【毛州三国志・宇都宮】正に当り、奇に制す
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 86 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月05日〜10月12日
リプレイ公開日:2008年10月14日
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●オープニング
●勇将義経
孫子曰く、
兵は拙速を聞くも、未だ巧みの久しきを睹(み)ざるなり。
下野国の鬼退治に兵を挙げた源義経公は、世間の柵(しがらみ)によって牛歩ならぬ亀歩によって軍を進めていた。
尤も、義経公の進軍が遅れたのには已むを得ざる理由もあった。
那須と蘆名の和睦の一件である。
奥州側からは反発の声もあったようだが、伊達公の後押しで数ヶ月を経て、遂に和睦は成された。
蘆名勢は白河小峰城と支城を開城して撤退。ただし、勢力境界にある支城が1つ、彼らの手に残された。
那須の兵が八溝山への大きな橋頭堡を得たことは確かである。
「奥州街道がなくとも東国に道が開けたというのが伊達殿の思惑かな?」
「その上で蘆名に下野を睨ませ、那須には恩を売ったと‥‥」
「ならばこそ那須には立ち直ってもらわなければ。そのための八溝山攻略でございましょうに」
「そうだね。僕の理想の天下国家に、与一公の治めるような第三の国家は必要だと思う」
戦塵に汚れる少年武者と若武者が、遠く異様な気を放つ山を見据えている。
戦の習いにて数の上下はあるものの、精兵は300の数を保ちつつ、一歩一歩、山を大きく見るようになっていた。
さて、孫子に曰く、
相守ること数年、以て一日の勝を争う。
而(しか)るに爵禄百金を愛(おし)んで、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。
人の将に非(あら)ざるなり、主の佐(たすけ)には非さるなり、勝ちの主には非さるなり。
義経公は、この数ヶ月で千金に値する情報を各地から得ていた。
その情報の出処は、奥州商人たち。彼らは奥州藤原公の信任を得た商人たちらしく、金売吉次と総称されるらしい。
幼少の義経公が、政争から逃れて奥州へ逃げ延びたのが1人の金売吉次の力ではなかったのだとすれば、多少の納得はいく。
ともあれ話を戻すと、下野での鬼軍退治の糧食の出処は彼らであった。
関東の商人たちと繋ぎをつけて義経軍の経済的な基盤を支える算段をつけているのも彼らだ。
「で、どうなんです? 黒脛巾組との係わりは?」
「義経公を支援する商人たちに、おかしな動きはありません。
ただ、義経公が短期間に凄い量の情報を集められたのが、無関係とも思えませんな」
「そう言うな。義経公に私心がないのは、彼を見ていればわかります。そこを利用している者がいれば、それをこそ討つべき」
「ですが殿、我らが動けば目立ちますぞ」
「そのような時こそ、彼らの出番です」
金売吉次を名乗る奥州忍者・黒脛巾組に領内を諜略された経験のある那須与一公や小山朝政にとって、彼らは怨敵。
油断は禁物だが、根深い疑心暗鬼が義経軍との連携に致命的な齟齬を起こさないか、与一公は気が気ではないようだ。
那須藩重臣・小山朝政は、部屋を下がると密偵に次の指示を与えた。
●知将赤頭
「宇都宮の決戦の場が整ったみたいだね」
「義経のせいで時間がかかってしまいましたなぁ。可愛い顔をしているみたいだから、会ったら切り刻んでやりましょうぞ」
「直接、剣を交える必要はないよ。裸にしていけば、剣を持つ手で隠し、しゃがみ込んで戦場へは駆けつけられない」
くくくっと笑う妖艶な鬼女の横では、赤髪の子供が麓を見下ろしている。
「ついでに両の腕も落としてしまわれれば、泣き顔が見られましょうなぁ」
「今は欲張らずに1枚剥ぐことだけを考えなよ。欲張ると損が多いからね」
「それでは迅雷の出来に期待しましょうぞ」
そうだねと赤髪の子供は頷いて微笑んだ。
さて‥‥
下野国宇都宮藩では、領内を荒らす小鬼らの雑兵を叩き、牛頭鬼軍団と犬鬼狼騎兵を追い詰めていた。
これは宇都宮軍の活躍によるものであったが、一方で義経軍の動きで鬼軍の流入が鈍ったからこその好機とも言える。
「鬼軍が立て篭もるのは台地の向こう側だ。決戦は平地の広がる台地の上を制した方が勝者となろう。
兵力は我らが勝るものの、狼騎兵の機動力は侮れぬ。奇襲には警戒を厳にして当たるべし!
