【那須動乱】水面深く進攻せよ

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月13日〜09月23日

リプレイ公開日:2007年09月21日

●オープニング

 下野国那須藩白河‥‥ 奥州への玄関、関八州への勝手口、呼び名は幾らでもあろう。
 白河の関という兵の集結に適した地、すなわち軍事上の要衝であるこの地は、那須藩から主を変えている。
 上州戦に呼応したように一万にも及ぶ大軍で押し寄せた奥州連合の手に落ちたのだ。
 この地に限らず軍事要衝は自然を要害として利用する。
 例え暮らしが不便だろうが、敵の侵略に対しての備えの方が優先されるのが常なのである。
 さて、先の那須軍軽騎兵隊の襲撃により、奥州側へ続く数少ない橋が焼き落とされ、多くの渡し舟が沈められた。
 これにより白河小峰城の兵は一時的に孤立。
 怪我人を量産するという一種凄まじい戦法により、激しい物資の消耗がもたらされた。
 上層部には使われた薬瓶や薬草も、下級武士や足軽までは回らず、手当ての甲斐なく今も苦しむ兵が多いと聞く。
 城まで辿り着けずに野垂れ死んだ者までいるというが、それは今の話題ではない。
 そも、兵の多くが傷を負い、城まで辿り着いたにも関わらず、手当てされなかった者も多かったという報告が那須密偵から入っている。
 これは那須密偵を戦の混乱の最中に白河小峰城に潜入させるという蒼天隊の献策を要れ、豊富に備蓄してあった薬瓶を割り、食料を食べられなくし、様々な物資を使い物にならなくする破壊工作が成功したからなのだが‥‥
 本来なら敵情偵察だけに留め、脱出の際に焼き討ちするくらいが関の山と思われていたのだが、なぜか奥州忍軍との目立った激突もなく、作戦が成功したことに潜入した那須密偵らの方が驚いていた始末。
 その理由を確かめる術は今はないが、奥州から到着した輜重隊が船を移動させたり、簡単な橋をかけようとしている情報が那須密偵によりもたらされていることの方が問題であった。
 それら輜重隊が白河兵と合流すれば多少の戦力回復が見込まれ、那須藩としては看過できない。

『蒼天隊は白河小峰城の近辺へ赴き、輜重隊を撃破するか、新しく掛けられた橋や移動に使われる渡し舟を可能な限り破壊してほしい。
 作戦には那須密偵と水中機動部隊が支援を行う由、機密にて多言無用。なお、功ある者は那須藩士として仕官の道あり』

 依頼の書かれた木板を手にした冒険者ギルドの親仁は、腕利きの冒険者数人に声を掛けるのだった。

※ 関連情報 ※

【蒼天隊】
 那須藩が雇う冒険者集団の一般的な呼称。
 那須軍の編成では遊撃隊扱いになる。

【イグ】
 那須藩喜連川の河童。
 奥州の鬼の南下に対抗して共に戦おうという那須藩の申し出を入れ、河童13名で編成される水中機動部隊の隊長となる。
 水虎を倒した(?)英雄として周囲の集落の河童たちから尊敬の念で頭領に推された経緯を持つ。

【那須密偵】
 那須藩お抱えの忍者。詳細は不明。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓と馬に加えて近年では薬草が特産品。
 北東部の要衝・白河は奥州連合が占領中。

【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
 那須藩主。弓の名手。
 須藤宗高、藤原宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【白河の関】
 関東から東北への玄関であり、下野と陸前や奥州を結ぶ軍事上の要衝。
 結城氏を城代とする白河小峰城を拠点とし、那須藩の北の守りを司っていたが、上州戦で奥州連合の手に落ちた。

【結城朝光】
 白河結城氏の家督を継ぐ、若き武将。
 矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
 那須藩重臣・小山朝政の弟で、源徳家康を烏帽子親に持つ。

