【毛州三国志・江戸】鬼斬り楽女 対 重蔵

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2008年01月29日

●オープニング

「しまらんなぁ」
 白髪、白髭の老いた剣士は、鼻から深く息を吐いた。
 江戸冒険者ギルドで知る人ぞ知る重蔵という剣士だ。
「何がですか?」
「武士がだよ。
 鬼や妖が現れた、助けてくれと冒険者ギルドに依頼が絶えんではないか。
 魑魅魍魎から民を守るのが武士(もののふ)の役目だろうが」
「関東は不安定ですからね」
「興隆は武家の習いと言うが、奥州の遣り方は気に喰わん」
 苦笑いするギルドの親仁を他所に、重蔵は一件の依頼に目を留めた。
「これにしよう。悪人や鬼を切り捨てていると噂の楽女の調査」
「あぁ、うちのギルドが出した依頼ですね。しかし、何でまた? あなたの腕なら鬼・妖を討つ方が向いてると思いますが」
 ごくりと喉を鳴らすギルドの親仁に、重蔵はニヤリと笑って髭を扱(しご)いた。
「悪鬼夜行や魑魅魍魎を討つのは武士の務めと教えてやらねばならん。武士の面子がある」
「さいですか。では、同行者が集まるまで‥‥って‥‥ ありゃ、行っちまったか‥‥ まさか1人でいったりは‥‥ するかもなぁ」
 ギルドの親仁は溜め息一つ、大急ぎで冒険者たちに声を掛け始めた。

「声を大にしては言えねぇが、伊達公が江戸城に入ってから北方からの鬼の侵入が止まらん。
 そこでギルドとしても情報を集めているんだが、少し気になることがあってな。
 江戸市中に紛れ込んだ悪鬼夜行を成敗する楽女の姿が噂されている。
 放っておいたら役人や地侍たちと衝突しかねないし、ギルドとしても正体くらい掴んでおかねぇとな。
 そんな訳で調査を頼みたい」

『噂に上り始めている鬼斬り楽女が実在するのか、調査願う。ギルドの得ている噂や情報は以下の通り』

 一、月夜に光る刃で、周囲を闇に隠すほどの大鬼を斬り倒した
 一、目撃されているのは江戸市中で、主に夜
 一、超絶美形
 一、市女や夜鷹の格好で中背、体形までは分からないが中肉以下
 一、音もなく現れ、去ってゆく
 一、笛の名手
 一、後光が差していた
 一、名前を聞くと死ぬ

「ま、あくまで噂の段階だからな。話半分だぜ」
 ギルドの親仁は、眉に唾を付けると人懐っこく笑った。

※ 関連情報 ※

【重蔵】
 元侍。
 冒険者に諭されて隠居していたはずなのだが、持て余す腕力と坂東武士のしまらなさに冒険者稼業に復帰した。
 剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
 ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるが‥‥

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

グロリア・ヒューム(ea8729)/ 桐乃森 心(eb3897

●リプレイ本文

●相次ぐ事件
 ガラガラガラ! ドカベキポキッ!!
「この鬼っ!!」
「何とでも言いなっ!」
 夜の長屋に喧騒が響く。
「待て待て。お主、鬼か?」
 修羅場に現れたのは重蔵。
「そうよ! 鬼よ!!」
 女を見て、男は、はぁ? とあんぐり。
「鬼斬りの楽女よ。いつかこういうことになると思っておった。鬼斬りじゃ武士に任せよ」
「じゃ、斬っちゃって! こんなヤツ」
「心得た」
「えぇい、邪魔するな!」
 ヤッパを抜いて凄む男に、重蔵は刀を抜いた。
「うわぉ、重蔵殿! 状況から察するに、この男を斬ろうと?」
 場に飛び込んできた黒崎流(eb0833)が慌てて割って入る。
「いかにも」
「でも、角もないし、自分には小悪党にしか見えませんよ」
「人に化ける鬼は幾らでも‥‥」
「いいえ、どう見ても重蔵殿の間違いです。ほら」
 言葉を遮り、黒崎が指差す先には、女の駆けてゆく姿が‥‥
「くっそ、借金を取り損ねたら恨むからな!!」
「その‥‥ すまぬ」
(「自分から言い出した事だが、何故か損な役回りについてしまった気がする‥‥」)
 男の捨て台詞を見送る重蔵に、黒崎は思わず肩を落とした。

