【毛州三国志】甘苦い酒の味

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月18日〜07月23日

リプレイ公開日:2008年08月31日

●オープニング

●酒宴
 源義経は軍勢を滞在させている間に酒席を何度も設けている。
 源徳武士であった坂東武士たちであったり、奥州勢の伊達騎馬隊の武将であったり‥‥
 商業に勢力基盤を求める大戦略を固めるためか、商人たちとも活発に交流をしているようである。
 その一席が陸堂明士郎(eb0712)と重蔵の連名で催されることとなった。
 冒険者たちを集め、属する頚木(くびき)に縛られずに酒を交わしたいというのが、その主旨だ。
 尤も、酒で口が軽くなれば、自論が出てくるのは仕方ないとして‥‥
「義経公には、実績を積んで、いずれは源氏の頭領として関東における盟主となり、奥州と関東の橋渡し役になって頂けたら」
「明士郎、公は頑張っておると思うがな。政宗公の言葉ではないが、ある程度の結果が出るまで待てんのか?」
「ですが、最初の結果が後々の方向性をつける‥‥ということもありますからね。
 言っておきたいことを言っておかずに後悔するのは御免です‥‥」
 こうして義経と佐藤兄弟、それに重蔵ら冒険者たちを交えた酒宴が開かれることとなった‥‥

●那須と蘆名の和睦
 それが現実になるにつれ、関東一円に驚きの波紋を広げる親源徳派である那須藩と奥州勢である蘆名藩の和睦。
 ようやく戦が終わったと喜ぶ者がいれば、下野が奥州に靡いたと言う者もある。
 他にも処々の意見や噂が飛び交っているが、話題の中心は仲介役をしている『伊達』であろう。
 戦の決着が和睦つく、それ自体珍しいことでもないのだが、優位にある奥州勢が行っているのは降伏勧告ではない‥‥
 奥州勢も退くところは退かねば話が纏まらないのが現状だ。
 それを仲介しているのが奥州勢の副王的な立場にある伊達であるのだから、少し話しは複雑なようだ。
 漏れ伝えられるところによると白河小峰城の返還は確実視されているらしいが、それでは蘆名勢も収まりがつくまい。
 かなりの人的被害を出しながら白河を確保してきただけに‥‥
 それでも、和睦の道が進められているのだけは確かなのではあるのだが‥‥


※ 関連情報 ※

【源義経】
 源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
 様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
 まさに一歩一歩進んでいる状態。
 源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。

