生存を賭けた戦い

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2008年08月21日

●オープニング

 江戸から少し歩いた武蔵国の山岳地帯。
 近隣に大都市を抱えるとはいえ、手付かずの自然が残っており、野生動物も多い。
 これらを狩って生計を立てる者たちもいる訳だが、往々にして狩る者が狩られる側に回ることもある訳で‥‥

「人里近くに下りてきた熊がいるんだと。
 その熊を山奥へ追い返そうとした狩人が怪我をさせられてな‥‥
 あわよくば狩ろうと欲を出した自分が悪いと狩人は言ってるらしいが、舐められると里に被害が出かねない。
 で、金を出し合って熊を狩ろうという話になったんだ。
 尤も村の財布も余裕があるって訳じゃないから、狩った熊は村人が売りたいようだな。
 冒険者への支払いを幾らかでもトントンにできればってことらしい」
 ギルドの親仁は、冒険者たちに周辺の地形や経緯を説明してゆく。

「でかいな‥‥」
 冒険者は溜息をついた。
 相手は、全長は4〜5mはあるかと思われる大物という話‥‥
 しかも戦場は、相手に分のある山間地‥‥
 仲間を傷つけられた狩人仲間たちから現地近くまでの案内は受けられるとはいえ、最終的な戦闘は冒険者たちの力量次第‥‥
「しかし、腕試しには丁度いい」
「倒せば熊殺しも名乗れるしな」
「中堅の冒険者には、そうやって油断して命を落とすのがいる。気をつけるんだな」
 ギルドの親仁は、笑って冒険者の背中を叩いた。

●今回の参加者

 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4630 紅林 三太夫(36歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb7152 鳴滝 風流斎(33歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4127 パウェトク(62歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

任谷 煉凱(eb3473)/ レイ・カナン(eb8739)/ 桜乃屋 周(eb8856)/ 高比良 左京(eb9669)/ 九条 芽衣(ec5147

●リプレイ本文

●山の畏怖
 山に生きる者たちにとって畏敬の念を以て語られるもの。
 巨大な熊は、圧倒的な存在感から、時として山の神にも例えられる。
 例えば部族の勇者カムイラメトクであるパウェトク(ec4127)の故郷である北方蝦夷などでは『カムイ』として崇められている。
「いかんの、無闇に怒らせては。しかし、ようやってくれた。助かるよ」
 年長者として村の狩人たちを嗜めるが、彼らが情報を集め、村へ降りて来ぬよう頑張っていたことに対しては労いの言葉を忘れない。
 退治に来る冒険者たちのために、目標となる稜線や大木、奇岩や沢など地図を作ってくれていたのだ。
 つたないながらも、彼らの地図からは村を守るための熱意が伝わってくる。
「一度、人を襲ったからな。癖になって人里を襲いかねないし、放っておけないねしね」
「うん、これ以上、誰かが傷つく前に退治しないとね」
「ただの熊じゃないみたいだし、地形が悪いと流石に不安だ。誘導頼りにしているよ」
 カイ・ローン(ea3054)や十六夜りく(eb9708)の言葉に、狩人は怪我した仲間のためにも尽力は惜しまないという。
「ところで、狼さんはいなかろうな‥‥ 他の生き物にも気をつけねばならぬ。教えていただきたいのぅ」
 パウェトクは戦場となる山を見上げ、綿密に打ち合わせを始めた。
 番(つがい)、もしくは子連れとなれば、危険度は飛躍的に上がるが、今回は違うようで、その点に関しては一安心。
 危険を察知して警戒しているのか、狼や鹿などの動物たちは移動しているらしい。
 ならば、熊にのみ警戒すればいいわけで‥‥
「張り切っていくわよ〜」
「あぁ、ドジは踏まないさ」
 いや、これを退治しなければ狩人たちも飯の種を失うのだから‥‥と、十六夜や紅林三太夫(ea4630)たちは気合を入れる。
「ほいほい、皆で頑張るでござるよ。ほれほれ、村人の皆も戦勝祈願の河童踊りをするでござる」
 鳴滝風流斎(eb7152)の奇妙な踊りに合わせてぎこちなく躍る村人たちを見て、冒険者たちは良い意味で肩の力を抜いた。

