四海は七色に輝きて 伍 〜 凍った刻 〜
|
■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月18日〜05月24日
リプレイ公開日:2008年06月06日
|
●オープニング
●四海は七色に輝きて 四 〜 輪廻転生 〜
ここは武蔵の国‥‥
上州と江戸を繋ぐ街道から少しばかり離れたところにある戸塚という村だ。
冬の気配は地に柱立て、木々の葉を枯葉色から白く差す、すっかり冬らしい時期、村は一大事の渦中にあった‥‥
さて‥‥
発端は、上州戦から撤退する源徳勢を武田勢が追撃した、あの戦いの直後。
村で局所的な地震が起き、一軒の釜戸で炎の柱が立ち上ったという事件が起きた。
冒険者たちの調査に基づき、祭壇を清め、近在の神主を呼んで祝詞を上げると、それは収まったのだが‥‥
村人たちも忘れかけていた古い石碑の存在‥‥
この事件は信仰を思い出させるための土地の神の不信や怒りであったのだろうか‥‥
その後、大鴉の出現により再調査に訪れた冒険者たちは、『鎮守の森には近付かないでほしい』と村人に告げて村を離れた。
鎮守の森で目撃された剣士と身分の高い女性、そして王か豪族かと思える男と配下たち、神獣とも謳われる八咫烏‥‥
それらの幻像に加え、冒険者たちに降りかかった鎮守の森での迷いの呪い‥‥
不信心な者が悲惨な末路を迎えることを人々は昔話や寝話で聞くことができる。
用心に越したことはない‥‥ということだ。
それらの調査の過程で発見された石碑は、現在7つ。
大家の釜戸に1つ、丘の上に1つ、水神の井戸と呼ばれる村の水源に2つ、鎮守の森に3つ。
冒険者たちが夜刀神ではないかと予測している細長い何かが現れたのが、これらの近くである。
「報告書を読む限りでは、関係がないなんて思えないよな」
とは、ギルドの親仁の弁。
と‥‥
村の一大事を説明しなければなるまい。
正月初め、村では去年の轍を踏まぬよう、祭壇に宿る神々を祀る祭りを行った。
そこで事件は起きた。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。お前は惣領なんだぞ!」
父親である村長は、米神に血管を浮き立たせて怒鳴った。
彼の子供は事故や病で亡くなっていて、彼女は最後の一粒種。
となれば陽子の婿は次代の村長なのだから慎重になるのはわかるし、父親としての気持ちもわかる。
「隼人の何が問題なのですか?」
よくある父親と娘の通過儀礼だが‥‥
「村長の家格ではない!」
「家格が結婚の障りになるのなら、私が家を出ます」
「そうなれば2人とも村にはいられないぞ」
「それで結婚が許されるなら」
売り言葉に買い言葉。村人たちの前で2人とも一歩も引けないのだろう。
「陽子も村長様も落ち着いて」
「お前は口出しするな!」
「隼人、行きましょう!」
陽子と村長の顔を見渡し、隼人は溜め息一つ。陽子に手を引かれて、その場を後にした。
「な、何をしとるか! 陽子を連れ戻せ!!」
村長に怒鳴られ、我に返った男衆は、2人を追って駆け出すのだった。
それから少しして‥‥
村中だけでなく近隣の村も探した村長は、村で探していない場所を思いつき、男衆を引き連れて訪れた。
そこは村長の一族の墓所であり、土地神を祀った社の在る場所。
村長ですら、毎朝の参詣と掃除の日課以外で奥には入らない。
「そう言えば、陽子が見つけたんだっけな」
墓所の入り口に構えている鳥居に碑文を見つけたと喜んでいた娘の姿が脳裏に浮かぶ。
あれは隼人と2人で密会でもして見つけたのだろうか?
