【那須動乱】宇都宮の野盗退治
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 3 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月11日〜09月19日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
●絡み合う思惑
「うまく動いてくれるといいが」
「そうだな。うまくいかねば次の手を打つだけのこと。多少寝覚めが悪くなるだけのことよ」
「あぁ。そうだ。それは兎も角、奥州の忍びが、この地に来ているとか」
「驚かんよ。我らが来ているのだからな」
確かに‥‥ そう言うと男たちは闇に消えてゆく。
「毒見を変えられたな」
「そちらは手を下した。追っ付け、お前にもわかろう」
「あのまま死んでくれていれば手間がかからなかったものを」
「準備が整っていたとも言えんがな。もう少し、生きていてもらわねば困る」
息を漏らすような笑みが、僅かに空気を揺らしていると‥‥
自害だ! 自害しているぞ!
建物のどこからか、そんな声が聞えてきた。
「犬狼族ともあろうものが無様だな‥‥」
けぇん‥‥ 狼から降り、跪いている犬鬼が低く唸った。
「まぁいい、奴らの実力は大体掴めたからね。揺さぶりをかけてみるかな。くくくっ」
含みのある笑いが周囲に伝播してゆく。
「ん? 行きたいのかい? わかったよ。お前たちが行け。暴れて来い」
ざわざわと影が動いた。
下野国の南半国の中心的都市・宇都宮。
関八州の交易の十字路ともいえるヘソに位置し、古来、政治や宗教で重要な位置にある土地柄である。
近来、宇都宮藩主・宇都宮朝綱公は体調が優れないとの噂もあり、政情や治安が悪化していると、これまた噂に上ることしばしば。
近々であれば宇都宮藩東部に野盗が現れ、東西の貿易は江戸周りへと道を避ける商人が多くなったことが挙げられようか。
機を見るに敏というか、情報に近い商人たちが迂回路を通るようになったのだ。
これは宇都宮藩の収入に直接影響することであったし、放置しておけば藩の威光にも関わる。
また、高札などを出してはいるが、気付かずに通った者たちが帰ってこない、または死体が発見されるような事件も起きており、迅速な対処が求められているのも確か。
それを踏まえて討伐軍が編成されようとしていたころ、事件が起きた。
村が焼かれ、全滅した。
生存者は、たまたま隣村へ行っていた男‥‥ ただ1人。
助けを求めた後、気がふれた男は川に身を投げ‥‥ 死んだ‥‥
戦続きの周辺諸国から武威を軽んじられるような風潮を払拭するために、宇都宮公は自らを大将として出陣することとなった。
しかし、それを色々な意味で面白く思わない者もいるわけで‥‥
「数年来の精神的重圧から体調を崩している宇都宮朝綱公の家臣・那須頼資殿からの依頼だ。
ここ数ヶ月‥‥ 先の上州戦の直後から宇都宮公の体調が思わしくないらしい。
それをおしての出陣ということで、頼資殿は側にいたかったようだな。
だが、公から嫡男・成綱殿の護衛を申しつけられ、それもならないとのこと。
そこでだ‥‥」
『息子・光資の初陣の護衛に冒険者を雇いたい。我が家来・小栗頼重の配下として野盗退治に参加の望む』
冒険者ギルドの親仁は、表向きの依頼を張り出すのだった。
※ 関連情報 ※
【宇都宮朝綱】
宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
勇猛な武将と噂に高いが、最近は体調を崩しているとの噂も聞かれる。
【宇都宮成綱】
宇都宮藩主・宇都宮朝綱の嫡子。武芸よりは芸術に才能を発揮する人物との噂。
【宇都宮藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
【那須頼資】
下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。
【那須光資】
那須頼資の嫡男。12歳。
【小栗頼重】
那須頼資の家来。宇都宮藩士。那須光資の守り役。
【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
那須藩主。弓の名手。
須藤宗高、藤原宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【結城朝光】
白河結城氏の家督を継ぐ、若き武将。
矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
那須藩重臣・小山朝政の弟で、源徳家康を烏帽子親に持つ。