この戦で、獄卒鬼は犬鬼と共に地獄に帰すぞ!! 奴らは地獄こそ御似合いだ!!」
宇都宮公による直々の訓示に武士の豪声が響き、鎧を鳴らす音が陣の各所へ散ってゆく。
「足軽の報告に寄りますれば、牛頭兵50、犬狼騎兵50。我らは総勢500なれば、数の差は歴然」
「詰めを誤らぬことだ。言うたであろうが、油断は禁物と」
兵数差は歴然でも鬼軍は精兵だと、宇都宮公は配下の武将に念を押す。
「しかし、兵力も士気も十分なれば、負ける要素が見つかりませぬ。
おまけに、後詰めに那須藩の結城朝光殿が布陣しておられまれば。まぁ、義経公の挙兵で実現したというのが、癪ですが」
「実を取れば良いと考えよ。まずは鬼軍を排除すべし」
御意と礼をとり、武将は作戦図に目を落とす。
「御報告! 冒険者一行、到着されました!」
幕内に報告が響いた。
※ 関連情報 ※
■義経■
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
まさに一歩一歩進んでいる状態。
源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥
【佐藤兄弟】
継信・忠信の兄弟。
奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。
【重蔵】
隠居出戻りの元侍。坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をしている。
現在は義経軍の客将として各方面の折衝役として働いている模様。
剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるぞ。
■宇都宮■
【宇都宮藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
【宇都宮朝綱】
宇都宮藩の藩主。宇都宮大明神座主、及び日光山別当職を兼ねる。
勇猛な武将との噂に違わず、藩内に跋扈する鬼軍を駆逐するために陣頭指揮を執っている。
【宇都宮成綱】
宇都宮藩主・宇都宮朝綱の嫡子。武芸よりは芸術に才能を発揮する人物との噂。
【那須頼資】
下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
那須藩士・結城朝光とは従兄弟にあたる。
■那須■
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。赤頭なる鬼が率いる鬼軍が、関八州を侵す拠点としている。
【小山朝政】
那須藩の宿老。与一公の右腕として活躍する勇将。
【結城朝光】
白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
小山朝政の弟で、源徳家康を烏帽子親に持つ。最近は結城秀康とも名乗る。
●リプレイ本文
●粛々と
「前陣速攻せよ。先陣は台地へ迅速に兵を進め。敵を警戒しつつ足軽を放ち、後続の到着を待って前進すべし!」
宇都宮軍の用兵は、そつがない。
宇都宮公の側で戦局を見ることになった陸堂明士郎(eb0712)は、歴戦の兵(つわもの)としての公の力量を肌で感じていた。
ただ、敵が宇都宮軍の指揮系統を潰しに来るとすれば‥‥
寡兵とは言え、敵は精鋭。窮鼠猫を咬む喩えもあり。
奇襲と伏せ勢にて兵を分断されれば、折角の数の優位も崩れてしまう。
「公、僭越ながら本陣の兵を増やしては?」
「お主の危惧はわかるが、前線の兵を引き抜いて戦はできぬ。敵を殲滅するにしろ、追い込むにしろ、彼の台地は得ねばな」
宇都宮軍の作戦目的は牛頭軍団の壊滅にあり、重要戦略地点の確保は欠くべからざる。
本陣の兵が膨れて進軍が遅れて主目的の達成が困難になっては何だし、宇都宮公の本隊に数の不備がない以上、強くも言えない。
「自分だけでも朝綱公の采配振りを間近にしたいと願います。構いませぬか?」
「好きにせよ。それで、お主の懸念も少しは晴れよう」
自分の意図を見抜いた上で、公が指揮を執っていることに、陸堂は安心した。
一方、足軽を買ってでた磯城弥魁厳(eb5249)は、水辺に潜んで進み、忍びの技で敵の数を把握していた。
流石に1人で敵の全容を確認する時間的な余裕があるとは思えないが、情報は多いに越さない。
見れば、騎獣の狼などが水辺へ喉を潤しに立ち寄っている。
牛頭たちもそうであったが、鬼軍の武具を除いた兵装は身軽である。
「兵糧が尽きているのか、それとも短期決戦を目論んでいるのか‥‥」
今のところ、敵に増援は見当たらない。
「ん?」
犬鬼が笛を吹いているが、音はしていない‥‥
それでも彼らは行動を始めている。磯城弥は敵騎兵の神出鬼没の正体を見た気がした。
恐らく、自分たちには聞えない笛の音で合図を行っていたのだ。
