怪異‥‥ 幽霊屋敷
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月25日〜09月01日
リプレイ公開日:2004年09月02日
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●オープニング
夜が更け、江戸の町の喧騒が一段落したころ‥‥
今は人の住まないこの屋敷に何かの気配などあろうはずもなかった。
流れの冒険者たちは人気(ひとけ)がないことを確認して、ここに潜り込んでいた。
「こんな所に泊まるのか? 空き堂とかさ‥‥ いろいろあるじゃねぇか」
「そのお堂が一杯だったんでここに来たんだろうが!! 俺に文句言うな」
「江戸で泊まるところもないなんてな‥‥」
「おめぇが悪い。賭場ですっからかんになっちまうなんてよ」
「はぁ‥‥ ごめん」
「俺が有り金を叩(はた)かなかったらどうなってたか‥‥」
「あり‥‥がとよ」
「仲間だろ? いくしっ」
「昼間は暑いけど、夜は寒くなってきたな」
「にしちゃ、やけに寒いな」
「早く入ろうぜ。霧も出てきたし、ここよりはマシだろうからな」
2人の男が壁を乗り越えて屋敷の中に入っていく。
しばらくして‥‥
「なんじゃこりゃあ!!」
髑髏(しゃれこうべ)をカタカタさせながら錆びた刀とボロボロの鎧をガシャガシャ鳴らして、5つの影が2人の男を追いかけている。
「骸骨がぁ!! くそぉ、装備さえあれば!!」
「挟まれたぁ」
「ああぁ!! やっぱオメェなんか助けるんじゃなかったぜ」
幸い身軽な分、逃げ足だけは立派である。
廊下をバタバタ鳴らして転がるように戸板を破ると、迷わず壁を乗り越える。
「助かったぁ‥‥」
「何なんだよ。ここは‥‥」
2人は溜息をつくと夜の闇に消えていった。
「‥‥
それなりに大きな屋敷なんだが、長い間、持ち主が手入れできなくて荒れ放題だったんだ。
まぁ、その理由は想像つくだろうが深入りしてほしくないってのが依頼主の意向なんでそのつもりでな。
‥‥で本題だが、屋敷を売りに出そうって段になって変な噂がたってるのさ。
噂の出元は2人の男。その屋敷には骸骨の化け物が棲みついてるってさ。
おかげで、その屋敷を買おうって人も怖がって二の足を踏んでるし、手を入れようにも大工や庭師も曰(いわ)く付きの屋敷に手を出したがらないしな。
それで‥‥ 噂が本当か確かめて、本当なら怪物を倒してほしいってのが今回の依頼ってワケだ」
ギルドの親仁が冒険者たちに新しい依頼を説明している。
近頃は納涼夏祭り関連の依頼が多く、周囲も盛り上がっているためにこの手の依頼も少なく、また出店に忙しくこういう依頼をさける冒険者も多い。
そのためだろうか親仁の勧誘にも、いつになく熱が入っている。
「そうだなぁ。この手の不死の魔物には神聖魔法が有効だ。
それに魔法か銀の武器しか効かないって輩もいるから気をつけるこった。
今回はおそらく怪骨だろうから、その心配ないかもしれんが‥‥ まぁ、気をつけるこった」
●リプレイ本文
●ギルドにて
「存在だけで、この暑い時期に寒さを呼べるのはありがたいものだな。もっとも怪談だけの方がよっぽど良いのだが」
佐々木慶子(ea1497)が苦笑いを浮かべる。
「さっさと駆除する事にしましょう」
依頼を受けた証を台帳に記入し、腰の日本刀の具合を確かめた。
「真夏の夜の妖怪騒ぎですか‥‥ お祭の雰囲気を壊させない様に無事に解決させないといけませんね」
「全く面倒な。世間は祭りだってのに‥‥ ま、引き受けた以上は成功させて魅せるが」
陸潤信(ea1170)や殊未那乖杜(ea0076)も記入していく。
「化物屋敷か。成る程。
まぁ、我輩のような美しい肉体の持ち主であれば兎も角、筋肉のない可愛そうな者達にそんな家に住めと言うのは酷と言うものであるな! 死者の魂の安らぎの為にも一肌脱ごうではないか!」