【結城義永】
 白河結城氏の隠居。家督こそ結城朝光に譲っているが、厳然として政治的な影響力を持つ。
 城を空けている娘婿の結城朝光の代わりに地侍を束ね、白河の防衛を受け持っていた。
 与一公ら主力の武士団を逃がすために最後まで白河城に残り、蘆名氏の兵を城内に誘い込み、数十から百の兵を焼き殺したという。
 10名ほどの家臣団と落ち延びた後、討ち取られたという話は聞かれていない。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 八溝山決戦に至る那須動乱を勝利に導いた立役者として那須の民に絶大な人気を誇る。
 茶臼山決戦の後、藩財政再建にも多くの献策を行ったが謀反の疑いをかけられ部隊は解散した。
 現在、与一公の意向により、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与えられている。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb2276 メルシア・フィーエル(23歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●時は金なり
 沖田光(ea0029)の都合で街道を避けて来たり、持ち歩けない荷物を預けるのに虎魔慶牙(ea7767)が少し手間取ったりと、予定が押し気味なまま現地へ到着した蒼天隊は、那須密偵たちと合流次第、作戦のために移動を開始した。
 敵輜重隊は既に白河小峰城へ少数が辿り着いた後ということで、既に実戦配置についていたイグたち水中部隊が多少の戦果を上げていたが、そのせいで敵の警戒を誘ってしまっているらしく蒼天隊は思案のしどころ‥‥
「奇襲奇計は難しくなったと考えるべきか‥‥」
 上杉藤政(eb3701)は慌てて作戦の流れを組み直そうと知恵を絞るが、そうそう上手くゆくわけもなく‥‥
「予定通り、強襲、そして敵陣の攪乱をやるしかないだろう」
「そうだね。時間があまりないから早く始めようよ」
 先行して撹乱部隊として別行動で那須密偵らと行動を共にしていた鷹城空魔(ea0276)は、わかっている範囲での敵の配置や既に破壊した渡し舟を説明し、白井鈴(ea4026)たちは行動を開始するのだった。

 一方‥‥
「お初にお目にかかりまする、イグ殿、皆様方。磯城弥魁厳と申しまする‥‥」
 連絡のためにイグ隊に合流した磯城弥魁厳(eb5249)は、挨拶もそこそこに蒼天隊の作戦を話し始めた。
「あいつら、他の川から渡し舟を運んで使ってるんだ。なかなか渡し舟の数が減らなくてさ。
 警備の兵も増えてるし、一気に多方面で渡河したらしくてね。幾らか輜重隊に抜かれてしまったみたい。流石に僕らの人数だけじゃ‥‥」
 もう少し合流が早ければ、最初から連携した作戦を取れていただけに少し悔しそうである。
 それはそうと、集落の力自慢があちこちから集まったらしく、洗練された動きではないものの、自分らの生活の場を荒らされたくないという目的は同じ同志ということで、部隊の動きは一丸と形容すればいいだろうか。
「予定の地点で撹乱部隊に合流できればいいがのぅ」
「まずは移動しましょう。合流できなければ、その時に次の手を考えるまでですよ」
 自らは冒険者を少し手伝っただけで大したことはしてない。水虎を倒したという噂は誇張されすぎとイグ本人は謙遜していたが、磯城弥は河童の一団を纏めるイグに何かを感じているようだった。

●失ったは値千金の刻
 仮橋が架けられた場所へ沖田ら強襲部隊が向かうと、やはり敵の警備が付いていた。
「搦め手が通用する相手であればいいがねぇ」
 鷹城は斬馬刀を片手に構え、いつでも突入できる態勢でいる。
「結構多いですよ。撹乱部隊が孤立しないように、こちらもタイミングを合わせないと」
「橋を落とすだけなら夜襲でも良かったんですけどね」
 上空へ舞い上がり、敵の大まかな数と配置を確認したメルシア・フィーエル(eb2276)の報告に、沖田は虎の小宇宙の首を押さえながら小さな溜め息。しかし、先輩から留守を任されている以上、代わりに立派に戦うだけと勇気の炎を心に燃やした。
 ともあれ、敵の輜重隊が橋を通るという情報が確かなら、昼間であれ、これを狙わない手はない。