 さて‥‥
 狩人の助けを借りて大熊の活動範囲で戦いに適した場所を選び、カイは川原の石に腰掛けて待つ。
「どうも調子が狂うね。ただの熊じゃないみたいだし、地形が悪いと流石に不安だよ。でも、精一杯努めないと」
 前線に出て戦うことが多いカイだが、前後の味方の連携のための潤滑剤であり、決め手としての大役にあたることは少ない。
「だよ〜?」
 月の精霊妖精ユエが首を傾げて肩にとまると、カイは「ありがとう。大丈夫」と優しく微笑む。
 腰を浮かせて足場を確かめながら槍の構えを確認すると、静かに一息。
 平地のような戦いは望めない‥‥ この足場では長期戦になれば必ずどこかで綻びが生まれるだろう‥‥
 そんなことを考えていると、
 メキィ‥‥ バリバリバリ‥‥
 山の一角が引き裂かれた。

●怒らせてはならぬもの
 十六夜の仕掛けた鮭に釣られたのか現れた大熊は、警戒するように鼻を鳴らし、姿を現した紅林を見つけた。
「お〜い!!」
 パウェトクは姿を隠しながら大声で追い立てるように弓矢を放つ。
 蝦夷にいた頃にも爪痕や足跡を辿りながら狩をしたものだ。
 姿は見えないはずだが、人や犬の気配を感じたのか大熊は向きを定め、背中を見せた紅林を追い始めた。
 地響きは距離を置いても感じる。
 誰言おう、山が追って来るとは、よく言ったものだ。
 そして、誰言おう、大熊とは良く言ったもの、どちらかと言えば巨熊という雰囲気だが‥‥
 とと‥‥ そんなことを言っている余裕などなかったのだ。
「凄いね‥‥ だが、追いつかせやしない」
 囮役として熊の前を逃げる紅林だが、平地で彼の足なら余裕を見て逃げられよう。
 しかし、弦や茂みを掻き分けながらとなれば勝手が違う。
 仲間の支援を借りて修正しつつも、事前の打ち合わせと違う道を逃げなければならない状況もあれば際どい部分も多々ある。
 ごおっっ!!
 風を切る巨腕の音に続いて草を引き千切る音や小さな枝や幹が折れる音が響く‥‥
 こんなのを一撃でもくらえば重傷必至‥‥
「ひゅう‥‥ 危ないねぇ‥‥」
 追いつかれそうになる紅林を支援するように忍犬たちが熊の気をひいては茂みに消えてゆく。
 流石に大熊の一撃は鋭く、攻防に優れると言われる忍犬たちにとっても強敵である。
 牙やクナイが毛皮に阻まれる状況では一撃離脱で気を散らすくらいしかないが、彼らにとっても一撃で重傷必至の状況は危険だ。
 それに、今回の作戦で、彼らは熊を追い込む鍵である。
「茶々音! 三太夫さん!! 今のうちに逃げてね」
 十六夜の召喚した大蝦蟇が煙と共に現れ、大熊は一瞬怯むが、それも刹那のこと。
 豪と鳴らす爪を受けて、大蝦蟇は、その身を大きく切り裂かれた。
 大蝦蟇の反撃をかわすと、獰猛に食いちぎられる。
「なぬ‥‥ 冗談ではないでござるぞ。ワン太夫、天晴丸、気をつけるでござるよ」
 攻撃を受ければ自分もこうなる‥‥ 鳴滝は皿が乾く感じを覚え、態勢を立て直した紅林を追わせるように忍犬たちに吠え立てさせた。
「よし! 来い!!」
 ほんの数十秒だが、稼いでもらった時間は無駄にはできないと、紅林は不敵に笑う。

●地鳴り
 木々を薙ぎ倒し、草花や大地を踏み砕く音に、忍犬の吠える声とパウェトクらの声が交じるようになると、カイは腰を上げた。
 そして、邪魔にならぬよう将几を片付ける。
「川原の石も片付ければ良かったかな‥‥」
 敵は目前、今思っても遅いか‥‥ カイは槍の具合を確かめるように振るい、戦いの息を静かに吐く。
「やあ! 連れてきた‥‥ 後は頼む!!」
 紅林は息を切らしながらカイの後ろへと飛び込んだ。
 ごふう、ばふお‥‥
 大熊は追撃で乱れた息を整えるように身を低くして近付いてくる。
「カイを警戒してるんだな‥‥ それとも力量でも察したか?」
 突き刺さるような敵意を込めて静かに迫る大熊を見てもカイに動じた様子はない。
「優しき母、偉大なる聖女セーラよ。請い願わくは、その慈愛で護り給わんことを‥‥」
 身構えながら紅林と自身にグットラックをかけるとカイは神聖騎士の名乗りを上げた。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
 霊矛「ワダツミ」アニマルスレイヤーの穂先が大熊の額に向けられたのを合図に相手も悟ったようだ。
 これは挑戦だと‥‥
 本気で襲ってくる熊の殺気は空気をも震わさんをや。
(「あれに立ち向かうカイの勇気は賞賛に値するな」)
 紅林は射線を確保するために距離を取った。
 自分をかばいながら戦えばカイに不利だし、大熊を逃がさないよう包囲陣を厚くするのは当初の作戦でもある。

