【毛州三国志】三公会談

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月18日〜06月26日

リプレイ公開日:2008年06月30日

●オープニング

●決心の真心
 武蔵と下野の国境付近で義経軍が停止して幾日も経つ。
「僕は与一公の申し出を受ける」
「しかし、僅かな供回りだけで喜連川へ行くということは、首を預けると言うことですぞ」
「本来なら与一公がこちらに出向いて然るべき! 殿が足を運ぶ必要はありませぬ。
 再三、書状を送り、中間地点で会談するよう申し入れておりますれば、暫しお待ちを」
 側近の佐藤兄弟にも一理あるが、源義経公は聞かずに立ち上がる!
「武蔵を混乱させてしまった。これは僕の責任だ‥‥
 善かれと思ってしたことだけど、何とかしなければ集まってくれた者たちにも民にも申し訳が立たない。
 継信や忠信まで狩り出されて事態を収めている間、何をすべきか考えていた。
 府中へ引き返して乱を治めることも大事だけど、最初の約束を守る!
 下野の鬼退治を実現しなければ、この先、一歩も進めない!! 僕は、身一つででも喜連川へ行く!!」
 義経の固い決意に、佐藤兄弟は苦笑いで肩を落とし、溜め息混じりに答えた。
「勝手に抜け出さず、待ってくださったことは御礼申し上げますよ。殿‥‥」
「軍を放って行く訳にもいきますまい。ここは某に任せて、兄上と共に会見に向かわれると宜しゅうござる」
「忠信、済まないな」
「御意。お任せを」
 貧乏くじを引いてしまった表情で腕を組む忠信に、義経公と継信は笑顔で励ましている。
 そこへ入ってきたのは、冒険者の重蔵。
「忘れずに冒険者へも声を掛けなされ。彼らに恨まれると酷い目に遭いますぞ」
 くっくっくっと肩で笑いながら、おどけた口調で義経公の近くの将几に腰掛け、笑顔で促す。
「重蔵殿の進言に従うことにします。与一公も冒険者を同席させる意向のようですから」
「しかし、重蔵殿にかかると源氏の棟梁も形無しですね‥‥」
「何、わしが槍を振るうは国家鎮撫のため、神皇陛下のため。
 尤も‥‥ 源氏の棟梁に手を貸すのは、若者を放っておけないからなのだがね」
「雨に濡れた子犬ではないですよ。僕は」
 言い返す義経公の傍らで満足げに笑う重蔵に、佐藤兄弟は困った表情で苦笑いした。

●水面下の波紋
 正規軍主力部隊である那須軽騎兵の一部と城の守りを固めるための弓兵で戦力を強化した那須藩・矢板川崎城。
 今ここに、与一公の直属部隊であることを示す『菊に一の字』の幟の一団30騎が、喜連川へ向かう。
 率いるは、勿論のこと、那須藩主・与一公である。
「万が一にも源義経公に危害があってはいけませんよ!
 我々が手を出せば、これ幸いと奥州軍が押し寄せましょう。
 だからこそ、我らは万全の警備で義経公を守らなければならないのです!!
 我らや源徳勢だけが義経公の命を狙うとは限らないのですから!!」
 素っ頓狂な表情で与一公の訓示を聞く那須兵たち‥‥
「わかりませんか? 奥州勢が義経公の命を狙うこともありえるということです!」
 同行することになった軍師・杉田玄白の補足に、那須兵たちから「莫迦な‥‥」と漏れる。
 だが、後方支援を受けられなくなって久しいとはいえ、那須藩は源徳親藩として人々の記憶にあるはず‥‥
 その那須藩が源義経を騙し討ちにしたとあれば、源徳勢の評判に傷が付くだろう。
 例え、それが那須藩の仕業でなくても、那須藩内での事件であれば‥‥
 結局のところ、此度の三公会談は、三公だけのものではない。
 複雑怪奇に絡まりあった糸の先に誰がいてもおかしくはないのだ‥‥
 源義経公の思いつきは、ここでも波紋を起こしていたのである‥‥

●軍の激突
 那須藩の主要地域を迂回したと思われる鬼軍の部隊が宇都宮へ現れた。
 その主力は牛頭軍団と犬狼騎兵‥‥
 藩主・宇都宮朝綱公が三公会談へ赴く留守を狙ったかのような進撃に、宇都宮藩は朝綱公の嫡子・成綱殿を大将として迎撃を開始。
 副将たる宇都宮藩士・那須頼資は、宇都宮公の裁可により那須藩へ救援を求め、与一公の下知をもって矢板川崎城城主・結城朝光の援軍を得た。
「前門の狼、後門の虎だな‥‥」
 状況が状況だけに断ることもできたであろう三公会談を、宇都宮公は受けた。
「狼だろうが虎だろうが、宇都宮を荒らすのであれば斬ってくれよう」
 側近さえ息を呑んだという宇都宮公の覇気に当てられ、宇都宮軍は悠々と軍の集結を続けている。

