【もえでび】ちまっと九尾

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月27日〜10月02日

リプレイ公開日:2007年10月24日

●オープニング

「きゅう?」
 近頃、神田明神に住み着いたものがいる。
 銀の毛並みの子狐だ。
「いやぁん、可愛い‥‥」
 頭を撫で撫でしている女の子は顔を緩ませて満面の笑みを浮かべている。
 手の平に載せると円らな瞳をつぶって気持ちよさそうに女の子の顔の匂いを嗅いだり舐めたりしている。
「ほら、あそこ〜♪」
「ほんとだ〜、ちっこいねぇ」
 1人、また1人と集まり始めた女の子は、そのうち10人ほどに‥‥

 それだけならば、ちゃんと飼わなきゃ駄目なんだぞくらいで問題はないのだが‥‥
「見ろ‥‥ 尾っぽが九本もあるぞ」
 確かにふさふさで短いが尾っぽが何本か。
 ひぃ、ふぅ、み、よ、いつ、むぅ、なな、やつ、ここのつ‥‥
 確かに九本。
 大人たちは大きく溜め息をついた。
 小さいとは言え九尾の狐と言うことになる訳で‥‥
 ちなみに九尾の狐と言えば残虐無慈悲の大妖怪‥‥って話なんだけどね。
 10日ほども見ていても人畜無害な目の前の生き物を眺めていると、とてもそんな風には見えない。

 おまけに‥‥だ。
「きゅうちゃんに酷いことしちゃだめぇ」
 きゅうという鳴き声と九本の尻尾だから『きゅうちゃん』らしい。
「捨ててくるなんて可哀想だもん。餌なら、ちゃんと面倒見るから」
「「「「「「「「「「お願い」」」」」」」」」」
 いたいけで無邪気で打算のない純粋な瞳でお願いされると流石に大人たちも無理を通すのを躊躇ってしまう。
「あんな感じでな。頭を抱えているところさ。おまけに誰かが抱っこして寝るもんだから寝てるうちに取り上げるわけにもいかねぇ」
 様子を眺めていた冒険者ギルドの親仁は苦笑いしている。
 大人たちとの戦いで疲れているのか疲労の色が見えるし、何とかしたいという依頼人の気持ちは痛いほどわかる。
「う〜ん、そいつは大変だったな」
 大人には大人の事情があるわけで‥‥

『きゅうちゃんが本当に人畜無害か調査し、対処を願う』

 さてはて、どうなることやら‥‥

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890

●リプレイ本文

●おじょうちゃん親衛隊
「九尾の狐か‥‥」
「どうしたの?」
「いや、かつて九尾の狐と戦った身としては気になって仕方がなくてね」
 那須の殺生石から復活した経緯を知る身としては、九尾の狐を放ってはおけないのだろう。
 思わず溜め息をつくカイ・ローン(ea3054)の複雑な表情から覗える、その人と成りにルンルン・フレール(eb5885)は微笑む。
「あれが九尾の狐ですかぁ〜‥‥ 可愛いですねっ。ウチにも一匹欲しいですよ〜」
 陰陽師の酒井貴次(eb3367)であれば、式神の1つにでもなどと思っても仕方ないのかもしれないが、数年前の一連の大事件を思い起こすと‥‥
「白面の転生体なのか、それとも子がいたのか? う〜ん‥‥ もしかして別の個体の幼生なのかな?」
「ふむ、可愛い子狐でも九尾の狐だからな‥‥」
「きゅうび、かわいい?」
「はは、如月には少し難しかったかな。ん‥‥将来の危険があるからといって、今の状態で処分するというのも何だしなあ‥‥ せめてオーラテレパスが使えれば意思疎通が図れるのだが‥‥」
 自らの手持ちの駒を確認するように思案にふける西中島導仁(ea2741)は、懐いてくる地の精霊妖精の如月が肩を叩いているのだと思ったが、違和感を感じて振り向くと、そこにはルンルンが満面の笑みを浮かべていた。
「こんなの持ってるんだよね♪ テレパシーの♪」
「それなら話は早い。きゅうちゃんの反応を見て危険なら押さえよう。尤もカイの懸念通り‥‥」
 小さく溜め息。
「きゅうちゃん自身よりも、その親が出てくる方が厄介だがな」
「念のため杉田玄白殿を経由して那須藩に連絡を入れておこう。殺生石の調査なども必要になるかもしれない」
「じゃあ行ってくるね」
「あ、待ってくださいよ」
「ははは、元気だね。2人とも」
 どこかはしゃいでいるルンルンと酒井を別に、西中島とカイの心配は深刻、かつ多岐に渡るもののようである。
 ててて、とととと♪
 神田明神の境内の小さな堂へ酒井が風魔の外套を翻して足音軽く駆けてゆく。
「あなた、だぁれ?」
「用件によっては通せないわよ」
 それを阻止するのは女の子から少女まで10人ほどの乙女の壁。
「酒井ですっ。正直言うと、きゅうちゃんが危なくないか調べてほしいって頼まれてきたんだけど‥‥」
 少女たちが身構えるのがわかったが、酒井の勢いに押されぎみ?
「あんなに可愛いんだも〜ん。絶対酷い事はしないからさっ。ちょっと構っていい?」
 女の子の胸の中で、ちょこんと顔を出す子狐を目敏く見つけると自然と笑みがこぼれる。
「わぁ、この子がきゅうちゃん? うそー、やだぁー、可愛い! 可愛い!」
 おまけに瞳をキラキラさせたルンルンがいつの間にか乙女の壁を越えて子狐の頭を撫で撫でしている。
「あ、ずるいですよっ。僕も撫でた〜い」
 おじょうさん親衛隊は不意の出来事に毒気を抜かれたよう。
「し、しょうがないわね。少しだけだからね」
「「やったぁ〜」」
 かいぐり始めると、2人は乙女たちの中に溶け込んでゆく。
「俺たちは周辺の聞き込みに行こう」
「そうだな。不安は残るが、今のところ大丈夫そうだしな」
「いこう、いこ〜♪」
 彼らの眩しい笑顔を遠めに見つめながらカイと西中島と如月は、界隈へと繰り出すのだった。

