【毛州三国志・義経】三公軍先陣での暗躍

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月22日〜11月29日

リプレイ公開日:2008年11月30日

●オープニング

●頭痛の種
 那須の一騎・赤士虎隊を率いる那須客将・福原資広と、思惑の外での連携になってしまい思わぬ戦果を残した義経軍。
 それが良かったのか、悪かったのか‥‥
 前線の兵は頭を悩ませていた。
「補給の細い、この時期に居座られても困るんだが‥‥」
「くそう、あれの殆んどを調達しているのは我らの後方部隊ではないか。それを好き勝手に‥‥」
 まず赤士虎隊に食料や酒などを分捕られてしまうため、義経軍の補給状況が悪化しているのである。
 補給品を管理運搬するのは那須軍の役目であるため、運んできた那須軍も強くは言えず、補給を受けるだけの義経軍も‥‥
 そうでなくとも輜重隊の都合で総兵数を動かせず、先の強行偵察では、やりくりして30の兵を動かしていたというのに‥‥
 気を利かせた那須軍師・杉田玄白が、薬丸の中に糧丸などを混ぜて送ってくれたため、すぐに飢え死にする訳ではないが‥‥
「困ったものです、殿。あれで戦力にならなければ、厄介払いも簡単なのですが‥‥」
「それならば、とうに与一公の手で厄介払いされているでしょう」
「頭の痛い話です。殿、何か方策を考えなければ。いつまでも、このままとはいきますまい」
 義経公の傍らで、佐藤兄弟は天を見上げて細く溜息をつく。
「本気で与一公の好意に甘えるのも手だろう。違うかな、義経殿?」
 その様子に、重蔵は苦笑いで将几から腰を上げた。
「ですが、ここで兵を退くということは、敵に付け入る隙を与えてしまいます」
「一概に言えば、そうでもあるまいて。何が一番大切かを、ここ一番で即断できるのが将としての資質。
 将軍の事は、静にして以て幽、正にして以て治む‥‥だ。
 兵たちが納得する決断をすることも必要だが、決断で兵たちを納得させるのも大将の仕事と思いますぞ」
 実は、喜連川の冒険者ギルド那須支局へ兵の一部を、場合によっては義経全軍を退いてはどうか? と打診があったのだ。
 しかし、前線を維持するためにも兵を引き抜くわけにもいかない。
 ここまで陣を進めるために犠牲となった兵もいるのだから、申し訳が立たない‥‥
「さて、兵を鍛えて来るとするかな。腹が減っては戦はできぬが、腹が減って戦を忘れる‥‥では武士の名折れ」
 未だ迷っている義経公を見て、重蔵は微笑みながら場を離れた。

●暗躍する者たち
 三公軍の先陣を務める義経軍の布陣において、水面下で様々な動きがある。
 そんな報告を受け、与一公は頭を悩ませていた。
「少なくとも何組かの忍びが下野に入っていると?」
「はい。宇都宮の密偵は遺命を守ってくれています。おかげで宇都宮にも忍びの動きがあることが判明しております」
「少なくとも1組は、上州真田忍軍あたりが情報収集に来ているのかもしれませぬ」
「宇都宮公の戦死で揺れていますからね‥‥ 仕方ないのかもしれませんが、密偵に忍び狩りをする余力はありますか?」
「正直、厳しいかと。無論、命が下されれば全力を挙げますが、被害ばかりが多く、後の障害にもなりかねませぬ」
「承知しました。引き続き情報を集めてください。場合によっては武士団か冒険者を派遣して、これを討ちます」
「御意」
 下がろうとする密偵を、与一公は「一つだけ」と呼び止めた。
「義経公の周辺にも探りを入れておく必要があるでしょう。義経公と重蔵殿に密書を届けてください」
「福原様にはないのですか?」
「あれに密書ではなく正式な伝令を出しますよ。勝手な解釈をされぬよう、そうせよと玄白に念を押されてますからね」
 余計なことを申しました‥‥と、困った表情で密偵は顔を伏せるが、与一公は気にしないでいいですよと筆を取った。

