【毛州三国志・那須】八溝山城・補給線破壊

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:3人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月13日〜06月21日

リプレイ公開日:2008年06月23日

●オープニング

●鬼軍への小さな反抗
 下野国那須藩東部に広がる山岳地帯。
 八溝山と呼ばれる地域は、昔から鬼との縁が深い。
 最近では赤頭という頭を中心に、鬼の巣窟と化していることが冒険者の強行偵察からわかっている。
 また、麓の砦が支城として使われ、鬼山城と呼ばれる一帯だけで兵数は200を数える。
 宇都宮藩など周辺地域の鬼の数も含めると幾らになるのか‥‥
 更に悪いのは、鬼たちが統率されているということだ。
 多寡はあるが10以下で行動していた鬼たちが集結、または連携しているとすれば、危険極まりない。
 報告によると牛頭鬼だけで編成された50からの部隊までいるらしい。
 こんなものが押し寄せてくるとなると、藩以上の正規軍が本気で止めに入らなければ止まるものではない。
 いや、腕に覚えの冒険者数人がかりで、やっと倒す程の難敵である。相当の被害が予想される‥‥
「どれくらい強いのか調べた方がいいよね‥‥
 それと八溝山に補給物資が届けられてるみたいだから、それも何とかしないと‥‥ 奪えれば上策なんだけど。
 迅雷というものを製作しているらしいので、それの手がかりを得られないかと思うから」
 蒼天十矢隊員にして冒険者・カイ・ローン(ea3054)は、ギルドの親仁に相談を持ちかけた。
「『敵に取るの利は貨なり』‥‥か」
 怪訝な表情のカイに、親仁は孫子だと注釈する。
「敵の物資を鹵獲して使えという兵法だ。
 それにだ。『凡そ用兵の法は、馳車千輌、革車千乗、帯甲十万』とも孫子では言うからな。
 戦巧者が戦いに勝ちたいなら最低限の兵数は整えろという兵法に謳うくらいだ。
 5人やそこらの冒険者で50もの牛頭たちと渡り合うってのは無謀。
 だが、敵の輜重隊を狙うのはアリだな。
 尤も敵も那須藩の密偵や鬼面党の目を盗んでやってたくらいだ。備えがないなんて思わない方が安全だぞ」
 また行くのか? という親仁の問いに、カイは諾と返した。
「報酬は10両か‥‥ これでどれだけ集まるか‥‥」
「敵の物資を奪って那須藩に買い取ってもらうよ。それを追加報酬に当てる」
「鬼軍の跳梁を許さない奴、那須藩に思い入れがある奴、色々いるからな。募集は掛けてみよう。
 ま、命が惜しければ欲張らないことだ。手に余って荷物を全て落とせば元も子もないぞ」
 ギルドの親仁は依頼受理の手続きに入った。

 さて‥‥
 那須軍師・杉田玄白へ威力偵察・補給線破壊の実施について打診したところ、返事は可とのこと。
 また、物資買取に関しては善処するとのこと。敵勢情報、敵の兜首、鬼の首などにかんしても同様との回答を得た。

※ 関連情報 ※

【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
 那須藩主。弓の名手。
 須藤宗高、藤原宗高など呼び方は多々あるが、世間的には那須与一、または与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓と馬に加えて近年では薬草が特産品。
 奥州忍者の策略により、過去に冒険者に対して藩士には敵視の姿勢が見られた。
 現在、関東の北の玄関である白河地方を奥州勢力の蘆名氏に占領され、永らく戦闘状態が続いているが、膠着状態に陥っている。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。一部は山城の様を呈している。
 過去に岩嶽丸という大悪鬼が根城にしていたが、討伐され、山城は禁忌の地とされた。
 近年、岩嶽丸が復活して周辺の鬼が集結したが、与一公の采配により討伐された。
 上州の乱に乗じた奥州軍の南下の後、赤頭という名のある鬼が入山したとかで、現在は鬼の巣窟と化しているらしい。
 なお、麓の那須軍の砦の兵は、現在撤退している。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 八溝山決戦に至る那須動乱を勝利に導いた立役者として那須の民に絶大な人気を誇る。
 茶臼山決戦の後、藩財政再建にも多くの献策を行ったが謀反の疑いをかけられ部隊は解散した。
 現在、与一公の意向により、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与えられている。

