【毛州三国志・宇都宮】行けば地獄の仇討戦
|
■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月08日〜11月14日
リプレイ公開日:2008年11月17日
|
●オープニング
●暗雲
冒険者の加勢により、宇都宮軍は兵力を大きく損なうことなく、鬼軍を撃破した。
だが、完勝とは言えない事情もある。
宇都宮藩主・宇都宮朝綱公の戦死という暗い影が、宇都宮藩を覆っていた。
戦術的勝利なるも、戦略的に大敗北‥‥
宇都宮公や冒険者の手堅い応手を鬼の奇策が上回ったわけだ。
だが、冒険者の前線支援が薄ければ宇都宮軍の出血が少なくなかったであろうことは必至。
ほぼ無傷で兵を残し、鬼軍を減じた今、宇都宮内の鬼軍殲滅の好機でもあるのだが‥‥
「成綱様を盛り立てて、殿の仇を討ちましょうぞ」
「いや、成綱様では鬼軍討伐を乗り切れぬ」
「近く始まるであろう源徳と伊達の戦で遅れを取りかねんしな」
「他藩から軽く見られては浮かぶ瀬もない」
宇都宮藩は鬼軍残存兵力を包囲しながら2つに割れていた。
1つは、宇都宮成綱殿を後継に推す一派。
だが、決戦では戦功も挙げられず、武芸より芸術を好む気質の成綱殿では事態を乗り切れないと支持は薄い。
幼いこともあり、宇都宮藩家臣・那須頼資殿以外に支持者がないのが現状である。
いま1つは、結城秀康殿の宇都宮帰還を願い、以て難局を乗り切ろうという一派。
現在の宇都宮家臣団は、彼の擁立に団結していると言ってもいい。
結城秀康殿の擁立には複雑な事情がある。
宇都宮公の妹姫・於万の方を母親に、日本の三巨頭と謳われる源徳家康公の次男として、彼は側室の子として生を受けた。
だが、家康公の正室・築山殿の勘気のため、生後間もなく宇都宮藩の豪氏小山家に養子に出されている。
後、元服を前に宇都宮公の養子となり、白河結城家と縁談。
実父である家康公に元服の烏帽子親をしてもらい、入り婿として結城家の家督を継ぎ、那須藩士となった。
先の奥州侵攻による白河陥落後は矢板川崎城城主として現在に至っており、積み重ねてきた下野国内での名声は高い。
武芸に秀で、施政者としても実績があり、那須公の信頼篤く、家康公の血縁として家柄にも申し分ない。
さらに養子時期からいけば長子とも言える‥‥
「新田や伊達に切り崩されては宇都宮の名折れ」
「いかにも。強力な主君の下に団結し、付け入る隙を与えないのが宇都宮家のためと存じるが? 那須殿」
「‥‥」
この件に関しては、那須頼資殿の劣勢である。
「だが、目前の主君の仇を討つ戦はどうするのだ? まさか他藩の藩士を大将に戦うというのではあるまいな?」
「それでは、こうしてはどうか?」
結城秀康殿が宇都宮一門であることは違いなく、父親の仇を討つ機会を奪う権利はない。
よって、宇都宮成綱殿には大将、結城秀康殿には副将となってもらう。
那須頼資殿に、これを覆すだけの理を説くことはできなかった‥‥
●鬼概
那須藩南東部・八溝山の麓では、一進一退の激戦が繰り広げられている。
一気に詰め寄るかと思われた三公軍の一角、宇都宮軍の足並みが鈍ったことで鬼軍が勢いを盛り返したからだ。
それに伴い、那須軍と義経軍にも被害が出ていた。
双方の兵数に大きな変化はないものの、宇都宮軍の支援を期待できない以上、兵力は半数減と同等と判じる者もいる。
実際、搦め手による兵站の分断や各個撃破、下野と武蔵の国境付近での野盗出現など、つけ込まれている感が否めない。
「迅雷のやつ、上手くやったみたいですわね」
「うん。手傷でも負わせて宇都宮藩内の撹乱を続けられれば御の字と思っていたんだけどね。いやぁ、予想外♪ 想定外♪」
「だが、同じ手は2度通じぬ。奇策は明かせば秘儀とは呼べぬぞ、赤頭」
冷たい視線の女剣士と無骨な狼頭の武士が、赤髪の子供に控えている。
「色々と手は打っているけどね。しっかし、義経の参戦は見誤ったねぇ」
「俺が討ち倒してこようか」
狼の顔に笑みが浮かぶ‥‥
「狼神(おおかみ)、お前さんは自分の役目を果たしてくれればいい。そっちの方が重要だよ」
「承知」
あらあら、仲の良いこと‥‥と女剣士が微笑みながら狼頭武士にしな垂れかかった。
「赤頭、そろそろ私たちも楽しむ場がほしいわね。迅雷のような捨て駒同然では困るけど」
「わかってるよ。異痕(いこん)の出番は、もう少し後だけどね」
彼らは戦煙を背中にする。