 暫時、与一公は密偵に密書を渡すと、小姓に冒険者ギルドへの書状を預けた。

※ 関連情報 ※

【源義経】
 源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
 様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
 まさに一歩一歩進んでいる状態。
 源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの元侍。坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をしている。
 剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
 ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるぞ。

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。

【冒険者ギルド那須支局】
 喜連川に設置された冒険者ギルドの中継補給基地の役目を持つ出先施設。依頼斡旋は行っていない。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
 城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。

【福原資広】
 志士。与一公の甥。与一公の兄である福原久隆の子。父の命により京より帰国した。
 那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊50を率いる。

●今回の参加者

 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb7152 鳴滝 風流斎(33歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天 涼春(ea0574)/ 雀尾 嵐淡(ec0843

●リプレイ本文

●思惑
 赤士虎隊を1人の陰陽師が訪れた。
「加勢したいというのは、お主か」
「左様。私は宿奈芳純と言います。これは手土産。軍勢には幾らあっても困らぬと思いましてね」
 戦馬の積荷を解くと、保存食がずらり‥‥ 300個ほどはあろうか‥‥
 部下の陰陽師が耳打ちすると、福原資広は不敵な笑みを浮かべた。
「ほほぅ、手土産は有り難く頂いておこう。
 だが、叔父貴には矢板での忍び狩りに先駆けて帰還せよと命を受けていてな」
 含みを持たせた言い方に、成る程‥‥と思いながらも宿奈芳純(eb5475)は能面のような表情を崩さない。
「我が隊には不要のもの。源氏の小僧にくれてやろうかと思うが」
「随意に」
 義経軍300に対しては1日分の食料にしかならないが、多少の助けにはなろう。
 焼け石に水かもしれないが、それでも‥‥ 宿奈は、内心ほくそ笑む。
「それよりもな。帰りの駄賃に一働きする。お主ほどの高名な陰陽師の加勢が得られれば重畳だ。
 矢板で忍び狩りをするというのに、叔父貴の伝令には、この陣のことは何も触れてはおらぬ。
 当然、この近くにも暗躍しておろうに。全く打つ手が温いのだ、叔父貴は」
 こうなることは想定内。自分が魔法を使って探索を行えば、赤士虎隊の動きも相まって目立つだろう。
 それで焙り出された忍びを狩れば、その情報は隠密に動く仲間への間接的な支援にもなるはず。
「承知した。我が陰陽術が役に立つかは、福原殿次第ですが」
「はは、役に立つと思うたから来たのであろうが。任せよ」
 ある意味、扱いやすい男だ。与一公が傍迷惑なこの男を追放しないのも、その辺りにあるのだろうな‥‥
 宿奈は、赤士虎隊の軍儀に加わった。

