【毛州三国志・武蔵】隠し砦の三悪鬼

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 66 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月02日〜05月09日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

●名もなき砦
 武蔵国と下野国の境‥‥
 宇都宮藩に近い谷間に獣道がある。
 その先には武士が隠れ住み、なけなしの防備施設が施されて砦として要塞化されていた。
 人知れず‥‥

 そのことが知れたのは、つい先ほども先ほど。
 1人の浪人が江戸冒険者ギルドに行き倒れるように辿り着いたからだ。
 直ぐ様、手当てが施され、息を吹き返すように気が付いた男は、急くように話し始めた。
「我が主人一家と仲間を救って欲しい。それができるのは‥‥冒険者だけだ!!」
 ギルドの親仁が落ち着かせようとするが、堰を切ったように話し続ける。
 まるで残り少ない蝋燭の炎が一気に火勢を増すように。

 砦に立て篭もっているのは、御目見えが許されるような武士1人と用人が3人。武士の奥方、子供、そして女中が1人。
 息も絶え絶えの浪人は、残してきた彼ら7人の安否を気にしている。
「我らは隙を突かれ、奥方様とお子、そして‥‥」
 悔しそうに歯を噛み‥‥
「主人までも‥‥」
 取り憑かれてしまったのだという。
 隙を突かれたのは、逃げ延びて流れ着いた雰囲気の女3人連れということで油断していたこともあるらしいが‥‥
「我ら用人や女中は主人に歯向かう訳にもいかず‥‥ 意を決して飛び出して来たものの、砦がどうなっているか‥‥」
 手当てしても瞳の力は戻らない‥‥
「どうにもならなければ‥‥ せめて武士らしい最後を遂げさせて‥‥ものか‥‥」
「主人の名は!? それに! おいっ、これじゃ足りん。おいってば」
 浪人は、搾り出す言葉と共に魂まで抜け出したのか、目を充血させながら手の甲を強かにぶつけ、手の平から金子が飛び散った。
 ごくり‥‥ 誰かの唾を飲む音が聞こえる。
「報酬なしでも構わんという奇特な冒険者に頼む手もあるが‥‥」
 様々な条件から、このままでは依頼として出す訳には‥‥
 他のギルド職員たちも返事に窮している。 
「いいぜ。残りの報酬は俺が出す」
「この男と知り合いか?」
「いや。だが、主人は恐らく奉行所与力・中村十兵衛だろう」
 ほっ被りの男は浪人の印籠を手に取ると、懐へ仕舞い、代わりに巾着をギルドの親仁へ投げた。
「江戸城陥落後に江戸を出たと聞いてるし、間違いねぇだろうよ」
 ギルドの親仁は頷くと、依頼を掲示するために動き出した‥‥
 ‥‥
 ‥‥が、最低限必要と思われる人手が集まらず、冒険者は救出に向かうことができなかった。

●再依頼
 名前も分からない行き倒れの浪人を葬った遊び人は、小船に揺られて冒険者長屋へ。
 船頭に駄賃を渡して片手を切ると、ぶらりギルドへ脚を向けた。
「よぉ、親仁さん。この前、流れた依頼を張り出してくれ」
「この前の浪人のか?」
 返事の代わりに巾着袋が、ちゃりと音を立てる。
「こちらとしては構わんよ。だが、金額が多くないか? 報酬を多くしても人手は変わらんと思うが」
「違うっての。偉く腕の立つ冒険者で構わんという意味さ」
 暫し視線でせめぎあう2人。
「あんたの気持ちはわからんでもないが‥‥」
「ふんっ、余計なお世話でぃ」
 煙草を一息飲むと、煙管を鳴らして、遊び人はギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

