【毛州三国志・宇都宮】滅びるべきは

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 3 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月24日〜11月30日

リプレイ公開日:2008年12月03日

●オープニング

●継承者2人
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱公の仇討ちの戦として行われた戦いは、赤頭鬼軍を討ち減らし、宇都宮軍の勝利。
 圧倒的な兵力差で押し潰し、冒険者の活躍で勝利を確たるものとしていた。
 新藩主の下で重用してもらおうと戦功を競って連携を欠く戦いになってしまったために、宇都宮軍の被害も少なくはなかったが‥‥
 その間、宇都宮成綱の軍勢は自陣を動けず、戦功の殆んどは結城秀康と、彼に味方する宇都宮勢の手になった。
 これにより、宇都宮成綱の次期宇都宮藩主の目は、薄らいだと言ってもよい。
「長幼の序が蔑ろにしようなどとは由々しきことです‥‥」
 宇都宮藩家臣・那須頼資は、思わず溜息をつく。
 本来なら嫡子である成綱が宇都宮家を継いで、父の跡目を守るのが順当と主張したものの、ほとんど鼻で笑われる有様なのだ。
 父の仇討ちも満足にできない者に自分たちの運命を託したくはないという気持ちもわかるが‥‥
「ご免なさい。自分が頼りないばかりに‥‥」
「そんな‥‥ 私が付いております。いざとなれば与一公に助力を願い出て、何としても跡目に若様を推していただきます」
「那須公は、頼資の弟でしたね」
「いかにも。縁でも何でも使いますれば、安心してくださいませ」
「無理はしないでください。頼りは頼資だけなのですから」
 那須頼資の励ましに、宇都宮成綱は困惑した微笑みで頷いた。

 一方、結城秀康の下には、宇都宮の武士たちが多く挨拶に訪れていた。
 藩政を束ねてほしいという嘆願が多くを占めているが、彼が本当に藩主になったときに挨拶がなかったでは覚えが悪いという‥‥
 下世話な話、そんなとこだろう‥‥
「先の戦では見事でございました。拙者、感服しきり」
「世辞など不要です。宇都宮公が生きておられれば、宇都宮藩も違う生き方ができたでしょうが、今となっては‥‥」
 結城秀康と宇都宮の武将は、視線を合わせて無言で頷く。
「伊達の背後を押さえ、奥州と上州に睨みを利かせるためにも、宇都宮は源徳親藩でなければ。
 そのためには結城様に藩主になっていただかねば。家康公の遠征や八王子などの支援にもなりましょうしな」
「口の軽さは身を滅ぼすぞ。さて、これは我が父より預かったもの、どうか収め下され」
 確かに‥‥と、宇都宮の武将は書状を胸に座を外した。
 その姿に、結城秀康は興奮気味に息を吐く。
「兄者が脱落した今、俺にも運が向いてきた。宇都宮を足がかりに天下を獲ってみせるさ。問題は‥‥」
 結城秀康は、陣幕を出ると出陣の下知を命じた。
(「成綱が出家でもしてくれれば、一番簡単なんだがな」)
 その指揮の下、藩内の赤頭鬼軍を壊滅させるために宇都宮軍は動き出した‥‥

●窮鬼
 倒した武士にかぶりつきながら、鎧をペッと吐き出した。
「一人でも多く‥‥ ぐふふ、地獄へ送って‥‥ やるぅう! ぶもぉおお」
 牛頭から漏れる声は、呪いを撒き散らすかのよう‥‥
「しかし、これ以上ここに留まれば全滅するぞ、迅雷」
「殺したりな〜〜い」
「ふっ、好きにするがいい。だが、赤頭からの指示は伝えたからな」
 ぐふっ、ぐふっと笑う牛頭鬼を尻目に、狼頭の剣士は空を蹴った。


※ 関連情報 ※

■宇都宮■

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
 下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。

【宇都宮朝綱】
 宇都宮藩の藩主であり、宇都宮大明神座主、日光山別当職を兼ね、勇将として名を馳せた人物。
 鬼軍との決戦において戦死。

【宇都宮成綱】
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱の嫡子。武芸よりは芸術に才能を発揮する。