 所変わって‥‥
 小峰城へ向かう輜重隊が街道を進んでいる。
 それを物陰から確認して、那須密偵らは集中を始め、闘気を高めるとオーラの剣を手にした。
 忍者じゃないのか? 鷹城はふとした疑問を振り払い、分身の術の詠唱を続けた。
 行きましょう。
 鷹城らは目で合図を送り、身振りの符丁で展開を再確認。
 そして呼吸を合わせ、街道に飛び出すと一斉に襲い掛かる。
 作戦を成功させるためには橋向こうの警備兵を誘き寄せなければならない。
 強襲部隊と撹乱部隊の役目が逆転した形だが、敵の都合だから仕方ない。10ほどの兵が迎撃に動いた。
「やるまでさ」
 鷹城は覚悟を決めた。
 こちらの人数は分身の術で水増ししてあるが、兵力差は如何ともしがたい。
 迎撃する敵勢を迎え撃つ那須密偵たちの剣捌きは武士のそれだが、戦い慣れしている感じだ。
 受けようとした足軽の槍の柄をオーラの刃はすり抜け、掠め取るように急所を捉えた。
 おまけに軽装の彼らの手数は多い。あっという間に足軽をのしてゆく。
「負けるわけにはいかないな!」
 鷹城は火炎を敵に吐き掛けた。
「うぉおお、熱っ! 何だこれは!!」
「怯むな! まやかしの兵が混じっておるだけのこと!! 炎を吐くのは、そやつだけと見た!!」
 火遁の術が裏目に出たか。同じ動きをしながら分身は炎を吐かないことを瞬時に見抜かれてしまったらしい。
「ちぃ」
 背後から突き出された足軽の穂先をかわした鷹城は、紅蓮舞う外套を翻し、印を解いて片手にだけはめた龍叱爪を握りこんだ。
「死ぬなよ、焔の」
 ただ1騎の兜首を討ち取れば残りは烏合の衆と見たのか、那須密偵は馬上の武士に集中攻撃をかけている。
「わかってます!」
 鷹城は、それを援護するように足軽にストライクを叩き込んだ。

 橋の向こうで炎が上がり、驚いた警備兵が橋を渡ってゆく。
「あれが輸送隊だと思います。馬に何か一杯積んでます!」
 メルシアの言葉が先か、虎魔らは矢の如く飛び出した。

●将に強襲
「戦さ人、虎魔慶牙。推して参る!」
 輜重隊を護衛していた部隊の戦いに気を取られていたのか、警備兵は後方からの蒼天隊の襲撃を迎え撃つ態勢を整える前に斬り込まれた。
 おまけにメルシアのスリープで倒れるように眠る足軽も出て、足並みは揃わない。
「そらよっ!!」
 文字通り斬馬刀で荷馬を斬り伏せ、駆け抜ける虎魔。
 再び切り込もうとするが、長大な斬馬刀にゴツい篭手と両手が塞がっていては、人馬一体とはいかない。
 それでも好機と思われたのか、敵は前後に敵を迎え撃とうとしていて、部隊としての戦闘力が復活したとは言えない状況。
「小勢には小勢の戦い方があるのさ! いざ尋常に勝負!!」
 メルシアのムーンアローに気を取られた隙に、再度斬り込む虎魔。

 その背後では意外に抵抗の強い敵兵に、鷹城たちが苦戦。
 そのとき、敵兵が崩れ落ちた。咄嗟に急所への一撃を繰り出す那須密偵。
「那須の英雄の歌、那須の人々に笑顔を取り戻せる歌にしなくちゃ♪」
 メルシアはクルリと回って笑顔を見せる。
「馬鹿にしおって!」
 敵兵の攻撃が集中するが、メルシアは躍るようにかわしてゆく。
 それは当然、敵の隙となって現れた。
「そこだ!」
 鷹城や那須密偵たちの一撃が、互いの戦力差を確実に埋めてゆくのだった。

