【那須動乱】那須軍八溝砦への長い道のり
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:13 G 57 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月11日〜09月21日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
●巻き上がる戦風
「これはこれで難儀だな」
「しかし、御頭。ボチボチやるしかないと思いますがね」
「蘆名兵をからかうのとは違って張り合いがないのがのぅ‥‥」
ざんばら髪を分ける額の部分には陣鉢を貫くような一本の角。
足元には小鬼の死体が転がっている。
「こいつらが持っておる食料は食う気がせんしなぁ」
「確かに」
「まぁ良い。行くぞ!」
10名ほどの影は闇に消えてゆく。
関東に侵出した千とも万とも噂された奥州の鬼の軍勢。
それが口の端に乗らなくなり、人々は心に平穏を得たかに見える。
しかし、大きな噂にならなくなっただけで、厳然として彼らは関東に侵出していた。
下野国那須藩の東部、八溝山がその一つ。
入山した鬼は数百とも数千とも言われているが、定かではない。
さて、先の那須藩による白河強襲作戦の折も、那須軍が鬼の軍団の奇襲、いや、冒険者の進言を入れて警戒をしていたから正確には強襲であるが、兎も角、攻撃を受け、少ないながら被害を出している。
それが向けられたのが軍であればこそ、備えをしていたからこそ、被害は少なかったのだ。
仮に、それが民に向けられていたとしたら‥‥
幸いにも那須藩において東部地域は数年来の騒動や騒乱において人は疎らであり、被害は報告されていない。
『蒼天隊は那須軍八溝砦へ赴き、食料や武器などの物資を補給してほしい。なお、功ある者は那須藩士として仕官の道あり』
「手練を用意せんと全滅しかねんな‥‥ これは‥‥」
冒険者ギルドの親仁は、掲示板を眺め、腕組みに溜め息で周囲の者たちを見渡した。
※ 関連情報 ※
【蒼天隊】
那須藩が雇う冒険者集団の一般的な呼称。
那須軍の編成では遊撃隊扱いになる。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓と馬に加えて近年では薬草が特産品。
北東部の要衝・白河は奥州連合が占領中。
【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
那須藩主。弓の名手。
須藤宗高、藤原宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。一部は山城の様を呈している。
鬼の巣窟となっており、麓の那須軍の砦は孤立状態に近い。
【蒼天十矢隊】
冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
八溝山決戦に至る那須動乱を勝利に導いた立役者として那須の民に絶大な人気を誇る。
茶臼山決戦の後、藩財政再建にも多くの献策を行ったが謀反の疑いをかけられ部隊は解散した。
現在、与一公の意向により、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与えられている。
●リプレイ本文
●道程は長く険しい
「意外にしつこい‥‥」
「存外、那須に流れ込んできた鬼の数を過少に計っていたのやもしれん」
物資を満載した荷車が5台。陸堂明士郎(eb0712)は、火矢避けの泥を塗った筵の様子を確かめながら眉を顰めた。
「しかし、しつこい」
八溝に近付くにつれて鬼の襲撃が続き、護衛の兵たちも四六時中続く散発的な襲撃に疲弊の極にあったし、全てを防げるわけもなく‥‥
那須兵たちにとって小鬼や犬鬼ばかりが現れるのが救いであったが、兵の士気は落ち気味。溜め息の一つも出ようというものだ。
「溜め息は、いつでもつけます。事が上手く運ばなくとも、諦めず運び届けるのです」
「洒落ですか? 要さん」
「あぁ、確かに」
カイ・ローン(ea3054)に言われて、上空の羽生を見つめ、きょとんとする刀根要(ea2473)。
蒼天十矢隊の2人の何気ない遣り取りに那須兵たちは思わず笑みを浮かべる。
実際、冒険者たちですら疲労の色が濃い。
足軽の数が足りぬと足軽が多めであるが故、彼らのような武士(もののふ)の存在は、どれほど心強いか。
さて、出発したころに比べると物資はいささか目減りしていた‥‥
増援の主力は弓兵。防御の為に矢を使えば自明の理である。
「大事にすれば道具はちゃんと使い手の想いに応えてくれる。あたいたちの祈りを込めるよ」
クーリア・デルファ(eb2244)には兵たちに武具の手入れを教授し、刃こぼれしたものはボルヴェルクの砥石で応急的に研いだ。
