【毛州三国志・那須】強者哀愁!強襲王者!
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 86 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:12月19日〜12月26日
リプレイ公開日:2009年01月01日
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●オープニング
●白兜の行方
矢板川崎城は下野国那須藩において那須軍基幹基地の1つ、また交易流通基地としての西の要としての役目を担っている。
加えて、八溝山の赤頭鬼軍の退治のために連合した那須・宇都宮・義経の連合軍の基幹基地としても要衝にある。
先日、この地に迫ろうとしていた超巨大熊は、冒険者たちに打ちのめされて、息絶え絶えに地に伏した。
それに伴って緊急招集された200の兵は散開して、それぞれの土地へ帰っている。
それよりも‥‥である。
姿が消えたことから山へ帰ったと思われていたが、超巨大熊・白兜は忽然と行方をくらましている。
「本当に忽然と消えたんだ。あれだけの巨体が痕跡を全く残さずに移動するなどありえないことだ‥‥」
冒険者からの忠告により、熊たちの帰る先を調べ、襲撃の原因を調べる予定であった那須の猟師や密偵たちも頭を抱えていた。
峻険な山岳地帯の奥にまで探索の手を伸ばすために那須天狗や修験者に協力を求めたものの、手がかりは今のところない‥‥
さて、そんな慌しいある日‥‥
「ぐがぁあああ!!」
毛皮を纏い、髪を逆立たせた男が、武士たちに引き立てられて矢板川崎城の牢に入れられた。
別に大きな罪があるわけではない。その身には多くの傷を持ち、話が通じる状態ではなく、一先ず隔離する必要があったからだ。
「白兜の襲撃で山を追われた猟師か流れの修験者か‥‥ それとも戦場で気のふれた浪人か何かか‥‥」
役人たちは困った風で男を眺めるが、今にも鎖を引き千切らんばかりに歯をむいている。
「殿であれば、このような者を放ってはおくまい。僧など、誰か呼んでみるか?」
法力の優れた僧であれば、傷を癒したり、気持ちを落ち着かせることもできよう。
ただ、法力ある者は、悪鬼調伏の合言葉のもと赤頭鬼軍との戦いで傷ついた兵を後方治療する役目で狩り出されている。
それらの者たちは、喜連川や馬頭などの後方基地にあるだけに、呼び寄せるにも憚れる状況であるのも確か‥‥
ヒーリングポーションなどを飲んでくれれば傷だけでも癒すことができようが、本人が暴れるために飲ませることもできず‥‥
要するに打つ手なし‥‥ お手上げ状態なのである‥‥
「暫くは我慢せよ。蒼天隊を呼ぶこととしたのでな」
「これは杉田様‥‥」
役人たちが一斉に礼をとる。
「白兜の探索を冒険者に依頼した。中には、この男を治療することができる者も居るかもしれん。
いなければ、改めて手を打つ故、辛抱してほしい。この男のためだけに喜連川から僧を呼びつけるわけにもいかぬのでな」
那須藩軍師でありながら那須医局の局長を兼ねる杉田玄白は、医局の部下からの報告を受けて様子を見にきたらしい。
「で、白兜との決戦のあった場所の近くで保護したのだとか?」
「左様で」
「喜連川に送る手もあるが‥‥ これはせぬ故に安心せよ。何か聞きだせると良いのだがな」
役人たちの青痣や引っ掻き傷などを確認した杉田玄白は、彼らを安心させるように付け加えた。
※ 関連情報 ※
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。
【冒険者ギルド那須支局】
喜連川に設置された冒険者ギルドの中継補給基地の役目を持つ出先施設。依頼斡旋は行っていない。
