【毛州三国志・宇都宮】大地激震
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 99 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月22日〜04月29日
リプレイ公開日:2008年04月30日
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●オープニング
●山の凶神
宇都宮藩には鬼の出没事件が増えていると江戸冒険者ギルドでも警戒情報が出ている。
さて‥‥
ここは武蔵国と下野国の境辺り。
「どぉおおぅわぁっぁあああああ!! うわぁあ!!」
「おがぁあ‥‥ ぷぎゅる‥‥」
「ぼおやぁ! あんたぁ!!」
逃げろ、逃げろ! 最早そのような声を掛ける余裕もない。
巨大な塊が迫り、まともな覚悟も出来ぬまま‥‥
人々は田畑ごと、家ごと、村ごと、故郷ごと‥‥
蹂躙され、踏み潰され、消え去ってゆく‥‥
黒光りする獣皮!
鋭く張り出した牙は、体との対比で短く見える!
「ぶもぉおおお! ごふっ! ばぐばぐぅっ!!」
迫り来る群れは、地響きで、その巨体の程を周囲に誇示する!!
四足のそれは、猪の顔に熊の体。
半農半武の地侍が守るべきもののために鋤の代わりに槍を構えるが、圧倒的な質量に飲み込まれ、数人纏めて土に帰るだけ‥‥
彼の獣の去った後には、木と岩と血と肉とが踏み耕された土地だけが残っていた。
●宇都宮・那須氏からの依頼
江戸冒険者ギルドに一件の依頼が舞い込んだ。
『江戸冒険者ギルド宛
至急の依頼にて、諸処に失礼仕る。
宇都宮藩真岡近辺にて、村々を潰して武蔵方面へ向かう、禍々しき獣、現る。
派遣される冒険者にあっては、これを討伐して頂きたい。
当方、領内の鬼討伐のため軍を興しており、加勢は出来ぬが、実力ある冒険者であれば必ずや成し遂げてくれるものと存じる。
1人につき最大10両の加礼金を用意候えば、出来うる限り早急に現地へ赴き、一刻も早く凶事を取り除かれん事を切に望む。
なお、迅速な領内移動のため、通行手形を用意いたした。宿賃、食料は当方負担にて、その際には通行手形を提示されたし。
宇都宮藩士 那須頼資』
※ 関連情報 ※
【宇都宮藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
領内で暴れている鬼を討伐するために軍を興した。
【宇都宮朝綱】
宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
勇猛な武将と噂に高いが、病み上がりで体調を懸念されているとの噂も聞かれる。
【那須頼資】
下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。
●リプレイ本文
●正体不明の敵
「お早いお着きで。どうもバタバタしていて済みません」
用人は驚いた様子で、冒険者たちの下へ駆けつけた。
冒険者の旅程と敵の進撃速度を計算に入れての合流地点のため、予定よりも随分と到着が早い‥‥と。
「この脅威から全力で民を守るのが冒険者の務め。思いは、あなたと同じだ」
「その通り、最善を尽くすといたそう」
ルーラス・エルミナス(ea0282)や上杉藤政(eb3701)の心遣いで多少落ち着き、用人は自分も万全を尽くすと頷いた。
「それで、謎の敵‥‥ 禍々しき獣ということだったが、詳細を知りたい」
カノン・リュフトヒェン(ea9689)が、できるだけ詳しくと願うと、用人は近隣の大雑把な地図を広げて事件について語り始めた。
現状で被害は村1つ。10人からが死亡し、その倍ほどが非難を余儀なくされている。
他に移動経路に在った散屋3軒が倒壊。驚死した老人2名。行方不明1名。
野を越え、山越え、ほぼ一直線に江戸方面へ向かっているとのこと。
確認されている数は5。
「作戦は立てやすそうだが、実際のところ、敵の正体はわかってるのかい?」
九竜鋼斗(ea2127)の問いに用人は首を振った。
「猟師などにも聞いてみたのですが、あんな獣は見たことがないと」
「那須で出現した大きなる者という巨大に関係あるかのかな‥‥」
