【毛州三国志・義経】押しては返す漣のよう
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月12日〜11月19日
リプレイ公開日:2008年11月20日
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●オープニング
●鬼概
那須藩南東部・八溝山の麓では、一進一退の激戦が繰り広げられている。
一気に詰め寄るかと思われた三公軍の一角、宇都宮軍の足並みが鈍ったことで鬼軍が勢いを盛り返したからだ。
それに伴い、那須軍と義経軍にも被害が出ていた。
双方の兵数に大きな変化はないものの、宇都宮軍の支援を期待できない以上、兵力は半数減と同等と判じる者もいる。
実際、搦め手による兵站の分断や各個撃破、下野と武蔵の国境付近での野盗出現など、つけ込まれている感が否めない。
「迅雷のやつ、上手くやったみたいですわね」
「うん。手傷でも負わせて宇都宮藩内の撹乱を続けられれば御の字と思っていたんだけどね。いやぁ、予想外♪ 想定外♪」
「だが、同じ手は2度通じぬ。奇策は明かせば秘儀とは呼べぬぞ、赤頭」
冷たい視線の女剣士と無骨な狼頭の武士が、赤髪の子供に控えている。
「色々と手は打っているけどね。しっかし、義経の参戦は見誤ったねぇ」
「俺が討ち倒してこようか」
狼の顔に笑みが浮かぶ‥‥
「狼神(おおかみ)、お前さんは自分の役目を果たしてくれればいい。そっちの方が重要だよ」
「承知」
あらあら、仲の良いこと‥‥と女剣士が微笑みながら狼頭武士にしな垂れかかった。
「赤頭、そろそろ私たちも楽しむ場がほしいわね。迅雷のような捨て駒同然では困るけど」
「わかってるよ。異痕(いこん)の出番は、もう少し後だけどね」
彼らは戦煙を背中にする。
義経軍の旗を踏みにじりながら‥‥
●一騎当千
源義経公は輜重部隊を完全に那須軍に抑えられ、首輪に鎖を付けられて八溝地方を切り拓いている。
奪回作戦の当初、義経軍は部隊間の連携の甘さから出血を被っていたが、戦場の空気に当てられれば人も変わる。
「この状況を家康公が見たら、どう言われるだろうかなぁ」
兵の1人が言った軽口に、偶然居合わせた義経公は、こう答えたという。
「鬼退治くらいでグダグダ言うような小さな御仁ではありますまい。
誰に付くのかハッキリせよ‥‥とでも言われたら、神皇陛下と民のために戦うと答えますから、皆は安心して戦ってください」
それで納得する家康公や政宗公ではあるまいに‥‥とは思うものの、兵は苦笑いで義経公の背中を見送ったのだ‥‥と。
ともあれ、命を掛けて一所懸命に頑張る理想高き若武者を助けたい、守りたいという気持ちが連携を生んでいた。
主力に坂東源徳武士隊、遊撃に奥州伊達騎馬隊、その配下として浪人や任侠を中心にした武侠足軽隊などが整備され、敵を押し返した。
居場所云々というよりは、武士としての血が騒ぐのか、鬼軍に遅れをとるものかという気概が彼らを1つにしているのも大きい。
ただ、宇都宮公の戦死で那須軍の動きが鈍ったときには、流石に義経軍も補給の問題から足を止めざるを得なかった。
結果として鬼軍に態勢を立て直す時間を与えてしまい、奪還した一部の地域は放棄せざるを得なかったのが痛恨の極み‥‥
敵の布陣、戦力分析、その他の諸々を考えれば数週間の遅れが出ても仕方がない状況である。
加えて義経軍の頭を悩ませているのが、宇都宮に勃発したと言われている跡目相続争い。
那須公の八溝山への注意が多少なりとも削がれれば、八溝山攻略が月単位で遅れる事態もありえる。
その間、義経軍は最前線で消耗し、出血を続けなければならないのだ。
「兵たちも荒れてきておりますな」
「こればかりは息抜きが必要。集結中と情報にあった敵の砦を強行偵察させては、どうかと思いますが‥‥」
義経公の左右の腕である佐藤兄弟の進言を入れ、頷くが暫し思案顔。
「重蔵殿も目を配っておられるが、これは暴走せぬよう第三者の目が必要かな。冒険者ギルド那須支局へ使いを出してくれないか?」
佐藤兄弟は、御意と頭を下げると那須支局と那須公のいる矢板川崎城へ早馬を飛ばした。
●那須の一騎・赤士虎
「だらしない叔父貴を持つと苦労する。宇都宮など結城秀康に継がせて那須藩に併呑してしまえば良いものを」
物騒な物言いは、客将として那須軍に参陣している与一公の一門衆・福原資広である。
彼が赤士虎隊と呼ばれる私兵50を率いて向かう先は義経本陣。
よく言えば歴戦の兵(つわもの)、悪く言えば柄の悪い猟兵‥‥
