【毛州三国志・宇都宮】秘かな支援

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月31日〜02月10日

リプレイ公開日:2008年02月20日

●オープニング

 那須は奥州勢に藩内を侵され、鬼に領地を切り取られ、逃げ惑う領民を守りながら壮絶な総力戦を余儀なくされた。
 勝って、あるいは負けて‥‥
 失い、あるいは回復し‥‥
 江戸では噂に聞えるだけだが、そんな中で那須藩は持ちこたえている‥‥

 それを裏付けるような依頼が、那須藩からの依頼が途絶えて数ヶ月を経った今、江戸の冒険者ギルドに舞い込んできた。
「護衛の依頼だ。ただ、少し問題があってな」
 冒険者たちの表情に少し緊張が浮かんだのを見て、ギルドの親仁も苦笑いを浮かべる。
「護衛するのは宇都宮から那須へ。つまり危険な護衛になるかもしれないってことだ」
 そこまで言われれば大よその察しはつく。
「尤も‥‥ だからこそ冒険者に依頼が来るんだがな」
 冒険者であればギルドの利用案内をされたときに、その生い立ちくらいは聞いたことがあるだろう。
 商人ギルドの護衛部門が独立したものが冒険者ギルドの発端だと。
 とはいえ、自分たちに声が掛かるのだから‥‥ そう言う冒険者たちにギルドの親仁は頷きながら微笑んだ。
「確かに激戦区ではないよ。行き先は那須西部の矢板までだからね。
 ただ、那須に近付くにつれ、奥州兵や鬼に出会う確率は高くなる。努々(ゆめゆめ)油断はしないことだ」
 そう‥‥ 危険はある。
 川崎城でも何度か戦が起きているらしいし、宇都宮藩でも度々山賊が出しているようだと事前の説明にあった。
 そのことを言っているのだろう。
「俺は遠慮しておく。命あっての物種だ。これから幾らでも命を賭ける戦場は訪れるだろうしな」
 1人の冒険者が腰を上げるが、それだけだ。
「よし、脅しはここまでだ。さっさと護衛を放り出す及び腰は今回の依頼にはいらん。
 生きて帰ってくるのは当たり前として、ギリギリまで依頼人と品物を守ってくれよ」
 ギルドの親仁は不敵な笑みで冒険者たちに顔を巡らせた。

「依頼人は川村伝右衛門。米や野菜の他に雑貨を運ぶ手筈になっている。
 荷駄は5つ。依頼人のとこから商人が1人、同行する。他には人足が各荷駄に2人ずつ。
 豪勢なことに荷駄は馬で引くらしいから、人足は馬引きと雑用をするってことになるだろうな」
 日本では馬は貴族の乗り物である。豪勢とは、そのことを言っているのだ。
「んでな。依頼人に商売の話を持ちかけてきた方がいるって話だが‥‥ 公然の秘密ってやつだ。
 届け先が矢板川崎城ってんだから、言わずもがなってやつだがな。
 尤も‥‥
 あんまり勘ぐり過ぎると嫌われるから」
 ギルドの親仁は鼻で笑うと
「気をつけるんだぞ」
 と付け加えた。

※ 関連情報 ※

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
 下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。

【宇都宮朝綱】
 宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
 勇猛な武将と噂に高いが、最近は体調を崩しているとの噂も聞かれる。

【那須頼資】
 下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
 那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。

【結城朝光】
 白河結城氏の家督を継ぐ、若き武将。
 矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
 那須藩重臣・小山朝政の弟で、源徳家康を烏帽子親に持つ。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。
 那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。

【川村伝右衛門】
 宇都宮藩の御用商人。街道沿いに多くの宿を開いている。

●今回の参加者

 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0340 夕弦 蒼(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3897 桐乃森 心(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

不破 斬(eb1568)/ 久駕 狂征(eb1891

●リプレイ本文

●奇妙な違和感
「待ち伏せされそうな場所で御座いますか?」
 商人・川村伝右衛門が付けてくれた手代が教えてくれる情報は一々正確‥‥
(「生きるってことは綺麗事ではないって‥‥ わかってはいるんだがな」)
 夕弦蒼(eb0340)は、あまりにも完璧な手代の情報に違和感を感じていた。
 情報に頼らずに足を伸ばして行った偵察も、彼の情報が正しいことを裏付けているだけに‥‥
 尤も、ここまで安全に来られたのは冒険者たちの活躍あってこそ。
 川村伝右衛門の営む宿屋を中継して行くため危険は少なかったが、夜番など警戒の手を抜かなかったのは大きいと言えるだろう。
 盗人たちへの牽制になったはず。
 だが、その安全も相手が妖鬼では勝手が違う。
「おっと‥‥ 正確だが、万能ではなかったか‥‥」
 手代の言う襲撃予測地点に牛頭や犬頭の妖を発見し、夕弦は取って返した。