【那須頼資】
 宇都宮成綱の後見人。
 下野国主那須与一公の兄であり、幼くして宇都宮朝綱の養子に出され、宇都宮藩士として重職にある。
 那須藩士・結城秀康の従兄弟。

■那須■

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。

【小山朝政】
 那須藩の宿老。与一公の右腕として活躍する勇将。
 結城秀康の兄。

【結城秀康】
 白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱を養父に、実父の源徳家康を烏帽子親に持つ。
 最近、結城朝光から改名した。
 養父の葬儀のため、那須を離れられない与一公の弔問の名代として宇都宮に残留。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea6202 武藤 蒼威(36歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ 鳳 令明(eb3759

●リプレイ本文

●跡目
「この戦の集結には、迅雷の首が必要。武人の私では、この程度しか思いつかぬ」
 超美人(ea2831)の言に、居並ぶ諸将も異論はない。
「ならば、此度の戦、成綱殿の名代として迅雷の首を取る事をお許し願いたい」
 武藤蒼威(ea6202)の申し出に那須頼資殿などは力強く頷いているが、当の成綱殿は困惑気味に小さく頷くのみ‥‥
 宇都宮朝綱公の討ち死に以降、権力闘争に陥り、統一された意思の下に敵に当たる体制ができていないのは確か。
 長引けば宇都宮藩の興亡に関わるのだが、成綱勢と結城勢が相容れる様子はない。
「どちらも朝綱公には及ばないんだから、兄弟で力を合わせて宇都宮藩を支えられないのだろうか」
「なんだと!」
 アレーナ・オレアリス(eb3532)の進言に諸将が反発する。
「いい加減、鬼軍本隊を討伐したいので、今回で殲滅したいし、後継者争いも決着をつけてほしい。
 というわけで、敵大将を討った側が後継者になるということにしては?」
「籤引きで宇都宮大明神か日光大権現の神意を聞くという方法もあるが?」
 カイ・ローン(ea3054)や上杉藤政(eb3701)の発言には、宇都宮藩のことなどどうでも良いのかと、より一層の反発が起きた。
「今必要なのは、現実を乗り越える力と、それが実行できる藩主なんだって理解しないと。
 そうでなければ、より多くの藩士や民衆が苦しむことになると思うよ」
 アレーナたちは必死に他意がないことを説明しなければならなかった。そんな中‥‥
「成綱殿は後継者になりたいのか?」
 カイの質問で、一斉に耳目が成綱殿へ集中した。
「父の意思を継ぎ、宇都宮藩を守りたい。でも、それには皆さんの力が必要です」
 成綱殿の言葉に、後見人の那須頼資は視線を下げる。
 これでは敗北宣言と取られても仕方ない‥‥
「貴方は戦に向いていないのかもしれない‥‥
 だが、貴方は朝綱公の嫡子。朝綱公のような勇将になれとは言いません。
 貴方は貴方なりに人の上に立つべき人になれば良いのです。不慣れなうちは頼資殿や家臣に、もっと頼っても良いと思いますよ」
 長幼の序の問題があれることがわかっていればこそ、九竜鋼斗(ea2127)の言には、諸将も強く言葉を被せてはこない。
「当主の正当性は大事であるが‥‥」
 尤も、上杉は宇都宮成綱と那須頼資が炎に包まれる占視を得ていたが、時期がわからぬでは、気になっても手の打ちようがない。
「今の成綱様には成長する時間が必要です。多くの藩士や民が失われることを思えば、矢面に立てる秀康様を私は推します」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)は、とくとくと説明を始めた。
 謀や武勲で藩主を決めるなど愚挙であること‥‥
 秀康殿は謙虚さが足らないこと‥‥
 成綱殿は甘えを捨てて厳しく向上せねばならぬこと‥‥
「つきましては、どちらが藩主になっても後継者として兄弟を迎え入れ、宇都宮藩が割れぬよう。
 総ては、宇都宮藩と藩で生きる人のためであると御心得下さい」
 正論のオンパレード。だが、それだけに居合わせる者に反論する余地はない。
「そうそう、権力争いなんて後回しにしてほしいわね」
「迅雷を倒す‥‥ それが先決だろう」
 マクファーソン・パトリシア(ea2832)とメグレズ・ファウンテン(eb5451)が静かに息を吐いた。
「確かにな。皆の衆、今度こそ迅雷らを討ち取るべし」
「あの‥‥ 陣立ては結城殿にお願いしてもいいですか?」
「任せてもらおう。成綱殿には補給と救護に当たってほしいが」
「はい、わかりました」
 この立場が、後々の立場に繋がるのであろうな‥‥ 那須頼資は小さく溜息をついた。
「ようやく戦いの話ができそうだなぁ。
 俺は腕が立ち、騎馬戦も得意だ。この場合、一匹残らず討ち取るのが必定だからな。効果的な采配を頼むぜ」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)は、ニヤリと笑うと作戦図を睨みつける。