「始まるか‥‥」
彼らの行く先は、方向からして宇都宮軍の側面に違いない。磯城弥は水中に消えた。
さて‥‥
台地へ先に橋頭堡を築いた宇都宮軍は、鶴翼のように兵を進めて包囲殲滅を狙う。
台地を迂回する搦め手で、追い討ちも十分な結果を残せるはず。
牛頭らは数頭を先頭に押し切るつもりらしい。
「それで押し通れるほど甘くはないと思うよ」
「だが、戦は生き物だ。機を見て斬り込むぞ」
「ん。いつでも構わない」
最前線側面の少し後方で武具を確かめる静守宗風(eb2585)に、カイ・ローン(ea3054)は優しく微笑む。
「敵は、あれで総数に近いか」
宇都宮軍の矢や投げ槍が放たれるが、敵の進撃を止めるほどではなく、50頭もの牛頭の塊の圧倒感たるや‥‥
「陰陽師殿の託宣にもあったではないか! 困難と勝ちを共に拾うと!!」
危地にあっては藁にもすがるもの。上杉藤政(eb3701)と共に誓った勝利への信念も、彼らの心の支えの1つであろう。
「忘れたか! 我らは鬼斬りを食っておろうが! 恐れるな! 必ず勝つ!!」
九竜鋼斗(ea2127)の願掛けにならって陣中で振舞われた御握りは、予想外に士気を高めていたらしい。
侍の檄が飛ぶと、足軽たちから鬨の声が起こった。
●優位
四つに組めば宇都宮有利だが、圧倒的な暴力と質量が押し寄せてくれば簡単にはいかない。
「あれほど言っただろうに!」
九竜の抜刀術・瞬閃刃が、牛頭に閃く。
「忝い!」
牛頭には数人掛かりで当たるべしと進言はしておいたが、そうそう戦いの形式美を変えられる訳がない。
戦いが熱を帯びてくるに従い、乱戦なればこそ普段の戦法が出てくるのも仕方ないか‥‥
それを支援するのが冒険者部隊の役目と、静守らは崩れそうな場所へ押し入る。
「悪・即・斬‥‥ 人外の者どもよ。我が牙を喰らうがいい」
逆さ十字の黒盾で重斧の一撃をいなし、返す刃で鬼切り丸の太刀が振るわれると、牛頭が盛大に血煙を上げた。
台地を鳴らす牛頭に、足軽たちの解けかけていた士気が束ねられる。
「ユエはスリープで援護。この場を支えるよ!」
ホーリーフィールドを展開して牛頭の侵入を阻みながら、カイは地獄の業火の如き槍を繰り出した。
「助太刀御免!」
牛頭の出鼻を挫く上杉のサンレーザーなどにも助けられ、宇都宮軍も押し返し始めるが‥‥
「やはり狙いは大将首か‥‥」
牛頭で宇都宮軍の主力を足止めし、犬狼騎兵で本陣を一点強襲して宇都宮公の首級を上げるのが敵の狙いと陸堂は下す。
「だとすれば舐められたものだ」
宇都宮公は将几に腰を下ろしたまま、続け様の下知で本陣は素早く犬狼騎兵への迎撃態勢をとった。
「行ってくるですよ。一発ぶちかませば崩せるです」
「期待しておる。好きにせよ」
七瀬水穂(ea3744)は、公の言葉に意気揚々と陣幕を後にした。
「鬼軍に奇策あれば思わぬ事態に陥らぬとも限らず、勝っている時だからこそ油断は禁物。
特に、この戦の後には八溝の鬼討伐を控えますれば尚更と」
陸堂は一抹の不安を感じていた‥‥
●迅雷
一直線に本陣を目指すとわかっていれば、待ち伏せは容易い。
「いっくですよ〜〜♪」
犬狼騎兵を射程に捉えた七瀬は、威力を抑えながらファイヤー・ボムを撃ち込む。
「火矢を撃てぇ!!」
同時に宇都宮兵からも火矢が飛んだ。火計仕掛けるのは難しいが、敵の戦列を乱して足を止めれば各個撃破の目もある。
だが、突然の火球に驚いたのは犬鬼や狼たちだけではない。宇都宮軍も騎馬を筆頭に列を乱した。
事前通知があったにせよ、馬に驚くなという方が無理である。
「ふにゃ、どんなに訓練しても畜生なら炎を恐れる本能には勝てないと思ったですけど、味方にもいたですね。そういえば‥‥」
とはいえ、傷を負った敵の方が不利なのは歴然。暫時、宇都宮軍の攻勢に犬狼騎兵は散らされてゆく。
「こちらにもファイヤー・ボムがあれば、少しは楽できそうだけど‥‥」
「心配しなくても、彼女なら向こうが片付けば来ますよ」
負傷者をリカバーで癒すカイを守るように、上杉がサンレーザーを撃ち込む。
牛頭との間には宇都宮兵もいるが、油断をすれば突破を許してしまうかもしれない。
「医師の空間だ。負傷者の治療を行うので必要あれば遠慮なく申してくれ。生きて家に帰ろうな」
那須兵から拠出された救護隊と行動を共にしている空間明衣(eb4994)は、素早く負傷者を診てゆく。
だが、那須軍救護隊が携行している薬草やポーションには限りがある。
仁術の心構えに克ち、空間は最も深い重傷者を後回しにした。
「助けてやってくれ! なんで見捨てるんだ!!」
「その者1人に時間を掛ければ、他の者が助からない。非情かと思うかもしれないが、1人でも多く助けたい」
空間の表情が平気ではあろうはずもない。兵たちは、やりきれなさに思わず押し黙る。
ずん! ずん!! ずずん!!
