【毛州三国志・宇都宮】鬼のような奴

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 99 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月22日

リプレイ公開日:2008年06月05日

●オープニング

●悩みの種は取り除くとも現れる
 どこにでもいる‥‥
 人の皮を被った鬼のような奴が‥‥
 だが、それが旧知の仲だったら、君はどうするだろう?
「長沢が鬼と手を組んで、領内を荒らしまわっているなど‥‥ 信じられません」
「だが、事実だ。何がそうさせているのかは問題ではない。討たなければ宇都宮武士団の威信は地に落ちる」
 ですが‥‥
 そう言い掛けて、那須頼資は言葉を飲み込んだ。
「幸いにも、我らは今は鬼軍討伐の陣中にある。軍を動かせば討つことは容易かろう」
「なりませぬ。殿が手を下せば、必ずや恨みの種となりましょう。少なくとも藩士や領民に不信の種を植え付けかねません」
「では、どうするのだ。手をこまねいているわけにはいかんぞ」
「冒険者に依頼しましょう。彼らなら人知れず動くこともできましょうし」
「であるか‥‥」
 宇都宮公は、静かに溜め息をついた。

●鬼人
「ひゃ〜〜〜ははは! 蹂躙しろ! 奪え!!」
 宇都宮公率いる鬼討伐軍の布陣の隙を突いて宿場を襲撃する一団。
 それを率いるは刀を振り回す屈強な男。
「その身のこなし! 武士であろう!! 鬼を従えて何とする!!」
「問答無用!!」
 槍をへし折り、斬り刻み、兵を撃ち滅ぼす。
「俺は鬼すら従えられる! 人も武士も!! いつか神皇すら従え、異国も手中にしてやる!!」
「この魔王め‥‥」
 男は死の国へ旅立ちながら憎言を残すが、一団はそれを聞く様子もない。
 逃げ惑う民に剣を突き立て、犬のような顔をした魔物が雄叫びを上げた。

●依頼
 江戸冒険者ギルドに舞い込んだ那須頼資からの依頼。
 それは次のようなものだった。

『宇都宮藩にて犬顔の鬼団を率いて暴虐を尽くす手練の鬼人あり。冒険者にあっては、これを退治されたい』

 なお、依頼を受けた冒険者には、ギルドの親仁によって次の一文が公開された。

『退治する鬼人とは、元宇都宮藩士・長沢喬(ながさわ・たかし)のことなれば、秘密裏に討伐すべし』

 報酬が高めなのは口止め料という訳か‥‥


※ 関連情報 ※

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
 下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
 領内で暴れている鬼を討伐するために軍を興した。

【宇都宮朝綱】
 宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
 勇猛な武将と噂に高いが、病み上がりで体調を懸念されているとの噂も聞かれる。