那須での事件は知らないが‥‥と前置きして、用人はカイ・ローン(ea3054)の疑問にも首を振った。
熊であれば、顔が猪である点、顔に牙か角のようなものもがある点がおかしい。
猪であれば、体が全然違う‥‥と。
「紅葉が途中で聞いた話も『見たこともない獣』でございました。
普通に考えれば熊鬼でござりまするが、4足というのが解せませぬ‥‥」
休憩の茶屋などで寸暇を惜しんで集めていた火乃瀬紅葉(ea8917)も、首を傾げた。
相当に魔物に詳しい火乃瀬でも、完全に合致する魔物について思い当たらないのだ。
「もっと大きな怪異の先触れかも知れませぬゆえ、紅葉、しかと確かめとう思います」
情報がないものは仕方ないとしながらも、火乃瀬の眼差しの奥には決意の炎が上がる。
「どちらにしろ、人が理不尽に命を落とすのは見過ごせないな」
カイは『伊達も動き出したし、対抗勢力は早くそっちに動いて欲しい』と心中で付け加える。
「あぁ、私の占術も役に立ちそうだし、作戦は待ち伏せて退治でいいだろう。死地へ誘い込めば、自ずと勝利は見えてくるはずだ」
用人の情報で様々に情報を加えてゆくと、遂に上杉のサンワードにも反応が出た。
これで、敵の接近状況は把握できると、早速、撃破のための戦術を組み立て始めた。
作戦の骨子は、敵の足を止め、各個撃破。
凝った作戦を実行する時間的余裕はないのだから、これでいい。
しかしながら、相手の体格からいって落とし穴として用を成すほどのものは、人手と時間を考えると望めないだろう。
せいぜい段差や縄や杭で相手が得意としているであろう突進力を妨げる罠を設置できるかといったところ。
だが、相手の足さえ止めてしまえば、やりようはある。
その前提で決戦場を選定し、冒険者たちは現地へ向かった。
●禍々しき獣
「来たな」
九竜たちは臨戦態勢に入った。
確かに猪頭の熊といった風体。顔の横には角か牙か判別できないが、張り出しがある。
四足で地面を揺らしながら歩く姿は、まさに獣。
あれが獰猛に村へ押し入ってきたとすれば、逃げ延びた者たちが禍々しき獣と呼んでも不思議はない。
ともあれ、民家も畑もない、この場所なら周囲への被害は考えなくてもいい。存分にやるだけだ。
「数は、あれで全部みたいだな」
木陰で戦馬ウィンディアに騎乗するルーラス。
その手には青い柄と白い穂先を持つ霊矛と円楯。竜の兜を被り、鷹の鎧の上には炎色のマントが風に靡いている。
「クラフト、頼むよ」
愛馬の首を軽く叩き、カノンは戦馬に跨った。馬の背には土砂を詰めた袋が幾つか吊るされ、その口は縄で縛られている。
「問題は策が通じるかだな」
言葉とは裏腹に飛竜の兜から覗くカノンの表情は、いつもと変わらず冷静沈着。
「それではいきまするぞ」
火乃瀬が鬼火の守秘火(スピカ)と世音火(セネカ)を提灯から出すのと同時に、冒険者たちは敵の前に姿を現した。
それは当然、敵の目に付く。
突進してくれれば罠に嵌ってくれるという手筈だ。
「禍々しき‥‥と言ってた意味がわかるな」
向けられた敵意は、ずしりと九竜の体の芯を冷やすが、むしろ戦意は増す。
じわじわと接近する敵を前に戦準備。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
火乃瀬のフレイムエリベイションで勇気に火を着けられたカイは、仲間たちに神の加護を施してゆく。
「なかなか掛からないものだ。引っ掛けるといたそう」
印を組み、上杉はサンレーザーを放つ。
漆黒の指輪と一体化したレミエラの光は蓄えた陽光を収束し、一条の光が敵を焼いた!
「ごぁああ!」
一頭の雄叫びに応えるように、他の4頭も雄叫びを上げ、速度を上げた。
「相当に頑丈だぞ。皆、気をつけられよ」
乱戦の邪魔になっては不本意。上杉は続けてインビジブルを唱え始める。
気が付けば、突撃の地鳴りが足に伝わる。
「頭は良くないみたいだ」
一直線に突っ込んでくる敵に向け、カノンは縄を掴んで土嚢を振り回して投げた。
慣れない行為に狙いをつけられなかったが、外れても攻撃の意志は伝わったようだ。
禍々しき獣の群れから一層の敵意が突き刺さる。
‥‥と、そのとき、火乃瀬の仕掛けていた術により火柱が上がり、両翼の敵を焼いた。
「ぶもぉおおおぉ!」
火柱を避けるように罠に飛び込む獣たち!
