【ジャパン歳時記・大掃除1】迷惑鼠を倒せ

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月05日〜12月10日

リプレイ公開日:2008年12月13日

●オープニング

 お江戸の町に師走の風が吹く。
「どいた、どいた♪ こちとら忙しいんでぃ」
 関東では戦続き、家康公の遠征が江戸に向かっているというが、人々は人々の営みを普通に送るものだ。
「良し、安し。うちは商品には自信があるんだ。さぁ、買った買った!」
 商店のあちこちには、ちらほらと正月用の商品も並び始め、年末に向けて威勢の良い掛け声が軒々に響いている。
「こら悪戯坊主! 邪魔しないの。御手伝いしないなら、晩御飯は抜きだからね」
「は〜い♪」
 長屋の女たちは怒った顔と語気の裏側に愛情を込め、子供をあやしている。
 そろそろ大掃除の季節。
 今年の穢れを落として、心機一転、来年を迎えようという日本の良き風習である。

 それは寺でも同じこと。
 叩きを掛け、床を拭き、日頃、手の届かないところまで念入りに磨き上げていく。
「大掃除には早いんじゃないですか、住職様?」
「ははは、甘いのう。日頃から掃除をしておけば菩薩様も気持ち良かろうて。それに」
「それに?」
「押し迫ったら、磨きなおせば良いのじゃよ」
「え〜、少しは遊びたい〜〜」
「今日の分の掃除を済ませたらな。思い切り遊んでおいで」
「「「「「は〜〜い♪」」」」」
 小坊主たちは大合唱すると、境内へ散っていった。

 ちぅ、ちぅ‥‥
 明るい子供たちの声の響く境内のあちこちに黒い影が‥‥
 人の住んでいる場所ならば、鼠などいくらでもいるだろう。
 だが、それが1m近いとすれば話は違う‥‥
「びえぇええええ!!」
「うわ〜〜〜〜ん!!」
 境内に悲鳴の大合唱が巻き起こった。

 それから半刻もせぬ間に江戸冒険者ギルドに依頼が張り出された。

『大掃除の人出を求む。当方、鼠に埋め尽くされており、大変困っております‥‥』

「埋め尽くされて‥‥って、どんなんだ?」
「それはもう、いっぱいで‥‥」
 ギルドの親仁は、依頼人の坊主の慌てように苦笑いするしかなかった。

●今回の参加者

 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb9928 ステラ・シンクレア(24歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5877 霜月 流霞(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セイル・ファースト(eb8642)/ 彩月 しずく(ec2048

●リプレイ本文

●ちょ〜ろ♪ ちょろちょろ♪
「お寺に大量の鼠が、こんなに‥‥ 一体なんでまた‥‥?」
「菫ねえちゃ〜ん‥‥ ひっく」
「大丈夫だからね」
 涙目の小坊主たちが刈萱菫(eb5761)の袖や腰の当たりにしがみついている。
 それもそうだろう。一匹、二匹、三匹‥‥ ええぃ、ちょろちょろして数えるどころではない。
 おまけに全長1mはあろうかというお化け鼠までうろちょろしているとなれば‥‥
「罠に追い込んで何とかするといってもな。成せば成ると言っても、この数だと結構な造りの囲いが必要だぞ」
 小坊主たちをあやす刈萱をを眺めながら、霜月流霞(ec5877)も自身にまとわりついてくる小坊主の頭を撫でている。
 お寺の中での殺生は、流石にまずかろうと、鼠を捕えてから何とかしようという作戦なのだが、これでは作戦どころではない。
「ずっとジャパンには来てみたかったのだが‥‥ その‥‥ こちらは、いつもこんななのか?」
「エフ、誤解されたくないから説明するが、これは明らかにおかしい。鼠の大掃除をしなければ、年は越せないとはな‥‥」
「大掃除とは何だ?」
「年の暮れの行事、つまりは年末の風習、習慣というやつだ」
「ふむ、珍しい習慣もあるのだな‥‥ 普段から少しずつ掃除しておけば良かろうに‥‥ いや、そういう問題ではないか」
「わかってもらえてありがとな。ちなみに言っておくと‥‥
 日頃、鼠を放っておいたから、こんなに増えたわけでも、日頃から掃除をしてないから、この時期に掃除をするわけでもない」
 南イングランドから来たというアフリディ・イントレピッド(ec1997)は、霜月の説明を受けて得心する。
「しふしふ‥‥ 住職さん、平治親分さんを連れてきました。うわぁ、ねずみさん、やっぱり怖いです」
 連れてきた猫さんたちに飛びついたステラ・シンクレア(eb9928)の後ろには、十手持ちと、その子分の姿が見える。
「お‥‥ 親分? てぇ、てぇへんだ!」
「八! 見りゃあ、わからぁな!! ちっとは落ち着きやがれ」
 平治が八の頭を、ごちっとやる。
「江戸の髪結、刈萱菫と申しますわ。平治親分、よろしくお願いしますわね」
「おぅ、こちらこそ宜しくな。と言っても相手が寺社じゃ、俺たちで手出しできることは少ねぇけどな」
「それなら、少しの間でいい。小坊主たちを預かってくれないか? 鼠の駆除に巻き込みたくない」
 名乗った霜月は、刈萱や自分にしがみついている子供たちに目を配った。
「おぅ、そういうことなら任せときな。で、どうやって、こいつらを退治するんでぃ?」
「網や囲いを使って捕まえて、境内の外で駆除しようと考えているのですけれど‥‥」
「うむ‥‥ 追い出すのは俺たちでやれるにしろ、それをやるにも囲いを作るには職人の手が必要だなと相談してたんだ」
「しふぅ‥‥ こ〜んな大きな鼠もいるんです。ほら、あれ」
 ひょいと飛んで大きさを表していたステラは、お堂の床下から顔を出した鼠のでかい顔を指差す。
 光を反射して暗闇に光る赤い瞳は多い。猫のアイとマイが、心配そうにステラに額を擦り付けてきた。
「大工の費用は、あたしが出すかね。そうは言っても、頼める大工を知らないがね」
 アフリディは、肩をすくませてみせる。
「わかってるな? 八、長屋へ一っ走りして、大工を呼んで来てくれ」
「がってん承知の助! おっとと」
 勢い余って、どぶ板を踏み外しそうになる八を、一同は苦笑いで送り出した。