 さて‥‥
「鬼が徘徊し、昨日今日で物凄い数の揉め事を起こしてるらしいな」
 虎魔慶牙(ea7767)は、ゲラゲラと声を上げて笑いながら酒を飲み干す。
「借金取りの邪魔をし、チンピラを薙ぎ倒し、業火で江戸城を焼き尽くそうとしている‥‥だったか?」
 酒場での今一番の酒の肴は、鬼斬り楽女の話題であった。
「それを斬ってくれるのが‥‥か」
 山下剣清(ea6764)らの収穫はゼロ。正確にはゼロに近い。
 動きを見せ始めた岡引たちが楽女に辿り着いていないようであることを見ても、風体から辿り着くのは難しいということか‥‥
「では、そろそろ俺らも動くか」
 夜に目撃例が多いとはいえ、人目についた時間は限られている。
 事前に得られていた目撃例だけに限れば出没するのは夕方か朝方。
 そもそも本格的に暗くなって外を出歩く者は本当に少ない。
 だからこそ真夜中の目撃例がないのかもしれないが、とやかく言っても仕方あるまい。
 探索に備えて昼寝もして気力体力共に十分。2人は暮れ行く江戸の町へと繰り出していった。

●どういうことだか‥‥
「鬼を切る市女ね‥‥ 残念だけど知らないわ」
「もし、知っていて匿っているなら教えてほしい。放っておけば役人たちと衝突するかもしれないからな。お会いして詳しく伝えたい」
 この際、駆け引きはなし。
 京の街ならまだしも、江戸の市女姿をしている者は珍しいと夜鷹も言っていたが、尤もな話か‥‥
「他人のことなのに優しいのね。どう?」
 ずどどどど‥‥
 重蔵が何か騒動を起こしたに違いなかった。
「御免。あれを放ってはおけないから」
 黒崎は苦笑いを浮かべ、誘いをかける夜鷹に銭を握らせると溜め息一つ、全力疾走する。
「で、本当に知らないのか?」
「そんなに目立つ新人がいれば分からない訳ないわ」
「だろうな」
 イリアス・ラミュウズ(eb4890)は夜鷹の肩に防寒着を掛けてやると、肩を抱いて歩き始めた。
 彼が注目したのは楽女が複数いて、全員の特徴が混同されて矛盾した情報になっているのではないかという可能性だ。
 何人もの夜鷹に声を掛け、情報を集めて回っているが‥‥
「でも、時々現れる夜鷹ならいるわね」
 夜鷹は顎に指を当て、首を傾げた。
「育ちが良さそうで、いい着物を着て‥‥ 武家の娘のようだったから、島を荒らさない限りは放っておこうって思ってさ」
 それが本当なら重要な情報だ。
 鬼斬り楽女か? いや、違ったとしても楽女が標的にする可能性は高い。
「詳しく話を聞かせてくれ」
 イリアスと夜鷹は江戸の闇へと消えていった。

 その頃‥‥
「この広い江戸で、たった1人の女を捜す。おまけに何時何処に現れるかも分からんと来ているとはな」
 噂の楽女が出現したと聞き込んでは出現地点を確認して印を入れてゆく‥‥が、これが一筋縄ではいかない。
 情報を求めて当てもなく、江戸の地図を片手に歩くは三菱扶桑(ea3874)。
 突如響く笛の音に三菱は、ふと見上げた。
「貴様の顔、鬼に見ゆる」
 と一言、桃色に輝く剣を現し、踊り来る市女の姿。
 鬼に間違われる経験は何度とあるが、今回もそれに当たろうとは‥‥
「うおっ、一寸待て。自分は鬼ではないぞ。おまえは一体、何の為にこんなことをしている」
 咄嗟に刀を抜いて呼子笛を吹くが、受け流す剣をすり抜けて、市女の桃色の剣は三菱の体力を奪う。
「名前を聞く前に殺されてたまるか!!」
 逆襲は、いなされてしまった。

 一方‥‥
「ちょっと煽りすぎたかしらね」
 顔を隠し、笛をチラつかせて役人の詰め所周辺で聞き込みをしていたセピア・オーレリィ(eb3797)。
 あまりにあからさまと、こってりと奉行所で調べを受けて疲れ気味だ。
「でも、役人がどこまで掴んでいるかはわかったわ」
 ギルドと役所が得ている情報は同等であるという事実は掴んだ。
 ここまではセピアの予定通り、予測どおり。
 ならば‥‥
 噂の一部だけが真実に繋がることも稀にあるが、効果的な探索を行うには得ている情報の最大公約数を繋げるのが先決。
 とするなら名前を聞いただけで死に、音もなく現れる。それは恐らく魔法。
 それが月魔法であれば笛を用いるのは自然な成り行き。陰陽師が退魔を行っているのでは?
 彼女の辿り着いた予測は、至極単純。だが、明解な中に真実が潜むことは多い。
 だが、刀を振り回す老人であるとか、業火を操るとか、新情報が出ているだけに予測が怪しくなってきたと付け加えた。
「業火を操るというのは‥‥、たぶん紅葉なのではないかと‥‥」
 恥ずかしそうに頬を染める火乃瀬紅葉(ea8917)。
 確かに悪漢を懲らしめるのに、見せ魔法で脅した覚えが‥‥と。
「ってことは御老体は重蔵さんってこと?」
 多分と頷く火乃瀬に、呆れ顔でセピアは喉を潤す。
「で、そちらの進展は?」
「意外にそそっかしいのでござりましょうか? 噂の出所は鬼や妖と間違われて襲われた方々でございまする」
「成る程、確信を元に鬼斬りをしている訳ではないってことね‥‥」
 セピアは思案顔。
「一目で分かる美形。剣の腕が立ち、笛の名手。
 見たら死ぬ噂が意図的に流されているのならば表立っては動けない有名人‥‥なのでござりましょうか?」
「陰陽師説と同じく、まだ早計ね。根気よく調べるしかないわ」
 セピアたちは頷きながら、周りで飲んでいる者たちに声を掛け始めるのだった。