【那須頼資】
 下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
 那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●急ぐたび
「申し訳ないです」
「いいんですの。灘風を預かってもらうんですから」
 微笑む刈萱菫(eb5761)に、髪を結ってもらって遠慮しきりの用人。
「それにしても、鬼人に身を堕とすとは。せめて、成敗して長沢の魂と名誉を救うといたすか」
「人同士のイクサには関わらないのがパラディンとしての掟なれど、相手が民に害を及ぼす悪鬼となれば是非も無し」
 憤慨する上杉藤政(eb3701)に対して、静かな怒りを鷹見仁(ea0204)は宿す‥‥
「あの? 蒼天十矢隊の夜十字信人殿ですよね?」
「確かに俺は夜十字信人だが‥‥ 今は一山幾らの黒の騎士だ」
 吹きすさぶ風に髪をなびかせ、長大な斬魔刀を担ぎ棒に荷物を運ぶ夜十字信人(ea3094)。不敵に笑うが‥‥
「荷物持ちですもんね‥‥」
「命知らずだな。あんた‥‥」
「いやぁ、それほどでも‥‥」
 褒めてねぇ‥‥ 溜め息と共に夜十字の魂が一瞬抜ける‥‥
「ま、そんなことは、どうでもいいんだが‥‥」
 ダメ元で長沢の情報を尋ねてみる。
「策を弄するかと言われると‥‥ そうですね。勝ちにこだわる感じだったでしょうか?
 私の主人とも、よく張り合ってたようですし」
「那須頼資殿とねぇ」
「はぃ、家格も違うので勝負にならないことが多かったと聞いてますが、剣には自信があったみたいですね」
 変なとこで張り合ってたんだろうな‥‥と苦笑いの夜十字。
 流派とか癖も聞いてみるが、そこまでは知らない模様。
「何が彼をそうさせたのであろうか‥‥」
 ともあれ、問題は上杉の占術の結果。
 サンワードで長沢がいると思われる方位は、用人からの最新情報などを鑑みるに宇都宮本陣の進軍予定地。
 巧妙に鬼たちを囮にしているのだろう本陣近くまで来ているらしい。
 遭遇戦にならぬよう戦場を選び、足止めや撹乱の罠などを仕掛け、有利な状況で戦いたかっただけに多少不本意ではあるが‥‥
「宇都宮軍の一翼を担い、鬼の一団を退治することは織り込み済みですからね。
 相手が元何であろうと、状況が悪かろうと全て斬り伏せるだけです。
 鬼人というくらいですから、それだけ強いのかというのは重要ですが」
 それ以外のことは僕にとってはどうでもいいことですので‥‥
「藩命で討たせるのも、鬼人が元藩士と知れるのも困るから冒険者に‥‥とはいえ、鬼人を討つ理由など問わぬさ」
 そう言い切ったのは瀬戸喪(ea0443)。叶朔夜(ea6769)も同意を示した。
「後は、どれだけ先回りできるかだな。宇都宮公のおられる本陣へ斬り込まれぬためにも」
 宇都宮公や那須頼資殿に挨拶などしている暇はない。
 襲われた村々の貴重な生き残りからの残虐卑怯極まりない遣り口を用人から聞くにつれ、
「流派くらいは知っておきたかったがな。って、桜嬢ぉ?」
「信人ちゃん、あ〜ん♪」
 あむっと反射的に食べるが、喉に箸が刺さそうになり、ひゅーとか音が。
「さ、桜? 一瞬、三途の川の向こう側が見えたぞ!?」
「だってぇ、信人ちゃん、流派シりたいんでしょ? どうせ偵察もシなきゃだし、一っ飛び本陣で聞いてきてあげる。
 だから、愛情弁当だけでも食べさせておきたくって」
「離れ離れになる定めって訳じゃないだろうに」
「でも、らぶらぶシたいの。女心がわかってないんだから〜」
 ぽかぽか御陰桜(eb4757)に叩かれて満更でもない夜十字。
「これが噂に聞く冒険者の余裕ってやつですね」
「違うと思いますけど‥‥ そうなのかもしれませんわね」
 用人の勘違いを指摘しようとして、刈萱は思わず笑う。
「事態は切迫してるんだがなぁ」
 やれやれという表情で鷹見は微笑んだ。

●流石は卑怯
「さて、長沢とは程なく接することになるが、御陰殿は間に合うのだろうか?」
「最悪、抜きでやらなきゃならんな」
 用人の土地勘に、上杉のサンワードと叶の偵察の結果を考慮して有利になりそうな地形を戦場にすることはできた。
 だが、敵の数が少なくないため、戦力が1人抜けるのは痛い‥‥
 御陰が間に合った場合、春花の術を使って切り込む手筈であるため、風上を取っての布陣だ。
 暫くすると犬鬼を率いた男が街道を進んできた。
 ‥‥で罠地帯の前で足を止めた。
「隠れてる奴いるだろう! 出てきたらどうだ?」
「ばれちゃ、仕方ないですね。時間を稼ぐので必要な術を唱えたら出てください」
「私も囮になります。皆さんは、それぞれに仕掛けてください」
 瀬戸と刈萱が物陰から姿を現すと、長沢は勝ち誇ったように笑う。
「どうしてわかったんです? 隠れていたのに」
「ひゃ〜〜〜ははは! こいつらは人間より少しは鼻が利くんだ。風上にいれば、ばれるに決まってるだろうが!」
 成る程‥‥
「こっちへ来るか、逃げるか選べ。どっちにしても死ぬんだがな!」
「聞くに堪えませんね‥‥」
 思わず鷹見も物陰から姿を現す。
「まだいたのかよ。だが、安心しな。あの世に送ってやるからさ」
「黙れ、悪鬼を率いて民に害を為す人鬼よ! 阿修羅神の名に掛けて、戦いを侮辱することは許さん! 覚悟しろ!!」
 胴田貫とシャクティを抜くと、長沢に突きつけた。
 ‥‥と‥‥
「あ、桜が来る」
 三里先の気配でも感じてくれるの‥‥と御陰が惚気ていた通りなのか?
「いや、ほら、あそこ」
 視線を集める夜十字が、空中の点を指差す。
「お待たせ〜〜」
 フライングブルームで飛来した御陰が飛び込むように着地すると、夜十字は手足を伸ばして勢いを殺して受け止めた。
「信人ちゃん、あいつ、二天一流だって。闘気術も使うから気をつけて!」
 仲間や長沢たちの痛い視線に、にこやかに御陰は微笑むと‥‥
「お眠の時間よ♪」
 高速詠唱の春花の術!
 バタバタと犬鬼4頭が倒れる。
「ふんっ! これしきで有利に立ったと思うなよ。お前は寝てる奴を叩き起こせ! 他のは俺と来いっ!!」
 長沢は両手に大刀を抜いて斬り込む!
(「今だな」)
 叶は飛び出すと、後方に残った鬼に斬りつけた。
「桃、若葉、無理しない程度に叶さんを手伝うのよ♪」
 御陰の忍犬が叶を補佐するように犬鬼を襲う。