【冒険者ギルド那須支局】
 与一公の直轄領である喜連川に、復活した岩嶽丸退治のために設置された冒険者ギルドの出先施設。
 なお、依頼斡旋の業務は行っておらず、移動や補給のための冒険者の中継基地としての役割を持つ。

【杉田玄白(すぎた・げんぱく)】
 月道を渡って欧州に留学した経験のある侍。帰国した際に偶々江戸にいた与一公の招聘を受けた。
 博識を買われ、矢板川崎城守備の副将と那須藩薬局長を兼任する。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334)/ 水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

●矢板川崎城
 川崎城に杉田玄白を訪ねたカイ・ローン(ea3054)らは、思いがけず那須与一公との面会の機会を得た。
「会見の間で会う手間を省かせてもらった。義経公のこともあって私も殿も時間が取れなくてね」
 通された部屋は玄白の執務室らしく、様々な書類が重ねてある。
「カイの届けてくれる情報には、本当に助かるよ」
 カイらが入室すると、与一公は書物を閉じて上座についた。
「しかし、奥州勢が赤頭と繋がっているとなると、やはり厄介ですな‥‥」
「そこで、自分から作戦を進言しておきながら申し訳ないのですが、兵を少しお貸しいただけませんか?」
 カイは恐縮して頭を下げた。
「済まないが、カイ。宇都宮公を交えて義経公と会う算段をしているんだ。兵に余裕はない」
「義経公と?」
 与一公の絶言で下野国を目の前に義経軍が足を止めているのは、カイたちも知っている。
「正直、迎え撃つつもりで私も川崎城まで来たんだけど、よもや止まるとはね‥‥」
 真剣な表情の与一公には戸惑いの色が僅かににじみ、やがてはにかんだ。
(「本当に大変な時に藩主でいらっしゃるのですね‥‥」)
 七神斗織(ea3225)は、カイの脇に控えながら小さく溜め息をつく。
「ですが、白河方面を疎かにはできません。可能な限り支援しますよ」
 那須密偵や水中機動部隊を影の警備として喜連川周辺に配置してあるため、それは回せないとのこと。
 また、正規の兵は先の説明どおり、備えの兵として軽々に動かせない。
「結城鬼面党を頼るといい。そして、物資を奪ったなら彼らに与えてください。勿論、カイたちへの報酬は出します」
 ここだけの話と鬼面党の党首が結城義永であることを教えられ、カイたちは納得した。
 要するに那須軍の心強い味方が、既に白河で那須密偵たちと共に破壊工作に暗躍していたわけだ。
 地の利に明るい彼らとの共同作戦であれば確かに心強い。

 江戸などの近況を伝える他、今回の作戦について諸事打ち合わせたカイたちは、白河へ向かった。
「我ながら、よくこんな実入りが少なく危険ばかり大きい依頼を受けたものだと思うよ。とは言え、受けた以上は全力を尽くすのみだ」
「ありがとう。少数なら少数でそれなりに行動するだけだけど、1人で行くのは無謀だと思ってたから本当に助かったよ」
「後は、まあ、鬼の運ぶ荷に特別な宝でも隠れていることを‥‥っと、欲張るのは危険だったな」
「私は迷子にならないか心配です。カイ様や天城様から離れないようにしないと‥‥」
 天城烈閃(ea0629)は静かに笑い、カイと七神はつられた。

