月のない夜に蠢く影

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月14日〜06月21日

リプレイ公開日:2004年06月23日

●オープニング

 ここは江戸郊外の農村。村の明かりは消え、寝静まっているように見える。
「月のない夜には奴らが現れる‥‥」
「そうじゃな。しかし、大丈夫なんじゃろうな? 仮にも魔物じゃぞ」
「オラたちに任せておけ。村一番の力持ちのオラが蹴散らしてやるぜ!!」
 老人の心配をよそに若者は意気軒昂。その忠告を聞きもしない。そこへ微かな気配がした。黒い影が僅かな月明かりに照らされて、ササッと動く。
「来たようじゃな」
 黒い影からゴブゴブとかホブゴブとか聞こえてくる。
「あそこはオイラの畑じゃ。くそぅ、丹精込めて作った物が、あんなに荒されちゃ‥‥ 行こう」
 1人の若者が鍬を持って力持ちの若者を促す。
「しかし、もっと小鬼がおるかもと思うと怖いぞい」
「あいつらを倒せば、こんな心配しなくてもいいんだ。みんな行くぞ!!」
 ついに老人の忠告を押し切って村の若者は黒い影に突撃していった。

「よう、新顔だな。その雰囲気だと依頼を探してるようだな」
 冒険者ギルドへやってきたあなたは、建物に入って依頼が書かれている掲示板を見ていると1人の男に声をかけられた。どうやらギルドの関係者らしい。
「村の若い奴らが小鬼たちを退治しようとしたんだが、返り討ちにあっったんだと。幸い怪我だけですんだんだがな。‥‥で、ちゃんと冒険者に頼んでやっつけてもらおうと思い直したらしい。話を聞く限り、相手は小鬼だ。でも、1匹だけ強い奴がいたって話しだから茶鬼がいるかもしれねぇな」
 男はあなたの顔を見つめるとこう言った。
「どうだ? やってみるかい?」

●今回の参加者

 ea0627 炎 白龍(22歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea0677 関守 京丸(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0967 紅李 天翔(38歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea1073 陽 晴嵐(21歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1164 アール・シュヴァイツェン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2293 凱 鉄仙(41歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea2823 茘 茗眉(32歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●意気揚々
 街道を進む武道家集団‥‥ いや、鎧を着た者が2名、志士らしきジャパン人も1人いるか‥‥
「やってやるぜ!」
 意気揚々と棍をブンブンと振り回しながら皆の前を行くのが炎白龍(ea0627)。
「あそこかなぁ」
 峠を越えようというところで白龍が声をあげた。どうやら目的の村についたようだ。
「荷物持ちもこれで終わりだな」
「ありがとう」
 進んで道中の荷物持ちを買って出た力持ち、それがアール・シュヴァイツェン(ea1164)。頭を使うことが大嫌いなアールは、無謀にもジャパン語を学ばずに江戸に来ていた。しかも今回、周りはほとんど華国人ばかり。幸い今回は、多くの言語を話すことができる茘茗眉(ea2823)やジャパン語とゲルマン語を話せるアキラ・ミカガミ(ea3200)がいたから何とか意志の疎通が可能だった。
「では、村人と村を護るため、鬼らを退治しよう」
 両目に横一文字の獣に裂かれたような傷跡がある盲目の武道家が紅李天翔(ea0967)。聴覚や嗅覚に優れているため日常生活が送れないというわけではないが不自由なのは確かであり、村の様子を見ておきたかったが、それは叶わなかった。
「おぉ、お前さんたちがギルドから来てくれた冒険者とか言う者たちかのぉ」
 村の入り口の目印でもある松の根元に腰掛けていた老人が、杖を頼りに一行へ近寄ってくる。老人の言葉に一行の半数近くが首を傾げている。それもそのはず、この一行の半数はジャパン語を話すことができないからだ。言葉のわかる仲間がジャパン語から華国語やゲルマン語に通訳して、ようやく意思の疎通が取れた。老人は歩き出すと不安そうに振り向いた。
「何しとる。ついてこぬか」
 一行は慌てて老人の後を追った。