義経軍の旗を踏みにじりながら‥‥
●依頼
さて‥‥
下野国宇都宮藩では、主君の仇である牛頭鬼軍団と犬鬼狼騎兵の残存兵力を追い詰めていた。
秋の収穫に差し障りかねないほどの形振り構わぬ徴兵と浪人の傭兵参戦によって大兵力で押し潰す。
そういう作戦である。
宇都宮公が討たれたとき、近侍も多くが討たれてしまっている状況での戦でもある。
藩士にとっても一般兵にとっても立身出世の好機とばかりに、兵が膨れ上がった側面も指摘されてはいたが‥‥
主君の仇討ちに失敗が許されない以上、兵力は多いに越したことはない。
相手が鬼軍であるなら、尚更である。討ち漏らすなど武士の風上にも置けぬ。
これは宇都宮軍の威信を掛けた戦いでもあるのだから‥‥
「それでは、どちらに冒険者部隊がついたとしても恨み言はなしですぞ」
「武士に二言はない」
宇都宮成綱派と結城秀康派の間で、このような取り決めがなされたようである。
さぁ、行けば地獄の仇討戦‥‥
どのような結末が待ち受けているのだろうか‥‥
※ 関連情報 ※
■義経■
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は、政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
まさに一歩一歩進んでいる状態。
源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥
■宇都宮■
【宇都宮藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
【宇都宮朝綱】
宇都宮藩の藩主であり、宇都宮大明神座主、日光山別当職を兼ね、勇将として名を馳せた人物。
鬼軍との決戦において戦死。
【宇都宮成綱】
宇都宮藩主・宇都宮朝綱の嫡子。武芸よりは芸術に才能を発揮する。
【那須頼資】
宇都宮成綱の後見人。
下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
那須藩士・結城秀康の従兄弟。
■那須■
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。
【小山朝政】
那須藩の宿老。与一公の右腕として活躍する勇将。
結城秀康の兄。
【結城秀康】
白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
宇都宮藩主・宇都宮朝綱を養父に、実父の源徳家康を烏帽子親に持つ。
最近、結城朝光から改名した。
養父の葬儀のため、那須を離れられない与一公の弔問の名代として宇都宮に残留。
●リプレイ本文
●成綱勢
「悔しい。あの御仁ならば、仕えても良いと思っていたものを! 」
上杉藤政(eb3701)は、雪辱を晴らすために是非とも仇を討ちたいと公言して憚らない1人だ。
「上杉殿や空間殿の助勢は、まことに有り難い限り。かたじけない」
宇都宮公が生きておられれば、功績から仕官がなっていた公算が大と思う人物だけに、那須頼資も彼に感じ入っているらしい。
味方の少ない状況で参陣してくれたとなれば、尚更のこと。
「礼には及ばないさ。2度も続けて大将を討たれては、たまらない。成綱殿は必ず守らねばならない。
それに医師の手が必要な場所を見極めるには本陣が最も都合が良い」
よく晴れた秋空を見上げ、空間明衣(eb4994)は酒を地に流した。
「すまぬな。色々とやりたい事もあったろうに‥‥」
「父上‥‥ 御無念を残されませぬよう」
日光山別当職にあった宇都宮公の供をすることもしばしばであったという成綱殿の経に、成綱殿の家臣の幾人かが声を揃える。
「日光三社大権現の別当と認められれば、若殿の下へも人が集まってくるかもしれぬな‥‥」
那須頼資も苦悩が多いのか、手を合わせる姿が、疲れのような空気を纏っている。
「私に大将が務まるでしょうか‥‥」
優しい経の音が消え、成綱殿は小さく呟く。
「大将ってのは、どーんと構えておれば良い。まぁ、芸術が得意だそうだから、それを活かすのもあるな。
書画では対象を良く見るだろ? それの応用だ。戦場を広く良く見る事で変化に気付く。それだけでも違うしな」
「近くを見たり、遠くから眺めたり、時には見ないこともあります。書画のようにとは、そういうことでしょうか?」