清廉潔白、民に篤いと言われる那須軍における唯一の染みと噂される部隊だが、戦闘力は高い。
福原資広と親交のある志士や陰陽師が数人交じっており、精霊魔法をも用いる騎兵隊である。
蘆名の部隊を何度も退けている一門衆とあって、今回も義経軍の救援出兵を捻じ込まれた形である。
「那須軍の力がなければ何も出来ぬということを、小童に思い知らせてやらねばな」
大言を隠そうともせず、豪快な笑いを残しながら、福原資広は矢板川崎城の城門を潜った。
※ 関連情報 ※
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
まさに一歩一歩進んでいる状態。
源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥
【佐藤兄弟】
継信・忠信の兄弟。
奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。
【重蔵】
義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの元侍。坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をしている。
剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるぞ。
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。
【冒険者ギルド那須支局】
喜連川に設置された冒険者ギルドの中継補給基地の役目を持つ出先施設。依頼斡旋は行っていない。
【矢板川崎城】
天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。
【福原資広】
志士。与一公の甥。与一公の兄である福原久隆の子。父の命により京より帰国した。
那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊を率いる。
●リプレイ本文
●出陣
「どうしたのですか?」
出陣を前に、本陣に馬を置いてゆこうとした来迎寺咲耶(ec4808)へ義経公が声をかける‥‥
「これは義経公‥‥ 春花は戦闘訓練を受けていないので連れてゆく訳にはいかないのです」
「ならば、この秋水を連れていってもらえますか? 実は乗り手を探していたんですよ」
一頭の戦闘馬を引き出し、手綱を来迎寺に渡すと「可愛がってもらうのですよ」と秋水の首を擦り、義経公は笑顔で去ってゆく。
「貰っておくといいわ。家臣として働きに期待するという意味でしょうから。
それはそうと、義経さんを探したりしてた頃が、懐かしいといえば懐かしいわ。まぁ、これも縁ね」
呆気にとられる来迎寺の肩を、セピア・オーレリィ(eb3797)は笑顔で叩いた。
「麗しの美少年と聞いて、お会いするのが楽しみでしたけど、噂どおり、しかも、優しい方みたいですわね♪
それに比べて福原様。高慢な方は苦手ですわ‥‥ 立場上、無碍にもできないのが何とも‥‥」
「ぶるる‥‥」
「あら? 秋水も、そう思うのね?」
ひらり舞い降りるシフールのリーリン・リッシュ(ec5146)の正直な意見に、来迎寺もセピアも思わず笑った。
さて、直前の軍議でのこと‥‥
「そちらの出す30の兵に我が隊と冒険者が加われば、敵に倍することになる。殲滅することもできよう」
補給をやりくりして兵30を捻り出そうとしているのに、80も兵を出せる訳ないだろ‥‥と佐藤兄弟の心の声が聞えてきそう。
ともあれ、ここで兵数を減らせば侮られるため、減らすわけにもいかず‥‥
「そうだな。我が隊は予定通り強行偵察を行い、福原殿には鬼軍を殲滅する機会を狙ってほしいと思うが、どうだろうか?」
ここは腹を決めて重蔵隊30と冒険者5で強行偵察を行い、美味しいところを赤士虎隊50に持っていかれても実を取る‥‥
そういう方針で義経公と冒険者たちの水面下の交渉は一致していた。
義経軍も冒険者も鬼軍を討つのが最終目的であり、目先の鬼の首を少しでも多く上げられるなら、それを良しとしようと。
冒険者の忍びを先行させて情報を集め、重蔵隊の火矢で敵の出方を伺い、伊達騎兵と冒険者の連携で機動力を使った突入を行う。
連携して上手くいくとは思えないだけに、あくまで赤士虎隊は予備兵力。決して億尾にも出さないが‥‥