身の丈8尺あまり、胴丸鎧からこぼれる筋肉の塊、ピチピチで破れるか心配な法衣‥‥
ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)の豪快な言いぶりにギルドの親仁が笑い出す。
「ともかく、頼んだよ。祭りの片手間になんてことのないように」
「当然である。筋肉のないまま、この世にいるのは可愛そうであるからな」
親仁は笑いながら奥へ下がっていった。
●季節外れの大掃除
「埃っぽいですね」
天薙綾女(ea4364)は咳き込んで、袖で口と鼻を被(おお)った。
暗かった邸内に光が差し込んだ。
ゴルドワが引っぺがした戸板を投げ飛ばしているのを見て、殊未那が慌てて駆け寄る。
「ゴルドワさん、壊さないでくれよ。依頼主にとっては売り物なんだから」
「そうであるか。つい気持ち良くて」
そうそう、障子に穴開けたりって楽しいのよね。
冒険者たちは3班に別れて昼間のうちに邸内を調べておくことにしたのだ。
彷徨える魂が現れるのは夜とふんだからだ。
まずは屋敷の構造を確認し、戦闘で邪魔になりそうな物を庭に退かすつもりでいた。
「そっち、床が腐ってるから気をつけてな」
「邪魔だけど、これは動かせそうにありませんね」
誇りまみれになりながら家財道具を庭へと運び出す。
「この仏像、いい筋肉しておるな」
それは関係ないって‥‥
「おお、これを見るのである」
別の戸板を外したゴルドワが興味深げに庭を眺めている。
「いかにもって感じだな」
殊未那が庭を見て腕組みをした。
庭には祭祀があり、先祖代々が祭られているようである。一般的ではないが時折見られる風景だ。
奥の斜面には堂があり、墓らしきものがここからでも見える。
バンッ!! パパン!! 突然の音に天薙が小さく息を飲む。
薄気味悪さと悪寒は霊の仕業なのか、自分の恐怖心のせいなのか‥‥
「どうしました!! 何かあったのですか?」
口と鼻を布で隠し、頭にも布を乗せて襷(たすき)掛け、完全にお掃除態勢に入っている三笠明信(ea1628)が押っ取り刀で駆けつける。
その場に霧が立ち込め、思い出したかのように激しい音がするが、誰も怪しい姿を見つけられない。
「昼はまだ現れないってことか?」
殊未那が訝(いぶか)しげに周囲を確認するが、やはり何の姿も見えない。
「屋敷の造りは普通。地下に部屋はないですね。おかしいことが起きたのはここだけです」
騒ぎを聞いて駆けつけてきた潤信も、異様な状況に戸惑うばかり。
「こちらの班も地下を調べてみたが、部屋はなかったな」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)もその場に現れた。
「こちらも収穫なし‥‥」
佐々木のクレバスセンサーでも隠し部屋や地下室は発見できなかった。
「私の術にはこの辺一帯に不死の者の気配を感じるんですが‥‥ 数は1つ? 5つじゃないの? それに大きい‥‥」
焔衣咲夜(ea6161)はデティクトアンデットで確かに何かを感じていた。しかし、五感では霧しか感じることはできなかった。
「このままじゃ埒が明かないよ。出直そう」
天狼寺雷華(ea3843)が辺りの霧を気にしながら仲間を誘(いざな)う。
クレセント・オーキッド(ea1192)はギルドを通して依頼主に情報の提供を訴えた。
「紫月(しずく)さん、依頼主も曰くつきとかで間取りとか詳しいことは判らないということだよ」
紫月とはクレセントがジャパンに来てから使っている名前だ。
「霧を伴って現れる骸骨‥‥ 親仁さんは聞いたことある?」
「いや、怪骨かと思ったけど、違ったのかな‥‥」
「そう‥‥」
結局、冒険者たちは判っている情報だけでもまとめて、仮眠をとって夜にもう一度行くことになった。
●怪異は夜好む?