●証言
 那須藩へ飛脚便を頼み、暫く聞き込みを続けたカイと西中島であったが、特に事件らしい事件は聞き込めず‥‥
「きゅうちゃん? あぁ、神田明神に出たっていうお稲荷さんね」
「確かにお稲荷さんと言われれば、お稲荷さんだな」
「いやいや。そうかもしれんが、先年世間を騒がせた九尾の大妖狐と関わりがあるかもしれない。気をつけるに越したことはないよ」
 納得しかける西中島をカイが呼び戻す。
「神田に御祭りしてある神様と言えば大黒様に恵比寿様だろ? それにお稲荷様まで来てくださるってんなら、俺たちゃ大歓迎さ。
 危険なものなら、あんたら冒険者かお城の政宗公が退治してくれるだろうしな」
「ま、相手が危険なら退治するのは、やぶさかではないが」
 西中島の言葉にカイが相槌を入れるが、どことなく町人に危機感が薄いのが気になる。
「ちゅう訳で頼まれて♪ じゃ、俺っちは仕事があるんでな〜」
 不景気な顔を並べる西中島とカイを軽口で笑い飛ばすと、男は風のように去っていった。
 ‥‥とまぁ、きゅうちゃんに関しては、ちょっと変わった事件が起きた程度で大した関心は持たれていないよう。
 子狐なんだから放っておいても大丈夫などという意見も多数聞かれ、いささか手応えに気が重くなってしまう。
「実際には、いつ戦が起きるか不安なんでございましょう。家康公が江戸を放っておく訳ないと心の奥ではわかってるんですよ」
「あっしらは楽でいいんですけどね。付け火、押し込み、騒がしいことは減った気がしやす」
「八、茶々入れるんじゃねぇ。真面目な話だ。おっと」
 様子を覗いていたのか一通り捲くし立てると、男は十手を見せて一礼すると、
「きゅうちゃんを冒険者の方々が気にしてくださってるってんなら心強いや。あっしらは見回りがありますんで失礼しやす」
 江戸の喧騒の中へ飛ぶように去ってゆく。
 何とはなしに不安を感じ、西中島とカイは溜め息をつくのだった。