●包囲殲滅
 単に迅雷が臨機応変に対応できないのか、鬼軍は魔法による攻撃に対して何ら対抗策を採ってはいない。
「無策とは‥‥ それならば、叩かせてもらうだけです」
「その勘、いただき。相乗りさせてもらうわ」
 ジークリンデとマクファーソンのファイヤーボムが、牛頭と犬狼騎兵を吹き飛ばす。
「撃てぇ!」
 直後、そこへ重厚な矢襖が襲うが、矢達磨になっても牛頭らは突進を止めない。
「騎馬隊は突撃を開始せよ! 弓兵は左右に撃ち分けて、騎馬を通す道を作れ!!」
 耐久力に劣る犬鬼や騎獣の狼は脱落、または絶命しているため、一時的に敵に疎と密の状態が現れた。
「敵が左右から突進を始めました! 結城秀康さん、気をつけて!!」
 本来ならば伝令の足軽や武士によって情報や命令が伝達されるのが、戦いの常識。
 天馬プロムナードに騎乗したアレーナのもたらす速い情報は、それだけで百騎、千騎の働きだ。
「はっはぁ〜! 雑魚ばかりじゃないか」
 ソードボンバーで敵を薙ぎ払う鎧騎士オーラスは、騎馬隊の先頭で猪突した。
 数度の突撃で折れた長槍は、敵の体に置いて来ていた。
 倒した牛頭の斧を得物にすると、オーラスは他の騎馬と並んで犬狼騎兵を踏み潰す。
「やるな‥‥ 秀康殿‥‥ 長千代殿の兄であるならば、さぞかし果断な方かとは思っていたが‥‥」
 那須の英傑と言われるだけはある。猛将の器というべきか‥‥ 与えられた兵さえ十全ならば、破壊力は想像以上に高い‥‥
 上杉は結城秀康の傍らで息を飲みながら、その指揮を占術で助けるのだった。

 やがて‥‥
 数の差が歴然であれば、敵の策が知れている以上、乱れぬ動きをみせる軍勢に勝利が傾いた。
「敵大将・迅雷が包囲網を突破しようとしている模様。目標は‥‥ 成綱さんの部隊です!」
「行け! ここで成綱に死なれては後味が悪い! 他の冒険者が付いておるはずだが、アレーナ、お主も駆けつけよ!!」
 天馬を着地する間もなく、アレーナは結城秀康の命で大空へ勇躍する。
「本陣は敵残存兵力を一掃し、成綱勢を救援に向かう! 騎馬隊は迅雷を追撃せよ!」
「もう行ってるぜ! 俺に遅れるなよ!!」
 結城秀康の下知によって乱れぬ動きを見せる宇都宮騎馬隊の宇都宮騎馬隊の先頭を切って、オーラスは愛馬を飛ばす!
 一方、超とマクファーソンは残敵へと突っ込む。
「敵の首領との手合わせを願う欲! そんな思いが、今まで中途半端な結果に終わらせたんだ。確実に滅ぼす!!」
「成る程。頭を気にしすぎて、詰めが足りなかったんだね。魔法でサポートするから言って。この方法が一番効果的だわ」
 2人は剣と魔法を駆使して敵を翻弄し、敵の攻勢限界点を見極めようとする。
「訓練された動きは侮れぬ‥‥が、そこが狙い目! 幻流、マクファーソン、そこへ吹雪よ」
「オッケー! ここが勝負所ね!!」
 吹雪の息とアイスブリザードが犬狼騎兵を吹き飛ばし、足を止めたところへ宇都宮兵の弓射!
 乱れきった敵の隊列に、槍の壁の突進が止めを差した。