「伏せ勢まで用意するとは卑怯なやつ!」
「お前が言うなよ‥‥ 何を思って、このような凶行に及んだかは知らんが」
 夜十字は、斬魔刀の重さを乗せた衝撃波を放つ!
「お前に未来などない。俺たちが奪う」
「甘いわ!」
 ほんの紙一重でかわした長沢は、二刀流を繰り出す!
「鬼人殺剣とでも名付けようかあ!! 双龍乱舞!!」
 一瞬、達人の域を超越した剣捌きは、夜十字の腕前を持ってしても受け切れない。
「信人ちゃん!!」
 さらしが血に染まり、地に膝を着きそうになるのを見て、御陰が悲鳴を上げる!
「ぐっ‥‥ これは毒?」
「血の気が多いと良く利くようだな。犬鬼だけが毒を使うとでも思ったか?」
 見た目以上に長沢の剣は夜十字の生命力を奪っていた。
「確かに鬼人‥‥」
 狂ったように笑いながら斬りつける長沢に、怯えたように一心不乱に犬鬼たちは瀬戸たちへ向けて剣を繰り出す。
 解毒剤は用意してきた。
 だが、この乱戦では使えば隙が生じる‥‥
「決着がつくまで死なないで下さい!」
 刈萱や瀬戸の居合いが犬鬼たちを斬り裂く。
 幸いにも刈萱の鬼退散のレミエラで犬鬼たちの動きにはキレがない。
 恐らく本来の動きなら武士相手に良い勝負をするはず‥‥
「俺が相手だ。同じ手は通用しないぞ」
「どうかな! お前たち! 相手をしてやれ!!」
 鷹見の前に立ち塞がる犬鬼。
「鷹見殿までやらせはせん!」
 上杉のサンレーザーが犬鬼を撃つが、それだけで戦闘不能にはできない‥‥
 手数を取られる鷹見に長沢の剣が襲い掛かる。
「お、ぅ俺の勝ちだ!」
 長沢の剣を捌かず、討たれるまま踏み込みの勢いで空中に躍り出ると、鷹見のパラディンの証である三鈷杵剣が肩口を深々と裂く。
 そのままフライの効果で長沢の後方に空間に着地‥‥
「お前‥‥ 何者だ‥‥」
「俺か? 俺は‥‥正義の味方さ」
 にっと笑う鷹見に、無事な腕の大刀を構えて長沢が振り向こうとした瞬間‥‥
 ぎゃりぃぃん!!
「貰った! つぅ」
 長沢の大刀を砕いたのは、御陰に介抱されている夜十字の剣だ!
 ミミクリーで伸ばした腕の長さが、頭の片隅にでも残っていなかったのだろう。長沢の完全な油断‥‥
「俺は‥‥天下に立‥‥つ男‥‥だ‥‥」
 鷹見の胴田貫が、シャクティが命を奪ってゆく‥‥
「敵将さえ叩けば、烏合の衆! 一気に片付けますよ!!」
 舞うが如く、体の陰に刃を隠し、瀬戸の白刃が犬鬼を切り裂く‥‥

●生き延びた者
「ひやっとしたな‥‥」
「迷惑な男だった。あれほどの腕があれば、他の方法で名を上げることができただろうに‥‥」
「生き方を間違えたのね」
 安堵の息をつく叶の横で、上杉と刈萱も思わず溜め息をついた。
「刀は抜かずば、なんとやら‥‥か‥‥って、痛いんだが。桜?」
 見れば、御陰が夜十字の傷をなぞっている。
「折角、下野まで来たんだから温泉に入っていきましょ? 傷にも効くわよ」
「ん〜、染みそうなんだが?」
「我慢してたんだから背中の流しっこくらいはイイわよね? 斬られたの前でしょ?」
 こくりと頷く夜十字に、仲間たちの笑顔が向けられた。

 犬鬼を従えた鬼人討たれる。
 その報には、続きがあった‥‥
 宇都宮藩士・長沢喬は鬼人討伐の最中に討ち死。
 犠牲の甲斐あって、鬼人は滅せられた‥‥と。