」
 驚く桔梗にドクターが追撃をかける。
「おや、兄者かね? 桔梗の恋人は無事なのだよ〜。安心すると良いのだね〜、けひゃひゃひゃ」
 想像していなかった台詞に、桔梗が絶句して結太を見つめる。
「そ、そうなのかい‥‥ 恋人か‥‥」
「違‥‥」
 皆まで聞かずに結太は飛び出してゆく。
「よっぽど嬉しかったのだね〜。飛び出して走っていくとはね〜」
「違いますっ!」
 どげししししし‥‥
 鈍く平手を喰らわされてドクターが吹っ飛ぶのも見ずに桔梗は飛び出して行った。
「完璧に間違いないですよ〜☆」
「これが恋心なのじゃ‥‥」
 ベルとレダは追いかける桔梗にうっとりと見とれている。
「さくや、大丈夫?」
「血が出てるから派手に見えるだけでござるよ」
「この程度の怪我など平気だね〜」
 ドクターのリカバーで傷は見る見る塞がってゆく。
「ドクターは大丈夫だったの?」
「プロテクションリングをしていたからね〜」
 ジャラっと10個のリング。でも、クリティカルに平手が入ったらしく青タンになっており、それもリカバーで治した。

 さて‥‥
「これ、やるよ。たまたま見つけてな」
 ずいと何かを差し出す。
「結太兄ちゃん‥‥」
 それは桔梗の花を捻り鉢巻で束ねてある意匠の可愛らしい根付。
 桔梗の掌に、そっと乗せると、ふいと顔を逸らしてしまう。
「ひとつ頼みがあるんだけどな」
「何?」
「兄ちゃんてのは止めてくれねぇか。こないだみたいに、ややこしいのは御免だぜ」
 背中合わせに赤面しながら桔梗は頷いた。
「どうやら上手くいったみたいだね♪」
「月華、いい事をしたでござるな」
「うん♪ みんな、ありがとね♪」
 影から覗いていた月華たちもホッっと一安心。
「しふしふは世界を救うですよ〜☆」
 ベルはフェアリーのシャルちゃんと手を取り合って踊るように飛ぶ。
「あら、この前の‥‥」
「この前は、ごめんなさいなのじゃ。お詫びに舞うから許して欲しいのじゃ♪」
 レダは花びらを撒きながら舞い飛ぶ。
 楽しげに見つめる結太の裾をしっかりと掴む桔梗の姿に、月華たちは思わず微笑むのだった。