【矢板川崎城】
天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。
【蒼天十矢隊】
冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散。
汚名挽回して、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。
【杉田玄白】
広い知識を持ち、軍師的な活躍もしている那須藩士。欧州勉学の旅を終えて帰国したところを与一公に招聘された。
【白兜】
黒毛で頭と首に白毛のある10mほどの巨大な熊。
●リプレイ本文
●包囲陣
「御足労いたみいります、局長。あの様に巨大な動物が忽然と姿を隠すことなどありえぬこと。何かしら裏がありそうですわ」
「あたいの想像が当たっていれば相当に危険な状態だけど、本当にいいの?」
「これでも武士だからね。自分の身くらいは自分で守れるさ。それよりも‥‥
ハーフエルフではないから狂化とも違うし、単に正気を失っているだけなのか、手負いの獣だから凶暴なのか‥‥」
那須医局員の七神斗織(ea3225)とクーリア・デルファ(eb2244)に事前説明を受け、杉田玄白は男を再び訪れていた。
「異国では『デビル』という者の使う魔法で、半永久的に相手の姿を変えることもできるとか。
保護された場所と状況から考えて、やはり、この患者が白兜である可能性は否めません」
「七神の言には一理あるな。巨大な人間たちに囲まれていると思い込んでいる獣ならば、恐れて暴れても不思議はないか‥‥」
「杉田殿、手がかりがない以上、彼から情報を聞き出すのが一番かもしれない。
白兜の変身ならメンタルリカバーの魔法で落ち着かせても話が通じないかもしれないけどけど」
「五月蝿いならコアギュレイトで動けなくするかね? それとも睡眠薬で眠らせるかね? けひゃひゃひゃひゃ」
カイ・ローン(ea3054)とドクターことトマス・ウェスト(ea8714)の神聖魔法があれば、精神も肉体も回復するだろう。
「眠らせては意志の疎通ができぬよ。コアギュレイトで動きを封じて、治療を始めるのが最善かもしれぬ」
興奮し、我を忘れた男の傷は、果たして白兜の激戦の傷跡なのか‥‥
「状況証拠を見れば、ズバリ悪魔に関係ありありなんじゃ?」
「化け熊という可能性も全くないわけではないよ」
超美人(ea2831)は聞くが、杉田玄白ら医局の者たちにも特定できなかったようだ。
仮に男の身長が10m超から2m足らずに縮まったとのなら、戦傷も小さく細くなるのではないか?
そもそも、白兜の襲撃の動機がわからないままだし、満身創痍の男の出現に意味があるのかもわからない‥‥
白兜が人に姿を変える能力を持っているのか、デビルが白兜を人に変えたのか、それらさえわからないままだ‥‥
「確実なのは、この男がデビルではないということだね」
カイは、指輪の宝石の蝶を覗き込んで呟く。
「だが、魔力を秘めた武器や魔法の力を打ち消すデビルもいるとか‥‥ 探知できないこともあるのでは?」
この石の中の蝶が羽ばたけば範囲内にデビルがいる。しかし、杉田玄白が言う事態がないとも言い切れないのが現状。
「三年前に江戸城を襲撃してきた奥州の忍びは、九尾の妖怪に化け、魔法まで使った。
今回も関係あるとすれば‥‥術や呪法の類で男が白兜に変身させられていた、あるいは変身したか‥‥」
疑えばきりがない。陸堂明士郎(eb0712)の示す最悪の状況も、どこまで想定すれば良いのか見当もつかない‥‥
ただし、男が白兜であり、万が一にも城内で変身を解いて暴れだしたら川崎城が吹き飛びかねない‥‥
「草太さんらから知らされているかもしれませんが、世界各地で地獄と繋がる次元転移の門が出現しているみたいです。