●悪を滅ぼせ! の心
「困ったモノだ」
 腕組みしつつ仁王立ち。鷹見仁(ea0204)は思わず噂が噂を呼ぶ状況に溜め息をつく。
 仲間たちの探索が結果的に情報を混乱させてしまっているのは確か。
「限られた情報の中で有力なのは、出没は朝方か夕方、そして目撃されているのが江戸城に近いということだが‥‥」
 じっと江戸城を見上げる。
 主は源徳家康から伊達政宗へ変わっているが、城は鷹見の見知る江戸城。
 何が変わったのか‥‥ 人々の生活からは見えてこない。
「それだけ伊達公が有能と言うことなのか‥‥」
 インドゥーラでの試練に打ち勝ち、パラディンとなった鷹見には守らなければならない厳しい戒律がある。
 鬼斬り楽女が本当の悪と戦っているのなら、それを助けるのは使命。
「話半分としても、美しい女性ならば是非一枚描きたいものだ」
 この辺は昔と、ちっとも変わらないようだが。
「ん?」
 呼子の音が響く。
「さて、鬼と出るか蛇と出るか」
 鷹見は身を翻すのだった。

「止めるんだ! その男は鬼じゃない!」
 駆けつけた鷹見らが踏み込むより速く、市女は距離を取る。戸惑っているようだ。
「みやみに斬って気が済むのなら、自分がお相手になろう。尤も簡単にはやられないが」
 黒崎の言葉に、市女は剣を降ろした。
「何だよ、やらないのか。どのくらいの腕なのか興味があったんだがねぇ」
 虎魔は残念そうな声を上げながらも、笑顔で斬魔刀を構えから外す。
「名目だけの武士などより、貴方の方がよほど国士だ。その心意気には敬意を表したい」
「しかし、このままでは武士と衝突しかねん。このような所業は止めよ。
 腕を活かしたいのであれば冒険者にでもなれ。周囲を騒がすこともなく鬼斬りができよう」
 自分のことは棚に上げて‥‥
 苦笑いしつつ、しかし、黒崎は愚直な重蔵の人柄に、どこか心惹かれるものを感じていた。
 ‥‥と、それよりも市女だ。
「悪鬼夜行を成敗するのは、恨みか、腕だめしか。それとも、人助けか‥‥?」
 山下の問いに市女の答えはない。
「まぁいいさ。話したくなければ話さなくてもいい。名を知られたくないのなら名乗らなくてもな。
 例え名乗っても望まんなら他言はしないさ。依頼は鬼斬り楽女が存在するかどうかだからなぁ」
 ゲラゲラ笑う虎魔を前に市女の雰囲気が緩むのを感じた。
「名も姿も明かせない。ただ、悪がはびこるのを座して待つ気はない」
 凛とした声に空気が張り詰めた。
 声から男か女かはわからない‥‥
「鬼の動向について何か知っていたら教えてくれないか?」
「鬼斬りは何人かいるのか?」
 黒崎と虎魔の問いかけに市女は首を振り、身を翻すと、軽く屋根へ登り、ふわりと走り出した。
「俺は、この江戸で一番の美人絵師、鷹見仁という者だ。鬼斬り楽女の姿、ぜひ一枚描かせてもらおう」
 市女は手を上げて応えると、屋根の向こうに消えて行った。
「悪いヤツではなさそうだが‥‥ はて、使っていたのは月精霊の術ではなく闘気の技だったな」
「うむ。だとすると、彼奴は、いずれの侍か」
 鷹見の感想に重蔵は冷静に付け加えた。 

 なお‥‥
 セピアや火乃瀬の聞き込みによって「名前を聞いたら死ぬ」の情報は掴むことができた。
 屈強な2人組が現れ、「今日のことは忘れろ」と言われたようだ。
 誰なのか問うと、「名前を教えても良いが、死んでもらうことになる」と脅されたらしい。