●江戸冒険者ギルド
 江戸のギルドには、同様の依頼が3通舞い込んだ。

 下野国守・那須与一公から『三公会議に出席し、会談を警備する冒険者、もしくは会談で意見する冒険者を求めたい』
 源氏棟梁・源義経公から『義経公を従卒警備する者、または、三公会談の論客を招きたい』
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱公から『三公会談にて下野の鬼軍討伐に知識を貸しうる冒険者を召集せんと欲す』

「要するに、喜連川で行われる三公会談に出席して、警備や意見を頼むということだな。皆は全力を尽くしてくれ」
 ギルドの親仁は冒険者たちに発破をかけた。


※ 義経関連情報 ※

【源義経】
 絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。

【重蔵】
 義経軍の客将。
 坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をする、隠居出戻りの元侍。
 剣の腕、身のこなしが立ち、オーラ魔法も操るが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
 ギルドの親仁らから法螺話っぽい武勇伝がチラホラ聞ける。

※ 宇都宮関連情報 ※

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
 下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。

【宇都宮朝綱】
 宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
 勇猛な武将との噂に違わず、藩内に跋扈する鬼軍を駆逐するために陣頭指揮を執っている。

【宇都宮成綱】
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱の嫡子。武芸よりは芸術に才能を発揮する人物との噂。

【那須頼資】
 下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
 那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。

※ 関連情報 ※

【喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)】
 那須藩主。弓の名手。須藤宗高、藤原宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 白河地方を奥州勢の蘆名氏に占領されているが、現在は戦闘膠着状態。

【喜連川】
 与一公直轄地。妖狐の尾のように川が枝分かれしている地形から喜連川の名が付いた。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭なる名のある鬼が、関八州を侵す鬼軍の拠点として使っている模様。

【冒険者ギルド那須支局】
 喜連川に設置された冒険者ギルドの中継補給基地の役目を持つ出先施設。依頼斡旋は行っていない。

【杉田玄白(すぎた・げんぱく)】
 月道を渡って欧州に留学経験のある侍。博識を買われて与一公に招聘され、軍師、矢板川崎城副将、那須藩薬局長を兼任する。

【結城朝光】
 白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
 那須藩重臣・小山朝政の弟で、源徳家康を烏帽子親に持つ。最近は結城秀康とも名乗る。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb3897 桐乃森 心(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5648 イリアス・パラディエール(31歳・♂・侍・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●互いの溝
「江戸城攻めて、家康様追い落とす必要って本当にあったんで御座いましょうか? 狸でも政には優れた方で御座いましたのに‥‥
 家康様と仲直りして戦を止めにする道も考えて置いて頂きたく思います」
 桐乃森心(eb3897)の軽い一言を皮切りに、初日の会談は親源徳派や那須藩士らの罵詈雑言の嵐。
「まずは持ち帰り、改めて会談を開くですよ」
 那須藩士・七瀬水穂(ea3744)の一言で1日目の会談は終了した。