●囲い込み
「あらら‥‥ 使い物にならなくなってしまったわ」
 刈萱は壊れた猟師道具に溜息一つ。流石に相手が多すぎる‥‥というか、想像以上に狂暴だ。
「菫殿、これを使ってくれないか? 以前の依頼で取り上げた奴なんだが、その罠に引っかかったのはあたしでね。
 自戒の為に持っていたが、役に立つなら使ってほしい」
「ありがとう、エフ。使わせてもらうね」
 あらためて罠を仕掛けるが、これでは焼け石に水‥‥ 製作中の囲いの完成を待たなきゃ仕方ないようだ。
「問題は、この鼠の数‥‥ それと、観音様を壊してもいけないんだな?」
「そうね。できれば境内の中での殺生も避けてほしいと住職も仰っていたし、気をつけないと」
「神聖な場所ということか。となると、なるべく血を流さないように工夫しないといけないな」
 囲いに入れるまでは出番がなさそうだと、アフリディは龍叱爪を眺める。
「しふしふ〜♪ 囲いができたって」
「へぇ、なら見に行かなくてはな。出来具合が作戦の成否に関わる」
 何気ない一言に刈萱が思わず吹き出し、ぱぁっと明るい笑顔に皆も顔が綻ぶ。
「おまえさん、わかってないだろうけど、洒落を言ったんだよ」
「洒落? 何のことかわらないが、まだまだ不思議なことに満ちている国のようだな。ジャパンは‥‥」
 1人首を傾げるアフリディの肩を叩くと、霜月はステラについて行った。

 さて‥‥
 ステラの飼い猫のアイとマイが床下へ飛び込み、それに霜月の鳴き真似で脅かして、鼠を罠へ追い込んでゆく。
「ぢゅううううう」
「あなたみたいな鼠に後れを取る、あたしだと思って?」
 ばしばしと名剣の腹で叩きながら、お化け鼠をアフリディは追い込む。
「これだけの数、なんで現れたのかしら?」
 調べてみたが、鼠が湧いてきた発生源は特定できなかった。
 お化け鼠あたりは、その大きさからいっても恐らく江戸の地下空洞あたりであろうが、普通の鼠に関しては‥‥
「平治親分さんが、この寺の周辺で鼠を急に見なくなったって教えてくれたよ」
 メロディーで棲家の恋しくなる呪歌をステラが唄ったところ、寺の周辺の長屋へ鼠たちが帰っていった。
 そのことからも裏付けられると考えてもいいが、なぜ寺に集まったのかまではわからない‥‥
「鼠の開けた穴は大工さんが修理してくれたし、当面は大丈夫と思いたいけれど‥‥ 心配ですわね」
 霜月に襲い掛かってきた別のお化け鼠を巨大な戦扇子で叩きながら、刈萱は思い悩む。
 本格的に探索をした方が良いのかもしれない。住職たちも心当たりはないと言っていたし‥‥
 お寺の外で何か怪しいものに繋がっていても困ると、平治たちに気に掛けておいてほしいと頼んではいるが‥‥
「危ないです」
「ありがとうな。助かった」
 ステラの高速詠唱のスリープが、霜月を囲もうとしていたお化け鼠の一匹を眠らせる。
 峰討ちで叩き起こすと、寝起きのお化け鼠の尻を強かに一撃した。

「さぁて、ここから先は遠慮なしだ」
 側を抜けて囲いの外へ出ようとするお化け鼠を、アフリディは龍叱爪で掻き斬り、名剣「デル」を一閃する。
「逃げちゃ駄目です! 逃がしたら怖いですから」
「そこっ!」
 勢いで外に出そうなお化け鼠をステラがスリープで眠らせ、刈萱が戦扇子を振りぬく!
 ぐわらきぃいいん、ぐしゃぺき!
 ふんっと裾をまくって刈萱が勝利のポーズ。
「ぢゅぢゅうう」
 結局、全部で10匹近いお化け鼠が囲いに追い込まれ、次々と止めを差された。

●こっちが本命の大掃除
「鼠塚でも作って、供養してやらなければならんでしょうな‥‥」
 住職と坊主は命を落とした鼠たちに経をあげると、お化け鼠の死骸の処理を信者に頼み、深々と礼をした。
「おねえちゃん、おにいちゃん、ありがとう」
 想像以上に大変だった今回の依頼にあって、明るい小坊主たちの笑顔は救いだ。
 とはいえ、鼠たちが現れた原因はハッキリしていない。
 何も起きなければいいが‥‥
 冒険者たちは、そう願わずにはいられない‥‥

「さ〜て、観音様を磨く人〜?」
「「「「「は〜〜〜〜い♪」」」」」
 小坊主たちは刈萱の後について走ってゆく。
「これこれ、走ってはいかんぞ。ほれ、お前さんも慌てて飛ぶと柱に‥‥」
「いった〜い‥‥」
 観音像の上の方へ飛ぼうとしたステラは梁に頭をぶつける。
「まぁ、これはこれで楽しいものだな」
「まあね。ほら、掃除掃除」
 アフリディと霜月は、思わず微笑みながら、箒を持つのだった‥‥