 さてさて、こちらは神田明神。
「じゃあ、皆が言うように危ないことに巻き込まれたりはしてないんだ」
 ルンルンの膝の上で女の子が寝息を立てている。
 さすがに連日の張り番で疲れがたまっているのだろう。
「でも、大人は信じてくれなくて‥‥」
「そっか」
 1日かけて少女らと結構仲良くなれたのは、きゅうちゃんのお陰なのだが、少女たちには聞かなければならないことは聞いとかなければ始まらない。
 きゅうちゃんはというと女の子たちと絡まるようにして目を閉じている。
「敵意も感じられないみたいだしね」
 リヴィールエネミーのスクロールを使った限りでは異変はない。
 慣れないうちには敵意の光が見えたりもしたものだが、仲良くなるにつれ、それも‥‥
「敵意だなんて。こんなに大人しいのに」
 ま、魔法を知らない者にとっては、こんな反応が返ってくる訳だが、それはそれ。
「いくら可愛くたって、人に仇為す存在なら討たなくちゃいけないの。悲しいけど、真実を追い求めるのも冒険者の勤めなの」
「大変なお仕事なのですね」
「そーなの。世知辛い仕事だけど、こうやってきゅうちゃんみたいのに会える機会も多いしね。幸せも不幸も半分半分ってとこ♪」
「世知辛い‥‥ですか‥‥」
 リーダー格の武家の娘は苦笑いと微笑みを半々に、ルンルンに笑みを投げる。

●託宣には託せん?
 翌日、例のお堂から少女たちの喚声が聞えていた。
「で? で?」
「想い人は北西の方角に。出会いは少し先の話みたいだね」
「良かったね」
「やだぁ」
 酒井の占いで盛り上がっているところにルンルンが帰ってきた。
「食べる? きゅうちゃん♪」
 おじょうちゃん親衛隊の中に商家の娘がいたので、みんなの御飯にいなり寿司を頼んだのだ。
 油揚げを美味しそうに食べるきゅうちゃんに少女たちは大はしゃぎ。
 自分たちの分まで手から食べさせる有様で、思わず笑い声が出てしまう。
「お稲荷様なら、もっと立派な御社に祭ってあげないといけないのかしらね」
 武家の娘は苦笑い。
「ねぇねぇ、きゅうちゃんも占ってよ」
「いいですよ」
 待ってましたとばかりに酒井は道具を操り始める。
 暫く真剣に卦を見て苦笑い。
「幸せの中に棘。人の輪に鎖。運命の先に喜びと悲しみ」
 酒井は首を傾げている。
「どゆこと?」
「未来のことはよくわからない‥‥ってことじゃなくて?」
 武家の娘に促されても、さぁ‥‥と言うしかない酒井に、
「しっかりしなさいよ。占い師が自信なさ気に結果を言っても一銭にもならないよ」
「そうそう、きゅうちゃん抱いていいから気を落としちゃ駄目よ」
 少女たちが労いの言葉をかける。
『だってさ、きゅうちゃん』
 どさくさ紛れにルンルンはテレパシーできゅうちゃんに念話を送る。
『変な結果じゃなくてよかったぁ。もっと色んな人と仲良くなりたいもん』
 こんっと鳴いたきゅうちゃん。あれっとばかりに首を傾げた。

「こういう輩も出てくるからな」
 得物を転がし、カイのコアギュレイトで不自然な体勢に固められた男が1人。
 聞き込みの途中で九尾の妖狐を討って名を上げるのだと息巻いていた奴を待ち伏せしていたら案の定‥‥
「あぁ、何か手を打たないとな」
 西中島の手にある霊剣が七色に陽の光を反射し、鞘へとしまわれた。

●頭を悩ませる報告書
 依頼最終日。
 報告書を纏めなければならなかったが、どうにも作業は進まず‥‥
 ギルドで筆を取った西中島も筆を置いたり、墨をすってみたり、落ち着かない。
「取り立てて危険ではなさそうだが‥‥」
 カイは腕組みして僅かに眉間に皺を寄せていた。
「転生して記憶や本性が蘇ってない可能性もある。油断は禁物だな」
「報告はどうする‥‥」
「何と言えばいいのか‥‥」
 不安要素を報告すれば危険の芽は小さいうちに摘もうという動きになってもおかしくはない。
 だが、それがただの杞憂に過ぎなかった場合、きゅうちゃんにとって不幸なことになってしまうだろう。
 事の善し悪しは終わってみなければ判らない。かといって、手をこまねくわけにもいかず‥‥

『きゅうちゃんなる九尾の子狐に関して危険な兆候は感じられず。ただし、残忍な妖狐とならぬよう監視を続ける必要があると思われる』

 これが西中島とカイが捻り出した報告書の概要であり、酒井とルンルンもそれに同意した。
 そんなこんなで少女の親たちが金を出し合って神田明神の近くに小さな社(のようなもの)を作り、きゅうちゃんはそこで飼われることになったようだ。
 頑として意志を曲げない娘たちの疲労した姿と冒険者たちの報告書を見て、親たちが折れたということなのだが‥‥