 先に仕掛けたのは大熊!
 カイは鋭い噛み付きを槍術で捌きながら敵の力量を測る‥‥
(「かわせば一撃をくらいかねないか‥‥ だが、俺には仲間がいる」)
 楽々と捌けてはいるが、戦いでは何が起こるかわからない。
 それに、最良と思える戦場を選んだものの、足場も良いとは言えない。
「狙い撃ちぞ!」
 パウェトクは熊の脇腹を狙い撃つ‥‥
(「熊に関する知識を深めなければならんの‥‥ 正確な急所がわからねば‥‥」)
 が、2矢放ったものの効果は不十分なようだ‥‥
 紅林も矢を放つが、やはり毛皮が強固な鎧となっている‥‥
「頼むわ、茶々音!! 距離を取りながら死角を狙って」
「ワン太夫、天晴丸、足下を狙って動き回るでござる!」
「セイ! 彼らに協力して熊の気を散らしてくれ!」
 十六夜、紅林、カイの連れてきた忍犬4頭が一斉に熊に襲いかかる。
 その素早い動きに翻弄された寸暇を狙って魔法が跳ぶ!
 ぐぅぅぁあ‥‥
「よくやった、ユエ!」
 カイの高速詠唱コアギュレイトは利かなかったが、パートナーの精霊妖精のスリープが熊を眠りに落としたらしい。
 だが、そこで手を緩めるほど忍犬たちは臨機応変ではない。
 クナイで切りつけられた痛みで熊が目を覚ます。
 だが、攻勢に転じる好機には違いない。
「目を狙って!!」
「そうだね! 毛皮が厚くても目なら!!」
 十六夜の直感に、カイの霊矛の穂先が正確に目に突き刺さる。
 ごおぉおうわぁあ!!
 地響きも立てんばかりの咆哮に忍犬たちは一瞬距離を取り、次の態勢に備えた。
「そういうことでござるなら!」
 微塵隠れの爆音と共に熊の背後に現れた鳴滝は、熊の身を蹴り、首に腕を回すと小太刀「陸奥宝寿」を残った目に突き立てる!!
「手負いの熊は危険でござるぞ!」
 熊の巨体は、それだけで凶器。暴れる熊に押し潰される前に離れる。
「決まったかな‥‥」
「いいえ、油断は禁物よ」
 紅林に言うと、十六夜は大蝦蟇を召喚して万全を期す。
 射撃で熊の士気を削ぎ、忍犬で四方から吠え立てて逃げ場をなくす間にもカイの槍が大熊の体力を奪ってゆく。
 アニマルスレイヤーの槍を数撃くらわせたにも関わらず大熊の凶暴さは収まらないのは、まさに畏怖に値する‥‥

●生まれてくる幸せ
 さて‥‥
 矢も撃ちつくさんばかりの総力戦を以て、熊は遂に沈黙した。
「大自然の驚異とは、よく言ったもんだよ」
 紅林は不敵な笑いを浮かべて熊を眺めている。
「強敵に敬意を払おう」
「今度生まれて来た時も、幸せになるでござるよ‥‥」
 神聖騎士の礼を取るカイの隣で、鳴滝は熊に手を合わせながら、村に祠を作り、熊を祭るよう提案するつもりであった。
 祭るに値する強敵であったし、山に生きるものと人との共存共栄が続くよう考える切っ掛けになればと思う。
「強かったぁ‥‥ 大蝦蟇が十分に力を発揮できるように、あたし自身強くならなきゃね」
 十六夜は思わず安堵の息を漏らして岩に腰掛けた。
 後は、熊の体を沢を流して村の近くまで運べば、依頼は終了だ。
「帰ったら熊肉の狩人鍋だそうじゃぞ。仕事の疲れも飛び去ろうて」
 毛皮には焦げや槍傷があるので、肝は諦めなければならないだろう。
 少し残念に思いながらパウェトクは仲間たちを励ました。