「本当に三公会談を成功させる意図があるのでしょうか‥‥」
 結局、言い分を聞いてもらえなかった義経公は唇を一文字に結ぶ。
「これでもかと譲歩なさることです」
 九紋竜桃化(ea8553)は、京都の鉄の御所での鬼の軍勢との戦いを語り始めた。
 平織兵1000すら撃退した人喰い鬼兵隊や剛力の弓熊鬼隊でも、局地戦なら新撰組や冒険者たちの猛者で撃退できたことを。
「義経軍は鬼との戦いに専念すべきです。義経様を慕って残った300の兵の私心なきを見せることが肝要。
 補給路の一切を那須様に預けて命運を委ね、那須側の軍機に配慮すれば、さしもの那須も我が軍を拒みはしないでしょう」
「源氏の棟梁が、そこまで譲歩しなければならんのか!?」
「そこです、佐藤殿。いっそ、源氏・奥州・伊達という衣を脱ぎ、まっさらな御自身で天下に挑まれては」
 義経家臣に迎えられたはずの九紋竜やジークリンデ・ケリン(eb3225)の容赦ない一言に、血管を浮かる継信。
「理想と正義を掲げるために、自立と実績を以って信義を示すのです。かつての義家公のように」
 領土を持たず権力基盤を経済に求め、関東管領なりの官位で各領主を統率する大戦略だが、自己矛盾や既得権益の問題もある‥‥
「現在の状勢を鑑みるに、伊達勢にも下野勢の監視下に入る了承をして頂くことは必須かと」
 我らは那須公の配下ではないと激しく主張する伊達武将に、陸堂明士郎(eb0712)は身じろぎ一つせず返す。
「今は義経公の傘下にあることを弁えなければ、公の志を無に帰すだけだ」
 そうまで言われては伊達勢も口を噤むしかない。
「奥州庇護の源義経、関東平和を志す源義経‥‥ 義経公は、どう立とうとしておられるのか?」
「明士郎殿、これは奥州から離れなければできないことなのだろうか?」
「奥州と手を切るつもりはない‥‥と?」
「えぇ。奥州と縁を切って関東の平和を得て‥‥ その後に待っているのは、他国を、奥州を侵す戦に思えます。
 だからこそ、奥州と手を切ってはいけないと思うし、落都した僕に力を貸してくれた人たちの好意を無にできない」
「志だけでは信を得られず、よって理想に遠いという現実を目の前にしても‥‥ですか?」
 源義経の真なる考えを丸裸にしようと、陸堂の物言いも些か意地悪。
「信じてもらうために他者を切り捨てる僕が明士郎殿の望む僕の姿なのかい? 皆の言葉を借りれば、何の実績もないのに」
 見渡す義経公を前に、来迎寺咲耶(ec4808)が口を開いた。
「義経公は人々の安寧の為に鬼退治に動いたの。私が味方するのに複雑な理由なんていらないわ。
 全てが望むままといかずとも、やるべきことをやらせてあげたいだけよ。単純に動けない人がいるのも、まぁ仕方がないけれどね」
 陽動や最先鋒や危険な戦場を負わされても『義経軍を利用してもらう』ことを逆提案すべきと来迎寺は説く。
「那須の手駒になれと申すか!?」
「そういうわけではないけれど、志を示す一手にはなるかも‥‥ 夢見がちに過ぎるかな?」
 微笑む来迎寺らを中心に、議論は熱を帯びてゆく‥‥

●下野二公の酒席
 初日の交渉は全体的に見れば決裂だが、義経公の器を試すために追い詰めた意味で下野陣営にとっては成功と言える。
「味方を装い、援軍を派遣して内部で裏切った伊達勢が心配ですよ〜」
「領内通行で義経様は大幅譲歩、配慮が必要で御座いましょう。江戸の例もありますし、看過できなくて当然っすね」
 伊達を目の敵にする一派の悩みどころは、七瀬や桐乃森が言うように、そこだ。
「懸念は幾らでもありますが、大義名分は義経公にある。そこが我らの泣き所ですからね」
「与一公よ。ビシッと言ってやればよいのだ。白河を那須が抑えておれば、八溝山を鬼になぞくれてやる愚は犯さなかったとな」
 苦笑いする与一公の隣で、宇都宮公は杯を乾す。
(「下野が譲歩して互いの妥協点が見い出せるのか、理想に溺れて義経軍が瓦解するかは指導者たちの判断になるですね‥‥」)
 下野としては妥協点はないと考えているようで、七瀬の想定内でも悪い状況にあった。
「よひつねさんのお力をお借りするべきかと。誂えたように宇都宮に鬼が現れたのなら、すぐにでも向かって頂いては〜?」
 毒見で宇都宮公の膳の料理を頬張る桐乃森が、何故そう思うという公の問いに答える。
「八溝の動向が正確に掴めてない以上、下野の兵はなるべく温存した方が宜しいでしょうし‥‥
 少なくとも、義経様は一番肝心な正義を成す心をお持ちになって居られるのではと。
 足りぬ所は補えば良いですし、今は信用できずとも、暫し見守っても良いのでは?
 お二方があくまで義経様を信用できないというのであれば無理で御座いましょうけど」
「なら、那須・宇都宮・義経の三軍が個々で連携した方が混乱も少ないですよ〜。義経軍は義経軍であるべきだと思うです。
 領内案内役、兼、監視役は必要と思うですけど〜」
「あるいは義経軍を再編してもらい、お互いに立場には拘らず働いて頂ければとは思いますが」
 簡単に結論は出せんという宇都宮公と腕組みで溜息1つ漏らす与一公‥‥
 その姿を見るに、七瀬と桐乃森の進言は既に二公の思慮の内だったのかもしれない‥‥