薄暗がりが周囲を蔽(おお)い、陽の光は一刻一刻失われていく。
パチッ、パチッ‥‥
持ち込まれた薪が篝火の篭の中で爆(は)ぜる。
「やはりあそこだろうな」
屋敷の周辺の探索を終えた殊未那、ゴルドワ、天薙が屋敷の庭に戻ってきた。
「あの祭祀と墓‥‥ あそこ以外に考えられませんね」
そう言って三笠が立ち上がろうとすると、うっすらと霧が立ち込め始めた。
ガシャン‥‥ ガシャン‥‥
鎧の鳴る音が暗闇に響く。
「来ます。5つ‥‥ それを包み込むように別の気配‥‥」
咲夜のデティクトアンデットが不死の者を捉える。
自然と3つの集団に分かれ、各々の班で精霊や闘気、神仏の力が顕現する。
一行の戦闘態勢が整ったころ、ガシャリと鎧が縁側にその姿を現した。
「あなた達が此処にいるわけは知らない。
けどね、死者が生者に迷惑を掛けるようなことはあってはならないのよ。
だから、悪いけどもう一回葬らせてもらうわ」
天狼寺の声など骸骨たちに届くはずもなく、鎧を着け、刀を構える骸骨の歩みは止まらない。
一定の間隔で歩を進め、間合いを狭めてくる。
「折角の祭なのに‥‥ 無粋も良い所よね、貴方達」
3体の骸骨が迫ってくるのを見て、紫月は慌てて祈りを捧げ始めた。
立派な鎧を着けた骸骨を中心に刀が次々に振るわれる。
「強い‥‥」
槌も短刀も元々受けには向かない武具だ。三笠は辛うじて骸骨の刀を受け、その攻撃をかわした。
相手の力量との差はそれほどない。防戦一方ではいずれ傷を負ってしまうだろう。
「くっ」
初撃を皮一枚の差でかわした佐々木も2撃目はさすがにかわしきれない。
力量は相手の方が上、そう実感せざるを得ない。
2人とも咲夜より加護の術を得ている。それでもこの有様だった。
「もたない‥‥」
「諦めないで!!」
ホーリーフィールドの結界の中から放った紫月と咲夜のピュアリファイで骸骨の1体がビシシと音を立てて軋む。
「諦めたくはないけどぉ!!」
佐々木が悲鳴を上げる。
前衛2人を突破した骸骨を結界を阻むが、刀の一撃で難なく泡と消える。
咄嗟に紫月が結界を張りなおそうとするが、術は効果を発揮しない。
「‥‥」
息を飲む紫月と咲夜の頭上で何かが砕ける音がした。
骸骨の破片が2人に降りかかる。
「遅くなったわね」
リーゼの笑みが心強い。
カタカタカタ‥‥
頭の半分や右手の手首をはじめ、体のいたる部分を失った骸骨が立ち上がる。
これで肉でも残っていたら吐いてしまうのだろうが、妙に現実感がないためか嫌悪感はない。
「私が守る」
ノルド‥‥ 東西剣術の融合した構えを取って、リーゼが骸骨と2人の間に割って入る。
肉を切らせて骨を断つ‥‥ 不器用に振り下ろされた刀を受け、袈裟懸けの連撃に骸骨はついに崩れ落ちた。
「はぁっ!!」
気合と共に振り切った天薙の剣戟は骸骨の刀を狙うが、見た目とは裏腹に速い動きを見せる骸骨にかわされてしまう。
互角‥‥ 天薙の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
「こっちだ!!」
オーラパワーを宿した殊未那の日本刀が髑髏(しゃれこうべ)を吹き飛ばした。
「よしっ!!」
喜んだのも束の間、骸骨は難なく殊未那へ刃を向ける。
不意を衝かれた形でパックリと着物が切り裂かれ、そこから血が流れ出す‥‥
際どいところでゴルドワのヒートハンドをかわした骸骨へ天薙の一撃が決まった。
プワキィン、柔らかい音を立てて骸骨の日本刀が砕ける。
「我輩に任せるのである!! うぉぉおお!!」
ゴルドワが背後から掴み、骸骨を投げ飛ばした。
グワシャという音に骨の折れるポキポキという音が混ざる。
ズリッ。それでも骸骨は這いずってでも生ある者を狙おうとしている。
「しつこい!!」
殊未那の一撃でようやく骸骨が動きを止めた。
「押し込みますよ」
「反撃開始です」