【重蔵】
 隠居出戻りの元侍。坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をしている。
 現在は義経軍の客将として各方面の折衝役として働いている模様。
 剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
 ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるぞ。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5648 イリアス・パラディエール(31歳・♂・侍・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ウィルマ・ハートマン(ea8545)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●乾杯の味
 各々の思いを抱いて義経公の催す酒宴へと冒険者たちは赴いた。
「義経公は座っていてください。他の者が気を遣います」
「邪魔かい?」
 屈託のない笑顔で宴席の用意をする義経公に九竜鋼斗(ea2127)は苦笑い。
 それに苦笑いを返す義経公を見て、七瀬水穂(ea3744)は普段の明るさを失っていた。
「水穂、正直がっかりなのです。義経公は伊達の肩を持ってばっかり」
「義経公は良い人だと思うけど」
「まあ、期待しすぎたんですけどね」
「しがらみが大変なだけなんだよ」
 肴を運ぶ来迎寺咲耶(ec4808)の顔は明るい。仕方ない…という雰囲気の笑顔だが、他の者の苦笑いとは根本的に違うようだ。
 そう‥‥ 周囲の義経兵と同じ空気と言えば良いだろうか‥‥
「さて、始めよう」
 宴席の庭には準備を手伝った義経兵らも招かれ、来迎寺の労い酒に相伴している。
 義経公が彼らに杯を掲げると、一同から乾杯の声が挙がる。
 貴族階級には良い顔をしないものもいるが、どうやらこれが義経公の流儀らしい。
「この席は無礼講にいきましょう」
 それぞれに物申す表情を察した義経公は、発言を促す。
「奥州との協調、鬼の討伐と義経さんの理想は素晴らしとは思うですけど‥‥
 府中へ集まった多くの志願者を捨て置き、敵対藩が主力となっている軍を下野に入れようとし‥‥」
 義経公の言葉が終わるや否や一気に話し出す七瀬に、一同は驚きながら聞き入った。
「会談で奥州と手を切るつもりがないと宣言したこと。
 また、是非は別として、三公会談の席にて関係ない伊達の名で和平を提案したこと。
 義経さんは、武蔵の民や下野藩主に対して胸を張って信頼を得るために配慮したと言えるですか」
 聞きに回る義経公を覗き、来迎寺は共にするのが家臣の務めと定める。
「源氏の棟梁として自立どころが、奥州べったりな挙兵からの動き。
 正直なところ、義経さんの言っていることと、やってることにはズレを感じるですよ。
 義経軍の下野での活動に対する厳しい条件は、与一公の義経さんの言動に対する評価の結果だと思うですよ。
 源氏の棟梁である義経さんの行動は、良い悪いに関わらず周囲に大きく影響と混乱をもたらすです。
 その行動がもたらす結果を、もうちょっと良く考えて下さいなのです。
 それから、人を率いるなら理想だけでなく政治も必要と思うですよ」
 潤んだ瞳、朱に染まる頬、きゅっと結ばれた唇、全てに彼女の思いが込められている‥‥
「真摯な意見ですね‥‥ 耳が痛い」
「義経公、何故そこまで奥州との繋がりを強調するのです?
 貴方は元々奥州側の人間ですし、奥州との繋がりを大切にしたい気持ちもわかりますが‥‥」
「藤原公は大恩ある身ですが、贔屓しているつもりはありません」
 七瀬の意見に申し訳なさそうに頷き、九竜の問いに義経公は首を振る。
「まず、私は正当な理由なしに奥州に刃を向けようとは思いません。
 また、ここで奥州勢を締め出せば、後々、彼らと戦う火種となりかねないとは以前に言った通りです。
 七瀬殿の言うように、下野の示した条件は、私に対する評価なのでしょう。
 ですが、それを呑んで結果を残すことで下野と奥州の和解の切っ掛けになれば、国の安寧に繋がるものと信じています」
「そもそも八溝山が鬼に占領されたのは、奥州が攻めてきたから手が回らなくなったせいじゃないですか?」
 ある意味で義経公が諸悪の根源だから文句の一つも言っておきたいと憚らないカイ・ローン(ea3054)の言は厳しい。
「あと、昨年の江戸攻防で新田を討伐できていれば、今のような数々の勢力争いも抑えておけたはず。
 その上、家康殿が江戸から出たことにより京都での争いを仲介できる者がおらず、あそこまで酷くなったという見方さえもできます。
 本当に江戸に攻め込む意義はあったと言えますか? 江戸攻めに協力した義経殿の考えを聞かせていただきたい」
 カイの棘は鋭い‥‥
「私は家康公の失政によって関東が混乱していると聞いていました。
 失政を改めない家康公を糾弾するために挙兵した新田殿を助けるために参戦したのです。
 奥州公への恩義もありましたが、その考えに同調したことを間違ったとは思いません」
 この物言いには、流石に冒険者たちも声を上げた。だが‥‥
「ですが、関東に出て政治を知りました。
 家康公の失政は兎も角、新田殿に正義があったかどうかは疑問の余地があります。
 結果に関しては、世間知らずで済まされる問題ではないでしょう」
 と言われれば、語気も和らがざるを得ないが、治まる訳もなく‥‥
「義経公に恩義ある奥州と手を切れとは言わぬ。
 義経公には、関東の盟主として、真の意味での平和を齎す奥州との架け橋になって貰わねばな。だがな」
 陸堂明士郎(eb0712)は語尾にドスを利かせた。
「公に聞きたい。関東を治めるのが奥州である必要が何処にあるのかを。
 近年、江戸は家康公が治め、曲がりなりにも開いてきた土地。
 妖狐襲来に大火と不幸が続き、神剣の件でも不審を招いたが、良く治めていた。
 その源徳を、奥州は協力すると見せかけ土壇場で裏切った。
 不信感を持つなと言う方が無理であろう」
「妖魔の跳梁を許したのも、大火を防げなかったのも、神剣で騒動を巻き起こしたのも、家康公の失政です。
 家康公1人の責任ではないにしろ、責任の一端は公にあります。
 それに戦の勝敗は武家の習い。油断していたのは源徳でしょう」
(「義経公も若い‥‥」)
 そこまで言わなくてもいいものを‥‥と来迎寺は義経公を慮る。
(「鬼退治の目途は立ったけれど‥‥ やれやれ、しがらみばかりが先に立って前途多難か」)
「事実と真実は違うという。
 奥州へ不信を持つ者から見る真実と、源徳に非ありと奥州と共に戦った者から見る真実、同じである筈もなし。
 どちらが正しいという話じゃないが、この鬼退治において互いの真実を確かめ合うこともできるだろうさ」
 たまらずかけた来迎寺の助け舟に佐藤兄弟が頷いた。
「理屈をつけて他国を掠め取る奥州の大儀は、大儀無き大儀としか見えぬ。
 互いに言い分はあろうが、今の関東の混乱を招いた責任は奥州にもあると言える。
 華の乱でどれだけ多くの人が死に、悲しみに暮れたかお分かりだろうか?」
「御飾り、神輿、傀儡‥‥ 将来、それらの名を払拭するために、決死で働く覚悟でいることだけは皆には承知してほしい」
 このときの義経公が見せた表情に、陸堂らは公の矜持を見た気がした。
「諫言するのは、公に期待している為だと御理解頂きたい」
「承知しています」
 陸堂に倣い、義経公たちも杯を乾かした。