この那須にも、それが現れたということないでしょうか?」
カイの問いに、杉田は「さぁ」と首を振る。だが、もしそうならば一大事では済まない‥‥
「兎に角、謎が多すぎる。全部一度に分かれば良いが、無理ならば一つづつ解明していくしかあるまい。
現場から探索をやり直すのも1つの手だ」
「ならば、私は白兜の行方を占いで追ってみよう」
「探索行と男の治療で手を割くか‥‥ 情報は少しでも欲しい状況だからな‥‥ ここは、君たちの策に乗らせてもらおう」
超らは白兜との戦闘地点を中心に地道な情報収集、上杉藤政(eb3701)らは白兜の行方を占い‥‥
そして、川崎城の堀外で男の治療を行い、その周囲に杉田玄白率いる那須兵を伏せた。
●治療
「あの男、化かし、それとも妖憑きか何かなんですか?」
「わからないよ。でも人外の可能性は高い。自分たちは万が一に備えているだけだから、戦わずに済むように祈っていてくれ」
那須の足軽に声を掛けられて陸堂は答えたものの、兵たちの不安はヒシヒシと伝わってくる。
たった1人の怪我人を囲むために仰々しいまでの兵と冒険者が集められれば、疑って然るべき‥‥
気持ちはわかる‥‥ そう思っていると、兵たちは経を唱え始めた。
「聞き慣れない経だが?」
「馬頭観音様に経を唱えてるんですよ。諸悪を滅する明王様とも言われてますからね」
なむおん ろだらや そわか‥‥
見れば結構な多くの兵が経を唱えている。
「(信心で救われれば、それに越したことはないが‥‥)」
陸堂は治療の行われている小屋に目を向けた。
「白兜を知りすぎているかもしれないのが問題ね。まるで獣みたいって話ですし」
クーリア、カイ、七神は、男を隔離した小屋で診察を始めた。
白兜に変身されれば無事ではいられないだろうが、これまで男が変身しなかったことを考えると恐らく大丈夫。
問題は魔法の変身が解けてしまう場合だが、魔法の効果時間がどれだけ残っているのか、この状況でわかろうはずもない‥‥
覚悟を決めた3人は、鎖に繋がれた男に近付いてゆく。
「ふぅうう! ふっううう!!」
興奮し、血走った目は、尋常ではない。
「刀創と同じくらい打撲も多いようですわね。爪に引き裂かれたような傷もあるようですし‥‥」
七神の見立てでは、新しい傷と古い傷で満身創痍でもあり、新しい傷だけでも十分に重傷だった。
「ちょ、暴れないで!」
「傷が開いちゃう。じっとしてて。あたいたちに敵意はないんだから」
抑えようとするカイとクーリアの背後から高笑いが響く。
「けひゃひゃ、どちらにしろ魔法をかけないとならないのだから、思い切り良くするのだね〜」
「待って、ドクター」
魔法を掛けることが呪術の発動条件かもしれないと杉田玄白に指摘されていたのだが‥‥
「良かったぁ‥‥」
コアギュレイトで男は動けなくなった。その姿に変化はない‥‥
「念念仏仏〜〜。弥勒の慈悲で、この男の傷を癒したまえよ〜〜」
ドクターの体が白い清浄なる光に包まれると、リカバーで男の傷が癒え、僅かに頬に紅が差す‥‥
「聖母セーラの御業にて、この者に奇跡の起こらんことを‥‥ 精神を蝕む恐怖の取り払われんことを‥‥」
根気よく続けられたカイのメンタルリカバーで、男は落ち着きを取り戻していった。
「これでも飲んで落ち着いてください」
七神が差し出した薬湯に口を付け、飲んで見せると、男は安心したようにそれを飲んだ。
「思い出したくないかもしれませんが、あなたは白兜の何を見たんですか?」
気色をなくす男は、何度もメンタルリカバーで落ち着かされると、薬湯も効いてきたのかポツポツと話し始めた。
それによると、男は那須兵の武具の落し物を浚いにやってきたのだという。