「村人に危害が加わらないよう全力で守りますから、安心してください」
 気が付けばいつも損な役回り‥‥ そう思いながらも村人との話し合い窓口になっているのが、一行で唯一のジャパン人である関守京丸(ea0677)。楽がしたかったはずなのに、気がついたら周りの後始末を任されているのはいつものことだった。
「ギルドの依頼で来ました。よろしくお願いしますわ」
 村に入った一行は、村の入り口で出迎えてくれた長老、先ほどの老人と村の若い衆、そして主だった者に茘の通訳で挨拶をした。
「早速ですが、小鬼たちの情報を聞かせてもらえないかしら?」
 一行は早速小鬼たちの情報を収集した。村の被害状況、小鬼たちの進入経路を聞き込んで、村の地形を自分たちの目で確認しながら徹底調査した。毎回同じ場所から進入していることを確認した一行は次の襲撃もここから行われると特定し、進入口の近くから順番に襲われていることから次に襲撃される場所の予測も容易に立った。
「いや〜、さすがだぜ。本職はやっぱ俺たちとは違うな」
「いえ、自分達で解決しようとしたあなたたちの気概は大したものですわ。弱気にならないで自分の村を守ってくださいね。ただし、無茶は避けること。長老も心配してましたよ」
「ハハ、気をつけるよ。オラたちに手伝えることがあれば言ってくれ。村を守りてぇんだ」
 渡りに船と、村人の協力を茘たちは得ることに成功した。さて、戦うには相応しい場所というものがある。村への被害を少なくして小鬼たちを倒さなければ意味はないからだ。
「戦闘すれば土地が荒れますから休耕地があれば良いのですが」
「休耕地? なんだそれは?」
「文字通り作物を作っていない畑のことですわ」
「食うに困ることもあるってのに、そんなもんあるわけねえ」
「そうですか。それではどこかの畑を荒らしてしまうことになりますが‥‥」
「構わねぇ。また耕せばいいんだから。あいつらをやっつける方が大事だ」
 侵入経路を見張るための隠れ場所として小さな丘と里山が選ばれた。ここなら戦闘地点と決めた畑を見渡せる。その畑への経路以外の場所は、道を塞ぎ、罠を張った。実際に待ち伏せした時に見間違わないように仲間の潜伏場所の確認も十分にした。灯りの用意と小鬼たちを照らすタイミングの打合せも万全だ。
「頑張らないとね」
 思い込んだら命懸け、両手の拳をグッと握り締めて気合を入れたのは陽晴嵐(ea1073)。気になって手伝っていた茘のことは、もしかして初恋? ‥‥か、どうかはわからない。(笑)

 小鬼たちが逃げ出しそうな場所を柵など作って徹底的に封鎖しているのがアキラ・ミカガミ(ea3200)。短槍を得物とする一風かわった騎士である。
 兵法を知る彼と関守は部隊を3つに分けることを提案し、仲間の同意を得た。小鬼たちを迎え撃つ第1部隊。見張り場で小鬼たちの接近を監視して奇襲をかける第2部隊。小鬼たちの逃走ルートを塞ぎ、村人を護衛する第3部隊。まず第1部隊が戦闘に突入したら村人たちが灯りをつけ、第2部隊も攻撃に加わる。第3部隊が小鬼たちの退路を塞ぐという手順だ。
 そこへアールがやってきた。作戦立案者に聞いてほしかったということもあるが、ゲルマン語が堪能なのはアキラだけだからという単純な理由もあった。
「夜戦の特訓をしとかないか?」
「確かに‥‥ 暗闇での戦闘に慣れておいて損はないよね」
 一行は村人たちと一緒に夜戦の特訓をした。

●月のない夜
 ついに雲に隠されて月の出ない夜がやってきた。夜戦の訓練の後、朝から昼までぐっすり眠り、夜に力を発揮できるよう生活パターンを変えていた一行は、眠気に悩まされることもなく見張りについている。
「‥‥ゴブ」
「‥‥ホブゴブ」
 月明かりが少ないとはいえ声を立てている小鬼たちの気配を、常人よりも森の中での移動に長け、夜目の効く茘と陽の2人が見逃すわけがない。
(「1、2‥‥ 6」)
 報告にあったとおりの数が確認できた。側にいた陽に無言で合図すると里山を音を立てないように気をつけて降り、小鬼たちの来た道を忍び歩く。