それを思うと怒りが沸々と湧き上がってくる。
「村長様、あ‥‥ あれを!」
祭壇の前にある不自然な氷柱。
「よ、陽子‥‥」
蠢く2本の鎖が掛けられた氷柱の中の人影は、陽子。そして、隼人‥‥
「何をしておる! 氷を砕け!! 鎖を外さんか!!」
「はいっ! うわぁ!!」
男衆が氷柱に近付こうとすると、炎の翼の小さな龍が彼らを襲った。
「神様がお怒りだ! お、おっ、お‥‥ お許しを!!」
「俺が何をしたっていうんだ‥‥ なぜ、こんなことに‥‥」
呆然とする村長は男衆に引き摺られるように、その場を後にした。
●四海は七色に輝きて 伍 〜 凍った刻 〜
陽子と隼人が氷柱の中で結ばれて、はや三ヶ月。
江戸の冒険者ギルドに一件の依頼がもたらされた。
『神に囚われた陽子を助け出してほしい』
「請けるも請けないも、お前さんたちの自由。でも、頼むからさ。この依頼、行ってくれないか?」
茶請けを勧めながら、ギルドの親仁は困ったような表情でキミに話し出した。
実は事件から三ヶ月も経っているのには、派遣できるほどに冒険者が集まらなかったせいがある。
冒険者が来ないとわかると戸塚村の村長らも色々試したらしいが‥‥ 依頼が再び舞い込んだ事実を見れば言わずもがな。
10の碑文の写しや、これまでの報告書などを含め、様々な情報が冒険者に示された。
「依頼人からは、少しでも事情がわかる者をと言われているが、今度こそは冒険者を斡旋せんとな‥‥」
ギルドの親仁は冒険者の目を見つめ、困ったような照れ笑いでキミの返事を待つのだった。
※ 関連情報 ※
【隼人】
男性。戸塚村の住民。
受付したギルドの親仁曰く、好青年。
森の中で見た、八咫烏に変化した(から変化した?)幻想の兵者に瓜二つ。
【陽子】
女性。戸塚村の村長の娘。
森の中で見た幻想の貴姫に瓜二つ。
【身分の高そうな男】
古代の衣装を身に纏った男。
配下の兵がいるようであること、また、着衣から見て、身分は高そうである。
歳は違いすぎるが、村長に似ている気はする。
【兵】
古めかしい剣や鎧を身に着けた兵士。
身分の高そうな男に従っているようだ。
【戸塚】
人口30名ほどの小さな山村。
江戸からは徒歩で1日程度。
【火の石碑】
村の家の釜戸に祀られていた石碑。
釜戸の碑文『勇ましく死した剣士に やがて誕生せし二人の子』
【土の石碑】
村の丘の上に半分埋もれていた石碑。
小丘の碑文『土地神は姫の悲しみを感じ 天は怒り地は狂う』
【水神の井戸の石碑】
井戸の碑文(女性像の側)『深き恋に落ちた 子らは十の塚を作る』
井戸の碑文(男性像の側)『想いを託して 姫と剣士あり』
【鎮守の森の石碑】
兵者の祭壇の碑文『剣士は三つ足の鴉に変じ 兵を連ねて森へ押し入る』
貴姫の祭壇の碑文『迷いの呪いをかけた森へ 来世では結ばれん』
貴族の祭壇の碑文『豪族は怒り猛い 姫の森へ舞い降りた』
【村長一族の墓所の石碑】
鳥居の貫の碑文『逢瀬を知った豪族は 豪族は憤して死す』
鳥居の柱の碑文『夫であり主である 姫は涙する』
鳥居の柱の碑文『その成長した姿に 姫を閉じ込めた』
【童歌】
『ひい』と呼ばれる玉を守るチャンバラ遊びで歌われている。
歌詞は以下の通り。
「とうのかみさんに、まつるねがい♪ ねがいたくすは、このこのまたそのこのこ♪
めぐりめぐってしかいのはてに♪ むすびむすばれ、とうと、とうとう♪
むすびむすぶは、なないろかみさん♪ めぐりめぐって、てにてをとって♪」
●リプレイ本文
●真意
隼人と陽子の、まことの気持ち。
それこそが一番大事であり、好き合う2人を添い遂げさせたい。
ともあれ、一条如月(ec1298)が話してくれた経緯には不可解な点が多い。
それに隼人と陽子が氷柱化して数ヶ月。今や緊急性がないと、まずは江戸で情報の再確認と検証に取り掛かった。
『剣士と姫は愛し合っていたが豪族に引き裂かれた‥‥
しかし、そのせいで天地が荒れ狂い、豪族は亡くなった‥‥
土地神は姫の悲しみを感じて閉じ込め‥‥
剣士と姫の子供が戸塚村を作った‥‥』
