【毛州三国志・那須】勇者の証

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月02日〜02月12日

リプレイ公開日:2008年02月29日

●オープニング

 鬼‥‥
 鬼、鬼‥‥
 憎き鬼が先祖伝来の土地を荒らしまわっている。
 奥州兵、いや蘆名兵を那須の民たちが鬼と同じに感じたとして、誰が責められよう‥‥
 漏れ聞えてくるには、田畑を追われた百姓たちが奇兵として組織され、あまつさえ、女子供や老人まで加わっているとか‥‥

 そんな辛く苦しい戦い中に異形の者たちが現れた。
 髪を振り乱し、北斗七星の旗の下に武器を振り回す黒衣の兵たち。
 領民たちは彼らを神の遣わした兵、つまり神兵と呼んで崇めている。
 彼らには等しく角があるらしい。
 ということは、奥州の鬼と戦う鬼がいるということになるのか?

 噂を確かめたがる輩は、どこにでもいるもの。
 それが遊び人というのが珠に瑕なのだろうが‥‥
 依頼は、こうだ。

『那須に現れたっていう黒衣の神兵がいるかどうか、調べてほしい。ホントにいるなら面白いので放っておくように』

 ギルドの親仁は苦笑いで話を続ける。
「で、黒衣の神兵が現れる場所ってのは傾向があるそうだ。
 一、奥州兵の在るところ。
 一、暴れる妖怪の在るところ
 一、悪事を行う山賊の在るところ
 単純明快な話だが、今の那須の情報は限られてるしな。この情報も確かとは限らない。
 だが、これが嘘なら情報を流したヤツは余程の間抜けだ。
 だからこそ、乗って真偽を確かめる必要がある。
 どこぞの遊び人風情が予算を出してくれるって言うんだから、それにあやかろうと言うのがギルドの方針だ。
 という訳で、役に立つ情報を手に入れてきてくれればギルドから報奨金を出すぞ。宜しく頼まぁ」
 ギルドの親仁は人懐っこく笑った。

※ 関連情報 ※

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓と馬に加えて近年では薬草が特産品。
 奥州忍者の策略により、過去に冒険者に対して藩士には敵視の姿勢が見られた。

【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
 那須藩主。弓の名手。
 須藤宗高、藤原宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【福原神田城】
 那須藩の本拠地。
 神田城下には那須家代々を祀る福原八幡宮が、近くには九尾の狐が封じられていた那須茶臼岳がある。

【江戸冒険者ギルド那須支局】
 与一公の直轄領である喜連川にある出張所。
 冒険者ギルドとしての機能はなく、冒険者の中継基地として存在する。

●今回の参加者

 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2196 八城 兵衛(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1064 設楽 兵兵衛(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レジー・エスペランサ(eb3556)/ 鳴滝 風流斎(eb7152)/ メイ・ホン(ec1027)/ アリス・シェフィールド(ec3741

●リプレイ本文

●立ち聞き
 白河地方を含む八溝山を望む那須東部を失陥したものの、那須藩は福原郷と矢板郷を結ぶ一帯の死守に成功している。
 武士も民も意気軒昂にして、与一公の下、奥州勢との戦闘を続行中。
 江戸ギルド那須支局周辺地域の探索に足を伸ばす道中、蘆名兵と戦闘中の件の神兵と遭遇。
 人数は10や20はいただろうか‥‥ 接近する間に姿を消されてしまったが、噂の黒衣の神兵の存在を確認するに至った。

 限間灯一(ea1488)たちから提出された報告書は概ねこんな感じ。
「ふぅん? 残りの報告があるだろう?」
 ギルドの親仁の絡みつくようなオーラ‥‥
「那須と縁の深いお前さんたちが出向いて、これだけじゃないだろうが」
「黒衣の神兵は確かにいた。いたけどそれだけさ。それで良いじゃねえか?」
 八城兵衛(eb2196)は思わず茶を咳き込む。
「報告書に残さない。せめて話せ」
 それは‥‥ 七瀬水穂(ea3744)たちは、思わず口にしそうになるのを飲み込む。
「依頼した遊び人が誰かにもよるな」
「その通りで御座りまする」
「ギルドは政治的に中立だよ。そして冒険者の最大の味方。そして依頼人の意向を守るのも俺らの大事な仕事だ」
 イリアス・ラミュウズ(eb4890)や火乃瀬紅葉(ea8917)は反論できない。
「しかし、私用のことですから」
「待て待て、俺と元締めにだけは話しておけと言っているんだ」
「口外なさいませんか?」
「ギルドは政治的に中立だと言ったろ?」
 カイ・ローン(ea3054)や七神斗織(ea3225)たちは、とりあえずギルドの奥へと通される。
 ‥‥
「立ち聞きですか? どうやら彼らは報告書を政宗公に見られないか危惧しているようですけど?」
 ギルドの元締め・幡随院藍藤を呼びに向かったギルドの親仁は廊下で立ち止まるとポツリ。
 僅かに障子を開けると、男が一人、背を向けたまま不敵な笑いではにかむ。
「政宗に一度は殺された身だ。伊達になんか言やぁしねぇよ」
「その点は安心してますが‥‥」
 ギルドの親仁は戸を閉めると、藍藤の部屋のある奥へと消えて行った。
「厠は‥‥っと」
 設楽兵兵衛(ec1064)は足音もなく皆のいる部屋へ向かった。