後は兵を損なうことなく到着することが重要。
「鬼が因縁か‥‥」
「この地のことでございますわね? 気にはなりますが、そこまで頭が回りません」
応急処置を実践で教えながらきた七神斗織(ea3225)は、いや本当に機会だけはふんだんにあったのだ‥‥
那須兵の手際が良くなっていることに満足しながら彼女は刀根の側へやってきた。
「医療班には苦労をかけるな。我ら前衛の力が及ばず、申し訳ない」
「仕方ないですよ。鬼の数が多すぎます」
医師の心得のある者が多かったのは幸い。そして何よりクーリアやカイのようにリカバーが使える者がいたことも。
負傷の度合いで担当を決めて治療が行えており、戦力の低下を効率的に抑えられていた。
「指揮をしている者がいるのかもしれないな。一度は我らの偽装に引っかかったというのに、またぞろ攻められてしまった」
「数が多くて、知恵が回らへんだけかもしれまへんえ。まずは異常なしや」
補給部隊に偽装した討伐隊に見せかけ、攻める気を萎えさせるイリアス・ラミュウズ(eb4890)の作戦は暫くしか効果がなかった。
西園寺更紗(ea4734)もうんざり気味に小さな溜め息をつく。
「今は、これからもですが、鬼の蹂躙を許すわけにはいかない‥‥という訳で偵察に出ますね」
西園寺たちと入れ替わりにカイは腰を上げた。
那須密偵も偵察に出てくれているが、輜重隊で行っている警戒とは違い、遠距離偵察が主であり、タイムラグが生じて当然。
輜重隊が機動的に展開できないこともあり、敵の動きの変則性もあって、それほど役に立っているとは言えなかった。
暫時、ボーダーコリーのルーンや忍犬の不動が吠えた。
「警戒しろ! 敵かも知れん!!」
陸堂たちは自然と配置についてゆく。
「タイミングがいいだけなのか‥‥」
イリアスも一抹の不安を払拭するように愛馬へ飛び乗った。
●出会い
「あいたたた。乙女の柔肌に瑕がついたらプンプンなのです」
伝令として八溝砦へ飛行中に射掛けられ、体勢を崩して天馬・翡翠ごと森へ落下してしまった七瀬水穂(ea3744)。
天馬騎兵の御約束をやってくれるあたり、サービス精神旺盛な七瀬だが‥‥
「空を飛ぶとは面妖な馬だと思ったが、十矢隊を連れてくるとは果て‥‥」
ヤバっと思いながら咄嗟に印を組むが、ざんばら髪に角、そして精悍な雰囲気の出で立ちから敵意は感じない。
「いい人さん?」
「そう見えるかな?」
角が生えてるから鬼よね? そう思いながらも直感では悪いようには思えない。こくりと頷く。
「わしにもお前が妖怪変化には見えぬ。何をしておった? こんなところで危ないぞ」
「それは秘密なのです。水穂は一人でお使いできるんだもん」
「まぁ、那須軍がらみ、この辺りでということであれば八溝砦に用があるというとこだろうが」
側に控えていた鬼さんたちが御意と頷く。
「お前さんのいた軍勢は向こうであろう。行って確かめてもいいが、一言言っておく。わしは奥州勢は好かん。名を結城義永と言う」
ぎゃふぅ‥‥ 与一公も安否を気にしていたおじいさんが目の前に‥‥
「えっと、息子さんと与一公が探してたですよ♪」
「然もありなん。生死がわからぬ方が動きやすいのでな。密偵には公と朝政にだけ知らせるよう含ませておいた」
七瀬がこくり。
「それに冒険者が結城鬼面党として暴れまわってくれた御蔭で、わしらの正体は那須藩に雇われた冒険者ということにされておるらしい。
奥州勢には厄介がられておろうが、目の敵にされているでもなし、敢えて否定する必要もない。それに性に合っているのでな」
「鬼さんじゃなかったですね」
角の付いた陣鉢を取って見せる義永に、七瀬は笑みを零す。
「くれぐれも他言無用だぞ」
「頑張るですよ。那須の安定のために♪」
おうという言葉と共に、木々の陰から1人、また1人‥‥ 結城鬼面党の鬼たちが姿を現しては義永の後に消えて行った。
●鬼軍撃破
ここに来て何たる不運か、それとも誰かの差し金なのか‥‥
補給部隊は小鬼と犬鬼の大軍に囲まれていた。
「御代は貴兄の命ですが何か? 荷物から立ち退くべし!」
しかし、そんなことを言って、わかるようなら苦労はしない。
「蒼天十矢が1つ、刀根要、貫かせて貰います!!」
小鬼の小弓を盾で防ぐと、遠慮なく十字鎌槍『宝蔵院』を繰り出す。
しかし、それくらいでは肉の波は防げない。
おまけに怒涛の如き勢いが、ともすれば簡単に士気を崩壊させてしまう小鬼や犬鬼たちを退くに退けない状況で勇猛にしていた。
「身体を壁にしてでも守るんです!」
「ここが正念場! 幾らでも斬ってやるさ!! 犬鬼の毒には気をつけるんだぞ!!」
「そうだね。七瀬さんが帰ってくるまでの辛抱。青き守護者、カイ・ローン参る!」
クーリアや陸堂が身体を張って守る姿、あるいはカイの言葉に励まされ、那須兵たちは顔を上げ、腕を上げる!