 一方‥‥
「福原さん、闘争心も戦略眼も悪くないみたいだけど‥‥ 傲慢さを甘く見てたわね。
 こういう相手だと、自信を裏打ちする実力があるのも困りものだわ」
 セピア・オーレリィ(eb3797)は、僅かに眉間に皺を浮かべ、三公軍の陣容を眺めている。
「確かにピリピリしているでござるな‥‥ 戦場で緊張感があるのは悪くないでござるが、良い雰囲気とも言えぬでござるよ」
「赤士虎隊だけでも頭が痛いって言うのに忍びまでとは。全く‥‥
 鬼を退治して人々の平穏をと願うのが、そんなに奇異で疎ましいものなのかね?」
 鳴滝風流斎(eb7152)も来迎寺咲耶(ec4808)も義経公の下で働きを見せたいと願う者。
「忍びも放っておけないが、さしあたって問題になるのは補給の方」
「でござるな」
「与一公からの退却の提案は有難いが、義経公が兵を挙げた理由を思えば‥‥ やっぱり、受け入れがたいね。
 退くにしても、那須や宇都宮の動きと連携して敵を引きつけて退却とか、戦略的に意味が欲しい」
「難しいだろうなぁ」
 話に熱を帯びる鳴滝や来迎寺の背後から声がする。
「なぜかのう、重蔵殿?」
 磯城弥魁厳(eb5249)が、近付いてくる那須軍客将・重蔵に口を挟む。
「宇都宮公の一件を見ても、頭目の赤頭は相当に頭が切れる。
 役目を果たした宇都宮の鬼軍を転進させ、我らの背後を突いて挟み撃ちするくらいはしかねぬぞ」
 ぁ‥‥と、セピアたちは息を呑む。
「鬼軍は態勢を立て直すために時間を掛けておるのだし、敵と遭遇するためには、補給の薄い状況で敵陣へ斬り込まねばならん」
「敵の集結には、まだ時間がかかるのですか?」
「ハッキリはしないが、攻め寄せてくる報せはないな。
 おっと、与一公も戦闘再開には少し間があるだろうと考えて撤退を勧めておるのだろう。書状が来たよ。
 喜連川なら与一公の直轄領。赤士虎隊の邪魔も入らぬと考えてのことさ。屯所本陣にギルドの那須支局も使えるしな」
「せめて宇都宮の鬼軍の動向を見極めて動くべき‥‥か。
 なら、来迎寺さんの言っていた自給自足の案とかどう? 兵農一体で過ごしてきたような人から、何か知恵が借りられるかも」
「おぉ!」
 話し込むセピアとの会話の中で、重蔵がポンと膝を叩いた。
「鷹狩りだ。兵の訓練にもなるし、気分転換にもなる。それに、獲物は食べれば一石二鳥、いや、三鳥か?」
「鳥や獣だけでなく、獲物に忍びがかかることも‥‥あるやもしれぬなぁ」
 重蔵と視線を合わせ、磯城弥は不敵に頷く‥‥
「確かに、それなら兵を動かしても不自然ではないし、これ幸いと接触しようとする忍びも出るかも‥‥
 これから冬、食糧確保には少し弱いかも知れないけどね」
「必要なのは方便であろう? 鷹狩りの進言は、こちらに任せよ。お主らは、忍びの方を頼む」
「承知したでござるよ」
 来迎寺や鳴滝らの表情に朱が差した。

●忍び狩り
 さて‥‥
「福原様、兵たちが動揺いたします。不安を煽るような行動は慎んでいただきたい」
「馬鹿を申せ。我らを害する者たちがおらぬか、陰陽術を用いておるのだ。文句を言われる筋合いはない」
「しかし!」
「しかしではない。長の滞陣で敵が紛れ込んでおらぬか警戒するのは当然。福原殿の好意を邪険に致すか」
 赤士虎隊が動けば目立つ。良きにしろ、悪きにしろだ‥‥
 当然、忍者が潜んでいれば動きがあって然るべき。
 ましてや、神皇家を護ってきた陰陽の秘術で探されていると吹聴されれば、並みの忍びであれば動揺は抑えられない。
「繁みに隠れている者がいますね。糧食を置いてある天幕の近くです」
 テレスコープで遠見を確実にし、インフラビジョンの術で熱を見ている宿奈にとって、これしきの隠形は頭か隠して尻隠さず。
 存在を知られたのなら、一時的に退くにしろ、何か成果を‥‥とでも欲を出したのだろう。
 宿奈が福原に伝えると、赤士虎隊は撃退すべく動き始める。
『後始末を頼めますか?』
 テレパシーを用いて、宿奈はセピアたちにも情報を伝えた。
 既に数名の忍び狩りの成果がある。
 網に掛かったのは恐らくは下忍だろうが、敵に警戒させ、他の忍びの跳梁を防げれば御の字。
 忍びの数を減らす‥‥という意味では、確かに効果があると言えよう。