●リプレイ本文
●広がる波紋
宇都宮勢、満を持しての出撃。
ここ数年のことを考えれば確かにそうであるし、藩主自らの出陣とあれば城下もその勇壮な出で立ちに沸いており、見栄えは良い。
しかし、那須頼資にしてみれば気は重い‥‥
何とか冒険者たちを陣中に送り込むことができてはいるが、いかんせん4人では文字通り手薄の感は否めない。
望みがあるとすれば、冒険者たちが頼資の意図をよく汲んでくれているようだということだろうか‥‥
「野盗は見つからぬのか」
「御意」
「それでは済まぬ。草の根分けても探して参れ!」
再び御意と頭を下げると藩士は本陣から下がってゆく。
先行部隊を派遣し、敵を見つけ、それを殲滅せんと本陣が堂々と到着。
それが宇都宮勢の予定だったのだが、宇都宮公の本隊はどっかと腰を下ろさなければならない始末。
いるはずの凶賊の姿はどこにも見当たらなかった。
「このままでは笑い者ぞ!」
「いっそ、そこらの野武士でも罪人に仕立て上げようか」
恐ろしいことを言っている気がするが、権力者の体面を守るためなら、それくらいしてしまうのが世の習い。
情報伝播の遅さと内容の疎さにして、それが可能となってしまうのが恐ろしいところだ。
だからこそ噂が目に見えぬ大きな力を持ち、流言が威力を持つのだが、今はそれどころではない。
「辛抱せよ。これしきのこと、篭城戦に比べれば楽なものではないか」
暗に武将を叱責する宇都宮公に、シャーリー・ザイオン(eb1148)はホッと一息。
重臣・那須頼資推薦の異国の戦士として客将の待遇で宇都宮公の側にいることを許されているとは言え、自由な発言を許されている身分ではない。一種命がけの任務であることはシャーリーにも理解できているだけに、精神的重圧はかなりのもの。
そして、陣中の雰囲気が、それを益々強くしていることもシャーリーには肌でわかっていた。
(「こんな中にいたら病気にもなりますわ」)
依頼の期間中だけという期限付きであれば、シャーリーは比較的気楽にいられたが、四六時中365日となれば‥‥
「シャーリー、得意の目や耳とやらで探ってまいるか?」
宇都宮公は報告を受けたり指示を出したりで武将らの気が逸れた間隙を突くように呟いた。
「ここまで探して見つからないのであれば、運が悪いか、何かの意図によるものと思われます。私1人が加わったところで状況は変わらないと思います」
タイミングに意図を感じたシャーリーも、宇都宮公の方を向かず、僅かに頭を下げて答えた。
「であるな。鬼と出るか蛇と出るか、見極めるつもりで出陣したが、思ったよりも巧妙で根が深いのかも知れぬ。あの狸め」
実際のところ、この地に陣を張るまでに宇都宮公は命を狙われている。
作法を知らぬ異国の者が宇都宮公の食事に手を出し、口にしたため罰が当たったと吹聴されているが、実際のところ、シャーリーは軽い気持ちでした毒見で命を落としそうになっていた。こんなこともあろうかと解毒薬を用意していたために命を落とすことはなかったが、運が良かったのか悪かったのか‥‥
「気をつけてください。敵はどこに潜んでいるか‥‥」
言って、シャーリーは宇都宮公が健康を害している本当の理由を知ったような気がした。
政務や戦は、確かに重労働だと聞く。だが、こんな精神状態で何を信じろというのだろうか‥‥
「ふ、やられはせん。やられはせんよ」
宇都宮公の不敵な笑みが、逆にシャーリーには痛々しく思えるのだった。
●遭遇戦
槍を立てよ!
弓を引け!
異様な高揚感と共に那須光資の陣は戦闘態勢に入っていた。
「怯むなよ! 若殿の初陣を勝利で飾るのだ!!」
小栗頼重の激励に本陣から声が上がり、呼応するように先鋒らも槍を掲げて応えた。
「どうですかな、光資殿。実戦の空気は?」
「う、うん。大丈‥‥夫」
不意の遭遇戦の緊張を解そうと声をかけたアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)だったが、大将の那須光資はガチガチ。
「那須様が下知すれば、皆様が力を貸してくださいますわ。大丈夫」
優しげな刈萱菫(eb5761)の表情に勇気付けられたのか、光資は堅い笑みを浮かべる。
よく見渡せば、共に武芸を磨き、勉学に勤しんできた小姓らと、父の家臣らが見つめている。
励ましの言葉はなく、翻意を促すためか、ただ一斉に頷くだけ。
「初陣に一番槍の機会を得たのは、宇都宮大明神と日光権現が与えたもうた御加護! 勝利を以て、殿と父上への土産と致す!!」
やや声は上ずっているが、これだけの口上であれば充分。配下の兵は鬨の声を上げた。
刈萱の結い整えた髪の上から兜を被り、煌めく武者鎧を鳴らして那須光資は馬上の人となる。
「いざ、出陣!」