●黒衣の神兵
「上手く協力してもらえてよかった」
「全ては天の采配か‥‥」
「うむ、耳目が喜連川へ向いているからこそ、お主らに結城鬼面党との縁が生じた」
 たまたま冒険者の人数が少なかったからこそ‥‥
 たまたま与一公が川崎城にいたからこそ‥‥
 たまたま結城鬼面党という破壊工作部隊がいたからこそ‥‥だ。
 同行してくれた那須密偵1名の言うことにも一理ある。
「‥‥と、この辺からは気をつけてくれ。蘆名兵とも鬼とも遭遇するからな」
 指摘どおり現れ始めた蘆名兵などをやり過ごしたカイたち4人は、白河小峰城の南の支城に接近した。
「もしかして、蘆名兵たちの現れる場所を通ってませんか?」
「結城の御隠居たちは、俺たちとは別行動だからな。下手に連絡を取り合って敵に気取られるのは愚だ」
 七神の指摘に、そうだよと答える那須密偵に天城たちは息を呑んだ。
「敵に取るの利は貨なり。こうも言う。知将は努めて敵に食むとね。地の利も敵より御隠居たちにあるし」
「それを知っているから俺たちの情報を鬼面党に伝えたいんだね。与一公は」
 鬼面党の目を欺くほどの敵‥‥ カイの頭に黒脛巾組の名が浮かぶ‥‥
「今まで全くと言ってよいほど連中の動きが見つからずにいたのは、周囲に目を配る斥候役の忍がいたからかもしれない。
 本当に鬼と手を結んでいる権力者がいるかは、これから確かめるとして‥‥ おっと、接触できたみたいだ」
 蘆名兵を襲う黒衣の一団を支援すべく、天城は矢を番えた。

「よかろう。殿の下知とあれば異論はない」
 黒衣の神兵たる結城鬼面党の頭領・結城義永は頷くと地面に地図を書き出した。
 それによると、敵の警戒が強まった部分があるという。
 白河小峰城と八溝鬼山城を結ぶ線の向こう側、つまり東側地区に忍びの姿が多く確認されているのだと。
 当然、敵に動きがある証拠であり、何らかの軍事行動である可能性は高い。
「それで、鬼に渡る物資を横取りして我らで使えと?」
「煮るなり焼くなり、義永殿の好きに任せると」
「鬼への玉手箱に何が入っているのやら」
 義永殿の軽口に、冒険者と鬼面党の面々は頬を緩めた。