「より厄介な忍びだけが残る‥‥という事態も考えられるが、とりあえずは、これでよかろう‥‥」
「前向きな考え‥‥とは言えませんよ。重蔵さん」
「しっ‥‥ 来ます」
 呟く重蔵とセピアに、磯城弥が小声を掛けた。
 さっ、ささっ‥‥
 枯葉を踏み分ける音も葉摺れの音も僅かにしか立てずに近付いてくる影‥‥
「おや、どうされました? このようなところで」
「た、鷹狩りでもしようかと思ってね」
「お付き合いしましょうか?」
「いえ、ぶらぶらしていただけなので、不要ですよ」
 僅かに引きつった兵の笑いに、インビジビリティリングで姿を消し、背後に立っていた磯城弥は思わず溜息を漏らす。
「義経軍の忍びかっ!」
 首筋を舐める吐息に思わず振り向いた兵の前には、僅かに揺れる人型の風景‥‥
「話は、ゆっくり聞かせてもらおう」
「く‥‥ くそっ‥‥」
 鳩尾に打ち込まれた拳で、兵の意識は一気に白んでゆく。

「おおぅ、セピアとか申す冒険者であったか? こちらに男が逃げてきたはずだが!」
「それならば向こうに。逃げ足が速く、追うのを諦めました。馬なら、まだ追いつけましょう。不届き者を頼みます」
 赤士虎隊が去ると、セピアが指差した方向とは別の場所で、繁みが動いた。
 来迎寺らの現れた場所とは、別の場所から一騎が現れる。
「気を抜かぬことです。赤士虎隊に見つかれば一悶着起きますよ」
「この忍びは義経公に引き渡すわ。いいわよね?」
「御随意に」
 戦馬・越影に騎乗した宿奈が顎で合図すると、手綱を捌いて馬を進める。
「福原殿、あちらへ逃げたようです。行きましょう」
「おう、俺の目の黒いうちは忍びなどの好きにはさせんわ。向こうから回り込んで挟み撃ちにするぞ! 我に続け!!」
 隠れたセピアたちを後ろに赤士虎隊が駆け抜けてゆく‥‥

●毅然たる将
 これから冬を迎えるという時期が時期だけに、効果の薄い屯田は見送られたが、鷹狩りは継続されることになった。
 巡回偵察、食糧確保、兵の気分転換、練兵‥‥ 効果は、いかにも高かろうという判断である。
「少しの間、一時退却は保留します。雪が積もるまでには、根拠地も探さなくてはならないからね。
 それに、鬼軍を圧迫しておいて損はないと思う。宇都宮公の一件を見ても、鬼軍に好き勝手にさせるのは得策ではないし」
 義経公は、この場に留まることを決断したようである。
 ただ、傷病兵に関しては喜連川へ後送したいとの申し入れに、与一公は快諾してくれたようだ。
「義経公の決断に選択を持たせるための書状であったのでござろうな。あの与一公の快諾ぶりからすると」
「でも、補給の色分けは許可されなかったのでしょう?」
「来迎寺殿の話していた通り、盟約の根幹を揺るがせば約定が揺らぐと与一公は仰せだった」
 勝手な振る舞いに腹が立っても、那須の部隊と私達が争うわけにはいかない。なら、指導者たる公が代弁してほしい‥‥
 来迎寺は家臣として、そう進言し、義経公は「尤も」と受け入れてくれた。それが何とも嬉しい。
「義経公が毅然とした態度を示してくれたことで、多少は兵の不満も拭われたはず」
「そうでござるな。兵への労わりも示し、毅然とした交渉で将としての器も示した‥‥ 今は、それで良しとすべきでござろうな」
 公の伝令として矢板川崎城へ赴いた鳴滝は、来迎寺と共に臣下の礼をとり、主君の顔を晴れがましく見上げた。