カイたちが地鳴りのする前線を見て、思わず思考が途絶える‥‥
「この迅雷を止められるものなら! 止めてみなぁ!! ぶもぉほほほ!!」
体格の良い牛頭を先陣に、牛頭たちは宇都宮兵の頭上を飛び越え、尋常ではない速さで宇都宮の陣を駆け抜けてゆく‥‥
陣を押し出して圧力をかけた瞬間を狙われたのか、牛頭の塊が本陣を急襲しようと一気に迫る!!
空間の閃華の一撃が牛頭を狙うが、一矢報いただけで彼女の身は吹き飛ばされてしまう。
足軽の混乱で騎馬武者も容易に動けない宇都宮軍に、何頭かの牛頭が突入してきた。
「くっ、死番かよ!」
新撰組隊士でもある静守が思わず吐き捨て、牛頭を斬り伏せる。
「ここからじゃ‥‥」
「諦めるな! こいつらを撃破して、一刻も早く取って返す!!」
兵の諦めの言葉を遮った九竜は、怒りの剣閃・一刃を牛頭にぶつけた!
「やられた! 疾走の術とは!!」
敵の動きを見張っていた磯城弥が全力で追いかけてきたが、彼の足をもってしても今の牛頭兵に追いつくことは困難‥‥
●公の運命
犬狼騎兵の殲滅に気をとられていた本陣において、側面からの牛頭兵襲撃では、いかな宇都宮公でも完全に迎撃はならない。
「是非もなし。諸将を信じて、救援まで持ちこたえるぞ!」
宇都宮公は、将几を離れ、兜を被り、槍を手にした。
突き出した朱槍に牛頭が飛び込み、半身を開いて柄を放つと、太刀を抜き放ち、別の牛頭の重斧を受け流す。
僅かの間に足軽たちは言わずもがな蹴散らされ、宇都宮公の側には、いつの間にか陸堂の他に数名の近侍しか残っていない。
カイの用意した竜旗、鳴弦の弓、ナナカマドの枝などの鬼に対する防御策の全てを役に立てるには人数が足りない‥‥
「不動‥‥ 無理はするなよ」
足元の忍犬も無傷ではない。
「流石に動じないな。君は」
宇都宮公と陸堂がオーラエリベイションを使うと、近侍たちも倣った。
「父上! 助太刀いたす!!」
「おぉ、朝光! お主かっ!」
後詰めの結城朝光殿の率いる那須騎兵10だ。
「那須の軽騎兵か! 助かっ‥‥」
宇都宮の武士たちに安堵の息が漏れ‥‥ 重斧が若武者を襲う!
陸堂が咄嗟に抱えた武者の体は、力なく重い‥‥
「結城秀康、見参!」
槍衾と化した騎馬一隊は、宇都宮公の側を掠めるように突撃して、牛頭の塊を切り裂いてゆく。
「抜刀! 斬り拓け!!」
駆け抜けるときに牛頭の体に槍を置いてきた結城隊は、一斉に太刀を構えて再突入を敢行!
圧迫された牛頭は、2つの塊となって片方は宇都宮隊を押し潰して活路を開こうと殺到する。
この肉の壁では、避けたければ押し留めるか、退くしか‥‥
「うぉおお!」
物干し竿で陸堂は重斧を精一杯押し返す。
「公! 自分の後ろへ‥‥」
その刹那、陸堂が手を伸ばした宇都宮公の腕から急に重さが消えた‥‥
思わず腕を抱え込んだが、そこに公の体はない‥‥
「是非もないか‥‥」
腕を失い、膝をつく武将の首が牛頭の重斧によって飛んだ‥‥
「朝光‥‥」
それが、歴戦の兵・宇都宮朝綱公の最期であった‥‥