態勢を立て直した紫月と咲夜が佐々木とリーゼの傷を癒す。
「向こうは片付きました。あと2体です!!」
潤信が駆け込み様にオーラパワーを付与された鉄拳を髑髏に叩き込む。
それくらいで骸骨が倒れないのは、折込済み。
「ふっ!!」
至近距離からの爆虎掌! 鎧の内部で骨の砕ける乾いた音がした。
間髪いれずに走りこんできた天狼寺を斬りつけた骸骨へ、バシッと音を立てて電気が襲う。
当然、骸骨には何の反応もない。パラッと骨の破片が落ちるのみ。
「これ以上、この世で迷わないでください!!」
潤信が体を支えようとするが、天狼寺は日本刀でそれを制した。
「その通り。死者に必要なのは静寂‥‥ それがこの世の理よ。いやぁあああ!!」
日本刀が繰り出され、鎧を支えていた骨が重量を支えきれなくなってドサッと地に落ちた。
「報告にあったのは、これで最後だな」
佐々木をはじめ、無傷なものはほとんどいない。
癒し手2人の援護を受けながらも、みな満身創痍で最後の骸骨を囲んでいる。
しかし、立派な鎧を着けた骸骨も体の所々を失っている。
殊未那たちの加勢も得て、冒険者たちの勝利も近い。
三笠が骸骨の攻撃を防御する。
動きの鈍った骸骨へ重量を乗せた佐々木の日本刀が振り下ろされる。
パキ、ピシシッ‥‥
崩れ去る最後の一瞬に骸骨は何かを掴もうとしているように見えた。
それが何なのか冒険者たちにはわからない。
「きゃあ」
咲夜の身に傷が走る。
そういえば霧は、まだ消えていない。
パンッ!!
音もし始めた。
「仕方ありません。その縁側の辺りに攻撃を」
ディテクトアンデッドを使って位置を確かめた咲夜が仲間に指示を出す。
潤信がオーラパワーの力を残した拳を言われた辺りに討ちこむと、サッと霧が避けた。
「もしかして、この霧も不死の者?!」
拳を次々に放つが、暖簾に腕越し‥‥ 全く当たらない。
魔法の付与されていない攻撃は霧をすり抜け、またオーラパワーなどを付与された攻撃がなかなか当たらない。
当たったのはオーラパワーを付与された日本刀の殊未那の1撃のみ。
しかし、効果を表したピュアリファイは確実にその霧を捉えた。
2人の僧の術が完成するたびに霧は、その姿を薄れさせていった。
「ほんと、不死の者どもなんて、殴るだけで倒せるうちはまだましですね‥‥」
三笠は大きく息を吐いて、膝に手をついた。
その後の探索で、裏山の墓土が荒れているのが見つかった。おそらくこれが事件の原因、発端なのだろうが、それを確かめる術はない。
「生まれ変わる時には我輩のような筋肉の持ち主に生まれ変わって来いよ」
ゴルドワが屋敷の門をくぐる。
それぞれに思うところがあるようである。あれだけの生への執着を見せられれば尚更であろう。
(「来世、再び人として生まれ、今度こそ平穏な生を全うできますように‥‥」)
願いを込めて咲夜の笛の音が響く‥‥
●全ては闇の中に‥‥
「今のところ‥‥ 敵の正体も数も不明なので、全てを倒せたかどうかは確認しようがありません。
取り合えず片っ端から探してはみましたが、出現しなかったモノがいるのかはわかりません」
律儀と言えば律儀だが、三笠の言い様では依頼主にも不安が募る。
「深入するなと言われてるけど、敢えて聞きます。まさかあの骸骨が屋敷の方々なのでは?」
戦いの最中に見たあの家紋。怪骨の鎧に見えた家紋は消えかけていたが、紛れもなく屋敷で見たものに違いない。
あれだけあちこちで見かけたのだから‥‥
しばらく黙っていたが、依頼人は口を開いた。
「立派な鎧は屋敷の主人、付き従っていたのは追い腹した家臣かもしれません。
実は噂話という触れ込みですが、切腹のうえ閉門となった家だと‥‥」
依頼主の話は真実かわからない。
勿論、潤信たちに依頼主が口止めしたのは言うまでもない。
全ては闇の中に‥‥ 今はそれが一番だろう‥‥ 冒険者がこれ以上深入りしても何の得もないのだから。