予想以上に核心を突いていそうな答えに、空間は思わず息を呑む。
「むぅ、確かにそうかもしれない。おそらく正しいと思う」
「でも、筆で人を斬ることはできません。私は向いていないのかも‥‥しれませんね」
明敏さは間違いない‥‥が、優しすぎる‥‥
その場の多くが、治世の名君の可能性に不憫さを感じていた。
●一番槍の栄誉
ジークリンデ・ケリン(eb3225)による空からの偵察を元に結城勢は布陣を調整し、宇都宮軍は攻撃開始の合図を待つばかり。
退治する牛頭鬼らの殺意に足軽らは怯え、それを武士たちが叱責して士気を保つ。
願掛けに鬼斬り(おにぎり)を頬張り、いつもと同じように意気揚々と、いざ出陣! ‥‥とは、今回はいかない。
主君の仇討ち戦であり、悲壮感があるのは仕方のないことであろう。
「これは、鬼の目突き。ま、気休め程度のお守りだ」
そんななか、九竜鋼斗(ea2127)は鬼避けのまじないで前線の武士らの気分を紛らわせ、共に進軍の合図を待っていた。
「那須頼資殿は、秀康殿ではなく、なぜ成綱殿を支持するのだろうな?」
「俺だって普通に考えれば若殿を支持するさ。だが、今まで新田や伊達と手を取らずに来て、主君が亡くなったら‥‥ではな」
「家康公の東征があるそうじゃないか。秀康様が主君なら家康公に安堵の執り成しがあるだろうし‥‥」
「秀康様が討たれるようなことあれば、再び幼君を立てて他の勢力に取り入ることもできよう」
「後見人には、それができぬのよ。国を守るのであれば結城様以外にありえぬ」
近くの武士らとの会話に、九竜は静かに感情を高ぶらせている。
そこへ戦闘馬に跨る武藤蒼威(ea6202)が、前陣へと割り込んでゆく。
「細かい事は判らんが、要は鬼を退治すればいいんだろ。
魑魅魍魎を倒すは武士の本分だ。誰が宇都宮藩主になるかなんて関係ない。鬼軍に勝利するまでのこと」
皮鎧の下に鍛え抜かれたジャイアントの筋肉質の勇姿に思わず道を開けてゆく‥‥
暫時、武士たちが足軽らを叱咤激励する中、攻撃開始の合図が鳴った。
「野郎共、突撃だ。この一戦で決めるぞ!」
味方の矢襖を追いかけるように武藤が単騎駆け!!
「一番槍の手柄は渡さん!!」
周囲の宇都宮武士たちの追従も、戦闘馬ブランマクリーアに僅かに及ばず!
「武藤蒼威! 一番槍は頂いた!!」
犬狼騎兵を斬り倒し、牛頭に一撃を加えながら、質量に物を言わせて馬足を緩めずに錐の一撃で敵陣を突き抜けた。
振り返れば、足を止めた騎馬と多くの足軽たちが敵陣に取り残されている。
「貴方がたの好きにはさせない!!」
九紋竜桃化(ea8553)や九竜が善戦しているようだが‥‥
「救援する! 皆の者、速さこそが我らの利だ。決して足を止めるんじゃないぞ!! 」
「おぅよ! 一番槍は譲ったが、牛頭の首は渡さん!!」
馬首を返すと、武藤たちは再突入を開始した!
●勝敗を決した一撃
戦は一進一退‥‥
偵察により敵の配置を踏まえて布陣していた宇都宮勢は、よく前線を支えていた。
一部の部隊が突入を繰り返したため、陣容が薄くなった部分もあったが、これには予備兵力の投入で対応。
大将・成綱殿が本陣を堅く固めて伝令に手間取る間に、前線近くの副将・秀康殿による采配だ。
その辺は、全軍が感じていたこと。成綱殿への失望感が強まったと言っても過言ではない。
「この先の渾沌を考えるならば、生き残る為に、より強き者を指導者に結城秀康様を迎えるべきで御座いましょう」
「よく言ってくれた。爆炎の魔術師と名高いジークリンデ殿の助力を得られたのは、我に父の仇を討てという天の采配!!」
決戦前日に陣幕を訪れたジークリンデが施したフレイムエリベイション超越の魔術は、勇将・結城秀康の心に火を着けていた。
「結城秀康様に仇討ちと勝利を捧げます」
マグナブローで敵を蹴散らしながらジークリンデが最前線に歩み出ると、溶岩の柱に驚いた宇都宮軍は自然と距離を開けてゆく。
傍らの雪狼の吹雪と数発のマグナブローの結果、戦場に取り残されたのが鬼軍。
その敵の一隊を鶴翼の態勢で大きく取り囲んで‥‥ 普通の戦ならば仕切り直しであるが、今回は違う。
敵陣から忍術の煙が上がり、牛頭たちの殺気が増大した瞬間、ジークリンデの呪文詠唱が終わりを告げた‥‥
「決め手ごと燃えてしまいなさい」
直径100mほどの火球によって即死した犬狼騎兵らは、騎乗の姿勢のまま息絶えている‥‥
そこへ飛び込む一騎!