●それぞれの想い
 茶臼岳から神田城へ飛来する一羽の白鳥に百姓は目を奪われた。
「綺麗‥‥って馬。う、馬ぁ?」
「驚かせたですね〜」
 白羽白馬の背から降りた乙女は、どす黒く染まった蒼の腕章を掴むと静かに吐息。
「那須藩士・薬局部長補、七瀬水穂なのですっ♪ 薬草の世話、ご苦労さまなのですよ」
 あっけに取られる農民を後に、七瀬は酒と線香の香りを残してゆく。
(「部下の皆やエルフさんたちを失って3年、水穂は那須を守れてないですね。ごめんなさいです」)
 歩きながら伝う七瀬の涙を、天馬・翡翠が舐め取った。
 暫時‥‥
「久しいですね。壮健で何より」
「与一公も御無事で安心したです」
 少し雄雄しくなった? 七瀬は破顔する。
「しかし、吉兆と言わざるを得ませんな」
 重臣小山の言葉に限間は思わず首を傾げる。
「殿の夢に鬼門を守護する天・伊舎那天が立たれてな。その話を聞いた藩士や民たちが加護を信じて崇め奉っておるのだ」
 七瀬の連れた天馬に驚きつつも伊舎那天の使いに違いないとか城内の藩士が騒いでいたのを思い出して、あぁと頷く。
 信仰と敵の存在で心を一にし、人心を掌握して難局に立ち向うべし、とは杉田玄白の献策。
 足軽の増員と訓練で那須の兵力と練度は飛躍的に上がり、伴って損耗率も低下しているという。
 生産力はガタ落ちだが、と付け加える小山の渋面に与一公も苦笑いを隠せない。
 また、与一公の甥で客将の福原資広の率いる赤虎隊の活躍も一翼を担っている模様。
 これらによって出撃の機会が増えた那須軽騎兵も本来の機動戦法で着実に戦果を挙げているのこと。

 一方、矢板川崎城。
 局長の杉田玄白が川崎城主・結城朝光の補佐をしていることもあり、最も戦場から遠いここに那須藩薬局の本部が移されていた。
「早速用件に入ろう。まずはそうだな。日本の風土ではソルフを地植えして増やせんらしい」
 溜め息をついたカイは、玄白が指差す関連書類の中に草太の名を見つけ言葉を返した。
「おう、八瀬だよ。十矢隊の予算の残りの使い道に困っておったので内儀と一緒に旅をしてもらっている」
 日付は先月。英国からのシフール便であった。
「後は何だったかな」
 馬頭の遺跡の守りには白狼神君が就き、薬学教本は実地優先、大きなる者たちは消息不明、八溝砦は鬼の勢力下にて撤退‥‥
「小九尾の情報は那須にはない。新情報があれば送ってもらえるかな」
「江戸や信康殿の情報も入手次第に送りますね」
「信康殿か‥‥ そうしてもらえると助かる」
 カイは一抹の気がかり。
「ところで、黒衣の神兵っていうのを噂に聞いたのですが、新しい部隊でも設立したのですか?」
 玄白の様子を見るつもりのカイであったが、
「本当の目的は黒衣の神兵かね」
 と返されては身も蓋もなく、不器用さに苦笑い。
「那須からの依頼が無かったのは、彼らのお陰なのかな。玄白殿、雇ってもらえれば様子を見てきますが」
「七瀬殿や限間殿の名と身分で藩内を通りなさい。結城朝光殿を含め、神兵の正体は数人しか知らぬこと。自分で確かめることです」
 成る程とカイは頷く。
「あの‥‥ あれは何なのでしょう?」
 玄白とカイが首を巡らせると、七神の視線の先には熱心に祈りを捧げる百姓の姿が‥‥
「あれは伊舎那天。北東の護法神で、与一公の夢にも立たれたと信仰を集めているのです」
 そうですかと七神は席を立ち、彼らのところへ向かった。
「那須藩を、与一公を信じれば、必ず以前のように安心して暮らせるようになります。私も祈っていいですか?」
 信心も必ず力になる、七神は民に雑じって手を合わせるのだった。