「確かに、そうですね。音に聞こえた赤士虎隊を、強行偵察程度の任の為に義経軍の尖兵にするのは勿体ないです」
同席するセピアも中々の役者である‥‥
●進撃
さて‥‥
長槍を携えた重蔵隊のうち、長弓15と小弓10が兵を進めている。
それに先立ち、忍者が偵察にあたり、伊達騎兵5と冒険者が交代で周辺警戒をする布陣だ。
うまく連携が取れている状態であればこそ‥‥であるが、赤士虎隊が後詰めで満足してくれているのはありがたい。
いや、福原資広自身は、赤士虎隊が本陣だと勘違いしているかもしれないが‥‥
ともあれ、重蔵隊は戦力を温存したまま、敵集結地点へ接近することができた。
それは、一時的ではあろうが、周囲に鬼の姿が消えている証左とも言える‥‥
「赤頭の鬼軍と合流を目論んでいるという情報の信憑性が高くなったということでござるな」
伝令に来た鳴滝風流斎(eb7152)が、忍びの成果を報告している。
敵兵力は小鬼25、豚鬼15、茶鬼20、熊鬼5ほど。
鎧甲冑に身を包んだ熊鬼らが八溝山方面から食料を運びこみ、鬼たちを統率しているようである。
「ここに来るまでに鬼に遭遇しなかったということは、ここらの鬼は集結済みなのかもしれんな」
「成る程。では、重蔵殿。陣を組んで早速攻撃を開始しましょう」
「そう、逸るでない。ここは兵の疲れを取って、明日の攻撃に備えよ」
血気に盛んな伊達騎兵をたしなめ、重蔵は鳴滝の情報を元に泊地を定めた。
一方‥‥
「重蔵さんは、明朝の夜明け前に戦闘を開始したいと言っています。警戒には引き続き私たちが当たる手筈です」
「夜討ち朝駆けか。よかろう。忍びが先行するのであれば、夜陰は格好の隠れ蓑。そういう思惑もあるのだろうて」
重蔵隊の副長として伝令に赴いたセピアは、福原を「意外に侮れない人物なのでは?」と思う。
「それで、敵の配置と周囲の地形は、どうなっておる? ぼうっとするな!」
有無を言わせぬ福原の断定の質問に、セピアは心中で苦笑い。
鳴滝らの情報と重蔵の作戦案を伝えると、福原は了解してセピアを帰した。
●戦火による戦禍と、その戦果
重蔵隊と赤士虎隊は、翌朝、忍者の先導で攻撃の布陣をとった。
鳴滝たち忍びの情報によると、敵は寝入ったままとのこと。
「まだ気付かれてないですわ♪」
薄明るい空に隠れて上空から偵察したリーリンが前線へ戻ると、弓兵は火矢を番えた。
びゅっ! ばっ、ばばっ、ばばばばっ!!
重蔵の軍配に合わせて、火矢は鬼たちの眠る場所に吸い込まれてゆく。
冬目前に枯葉の目立つようになっているため、徐々に地面がくすぶり始める‥‥
「ようやく起き出してきたか、寝ぼすけめ。近付いてくる鬼は、片っ端から射すくめてやれよ!」
混乱を脱しようと重蔵隊に接近する鬼は、片っ端から小弓の集中攻撃を受けている。
重蔵隊だけでは半包囲する兵力もないが、戦いの出だしは順調といえた。
「うまくいきましたね」
「あぁ、ここまではな。今回は血の気の多いのばかり集められておるから、気を引き締めんと収拾がつかなくなるかもしれん」
「では、私はそろそろ後方へ回りますね。部隊全体に目を配り、治療役も兼任しないと」
頼むとセピアを見送る重蔵の指揮により、その間にも長弓部隊による火矢は、鬼たちを火炎地獄へと誘った‥‥
「ふぅ‥‥ 後方に待機しておるはずの赤士虎隊がおらぬではないか、勝手ばかりしおって」
「やらせておけばいいよ。品が無いのは向こうの勝手だし、それで落ちるのは那須の格だけ。同じ格に落ちることはないよ」
「確かに‥‥付き合う必要はないか。それに、あの煙。冒険者の忍びは上手くやったようだしな」
「あとは引き際が肝心ね。救援の兵に駆けつけられたりすると大変だから、こういうときこそ警戒を強めないと」
来迎寺は、鞍を並べる武士と一緒に苦笑いを浮かべた。
その頃‥‥
インビジビリティリングで姿を消した磯城弥魁厳(eb5249)は、混乱した敵を尻目に鬼軍の補給物資の集積場を目指していた。
火計の炎を種火に松明と油を積荷に投げ込むと、次第に音を立てて食料が燃え始める。
「首尾は上々でござるな」
同行していた鳴滝と忍犬の天晴丸が、物陰から覗いている。
「噂の迅雷とやらを使ってこられると厄介でござるが‥‥」
「対処のしようがないからな。使われる前提で動くしかないが‥‥ それより、ここはいい。離れるのじゃ」
磯城弥と鳴滝は、味方に合流しようとして驚いた。
「手ぬるい火計だな! 戦とは、こうやるものよ!!」
敵の退路を断つように現れたのは、赤士虎隊‥‥
精霊魔法や経巻の力で炎を増大させ、風を巻き起こす!!