「勝利は我が手にあり! 敵を押し潰せ!!」
ぶすぶすと煙を上げ、斧を抱えて駆け出す姿勢で倒れこまんとする牛頭鬼の首を、結城秀康の振り回した朱槍が薙ぎ払う!!
その傍らには、ケルピーの騎上で修羅の槍を振るう神聖騎士カイ・ローン(ea3054)。
そして、矢継ぎ早に梓弓を射るレジー・エスペランサ(eb3556)の姿。
「劣勢の敵が一度成功した本陣奇襲を再び可能性は高い。とはいえ、同じ疾走の術でくるとは限らないよ。結城殿、気をつけて」
「残敵とはいえ、油断は禁物。追い詰めても迅雷で決死の敵中突破をされると面白くない。
八溝山の本隊と合流されないように、亡き宇都宮朝綱公の為にも、敵さんには全滅して貰いたい訳で!!」
疾走の術で戦に背を向ける牛頭らに、エスペランサの稲妻の矢が乱れ飛ぶが、足を止めるまではいかない。
「ぐぃいいい、負ける戦いは嫌だぁああ!!」
一際大きな牛頭が宇都宮陣を駆け抜け、頭上を跳び越すように牛頭たちが、足下を抜けるように犬狼騎兵が続く。
「騎兵は槍を脇に天へ掲げよ! 足軽は足下スレスレに穂先を下ろせ!!」
結城秀康の一喝は、周囲に波及し、突っ込む勢いそのままに何頭かの牛頭と犬狼騎兵が穂先の餌食になる。
「流石、結城殿‥‥」
那須の麒麟児、与一公の片腕と謳われた俊英である。
カイは、万に一つを憂慮して黒曜石の聖印を片手で握り、結界を張った。
「あの方向は本陣‥‥ 正直、成綱殿が無事だといいんだけどね」
牛頭から犬狼騎兵に狙いを変えたエスペランサの矢が、結城秀康の近くをすり抜けようとした数頭の犬狼騎兵の足を止める。
「勝ちは決まりましたが、敵の大将までは討ち取れませんでしたね」
「討ち取るのは時間の問題だ。それに宇都宮勢の心は掴んだ。こちらの方が大きいさ」
歩み寄るジークリンデに、結城秀康は不敵な笑いを返した。
派手な戦果を求める宇都宮武士団は、隊列から脱落した牛頭の首を狙いたがっている。
そう判断した九竜は、足下を駆け抜けようとしている犬狼騎兵に狙いを定めた。
「俺は御気楽かつ真剣に‥‥だな。瞬閃刃っ」
夢想流の居合いの抜刀術で騎獣の狼が倒れこむと、足軽たちは下げていた槍先を地面に突き刺す。
一度動きを止めさえすれば、相手は犬鬼と狼だ。一たまりもない‥‥
●託宣の瞬間
「鬼軍が大挙して接近中!!」
伝令に上杉らは迎撃態勢を取る。
(「秀康殿の力量と生まれは、今後の藩政・外交に影響しよう‥‥ しかし、成綱殿に名君の器がないとは思わない」)
「成綱殿の守りを固めるのだ!!」
フォーノリッジの術で見たのは牛頭に踏み潰される自分と成綱殿の姿‥‥ 上杉は姿を消して距離を取った。
ぎゃり、ぎゃりぃい、ぎゃん、ばしぃい‥‥
空間が差し出した軍配に傷を付け、牛頭鬼らは那須頼資殿を吹き飛ばす。
「悪鬼退散!!」
姿を消した上杉の放ったサンレーザーが、成綱殿を庇う空間に加えられようとしていた一撃を逸らす‥‥
今のは際どい‥‥ それに那須頼資殿の守りが減った今、次も耐え切れるかどうか‥‥
そこへ斬り込んできたのは九紋竜。大薙刀「蝉丸」の強烈な一撃が返され、一刀の下に牛頭が地に伏す!
「鬼とは力押しばかりと思いましたが、この戦術は、まるで人の如くです!」
九紋竜の背後から迫る宇都宮勢を見るや、成綱殿の囲みを解いて鬼軍は撤退してゆく。
「罠かも知れぬ! 成綱殿の守りを固めるのだ!!」
上杉の助言に、那須頼資殿は半数を本陣の守りに残した。
「ありがとう。大丈夫ですか?」
「気にするな。これくらい大した事はない。それより士気に関わるから凛々しくな」
空間を労う成綱殿の優しい声は、やはり戦場には似合わないのか‥‥