日本刀を掲げ、刃に受けた陽の光は額の意匠に反射して勇ましく輝いた。
極限状態の高揚感から士気が一気に高まった光資は、隊を率いてよく戦っていた。
尤も側近の小姓と刈萱らが良く護り、小栗頼重が副将として支えているからであるが‥‥
「鬼といえども恐るるに足りぬ! 精霊魔法の前で蹴散らしてくれるわぃ」
アルスダルトはグラビティーキャノンを放つ。
前もって予告されていたとは言え、重力波が小鬼たちを吹き飛ばす様は驚愕に値する。
日本では、何と言っても精霊魔法は志士と陰陽師に神皇家から下賜されるもの。
その威力を目の当たりにすることなど滅多にないのだから。
知らないもの故、あまり当てにされていなかったらしく、序盤の大勢が決した今頃になっての出番であったが、衝撃的出会いというか‥‥
「凄い‥‥ですね、アルスダルト翁‥‥」
「それほどでもないわい。そぉれぃ」
今度はローリンググラビティーで鬼2頭を宙に舞わせ、地面に叩きつける。
那須光資の戦での自慢話の一幕の主役に大抜擢の予感‥‥である。
「危ない! 御油断召されますな」
好事魔多し‥‥ 刈萱は乱戦をすり抜けてきた犬鬼を弾き飛ばし、光資は咄嗟に刀を振り下ろす。
すでに傷ついていた犬鬼は一刀の下に地に伏す。
「油断せず、押し並べて潰すのです! 本陣も前進しますよ!」
周囲を固める小姓らが周囲の各隊へ伝令に走り、那須隊は敵を圧迫し始めた。
さて‥‥
「経験の足らぬ異国のおれ‥‥ ささ舟に乗る気持ちを思い出してほしいぜ」
「泥舟よりはマシとでも言いたいのか? とやかく言ってないで手を動かせ!」
「冗談ではない。これは実戦だ。がはは」
「よくわからんが弓射の腕前は中々のもの。もっと射られるがよい」
愛馬ブラックに跨り、細かく動きながら射撃を続けるジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)。
単純な野盗退治だと思っていたのに話が違う‥‥ などとは何度言ったか。
相手はオーガ。ゴブリンやコボルド程度ならば良いが、何か熊みたいな強そうなのもいる。
矢で急所を狙うが、士気が落ちるどころか、いきり立って暴れるのまでいるのはいただけない。
「これだからヤなんだ。オグリ君、何か仕事はないのかい? ミーは予備戦力として常に退屈しておきたい」
「ええぃ、勝ち戦に水を差すなら適当に戦っていてくれ!」
「何を怒っているんだ、オグリ君は。ギルド優待枠で入ったほどのミーなのに」
とはいえ乱戦に巻き込まれるのは御免のジョンガラブシ。適当に下がって本陣近くまで‥‥って下がりすぎである。
那須隊を始め宇都宮勢が前進し、相対的に下がりすぎてしまったのだが‥‥
●逃げ出す者
時間は少しだけ前後する。
宇都宮公の本陣にも次々と報告が入ってきていた。人々の瞳には精気が宿り、鼻息の荒さが大合唱で風の音を掻き消さんばかり。
一番槍は那須光資の隊とのこと。
凶賊の正体は鬼の軍勢と。
御味方優勢。那須隊、文字通り鬼軍を蹴散らしています。
等々‥‥
本陣の諸将は、自分にも出陣の下知をといった雰囲気で前のめりに宇都宮公を見つめている。
「鬼どもめ。要らぬところへ出しゃばりおって‥‥ 無駄足を踏ませる計画が台無しではないか‥‥」
シャーリーが不穏な小声を耳の端に捉え、思わず顔を向けると、幕間の宇都宮兵の1人が一瞬目を合わせて陣中を去ってゆく。
思わず腰を浮かせるシャーリーに宇都宮公が声をかけた。
「シャーリー、行け」
思わずシャーリーは、御意と頷く。
同時に将几を立った宇都宮公は討伐の仕上げを指揮するのだった。
無言の追跡の後、本陣を離れたそいつは一目散に駆け出した。
「ジョンガラブシさん、そいつを止めて! 愛染ちゃんも、あいつを止めて!!」
「びっくり承知。紙の船に乗った気でいるといいね」
騎馬と忍犬に負われて逃げ切れるものなどいようか。
いや、煙に包まれたかと思うと、その男は一気に速力を上げて駆ける!
「釣られて出てきたのは、いつの日か〜」
暢気に歌いながらジョンガラブシは騎乗弓射をかけた。
これが並みの剣士らに追われているのであれば話は別だったのかもしれない。
想定外の韋駄天走りも騎馬と忍犬相手では‥‥
宇都宮兵の格好をした男は、矢を避けるたび、ステップの分だけ忍犬との間合いが縮まる‥‥
「さぁ、逃げ道はなくてよ」
追いついてきたシャーリーは、肩で息をしながら矢を番えた。
「‥‥ 南無三‥‥」
男は崖から飛び降りてしまった。
「奥州のもののけ姫ではない、忍びも来ているかもしれぬ。秩序を乱し得をしようとするものども‥‥ 人間だろうか‥‥ ツナ君にはぜひ頑張って頂きたいものだ」
馬上で腕組み。格好をつけるジョンガラブシのマフラーが風に靡いた。