しかし、ぬかるみは四足の獣を止めるほどの効果を現さない。
また、禍々しき獣は前脚で器用につかみ、逆杭は引き抜かれ、足止めの縄は次々と千切られてしまった。
「まさか‥‥」
策を弄した上杉は絶句する。まさか、あれほど器用に前脚を‥‥ いや、手を使うとは‥‥
「熊鬼!? まさか、獣に扮していたとでも言うのでござりますか?」
火乃瀬の思考が一瞬白む‥‥
「いずれにしても倒さねばならない敵だ」
ルーラスは脇に逸れた敵へ突っ込み、闘気と重量を乗せて突き出される穂先が、禍々しい獣の体表を切り裂く。
だが、敵の牙もウィンディアを紙一重で捉えようとしており、威力を物語る風切り音が尋常ない。
「白い戦撃を耐えるとは‥‥」
手綱を捌くと一撃離脱を図る。手応えはあったが、敵は激昂してルーラスを追ってくる。
一方‥‥
正面の戦場では一気に乱戦にもつれ込んでいた。
「冗談じゃない‥‥」
圧倒的な肉の壁に、九竜は舌打ちする。
小太刀の軌道を風の外套に隠し、続け様に顔や腹を狙うが、敵の傷は思ったより浅いようだ。
まるで鎧でも斬りつけているように‥‥
「連携を崩さず、怪我をしたらリカバーの届く位置まで下がっ! うわぁ!」
コアギュレイトで1頭の動きを封じたが、他の獣の横槍をかわしたところへ金縛りの獣が倒れこんできて吹き飛ばされた。
肋骨が何本か逝ったか‥‥
口の中に鉄の味が広がる‥‥
「がるるる!」
「かーいー!」
忍犬セイが気を引くように唸りながらクナイで切り裂き、銀翼の風妖精ユエもスリープを飛ばして、禍々しき獣たちの気を散らす。
「敵ながら、しぶとうござります‥‥ 守秘火、世音火! 火炎陣を仕掛けまするぞ!!」
火乃瀬がマグナブローを放つと、呼応するように鬼火たちはファイヤーウォールを立てた。
幾ら禍々しき獣でも、炎の中に閉じ込められて無事ではいられないはず。
「ぎゃぁああ!」
着火した獣皮を物ともせず、火炎陣から逃れようとする獣にルーラスの強撃!
突き出した草の柄の先は、焼け焦げた獣毛を貫き、カイの気合と共に獣に止めを差した。
そのまま巨体に押しつぶされそうになったところにカノンが戦馬を滑り込ませ、体当たりで獣の軌道を逸らせる!
「カイ殿は下がって回復に専念してくれ。敵の動きが単調になってる。好機だ」
カノンは冷静に神刀から繰り出される衝撃波で敵の気を逸らしている。
やはり、生半可な打撃では殆んどダメージにはならない‥‥が‥‥
「ルーラス殿、援護する。仕留めてくれ」
「承知した!」
気を逸らされた獣の背中から人馬一体の刺突撃!
硬い皮を貫く感触にルーラスは気合の声を上げる。
「させない」
ルーラスを狙おうと向きを変えた他の獣の顔を閃光が焦がした!
上杉の術だろうが、姿は見えない。
「剣閃・一刃!!」
流れるような体捌きで敵意の一撃を次々かわし、九竜の小太刀が獣の顔を捉えてゆく。
「逃がしませぬ!! 守秘火、世音火! 火炎陣!!」
追い詰められたのか、九竜から逃れようとしていた獣が術の炎に包まれた。
●その正体
大激戦を制したのは冒険者たち。
むせ返る土と血の臭いが戦いの激しさを物語っていた。
「やはり、獣に扮した熊鬼でござりましたか‥‥」
火乃瀬が呟く。
倒した禍々しき獣を調べたところ、牙型の槍を頭部に固定し、毛皮の張られた硬皮鎧を装備した屈強な熊鬼であったことが判った。
「武具が統一されているということは、はぐれ者の仕業ではないということだ。それ以上、わからないが‥‥」
上杉は武具に銘や紋が入っていないか念入りに調べたが、情報はない。
「八溝山に入ったと言われている名のある鬼が裏で糸を引いているんだろうか?」
「かもしれない。だが、可能性に過ぎない」
思い悩むカイに、カノンは冷静に答えた。
「しかし、並みの戦力では太刀打ちできないぞ。あれでは‥‥」
ルーラスの言にも一理ある。
現に、この熊鬼には、地侍が成す術なく蹂躙されたと用人からの報告があるだけに‥‥
「頼資殿に報告して頂きとうござりまする。努々(ゆめゆめ)不可思議な現象には気をつけてくださりませ」
火乃瀬の忠告に結果を見届けに来た用人は、深く頷いた。