氷雨 雹刃(ea7901)/ 室斐 鷹蔵(ec2786

●リプレイ本文

●正体
「普通の女性の振り、そして憑かれたという言葉‥‥
 死霊の類なら生きている人間の振りは難しいでしょうから、デビルの類かしらね?
 そうだとすれば、退治は神聖騎士の本懐ではあるけど」
「うん。取り憑かれていい訳ないし、命を賭してまでの願いだからね」
 神の剣たる神聖騎士であるセピア・オーレリィ(eb3797)やカイ・ローン(ea3054)にとって、デビルは討つべきもの。
 心の隙に付け込む邪悪な本性は、騎士となる時に徹底的に教え込まれたものだ。
「怨霊の仕業にしては知恵が回るとは、成る程、噂に聞くデビルの仕業かも知れませぬね。
 近頃では活発に暗躍しているとの噂も聞こえてきておりまするし」
 神敵や仏敵と神話に伝え聞く悪鬼が、彼らの言うデビルに近いだろうか‥‥
 異国のデビルにしろ、伝説の悪鬼にしろ、それらの活動は人の世にとって一大事。
「魔物の存在を感じ、黙っては見過ごせませぬ」
 火乃瀬紅葉(ea8917)は表情を曇らせた。これを見過ごすは魔物ハンターの称号が泣くということか‥‥
「何のために築かれた砦なのかも気になるですね。ここを陥落させた目的はなんでしょうか。
 鬼の支配地域からの侵攻の邪魔になるから‥‥とかですかね?」
「家人と接触すればわかることじゃな。そのためには中村家の家紋の入った印籠をお借りしたいところだが」
 七瀬水穂(ea3744)の疑問に磯城弥魁厳(eb5249)は、一瞬考え込み、答えた。
 額面どおりならば敵は3体。
 7人同時に憑依できないだろうし、憑依体が生きているなら肉体労働を好んでするとも思えない。
 その辺に付け入る隙があるはず。
 憑依されていない者たちの協力を取り付けるためにも、抜け出した家人との繋がりを示す物があるに越したことはない。
「話は聞かせてもらった。お前さんたちなら信用できそうだ。任せるぜ」
 磯城弥が戸を開けると、廊下に遊び人風の男が壁に寄りかかって、桜柄のほっ被り越しに一言。印籠を磯城弥に手渡した。
「ほぇ? どこかで会ったことあるですか?」
「さぁな。どこかの盛り場ででも会ったことがあったっけか? 兎に角、任せたぜぇ」
 声には確かに聞き覚えがある。でも、死んだはずの人だ。誇りのために人々の先頭に立って‥‥責任を全うしたはずの‥‥
 七瀬が声を掛けようとする間もなく、遊び人は立ち去って行く。
「どうしたんです?」
 怪訝な顔をするカイに、七瀬は何でもないですよと瞳を潤ませた笑顔を返した。

●接触
 現地へ辿り着いた冒険者一行。
「確かに天然の要害。隠し砦だな。まさに」
 上杉藤政(eb3701)と磯城弥の隠密の腕を以てしても、地図がなければ見落としていたかもしれない。
 足場によって手足の自由を奪われ、辛うじて1人ずつ行ける先に中村十兵衛ら7人がいるのだろう。
 力押しすれば必ず敵の知るところとなろう。なら、どうすればいいか?
 その攻略は、最も付け入りやすいと考えた砦の外にある水汲み場から。
「あれ? この印籠‥‥ 仙吉が持ってった旦那様の‥‥」
 印籠を拾って周囲を見渡すと、男は小声で仙吉の名を呼んだ。
「仙吉さんと言うのか、あの人は‥‥」
 殆んど音も立てずに磯城弥は川の水面に顔を出す。
「貴殿らを助けてほしいと頼まれて来た冒険者じゃ。安心してくれ」
 突如現れた河童に驚きながらも、男は叫び声を飲み込んでホッと一息ついた。
「時間がない。戻るのに手間取れば、貴殿が怪しまれよう」
 磯城弥の誘いに男は従い、砦からの死角に向かった。
「出来ることなら、生かした状態で憑き物を払ってやりたい。協力してほしい」
「実質的に人質を取られているようなものだから迂闊な攻めはできないのよ」
 上杉やセピアの説得に用人は頷き、仙吉が死んだことを知って、深く溜め息をついた。
「でも、どうしようもないのです」
 掻い摘んで砦の状況を語ってくれたが、状況はやはり難しい。
「取り憑かれている者が分からねば、思わぬ失態をしたかもしれませぬ。倒すべきは中村様と奥方、そしてお子でござりまするな」
 だが、それがわかっただけでも、火乃瀬たちにとって大きな収穫だ。
 疲労の色は見えるものという話だが、十兵衛一家が生きていることも。
「一筋の希望の光が見えた心地です」
 時間を掛けずに用人は砦に帰ってゆく。潜入するまで口止めもしたし、強襲時には協力してくれるように頼んだ。
「どうやら信用できそうなのですよ」
「石の中の蝶にも惑いのしゃれこうべにも反応はなかったしね」
 七瀬の言葉にカイが付け加える。
「敵の正体は恐らく夜叉‥‥に、ござりますな」
 火乃瀬の知る限り、今回の事件に当てはまりそうなのが夜叉だ。
 精神的に落胆している者の暗い感情につけ込んで悪行を行わせると伝え聞く悪鬼。
 それは女性の姿で近付き、憑依して欲を増長させたとされる。
 だが、同時に憑かれていた者を改心させれば落とせるとも伝えられていた。
 クリエイトハンドがあれば、無理矢理落とすこともできたのだが‥‥