本来ならカイや天馬のホーリーフィールドで防御壁を張るところだが、刀を腰溜めに突進してくる鬼を相手では効果が薄い。
先頭の小鬼が倒れても後ろの鬼が踏み潰さん勢いで迫るのでは‥‥
それに連戦連戦で鳴弦の弓を掻き鳴らす、まともな魔力も那須兵たちには残ってはいない。
「戦い終えて、うちらだけ残っているなんて悲しいおすえ」
「わかってます! 死ぬもんか!!」
西園寺の一閃に救われた那須兵が叫び返す!
いかにも苦戦。歯を食いしばろうが、唇を噛もうが、苦戦以外の何者でもなかった。
さても‥‥
ぶぉぉおお! ぶぅぉおおぅ!
「御味方だ!!」
法螺貝の音に那須勢が反応する。
びゅびゅっ!!
密度の高い連続音で犬鬼の列が崩れた。
「刀根殿! 援軍と馬列を組む!! 蒼天隊と那須兵は横一列で敵が後ろに漏れるのを防ぐんだ!」
イリアスの指示で那須兵は総員抜刀!
「胡蝶の舞! 皆様、続いてください!!」
「燕返し! 巌流、西園寺更紗、参ります!」
七神や西園寺を両翼に備え、翼を広げるように那須兵が陣を広げてゆく。
「八溝砦の御方か!」
「如何にも! 助太刀いたす!!」
踏みつけ、蹴散らし、小鬼と犬鬼の軍勢を突破した刀根とイリアスは、那須騎兵5騎と合流し、馬首を返す。
「那須を脅かすモノには畏れられる刃とならん!」
なけなしのオーラエリベイションをかけた刀根の檄に、一声に応える、おぉう! の言霊。
「突撃い!」
イリアスの大音声に驚いた鬼たちは身をすくませた。
「怒根性なのですよ〜〜〜♪」
時を前後して、ふわりと荷駄の上に舞い降りる白き翼。
「七瀬さん!」
「ちゃんと御使いできたのですよ」
うん‥‥ うんと頷くカイの前で、七瀬は炎の翼を纏い、小鬼らを後ろから怒突く。
「敵は怯んでる! 一気に叩き潰せ!!」
騎馬突撃に串刺しにされてゆく鬼たちを跳ね返すように、陸堂の号令で那須勢は鬼たちに討って出た‥‥
●帰還
長年の戦闘で予想以上に堅牢になっていた‥‥砦というよりは城に近い八溝砦。
この地を失えば、那須の八溝山への反攻作戦が遅れるのは言うまでもない‥‥
「成る程、これほどのものであれば簡単に放棄するわけにもいかぬということか」
頷く陸堂の先で砦の那須兵が手を振っている。
砦兵の治療や彼らの武具の手入れなどを一通りこなした蒼天隊は、文字通り泥のように眠った。
増援を得て指揮を回復した那須兵たちの好意を素直に受けることにしたのである。
「根性なのです♪ 気合なのです! 水穂コーチと忍犬の星を目指すのですっ!!」
陸堂が寝ているのをいいことに、困惑する忍犬・不動を捕まえて『雷花剣』なる技を仕込もうとしている七瀬を除いては‥‥
ともあれ、その後に蒼天隊は憂さ晴らしをするかのごとく、寄る鬼を蹴散らして川崎城へ帰還した。
『八溝方面の鬼は意外に多く、西進に対して警戒が必要。砦の大将からの報告によると、集結した鬼の動きは全ては掴めず、警戒を要するとのこと』