●三公決議
 再び開かれた会合は、上杉藤政(eb3701)ら中立の冒険者たちの仲介で始まった。
(「前日までとは雰囲気が違うな‥‥」)
 進行を行う上杉は、義経陣営の清々しさに驚く。
 作戦の立案や補給の一切を那須と宇都宮で行うことが示されれば是と言い、義経公が全面的に無茶とも思える提案を呑んだからだ。
「兵糧は2日分しか渡せません」
「随意に」
「義経軍を先鋒にし、後詰めを那須軍が行います」
「構いません。鬼軍の討伐の先鋒であれば、我が軍の望むところ」
 背中に槍を突きつけられ、八溝地方の魔物払いまでさせられての行軍でも一向に構わないと言うのだから‥‥
「我らが義経軍の背後を襲ったら如何する?」
「与一公や宇都宮公が、そのようなことをする人物とは思えません。
 仮にそのようなことがあれば、与一公や宇都宮公を退けた後に我らだけでも鬼軍を蹴散らし、関東の平和を目指します。
 そのときは、改めて与一公と宇都宮公の御力添えを願いたいものです」
「義経軍に組する者たちが、裏切り者を許さぬと存ずるが?」
「そうなって考えます。そんなことにはならないと信じていますし、無用の心配です」
 このように言われては、下野陣営も反論のしようがない‥‥

 ただし‥‥
「源氏の棟梁として下野勢と共に討伐すれば、義経殿の権威に従いやすくもなりましょう。伊達軍の力を借りずに討伐を行ってほしい」
「確かに。今回の挙兵が伊達勢とは関係なく、貴方自身の意思であることを証明できなければ、先に進めないと思います」
 との上杉と九竜鋼斗(ea2127)の言には、きっぱりと義経公は反論している。
「その考えの先に辿り着く奥州との戦は、私の望むところではありません。伊達勢と共に戦ってこそ意味のある戦いでしょう」
「ならば、せめて下野の戦目付けを付けるべきでしょう。義経軍の活動状況を逐一報告させるのです。
 貴方が発った後の府中では、伊達の騎馬隊を見て『下野を攻めるための兵では?』と言う者もいました。
 残念ですが、そう周囲に見えてしまうのが現状だと思います」
 九竜の提案を義経公は快諾するが、武人である宇都宮公や重蔵は「不協の和は軍を損ねる」と難色を示した。
「‥‥ ならば冒険者に戦目付けをさせては?」
「成る程、それは名案ですね」
 九竜の献策に与一公が頷き、言葉を続けた。
「関八州、義経公、冒険者‥‥ 那須での蒼天十矢隊のように十の矢が一つになってくれればいいのですが」
「ならば戦目付けには蒼天隊を名乗らせれば通りも良かろう。義経殿、良いな」
「はい」
「なら、そうしよう。だが、裏切れば幽鬼となっても義経殿を滅ぼす。わかっておろうな?」
「僕は僕の道を進むだけです」
「よかろう。青臭いなら青臭いなりに信じさせてみよ」
 ぶつかり合う三公の視線に火花を感じる者はいなかった‥‥
「良い機会ですわ。義経様、両公に我が軍の軍規を知っていただいては?」
 ジークリンデに頷き、義経公は高らかに義経軍の軍規を発した。

 一つ、軍規に身分の上下なし
 一つ、日本国土の安寧のために戦うべし
 一つ、一切の略奪・横暴を禁ず

●和睦の使者
 そうそう‥‥
 忘れてはならないことが1つ。
 会談終了間際にイリアス・パラディエール(eb5648)の持参した政宗公の書状に、参席者は度肝を抜かれた。

『鬼害を被るは下野も武蔵も奥州も同じ。三公会談を機に那須と蘆名が和睦を結び、鬼軍の駆逐に力を入れられればと思う』

 という内容である‥‥
「信じてよいですか?」
「我が殿は、冗談で、このような書状を出しません」
「僕は書状の内容を信じます。それは、僕が政宗公を知るからこそです」
 七瀬らの懸念に対し、書状を読み上げた義経公もイリアスに口添えする。
「折角、義経公が自分で立つと言ってるのだから、形になるまで見守ってやればよいものを‥‥
 とも、政宗様は申しておりました。与一公、どうか御一考を」
 単純な勢力の枠に囚われない義経公と政宗公の姿を伝えたいと願いが、イリアスの熱弁から伝わってくる。
「和睦の内容次第だが、これが実現すれば那須と奥州の戦は終わるな‥‥」
 那須藩士の言うように内容を詰める時間は必要だろう‥‥