●土俵際の一手
「させないよ」
 白井の手裏剣に助けられ、虎魔は不敵に笑った。
 蒼天隊は橋まで押し戻され、いや、これは予定の行動だったのだが、自然と押し切られつつあるのが問題なわけで‥‥
「ちょっと、これはやばいかも」
 当身で敵を気絶させるのにも限度がある。白井は肩で息をしていた。
 これだけの数の差だ。持久力では相手に分がある。
(「そういえば休みなしの強行軍だったね」)
 思わず苦笑いを浮かべるしかない白井を救うが如く突き刺さる光!
 インビジブルで姿を消した上杉のサンレーザーだ。
「何が起こっている!」
 敵兵は突如として現れる光の矢に気を削がれた。
「よそ見してると死ぬぜぇ! さぁ、我こそ日の本の兵という者は掛かってきなぁ!!」
 虎魔の斬馬刀をもろに受けた武士が、ひゅーと変な悲鳴を上げて、くの字に折れ曲がる。
 流れる血をものともせず、虎魔が気を吐くが、それでどうこうなる状況ではなさそうだ。
 圧倒的に手が足りない。
(「兵を分散させすぎたか‥‥ そも、策を強行したのが間違いだったか‥‥」)
 上杉は唇をかんだ。
「敵は少ないんだ!! 押し潰せぇ!!!」
 敵騎兵も負けてはいない。
 豪腕を振るって槍を繰り出してくる。
 受け止めた虎魔に槍が突き刺さった。
「そろそろ止めを差してやるよ」
 沖田を守るように小宇宙が唸り声を上げている。
「ちょっともったいないですが、それを利用させるわけにはいきませんから」
 痛みで引きつる頬に僅かな微笑みを浮かべて、沖田はファイヤーボムの印を組んだ。
 図らずも敵勢は橋へ押しかけている。
 ここで使わなければ使いどころがなかった。
「皆さん! 火球の術! いきますよ!!」
 沖田の叫びが何なのか敵勢には理解できない。
 慌てて虎魔は馬首を返し、メルシアは飛び退り、白井は龍丸と転がるように沖田の足元へ逃れた。
 刹那、敵全てを巻き込む炎が爆発的に火球となった。
「うわぁああ!」
 炎に包まれる恐怖と火傷で敵兵がのた打ち回り、荷を積んだ馬は正気を失って兵を巻き添えに落水したりしている。
 数拍の間の後、橋が崩落しはじめた。
「何とかうまくいったのかな」
 白井は愛犬を抱きかかえると、思わずへたり込んだ。
「一時はどうなるかと‥‥」
 上杉が川面を覗くと、川に落ちた兵や馬を水中に引きずり込んで溺れさせながら磯城弥たちが手を振っていた。

「迷惑を掛けてしまいましたね」
「ううん、僕らだけじゃ橋を落とせたかわからないよ」
 沖田らはイグや那須密偵に遅参の謝意を述べ、作戦成功を祝った。
「いやいや、なかなかの手並みじゃったよ。わしを弟子にせんか」
「そんな、僕が弟子を取るなんて‥‥ しかも年上の方を‥‥」
 磯城弥の申し出にイグは驚いて、しどろもどろになっている。
「でも、お友達なら」
「見合いじゃないと言うに」
 磯城弥の反論に、メルシアたちは思わず笑う。
 みんなボロボロだが、何とか勝った。その安堵感が、一気に襲い掛かってくる感じだ。
「それじゃ、兄弟分なら」
「当然、わしが弟分じゃぞ。弟子志願なのだからな」
「え〜〜〜‥‥」
 困惑するイグらを見つめ、上杉は、いいじゃないかと彼の肩を叩いた。