「無理矢理、組み直してみましたが、ちょっと意味が‥‥」
「火・地・水・月‥‥多種に渡って魔法を使える何者か‥‥ スクロールを使うとしても、それなりの実力が必要ですね‥‥
村の誰かが前世の記憶、力が受け継いだ‥‥なんてことではないと良いのですが‥‥」
首を傾げるカイ・ローン(ea3054)同様、サスケ・ヒノモリ(eb8646)も首を捻る。
「各現象は夜刀神によるものでござろう。直接見てはござらぬが、炎翼の小龍も夜刀神ならば納得いくでござる」
「氷柱の蠢く鎖も、そうなのでしょうね」
一条や齋部玲瓏(ec4507)の言うように複数の神や者による事件と考える方が納得がいく。
「問題は、なぜ今になって一斉に夜刀神が現れ‥‥ なぜ御二人を氷柱に閉じ込めたか‥‥で、ござるな‥‥」
「そうですわね‥‥ 陽子さまらをお助けし、陰陽師の役目を果たすべく、微力を尽くさなくては」
「何かあれば御守りします。刀を使わないで済むのが一番ですけどね」
カイを除けば腕っ節で勝負できるのは緋村櫻(ec4935)だけ。
責任と事の重大さを認識して、緋村は仲間たちを安心させるように胸を張った。
さて‥‥
江戸にいても埒が明かないと戸塚村へ。
「戸塚‥‥が十の塚で十塚の意味なら、碑文が十個あるのと関係がないとは言い切れないよね。
これ以上の碑文はなくても、さっぱり意味はわからないけど‥‥」
「夜刀神が実体を持つのか持たないのかも気になりますね」
「ふむ‥‥ 夜刀神が幻影なら何者かの仕業ということになるでござるな‥‥」
何だか疑心暗鬼で溜め息。
「耳を伏せている‥‥ 何か感じているようですね。落ち着いて、赤雷」
興奮するように小さく嘶くが、愛馬が不安がる原因や正体はわからない。
一向に落ち着かない様子に、緋村は愛馬の体を擦ってやるしかないのだった‥‥
村を訪れた冒険者たちを待ち受けていたのは、人々の疲れた表情‥‥
「たった三月の間に何があったのでござる?」
「変わったのは、間違いなく2人が氷柱に閉じ込められた後‥‥でしょうね‥‥」
「まずは村長宅へ行こう。何が起こったのか知るのが先決じゃないかな」
一条とサスケの驚きように、カイたちは足を速めるのだった。
●深意
村人たちのすがるような視線に纏わりつかれながら、冒険者たちは村長宅を訪れた。
「陽子‥‥ 陽子‥‥」
見れば、中でも村長の落ち込みようはない‥‥
「よう来てくださった‥‥ 何が悪かったのだろうか‥‥」
何度も村人に声を掛けられ、幽鬼のように振り向く。
「陽子様が氷漬けになってからというもの、食事も喉を通らず、眠れない日々が続いておりまして‥‥」
結局、村長から話を聞くのは無理で、家人から説明を受けることに。
まずは、風が淀むようになった、小火が起きた、小屋が傾いたなど、小さな事件が重なるようになったのだという。
そうこうしているうちに水神の井戸の水位が減り、作物の出来に影響が出始めてしまった。
このままでは田植えにも差し支えるということで祭りなどを行ったらしいのだが、一向に事態は好転しない。
最終手段として、村長一族の墓所にある祠でも祭りを執り行おうとしたのだが、これは炎翼の小龍に邪魔されて近づけず‥‥
成す術なく冒険者に助けを求めたのだとか‥‥
「そういうことなら、一刻も早く2人を氷柱から救い出さないとね。体の傷なら祈りの力で癒せるけど、心の傷だからね」
「しかし、事件の根本を解決しなければ何度でも再発する可能性は高いですね。伝説を紐解く必要があるんじゃないですか?」
「そうですわ。それに、この事件。普通ではありませんわ」
早速動き出そうとするカイに、サスケや齋部たちは慎重さを求めたが、ここにきて良い案が急に浮かぶはずもなく‥‥
その頃、緋村はというと‥‥
「静かで良さそうな村なんですけどね‥‥ 何か嫌な雰囲気がするわ」
馬屋に赤雷を繋ぐと、飼葉を分けてもらい、水を与えた。
村がこんなときでも、子供たちは畦道を走り回っている。話に聞いた『ひい』の遊びでもしているのだろうか?