●迅雷落つ
「くっ‥‥ この人数では抑えきれないぞ!」
 小太刀で斬り込み、確実に手傷は負わせているものの、一度に相手できる数は少ない。
 九竜は思わず、悲鳴にも似た叫びを上げた。
 宇都宮兵も善戦しているが、負傷者が転がっている状態では、実力を発揮できずにいる。
「結界だって、いつまでも保たない‥‥ ユエ、スリープで無力化して!」
 何とか数体を足止めできているだけで、敵将・迅雷を止めるまでは‥‥
「こいつらっ、成綱殿、那須殿っ!」
 自ら槍を振るうカイも手数が足りない‥‥
「心配無用!」
 騎馬を飛び降り、立ち塞がるは武藤とメグレズ。
 迅雷の狙いが成綱であるならば、体を張って守るまで‥‥
「ここは意地でも通さない。飛刃、散華!」
 だが、迅雷は衝撃波を横っ飛びにかわして、斬りこんでくる。
「むだ、むだぁ! じんらいぅお、とめられるかぁ」
 宇都宮武士が角に鎧を貫かれ、それを盾に矢を防ぎながら迅雷が突っ込んできた。
「成綱殿、那須殿、離れないでよ!!」
「若様の身は、我が命に代えて御守りする!」
 メグレズは突進を体で受け止めると、衝撃で引き抜かれた武士の体を受け流す。
「迅雷よ! 宇都宮成綱が名代、黒鋼のサムライ・武藤蒼威が相手だ。いざ尋常に勝負!!」
「げひゃひゃ、おまえ、つよそう!!」
 変化をつけた武藤の切っ先は、迅雷に一太刀浴びせるが、さほどに利いた風ではない‥‥
「小手先の剣では仕留められんか‥‥」
 構えあって構えなし‥‥ 二天一流の構えは変幻自在。
 一足飛びに間合いを取って突進してくる迅雷を逃がさぬよう、武藤は防御を捨て、一気に決める覚悟を決める。
「おそい! おそぃいいい!!」
「はぁあああああああああ!!」
 2つの巨体がすれ違い、武藤は膝をつく‥‥
「やったなぁ! 撃刀、落岩!!」
「うがぁあぁ‥‥ なんじゃこりゃあ!」
 臓腑を引き摺る迅雷に、メグレズの剣撃が追い討ちを掛けた。
「ま、負けるのは嫌だぁ!!」
 必死で逃げに入る迅雷の前へリトルフライで舞い降りたのは、上空で戦況を見計らっていたジークリンデとアレーナ。
「プロムナード、あの敵に聖結界をお願い!」
 天馬の張った結界面にぶち当たった迅雷が転ぶ。
「今度こそ逃がしません!」
 高速詠唱された超越マグナブローが、逃げ出そうとする迅雷を巨大な溶岩の柱で包んだ。
「あれは宇都宮公の怒りだ‥‥」
 成綱勢が駆けつけると、迅雷は絶命していた。
「若様、お父上の仇を討ちなさいませ」
「う、うん‥‥」
 那須頼資の突き立てた太刀に手を添えて、宇都宮成綱は、父の仇である牛頭大鬼『迅雷』の首級を挙げた‥‥
「結城秀康は確かに英傑だ。なれど、あの男の野心は乱を呼ぶぞ。宇都宮成綱、俺はあなたが藩主になるべきだ」
「武藤殿‥‥」
 那須頼資に支えられて宇都宮成綱が持つ朱槍に串刺しにされ、大きく掲げられた迅雷の首級を見上げ、武藤は草早の剣を収めた。
 宇都宮の地に、ようやく勝利の凱歌が響く‥‥