城ほどもある巨大な熊とやらにも興味があったし、武具が拾えなくても熊の毛皮や肉くらいは手に入るだろうと‥‥
「そこには山のような熊の毛皮があってよ。これが白兜ってやつなんだと思って近付いたんだ。
でも、あれよあれよという間に縮んでさ。子猫になっちまった‥‥
腰を抜かしていたら地黒のでっけぇ男が近付いてきて、ニヤッと笑うのさ。
魂をよこすなら命は助けてやるってさぁ‥‥ それからは何が何だかわからないうちに、ここにいるって寸法さ‥‥」
男に色々聞いてみたが、それ以上は知らないらしい。
今は泥のように眠りについている‥‥
「ん? そもそも、羽有渡丸を傷つけることができなかったのだから、白兜はエレメンタルでもデビルでもないのか〜。
ゴーストやレイスのような霊でもないし、普通の武器が効くのだから、ただの動物ということかね〜〜〜」
これまでの情報を総合すればドクターの推理で筋は通る。
「だが、思い違いや思い込みがあるかもしれない。記憶違いもあるだろうから慎重に判断しないとなぁ‥‥」
「問題は、デビルが変身させたのなら持ち込んで変身を解かれると手の打ちようがないってことか‥‥」
「それは警戒のしようがないな‥‥」
カイの一言に場の空気が凍りつく‥‥
警戒態勢と対応力を確保しておくしかないが、緊張状態はいつまでも続かない。
疲弊したところを叩かれれば終わりだ‥‥
「あと、この男の口封じには十分注意してくださいね。西では人ならざるものの動きもありますし。
人同士が争う時ではないのに大きな戦のことも‥‥ なんか、裏でうまく動かされているみたいで嫌ですね。
那須も、これからどうなるんですかね‥‥」
クーリアの危惧を含めて、この件に関しては、対応を協議するということで一応の結末を得た。
「あの? 杉田局長様、僧兵になっても藩士で居られますでしょうか? 医者の腕のみでは治癒魔法には‥‥」
「これは勉学の助けにしなさい。出家していても大名は大名、藩士は藩士ですよ」
微妙な微笑みを浮かべる七神に、杉田玄白は懐から巾着を取り出して渡した。
●探索
「自然すぎるわ。不自然な点が全く無いなんて‥‥」
どんなことも見逃さないと頑張るマクファーソン・パトリシア(ea2832)だが、事前情報を確認できただけにすぎない。
白兜がつけたであろう巨大な爪痕や足跡は確かに残っているのだ。よって、あれが幻想であるようなことはない。
だが、この場から白兜が去った後はない。だとすれば、倒されたのだから、死んでいるならば死体が残っているはず。
猟師たちが毛皮や肉を持ち去ったとしても、動物たちに食べられたとしても、痕跡は残るはず‥‥
仮に魔法などで信じられない速度で腐ったとしても、毛や骨は残るだろう‥‥
調べれば調べるほど、忽然と消えたとしか思えないのだ。
「良く見ると暴れた跡や大木に付いた引っかき傷が残っているわね。爪の欠片でも残ってないかしら」
「あるにはあるが、大きさから言って白兜のじゃないな‥‥
潜伏しているなら遠くへ行ってはいないはず。発見できなければ、それなりの証拠となる物を見つけたいものだが」
マクファーソンと超が周囲に目を配りながら、猟師としての経験で調べて回るが手がかりはない。
「鹿がいるな‥‥ 白兜たちの一団が生き残っているのだとすれば、危険を感じて寄りつかないはずだが‥‥」
「そうだね。ということは、本当に消えちゃったってこと? 魔法を使う熊なんて聞いたことないわ」
「私もそう思う。何者かに変身させられたっていう皆の想像が当たってるのかもね」
超とマクファーソンが首を傾げた。
一方‥‥
「悪ふざけが過ぎるようね! そこのデビル!」
セピア・オーレリィ(eb3797)は、愕然として叫ぶ。
話が通じない、薬を飲まない‥‥という謎の男に悪魔が介入しているとすれば、悪魔の変身魔法を使われているのでは?