●玉手箱の中身
 敵が警戒網に引っかかった。
 各地に配した足軽(偵察兵)の報告によると、小峰城から出た荷駄隊は八溝山方面へ向かい、廃村に荷駄を置いて帰還したとのこと。
 その置き捨てられた荷車を牛頭鬼3頭が引き、八溝山へ向かっているとも。
 冒険者と結城鬼面党は、八溝山に近い場所で襲撃することにした。
 勿論、八溝山へ接近しすぎる危険は侵さないが、受け渡し場所では敵の警戒が強いとの判断である。
「こればかりは冒険者も及ばないですね‥‥」
 日々の情報がなければ、これほど緻密な作戦はとれまい。七神は感心しきり。
 おまけに広範囲に部隊を分けられるほどの多人数の動員も冒険者たちには難しい。
「鬼の巣をつつくことにならないか?」
「忍びにも気をつけないと」
「この辺は奥州の忍びと鬼軍がせめぎあっている場所だ。どちらが駆けつけるにも時間はかかる」
 勿論無理はしないと付け加える鬼面党の頭は、天城やカイに優しく静かな表情を向けた。
「那須の為であらば命を賭けることに躊躇いはありませんが、そう簡単に命を粗末にするわけにはいきませんわ」
「確かに、ここが死に場所の者は1人もおらぬ。生きて帰らねばな」
 七神と義永殿は、互いに頷く‥‥と。
 ぐ‥‥
 小さく唸った忍犬セイの鼻先の向く方に注目していると、牛頭鬼が荷車を引いて現れた。
「頭‥‥」
「わかっておる」
 直後、鬼面党の一員が報告しようと駆けつけたのを義永殿が制する。
「天城殿、弓兵の指揮は任せた。カイ殿、七神殿、矢を射掛けたら突っ込むぞ」
「承知した」
「負傷者の治療は任せてほしい」
「わかりましたわ」
 引きつけたところで天城の矢が牛頭鬼の急所を射抜く! 続いて短弓の一斉射撃!!
 士気を高め、闘気の守りを得た七神は、両手に得物を振るい、身を躍らせる。
「遅れるなよ!」
 義永殿ら数人は、闘気の剣と盾を構えて突っ込む。
 奇襲に虚を突かれた牛頭鬼は、重斧を構えるので精一杯。
 そこへ次の矢襖。直後、脛に一撃を加えたセイに撹乱され、互いに連携できない!
 天城は狙いをつけると、牛頭鬼に撃ち込む。
「弓兵隊は敵を逃がさないことと、敵の接近に警戒することに集中してくれ!」
 乱戦での矢襖は味方の兵を損ないかねない。
 それに、鬼面党による後方支援はあるが、敵の忍びや鬼が彼らを上回る可能性は捨てきれない。
 ならばこそ、遊兵覚悟で、弓を置いて突撃する手は取らないことを打ち合わせてある。
 無論、半端な者が牛頭鬼の相手をしても余計な被害を出すだけ‥‥
「浮き足立ってます! 確実に追い詰めましょう!」
 カイの振るう妖精騎士が用いたと伝えられる名槍が牛頭鬼を突くが、敵の頑強さは折り紙つき。
 強烈な重斧の反撃が振り下ろされる!
「カイ様!」
「大丈夫」
 七神の踏み込みを待つまでもなく、聖なる結界と重斧の激突音が響く。
 そのとき、牛頭鬼が意識を失うように倒れこむ。
「ありがとう、ユエ!」
 カイの頭上を飛行する精霊妖精が放ったスリープが、眠りを誘ったのだ。
「各個撃破でしたわね!」
 七神の一撃! レミエラが光を放ち、霞小太刀は衝撃波を放つ!!
「おぅよ!!」
 負傷で目を覚ました牛頭鬼に、黒衣の神兵たちの闘気剣が群がる!
「義永殿は‥‥」
 残る牛頭鬼は2頭。
 3人掛かりとは言え、義永殿は牛頭鬼を圧倒している。
「御頭なら心配ない! 一気に潰すぞ、カイ殿! 七神殿!!」
 地に伏した牛頭鬼に止めを差し、首級を上げると牛頭鬼たちの士気が一瞬緩む‥‥
「笑止! 戦場で戦いを忘れるとは!!」
 義永殿の闘気の太刀が牛頭鬼の腹を斬り裂き、天城の矢が突き立つ!
「逃がしませんわ!」
 思わず一歩下がった牛頭鬼の顔を七神の衝撃波が襲った‥‥

●圧勝に奢らぬ臆病
 暫時‥‥
 戦力的に上回っていたとはいえ、牛頭鬼3頭に対して負傷者なしという圧倒的な戦果にカイたちの心は躍る。
「もう少し敵の戦力を削っておきますか?」
「いや、退く。牛頭鬼を3頭も討てたのだ。八溝山の脅威も少しは減ろう。無理をして百鬼に囲まれるは下策。
 それにお主らの報告では赤頭以外に見慣れぬ鬼たちもいたというし、敵を知らぬ一戦は、やはり危険だ」
「ここは義永殿の言う通りにしよう。敵中で生き延びてこられた一日の長の言は重い」
「私も賛成します。それに小峰城から八溝山へ物資が送られていることを確認できましたから、目的は達成したと考えますわ」
「そうだね。戦いは、これから」
 義永殿に同意する天城や七神の意見にカイも考えを同じくして微笑む。
「とはいえ‥‥ さて、次は、どこを狙うか‥‥」
「楽しそうですね‥‥」
「我らが領土を荒らす奴らだ。遠慮などいらんだろう?」
 七神は、義永殿の様子に小さく肩を揺らした。

 さて‥‥
 牛頭鬼たちが運んでいた物資は、食料や酒であった。
 やはり、岩地が主である八溝鬼山城にあれだけの鬼軍が集まれば、周辺で狩りなどするくらいでは補給が間に合わないのだろう。
 この情報だけでの決め付けは危ないが、カイたちは、そう判断した。