「牛鬼や犬鬼とかいう奴らですかね。迂回すると時間がかかりますし‥‥」
 近頃、宇都宮では鬼が現れる。それを裏付ける夕弦の情報に、手代は退治して進む方法を提示した。
 街道の安全を確保すれば、他の商人や武士たちに恩を売れるし、主人の利益になると。
「いやー、かっ飛ばすには絶好の天気。ぶっ飛ばすなら任せてもらおう」
 宇都宮の出発時から様々に警戒していた鎌刈惨殺(ea5641)たちだが、拍子抜けなほどに裏らしい裏がない。
 追跡してくる曲者の存在もなけりゃ、依頼主に関しても‥‥
(「川村さんの後ろには宇都宮の那須様、那須様の後ろには宇都宮の藩主様‥‥ ただの護衛なんすかねぇ。にんとも‥‥」)
 ようやく現れた敵に気構えを新たにしつつも、桐乃森心(eb3897)は違和感を消しきれない。
 積荷は食料や雑貨だけでなく、武具や金が隠されていたし、人足の身のこなしは武士のように思われる。
 そういう意味では何もないとは言い切れないが‥‥
 とはいえ、荷駄を守りながら戦わなくても良いというのは冒険者たちにとって魅力的だ。
 全滅できなくとも通る間だけでも追い払えれば依頼はこなせる。
「荷を放って鬼退治という訳にはいきません。護衛依頼ですから」
「確かにそうぢゃな」
 隊列の後方警戒に当たっていたシャーリー・ザイオン(eb1148)の言い分にアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)は同意するが、
「それなら冒険者が安全だと判断する場所で私たちは待っておりましょう」
 と、来られては依頼主の意向には逆らう訳にもいかず、夕弦らは近辺の安全を確認して出発するのだった。

 暫時‥‥
「微妙な雰囲気ぢゃな」
「本当は隊商を離れちゃいけないんでしょうが」
 アルスダルトの言いたいことはわかるとシャーリーは頷く。
「裏があって動くなら、この機を逃すわけないが、戦力を分散して勝てるほど牛頭鬼は甘くないぞ」
 犬鬼は8頭と少なくはない。牛鬼だけなら自分か桐乃森だけでも隊商に付いていられるかもしれないが‥‥と夕弦は思わず息を止める。
 綺麗ごとだけで他の藩を助ける訳がない。家の繋がりがあるからというだけで危険な那須に肩入れする訳がない。
「はっはっは! 今は押し通ることだけ考えようや」
 鎌刈の鋭い目つきに一同は我に返って頷く。
 確かに気もそぞろで勝てるほど牛頭鬼は甘くない。
「そろそろだ」
 鬼の泊地の近くまで来たのか、夕弦は人差し指を唇に当て、もう片方の手の平で背を低くするよう身振りを加えた。

●凶敵
「けぇえぇん」
 シャーリーの狙撃により戦いの火蓋は切られた。
 運悪く、いや、冒険者たちにとって運良く、犬鬼は目に矢を受けて狂乱している。
「餓ァ嗚呼アアァハッハッハッ!! ぶちかまされたい奴から前へ出ろい!!」
 毘沙門天の持つ三叉戟を象った宝槍で犬鬼を薙ぎ払い、鎌刈は吠える。
「さっさと犬鬼は片付けるのぢゃ」
 重力波で吹き飛ばされた犬鬼どもを襲う春の眠り香。
 牛鬼の周囲から弾き飛ばされた犬鬼たちは眠りに落ち、辛うじて耐えた者も物陰から物陰へ忍ぶ影の手刀で気を失ってゆく。
 アルスダルトの魔術、桐乃森の忍術、夕弦のスタンの連携技で敵を潰してゆく。
 だが‥‥
「ぶもぉおお!!」
 逆に牛頭鬼に重斧を振るう場を与えてしまったか、凶悪な一打が立ち木をへし折る。
「当たらなけりゃ、どうってことねぇ!」
 言うが、鎌刈の槍と牛頭鬼の斧が散らす火花は、一歩間違えば凶運が舞い込むことを意味していた。
 しかも、残り半数の犬鬼に囲まれてでは、鎌刈の槍一本に限界はある。
「愛染!」
 地を這う闇の矢が牛頭鬼の丸太のような足を襲い、木の幹を足場に器用に体勢を変え、体を捻りながら口にしたクナイで斬り裂く。
 犬鬼の毒の刃を掻い潜り、しっかと睨みつけるのはアルスダルトの命を受けた忍犬。
 シャーリーの矢が牛頭鬼を狙うが、効いている様子はない。
「鎌刈さんは牛頭鬼に集中してください!」
 少しでも気が逸れてくれれば‥‥
 一縷の望みを込めて矢を放つ。
「陀ラァア!!」
 アルスダルトの放つ重力波が犬鬼を転ばせた間隙に、鎌刈の穂先が繰り出され、槍を振るう隙を埋めるように夕弦や愛染が犬鬼を狙う!
「ごぁおおあ!!」
 牛頭鬼の雄叫びも犬鬼を鼓舞させられなかったようだ。余計に怯えさせてしまったのか、何体かは冒険者たちに背中を見せる。
 奇襲のアドバンテージで相手に大勢を立て直させなければ、このままいける‥‥か。
 とはいえ、状況から考えて、まともな牛頭鬼への打撃源は鎌刈だけ。乱戦で範囲魔法は危険すぎる。
 鎌刈の槍先が鈍った瞬間、重厚な一撃が脇腹を捉えた!
「踏ん張らんか! 俺!!」
 鎌刈、牛頭鬼、双方が距離を取った、
「そこぢゃ!」
 一瞬を狙ってアルスダルトのローリンググラビティーが捉え、牛頭鬼は空中高く叩き落され、刹那、戻る重力に地表が迫る。
「げひゃっ!」
 着地と共に牛頭鬼は茂みへと転がって身を隠す。
「眠ってくれないっすかね〜」
 桐乃森の春花香が放たれると茂みから煙が巻き起こり、牛頭鬼が飛び出した。
「餓ハッ‥‥ いい天気だぜ‥‥ はっはっは! は?」
 気を取り直して槍を構える鎌刈を後に、その影は見る見る小さくなってゆく。
「逃げ出したみたいですね‥‥」
「逃げ足の速い奴め」
 ほっとシャーリーは弓を収め、夕弦らは犬鬼に止めを差し始めた。