「何かわくわくするぜ!!」
 夜目で小鬼たちの数を目算し、白龍が自慢の棍を振り回しながら我先にと突っ込んでいく。
「フゥン!!」
 6対3。倍する戦力を有する茶鬼たちは数を頼りにその士気は高い。茶鬼は鼻を鳴らすようにして斧を振ると小鬼を白龍へけしかけた。
(「よし」)
 白龍の思惑通り、茶鬼の周りから3頭の小鬼が引き離され、アールと紅李が茶鬼にとりつく隙ができた。バサバサバササ。茶鬼たちの背後から何か音が聞こえてきる。茘と陽が進入路を塞いだ音だ。茶鬼たちが振り向こうとしたとき、両側の小高くなったところから一斉に松明が投げ込まれ、茶鬼たちの周りが明るく照らされる。
 !! それに一瞬気をとられた茶鬼にアールのロングソードが命中した。
 続けて茶鬼と思しき1頭だけ雰囲気の違う敵に紅李もオーラパワーを付与して拳を繰り出すが、盲目ではそうそう簡単に当てることはできない。
「ホブ!!」
 茶鬼は攻撃を難なくかわす。手ごたえのなかった紅李は近くの小鬼と感じた相手に拳を繰り出した。
「俺だよ、何やってんの」
 紅李の拳をかわしながら、白龍は小鬼へ中棍棒の一撃を食らわせた。チクッ、チクッ。陽の投げた手裏剣が茶鬼と小鬼に刺さる。気合と共に茶鬼の傍にいた小鬼に茘が蹴りを入れた。しかし、非力な茘と陽の攻撃はあまり効いていない。急に明るくなったこと、挟み撃ちにされたこと、数がほぼ同数になったこと、急に不利な状況になって小鬼たちの士気は早くも瓦解していた。我先に逃走を始めようとしている。それを阻止しようと陽は拳を繰り出すがダメージにはならない。蝶のように舞い、蜂のように刺すわけにはいかなかったようだ。幸い足を止めることはできたので、すかさずオーラソードの発動のために闘気を練った。茘もディザームのために闘気を練り始めた。
 戦意を失った小鬼たちは終始押され気味となった。紅李の攻撃は相変わらずほとんど命中していないが、ディザームで武器を落とされ、集中攻撃を受け、小鬼は2頭倒れている。不利に耐え切れなくなった茶鬼は我先にと逃げ始め、算を乱した小鬼の1頭が灯りを照らす村人たちに突っ込んでいく。
「悪いけど、僕の相手をしてもらうよ。果たしてキミは、僕より強いのかな?」
 突っ込んでくる小鬼の斧をかわしてアキラは槍を突き出した。ギャアア。突き刺さる痛みに小鬼は地面を転がるようにのたうつ。
「僕の相手としては不足だね」
 数回貫いた槍が小鬼に止めを刺した。逃げ出した茶鬼たちがこちらに来ないのを確認して、アキラは追撃に移った。

(「何でこんなことになったホブ」)
 逃げ出した茶鬼はこの状況が信じられなかった。この前だって簡単に勝ったのに‥‥ 逃げ遅れた小鬼たちは、後ろで攻撃を受けている。しかし、それを援けようなどという気持ちは毛頭ない。部下の小鬼たちはまた連れてくればいいのだから‥‥
 ピシャッ!! そのとき茶鬼の視界は閃光に包まれ、体中に激しい痛みが襲った。間を置かずに何かに切りつけられる。
「逃がしません」
 茶鬼が顔を上げると、日本刀を構えた人間が1人。ブレスセンサーで大まかな位置を確かめ、逃走してくる場所へライトニングトラップを仕掛けて待ち伏せしていた関守である。茶鬼は再び日本刀を振り上がるのを見たが、それをかわすだけの余力はもう残されてはいなかった。

●勝利
 いろいろ困難はあったが、一行は何とか茶鬼たちを退治することに成功した。陽は村人と魚を釣り、他の一行は戦いの後片付け手伝いをして、ささやかながら祝勝の宴を開いた。徹夜明けで疲れていたのと、戦いに勝った喜びからか村人と一行はひとしきり騒ぐと誰からともなく寝息を立てていた。今日は静かに夜が更けていく。