●潜入と強襲
「お前たち、少し前から様子がおかしいわね‥‥ 何を隠してるの?」
 奥方は、居住区画の奥から顔を出し、砦の寄せ口を覗く‥‥
「仙吉が敵を手引きしたか‥‥」
 そこには冒険者たちの姿が‥‥
「違いまする! あれは仙吉の呼んだ助けにござれば」
「本当か? それは!!」
「旦那様の家紋の入った印籠も見せてもらった!!」
 冒険者と接触した用人の言葉に、周りの者の表情が綻ぶ!
「信じられるか‥‥ お前たちにまで裏切られるとあっては、潔く戦って果てるまで」
 中村十兵衛は刀を抜いて、用人を斬りつけ‥‥
 びぃいいん、びぃぃぃん‥‥
 斬りつけようとしたところに弦の鳴る音が響いた。
「不快な‥‥ 何だ‥‥ この音は‥‥」
「怖いよ‥‥ 母上‥‥」
 子供は奥方の着物にしがみ付き、震えている。
 今のうち、と用人3名と女中は、中村らから離れた。
「いつまでも保たんぞ‥‥」
 磯城弥が鳴弦の弓で気を逸らし続けられるのは僅かな時間。
 仲間が到着するまで魔力が持ちこたえられるのか‥‥
「どこを見ている‥‥」
 インビジブルで姿を消した上杉は、支援のためサンレーザーを撃つ。
「お前たち全員殺してでも生き延びてやる! 守らなければならないものが俺にはあるんだ!!」
 挟み撃ちされた状況に驚いた中村は、周囲に憎悪の雄叫びを撒き散らした。

 暴れる中村の剣は、周囲の者たちを傷つけてゆく。
「父上! しっかりしてください!!」
 我が子の泣き声も届かない‥‥
「神の加護により、敵を阻みたまえ‥‥ 青き守護者、カイ・ローン参る。俺から離れないで」
 魔法の箒を使って空から舞い降りたのはカイは、用人たちを範囲に入れるようにホーリーフィールドを展開した。
 だが、中村十兵衛は、見えない結界を越えて間合いを詰めてくる。
「結界を張ったはずなのに!」
 咄嗟に用人が捌きにいくが、武芸の力量差は歴然。用人は肩口を押さえて蹲る。
「ええぃ!」
 結界は当てにできないと判断するや磯城弥は場に飛び出す。
 中村十兵衛らを気絶させれば夜叉が憑依を解くかもしれない。その可能性に掛けるしかなかった‥‥
「カイさん! 結界の範囲内に夜叉がいる!!」
 ホーリーフィールドの展開には成功したが、範囲内に望まない者がいて、結界が成立しなかったということか‥‥
 後方から走るセピアの指摘で思い至ったカイは槍を構えようとするが、脇腹の熱さに視線を移す。
「騙されないわ。私たち全員に取り憑こうとして来たんでしょ‥‥」
 女中の懐刀がホークウィングを赤黒く染めた。
「神に誓って違います。仙吉さんの遺言で、あなたたちを助けに来たのです」
 痛みを堪えながら優しい笑顔を向けると、女中は刺さったままの懐刀から手を放して震え始めた。
「命を掛けて助けを求めた仙吉さんの願いを無駄にするじゃないですよ〜。悪鬼あっちいけなのです♪」
 ファイヤーバードで飛び込んだ七瀬は、術を解き、女中の背中に魔よけの札を貼り付けた。
「自分に負けないでほしい!」
「自分に打ち克つですよ!」
「自分に負けてはなりませぬ!」
「自身に負けるなど愚の骨頂!」
「まず、信じるものは自分よ!」
「己を否定して何とするのじゃ!」
 カイ、七瀬、火乃瀬、上杉、セピア、磯城弥の叫びに中村たちの動きが止まる。
「ええぃ‥‥ 余計な事を!」
 しわがれたような声と共に、中村十兵衛と奥方と女中の三人から邪悪な笑みを浮かべた美女が姿を現す。
「心の隙に憑かれたとは、俺も修行が足らんな! このままでは奉行に顔向けできん」
 中村の眼力が、さっきまでとは違う!
 日本刀に闘気を纏わせると、静かに激しく、型を構える。
「助太刀するわ! いいわね、みんな!! 仙吉さんの想いを無駄にはしないわよ!!」
 十字架の聖槍を振り回すセピアに、冒険者と中村たちは声を合わせた。

●守りきったもの
 やがて、三悪は討たれた。
 呪いで激しく抵抗するも、数に勝る中村と冒険者たちに軍配が上がったのだ。
 傷を癒し、一息つく冒険者たちに、中村はある物を見せる。
「江戸町奉行・遠山金四郎の幟か。確かに江戸に置いておく訳にはいかないな‥‥」
 江戸城攻防戦で市民を扇動して詰め腹を切った男の、武士としての誇りだ。
「大事に取っておくです。この幟がある限り遠山さんは生きてるですよ」
「そうですね。家康様が江戸奪還に動かれるまで、我らは身を潜めます。必ずや奉行の志を継いで、江戸を守ります」
 那須の杉田玄白に保護を求めては、というカイの申し出は中村に断られてしまったが、悪い気はしない。
 中村十兵衛が再び夜叉に憑依されることはないだろうと信じられるからだ。
「一先ず落着だな」
「芋がら鍋ができた。お主もどうじゃ?」
 魔の目的はわからず仕舞いだったが、目的は達した。
 上杉や磯城弥らは、彼らを守れたことが嬉しくて、思わず笑みを浮かべた。