 はたまた、喜連川の江戸ギルド那須支局‥‥近く。
 相手は手練が30名はいようか。冒険者4人では戦いにもなるまい。
「大儀。藩内で面倒など起こさぬようにな」
 縛られてこそいないが、壇上の陣羽織の男にぞんざいに言い放たれる。
「福原資広様は、神皇陛下直属の武士、志士であられる。頭が高い」
 イリアスは背筋を伸ばして無言の抗議をし、福原の配下が気色ばむ‥‥
「良い。異国の者だ。礼儀を弁えぬとて目くじらを立てるでない」
 どうやら効果なし。暫くして解放された4人は思わず溜め息をついた。
「まさか志士の身分や藩士の印可が疑われるとは思いませぬな‥‥」
「最終的にはギルドの身分証が役に立ちましたねぇ」
「気を取り直して行くとしよう」
 設楽や八城に励まされ、火乃瀬らは那須支局へと急いだ。

●歴戦の勇者
 さて‥‥
 黒衣の神兵の正体が予測どおりなら少数。作戦は葦名軍の糧秣や斥候を潰しているとみた冒険者は白河を目指す。
 韋駄天の草履などの助けで寄り道の遅れを取り戻しているが、その分、置いて来なければならなかったペットも多い。
 閑散として人の気配はない。
「最前線は越えたか」
 昨夜来の雪がイリアスらを阻み、残りの依頼日数を考えると引き返す時期に来ていた。
「危ない!」
 設楽の声に咄嗟に陣形を組み、限間やイリアスの盾が庇う。
 矢数から10の敵はいようか。
「退き時だな。雪中での戦は奥州兵に一日の長があろう。それに多勢に無勢」
「煙幕を張りまする。その間に」
 剣圧を放つ八城の言葉に火乃瀬が高速詠唱を始めようとした刹那‥‥
 ずぼば!
 舞い上げられた兵が頭から雪に突っ込んだ。一瞬、冒険者たちの時間が止まる‥‥
「超球覇王爆炎弾なのです〜!」
 七瀬の達人級の火術が敵を焼き、雪を消し溶かし、カイたちも我に返った。
 姿を隠す場所を失った兵が慌てる隙に、黒衣の兵が斬り込む!
「遅れを取るな!」
 少しぬかるんでいるが、行ける! イリアスが突撃した!!
 迎撃態勢を取る敵兵を重力波が襲う!
「精霊魔法でござりまするか?」
 驚く火乃瀬もマグナブローで応戦。
「蘆名兵は残らず討ち取れよ!」
 鋭い一閃に敵兵の手首が宙を舞い、ドスの利いた声に神兵が掛け声を返す!
 不意を突いたつもりが致命的な逆襲を受け、蘆名兵は全員討ち取られたのだった。

●座談
 黒衣の神兵と座を囲んだ冒険者たち。
「話の通じる相手で良かったぜ」
「白河小峰城にて最後まで戦った勇士たちが息災だったのは何より」
「死んだ今は戦鬼さ」
 一角の陣八を指し、ニヤリと笑う頭領の結城義永に八城や限間は軽く肩を揺らせた。
「とある遊び人からの依頼で黒衣の神兵の実在を確認しに来たのだが、心当たりは?」
「我らを那須を荒らす者として冒険者に討たせようというなら奥州の手引きを感じるが‥‥な」
 イリアスの問いに義永は首を振る。
「差し入れ、ありがとね」
「キミ、白狼神君のところの‥‥」
「虎太郎、皆の傷を癒してやってくれないか?」
 屈託ない笑顔で礼を言う僧兵の少年・虎太郎と一緒に御仏の癒しを施す者ががいるあたり、那須天狗も含まれているのだろう。
 先の精霊魔法の使い手は、恐らく隠れ里のエルフ。同じ格好の者が2人。髪や耳を隠しているが、青い眼と金の眉毛が見える。

「黒衣の神兵が那須の敵を撹乱する様は痛快‥‥とだけ伝えてほしいと頼まれたですよ」
「一先ず、神兵は神兵で動き、那須軍の大反撃には乗じてもらえれば心強いかと」
「くく、余計な事を指図せぬのは公らしいな。限間殿、心置きなくワシはワシの好きにさせてもらおう」
 乾坤一擲の反攻作戦には冒険者の助けも大いに期待しているとの与一公の言葉が脳裏をよぎる。
 そのことも伝えると、「その頭数にはワシらも入っておるなぁ」と義永殿は肩を揺らした。
「ただ、八溝山は不穏だ。名の売れた鬼が入ったと聞いて送り込んだ密偵は終に戻らん」
 義永殿は眉間を寄せた。
「八溝山に兵を割く余力は那須軍にはないの‥‥ですよ」
 七瀬は言葉を詰まらせた。