「くっ、あれでは重蔵隊に敵が集中するぞ!!」
息を呑む磯城弥の前で、瞬く間に一面を炎で包み、福原殿の高笑いが響く。
「リーリンさん、何が起きたの? 上空から見てくれない!?」
動揺する前線と、急に加勢が増した敵の砦を見て、副長のセピアが叫ぶ!
「え〜〜〜とね‥‥ まだ暗くて、よく見えないけど鬼たちが前線に殺到してるみたい!」
飛び立ったリーリンが目を凝らしているが、詳しくはわからない模様。
前面に展開している重蔵隊は、弓を捨て、槍を構えて応戦しているのは見えるが‥‥
「‥‥ 余力のある私たちの部隊が前に出て余裕を作りましょ。遊兵にはなりたくないですもの」
「了解。ワン太夫ちゃん、メッセンジャーしに行こう」
すっと四肢を伸ばすと、リーリンの後を追ってワン太夫も前線へ一直線に飛んでいった。
「伊達勢は本隊を左から迂回して側面を突いてもらっていいかしら? 私たちは右を突くわ」
「承知した」
どっと駆け出す騎馬部隊。間に合えば良いが‥‥
「敵は、まともに武装してないよ! 冷静に槍を構えて!!」
味方を叱咤激励し、来迎寺は秋水を操る。
まだ、心を通わせているとは言えないが、義経公から頂いた軍馬だ。
これで活躍できねば家臣として名折れ! その気概が彼女の勇ましさを増していた。
桜華の銘に相応しく、オーラパワーを込められ、桜色の刀身に闘気の光を帯びた日本刀が、小鬼を突き崩す。
「これしきで乱れては義経公の名に泥を塗るよ! 槍隊、突けぇ!!」
「おおぅ! 来迎寺殿に続けぇ!!」
一時の混乱から立ち直ったものの、数では鬼の方が重蔵隊前衛に勝っているのだ。
手が足りないのは仕方ない‥‥
おまけに鬼たちの背後から炎が迫ってくるとあっては、集中力が途切れ途切れ‥‥
重蔵や来迎寺の奮戦で崩されはしていないが、いつまでも保つとは限らない。
そのとき、茶鬼が空高く舞い上がり、錐揉みで叩きつけられた。
「セピアさんたちが回りこんで敵の側面を突こうとしてるわ。それまで頑張って!!」
リーリンのローリンググラビティだ。
「椿!」
起き上がろうとする茶鬼の背後に磯城弥が組み付いて急所を掻き斬り、鳴滝の小太刀と忍犬たちのクナイが串刺しにする!
「救援に来たでござる! あの炎幕は赤士虎隊によるものでござるよ!!」
鳴滝の報告で、福原資広に殺意を抱いた者がいても誰が咎められようか‥‥
暫時‥‥
セピアら騎馬隊の左右からの突入にあわせて、赤士虎隊は精霊魔法の力により前面の炎を消して突入‥‥
鬼軍を四方から包囲した重蔵隊と赤士虎隊は、敵を散々に打ち破った。
包囲を脱した敵は10ほどで、完勝と言って良い‥‥
兵数で倍近いのだから勝って当然だが、重蔵隊には忸怩たる思いで本陣へ凱旋することとなった。