石を守って逃げ回る子を他の子たち全員で追いかける。
だが、程なくして逃げていた子は追いつかれてしまった。多勢に無勢というやつだ‥‥
「あれじゃ絶対逃げ切れない‥‥」
赤雷の毛を梳きながら、苦笑い。
「とうのかみさんに、まつるねがい♪ ねがいたくすは、このこのまたそのこのこ♪
めぐりめぐってしかいのはてに♪ むすびむすばれ、とうと、とうとう♪
むすびむすぶは、なないろかみさん♪ めぐりめぐって、てにてをとって♪」
子供たちは石を持つ子を中心に、ぐるりと取り囲んで歌い始めた。
「逃げ切ったらどうなるのかしら?」
「さぁ?」
気がつけば齋部たちが村長宅から出てきていた。
「ん? 少しわかった気がするでござる。『とうのかみさん』は、十の神様ということでござる‥‥」
一条は何度か頷くと、童歌に漢字を当ててゆく。
『十の神さんに、祭る願い♪ 願い託すは、子の子の、また、その子の子♪
巡り巡って四海の果てに♪ 結び結ばれ、とうと、とうとう♪
結び結ぶは、七色神さん♪ 巡り巡って、手に手を取って♪』
「十柱(とはしら)の神、十の碑文、十の塚、十塚(とつか)、戸塚‥‥ この流れは間違いないでござろう」
「四海は須弥山のことでなければ世界を表しているのでしょうか? だとすれば七色は沢山の意味かもしれませんわ」
「齋部殿、肝心なのは、ここからでござるよ」
一条は子供たちを指し、地面に絵を書き始めた‥‥
「陰陽道にある七曜の紋?」
「円を囲むように6個の小円を配した北斗七星の紋様でござる」
『ひい』を中心に囲む姿は、確かに、それを連想させた。
「同時に、七曜は、日と月の二星に木火土金水の五行を加えたものを指すとも言われているでござる」
確かに夜刀神は精霊魔法と思しき力を使う。それは、目で見た、あるいは体感したこと。
「木火土金水?」
「この世界を作っているもののことで、陰陽道の基礎的な考え方ですわ」
一条の説に首を傾げる緋村を、齋部が優しく教える。
「精霊魔法の理、六つの元素世界に似ているな‥‥」
「そうだとしても、どんな意味が? それがわからないと‥‥」
陰陽五行‥‥ サスケやカイには馴染みの薄い思想である。
「そこまでは、わからぬでござるよ。しかし、解く手がかりにはなりそうでござらぬか?」
あと一歩が出てこない‥‥
歯がゆい思いをしながら、一条たちは墓所へ向かった。
●神意
普段は余人の立ち入りは許されない村長宅の奥の宮。
空気がシンと澄んでいる気がする‥‥
「水神の井戸の感じに似てますね‥‥」
サスケらが鳥居を潜ると、水色の蛇が鎖を掛けたように蠢く件の氷柱があった。
「これですか‥‥ おっと‥‥」
近付こうとしたサスケらの前に炎翼の小龍が舞い、接近を拒絶された。
慌てずスクロールを取り出すと、テレパシーを使う。
「荒ぶる神よ。俺たちは陽子さんと隼人さんを助けたいだけなんだ。どうか許してほしい」
一瞬の間‥‥
『これは祝(いわ)い。だから刻を結んだ‥‥』
「陽子殿は祝(はふり)の一族‥‥ 願いを祭り、神は祝いを成した‥‥ということでござるか‥‥」
小龍の言葉は、同じくテレパシーを使った一条の頭にも響いてくる。
「はふり?」
「神主と言ったらわかるかしら? つまり、陽子さまが望みを神様が叶えたということね」
緋村は抜かりなく大刀を抜けるよう注意を巡らしながら、齋部の説明を聞いた。
「この刻の流れでも2人が結ばれることを知らせるためにも氷を溶かしたい。許してもらえぬだろうか?」
『‥‥』
沈黙は拒絶の証なのか‥‥
「謹んで勧請奉る。この御社の地に、降臨鎮座し給う、掛けまくも畏き十塚の神。
平らけく、安らけく、来こし食して、我らが願いたるところを神納納受て、成さしめ給え‥‥」
一条の祝詞が、ぴりぴりした空気を和らげ‥‥
「産土の十の塚神等の大前に恐み恐みも白す‥‥」
ぱんっ、ぱんっ‥‥
齋部の拍手が敵意の中の空気を吹き飛ばしてゆくのだった‥‥
「どうやら戦わないで済みそうだね‥‥」
「それで済むなら、それが一番。何といっても相手は神様‥‥ 祟られたくはないです」
荒事にならずに済んだことを喜ぶカイと緋村。
さて‥‥
氷の中の陽子たちとはテレパシーでも意志の疎通はできなかった。
そのため、神々の許しを得て、サスケのスクロールのヒートハンドで氷を溶かした。
「これからが大変ですよ。隼人さん、陽子さん」
愛し合う隼人と陽子を無理矢理に引き裂いたために神の怒りを呼んだと村長を脅しているので、無茶はしないだろう。
だが、本当に大変なのはこれからだと、カイは念を押した。
「いざというときは証文があります。2人の結婚に反対などさせませんから」
「早く祝言をあげることです」
落ち込んでいる村長に書かせた証文を手に微笑むサスケと緋村。
「てにてをとって、むすびむすばれ♪ 末永い幸せをお祈りしますね」
齋部の祝いに、隼人と陽子は照れたように赤くなるのだった。
なお‥‥
碑文や十塚の神々に関する調査は続行されることとなった。
そりゃそうだろう。
村の存亡に係わるかもしれないとあれば‥‥
ま、2人が氷柱から解放されて水神の井戸の状態も元に戻ったようだし‥‥
今は、これで良しとしよう‥‥