●遅れて来る者
「本気で関東に平和を齎すつもりなら、先ず源徳家を御救いなされ。
 家康公と信康殿が、義経公に対して何の恨みもないと仰っているのをご存知か?
 源氏の頭領としての度量を見せられよ。然すれば多くの味方を得られるかと」
「政宗公に源徳を救うよう言っても無駄でしょう。今の僕は神輿でしかありませんから。
 尤も‥‥ 家康公と虎長公の同盟がなっていれば、家康公も兵を関東に差し向ける余裕があったでしょうね。
 政宗公が下総を攻めたのは、源徳の援軍なしと見ての地盤固めと僕は見ています。
 源徳本隊が東進し、江戸を包囲できればあるいは‥‥ということもあったでしょうが‥‥」
 陸堂も義経公も酔わぬ程度に酒を進めている‥‥
「この目で見た訳では無いのですが、奥州と鬼が繋がっているという少々気になる話を聞きました。
 火の無い所には煙は立たないと言いますし、可能性はあると思いますが‥‥」
 九竜も話を終えていない口だ。
「八溝山の鬼には、協力している人がいると思う」
 白河小峰城の蘆名兵が置き去りにした物資を、牛鬼たちが八溝山に持ち帰っている目撃情報をカイが述べると義経公の表情が曇る。
「奥州でも鬼や妖を討伐するのは武士の務め。手を組んで他国を侵すなど信じたくはないですが‥‥」
 義経公の語尾にある疑念の香りでカイらには十分。
 ともあれ‥‥
「和睦に、いまいち信用できないんですけど政治的判断になるですか?
 会戦前までの領地返還でないと鬼の流入が止まらず、那須の国力は疲弊し続けるです。
 現状、蘆名は切り取った領地から得る物より失う物の方が大きそうですが、メンツもあるので難しいと思うですよ」
 下野側から見れば七瀬の言い分は尤も。
(「どうせ、鬼との共謀が義経殿にばれないうちに手を切りたいが、鬼に逆襲されないよう那須を矢面にしようって魂胆だろうな」)
 これは流石にカイも口には出さないが‥‥
「遅れて申し訳ありません」
 伊達家下士・イリアス・パラディエール(eb5648)は、速駆けの汗を拭いながら酒を流し込んだ。
 前の三公会談で那須と蘆名の和睦を運んできた人物だけに、七瀬やカイたちはの表情は怪訝だ。
「政宗様に蘆名に便宜を願い出てまいりました。蘆名に利がなければ動きますまいと思いましたので。
 そこで、無礼は承知の上で義経様にも尽力頂きたく」
「何をしてほしいのです?」
「蘆名家に感状を頂けないでしょうか? 蘆名が和睦に応じるのは義経様の壮挙に協力するためでありますから」
 イリアスの言いように腰を上げんばかりのカイと七瀬を義経公の言葉が抑える。
「できません。和睦もならぬうちに。それに和睦の件で感状を出すとすれば政宗公に出すのが筋。
 蘆名は、即刻、下野から兵を引くべしと催促を入れても構わないと思っているくらいなのに。
 那須・宇都宮両藩には、鬼の暴行から国を護るべく奮戦する姿に感銘を受けていると感状を出したいほどですよ」
(「立場的には決して相容れないと思っていたけど‥‥」)
 義経公の立ち振る舞いに、カイや七瀬は意外なものを感じていた。
「少年、一日会わざれば克目してみよ‥‥ということさ。政宗公も、その辺に期待しているのかもしれんな」
 重蔵は陸堂の隣で独り言しながら杯を傾ける‥‥