そういう存在なら暇つぶしではないだろうし、悪ふざけをして結果を見届けないなんて訳はない‥‥
上杉の陰陽術に卦のあった禍々しき男を探してみれば、空振り覚悟の邪推が現実とは‥‥
「(義経さんのところに手伝いに行ってるからこっちの様子も見ておきたい‥‥と思ったのだけれどね‥‥)」
セピアはディテクトアンデッドの反応を頼りに、修験者に聖なる十字架の槍を向ける。
「探索者の能力を考えれば、白兜は倒れた場所とは全く別の場所にいると思っていたが、白兜を人に変身させて何とするか!」
上杉は、過去の依頼で救出の為にミミクリーで虎を人に化けさせた者を知っている。
悪魔魔法では更に強力にできる様子と聞けば、その可能性を探れるだけでも価値はあると思っていたのだが‥‥
「ほぅ? 見鬼法か何かか‥‥ 邪魔だなぁ」
男は、憤怒の表情でジャイアントへと変貌してゆく。
「どうだんだ、悪鬼め!!」
「答えたら魂でもくれるのか? 俺と契約するなら少しくらい種明かししてやってもいいぞ?」
「神聖騎士として悪への誘惑など許しません! この騒動も、お前を倒せば済むこと!!」
黒脚絆の巨人は、褐色の顔を楽しそうに歪ませてセピアを鼻で笑う。
「白兜が消えて男が現れた。確かに怪しいがそうだとも言い切れぬのが実状だ。
例えば、ヤツの抱えている子猫。白兜を、あれに変身させたのかもしれんからな!」
「ふはは、確かめてみるかね? 戦いたくて仕方ないのだろう? 修羅道を行きたいのなら、いつでも歓迎するぞ」
「馬鹿にするな!」
三菱扶桑(ea3874)は大小で斬りつけて叫ぶ!
「どうした? それだけか? 効かぬではないか」
「なんだと!?」
男の体捌きを見切った三菱の一撃は、傷一つ付けられない‥‥
「魔法の武器しか効かないということは、やはりデビルね‥‥ これならどう!」
十分条件ではないが可能性は高い‥‥ セピアは男の背に槍先を突き出した。
「ほほう?」
「これならいけるわ! うわっ、敵よ退け!!」
「陽の光よ、集いて槍となれ!」
近寄る黒脚絆の悪鬼をセピアのホーリーフィールドで防ぎ、上杉がサンレーザーで焼くが効き目は薄い。
「くふふ、少しチクッとしたぞ。だが、その程度で俺を倒そうなど100年早いぞ。『動くな』!!」
「な、何が‥‥」
黒脚絆の悪鬼の言葉が、三菱らの身動きを縛る。
「禁‥‥縛の法術?」
「違う‥‥魔法じゃない‥‥」
上杉を守ろうとセピアは懸命に構えようとするが、穂先が僅かに揺れるだけで動きたくても動けない。
「ちぃ‥‥ 用心棒家業で飲んだくれ‥‥てたからな‥‥ 身体が鈍っ‥‥たか‥‥」
「ここで死ね。地獄に来れば、俺の配下にしてやるぞ。光栄に思うがいい」
戟で結界を叩き壊すと、いたぶるように三菱らを討ち据え、一撃ごとに骨を折り、肉が砕いてゆく‥‥
「三菱‥‥殿‥‥ 大丈夫でござる‥‥か」
血を吐いて崩れ落ちる仲間を心配する上杉に黒脚絆の悪鬼は残忍な笑みを浮かべている。
「仲間の心配などしている余裕があるのかな? 自分の心配をしたらどうかね?」
「屈しはしない‥‥」
「ほう? 最後の意地か。賞賛に値するが、気にくわん」
僅かに動いた掌で黒脚絆を掴む三菱の手の甲を、悪鬼は石突で叩き潰す。
「火葬してやる。極楽へ行けるか試してみるがいい。くわっははは!」
金属棒を振り回してセピアの鳩尾へ石突を一撃、上杉の首を鈷穂で斬り裂いて、悪鬼は炎を吐いた。
「けひゃひゃ、我が輩に感謝するのだね〜〜」
異変に駆けつけた超とマクファーソンに緊急搬送されたセピアたちは、ドクターのリカバーで辛うじて一命を取りとめた。
「大丈夫? 何があったの?」
「そうよ。こんなにやられちゃうなんて‥‥」
「く、デビルは?」
セピアの口にした『デビル』という単語に冒険者たちは色めき立つ‥‥
「あいつめ‥‥ 今度あったら、ただじゃ済ませない」
「遠くない将来に会えるさ。戦う宿命にあるならね」
強力なデビルが現れた‥‥ 三菱と上杉は、そう話し始めた。