●秘かな支援
 牛頭鬼を退けた後、別集団と思われる小鬼や犬鬼を倒し、隊商は矢板川崎城に辿り着いた。
 荷駄の被害がなかったことで、手代の機嫌は、すこぶる良い。
「こんな物騒な時期に‥‥ 大変なお仕事、御苦労様で御座いました」
「そちらこそ、牛頭鬼とやらが、あんなに強敵だとは知らず、簡単に倒して進もうなどと申し訳なかったです」
 桐乃森の勧める杯を乾す顔は明るい。
 今日は川崎城の兵士たちへも酒が振舞われており、
「宇都宮は一度だけ行った事がありますが、良い場所ですよね。あんな怖い鬼が出るようだと心配っす」
「秀‥‥ あ、いや、朝光様も御心配しておられましょうな」
「朝光様?」
「この川崎城主の結城様でございますよ。母上が宇都宮家の出ですから、大変心配しておられるかと」
 ふ〜ん、そうなのね。桐乃森は心の中の思案顔など億尾にも出さず、談笑を続ける。
「心配といえば藩主の宇都宮様は、お加減が優れないと聞いておりますが、心配で御座いますね〜」
「那須は危険な状況だし、宇都宮も決して安全ではなくなってますからね。家康公が江戸に戻られれば違うのでしょうが」
「宇都宮にも盗賊や鬼が出たりしているそうですし」
「それは宇都宮公が何とかしてくださいますよ。領内を鬼を駆逐する手筈を整えていると聞きますし」
 酌をして回っているシャーリーは、朝綱の身が安泰との手代の声が聞けて一安心。
「苦境を言うなら那須の方が酷いさ」
 城兵たちは苦境を笑い飛ばしているようだが、冒険者から見ると痛々しい。
「笑い飛ばせるうちは大丈夫さね。はっはっはっ!」
 豪快に笑う鎌刈は城兵たちと肩を組んで杯を交わしている。
「豪儀なことぢゃな。与一公の影響ぢゃろうか?」
「それは、そうでしょう。しかしまた、なぜ?」
「何、ワシの所属しておる誠刻の武と言う冒険者集団の団長がの、那須公とは多少縁のある人での。心配しておるのぢゃよ」
 アルスダルトの気になったところでは、諸悪を毀壊(きかい)する馬頭観音や北東の護法神である伊舎那天を信仰する姿が川崎城内外で目に付いたことだろうか。戦時においては珍しいことではないと聞いたが‥‥
(「この分では矢板川崎城が下野の要ぢゃな。この地があればこそ与一公は持ち堪えていられるのかもしれぬ」)
 那須兵が聞かせてくれた八溝山の那須砦の退き戦の武勇談、那須全体を戦場にしつらえた車掛かりで蘆名勢を撃退してきた自慢話など、那須兵の練度は嫌が応にも高まっているようで‥‥ いや、百姓をすることもできず、戦うしかない悲しい定めから目を逸らしているだけなのか‥‥
 ともあれ、那須では大幅な軍備の増強が行われているようで、浪人主力の部隊が増強されたり、戦功によって多くの新たな那須藩士が増員されたりもしている模様。
 国土の荒れ様と引き換えに‥‥
 笑い飛ばすしかない那須の者たちによれば、それは言わない約束‥‥らしいが。