【毛州三国志・義経】雪中の結束
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月29日〜02月05日
リプレイ公開日:2009年02月14日
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●オープニング
下野国那須における那須・宇都宮・義経の三公軍による鬼退治は一進一退で冬を迎えた。
雪が積もったから‥‥ その一点において互いに軍事行動が行い難くなっているからでもある。
雪中での戦は少しのことで死が待ち受けている厳しい状況であり、物資の消費も半端ではないのである。
兵や物資の損耗を考えると雪中で兵を動かすのは得策ではない。
だから、この時期に戦は行わない‥‥のだが、そうもいかない状況というものは存在する。
推定150の赤頭鬼軍は、補給基盤を持たずに八溝山の山城を占拠。
その物資調達は、白河小峰城を那須藩が押さえてからは略奪によると考えられている。
その証拠に那須藩内だけでなく他国他藩にまで、鬼が出没しているとか‥‥
そんな訳で、下野の領民は、各地の軍事拠点に身を寄せる形で越冬を行うよう下知されていた。
略奪を行おうとすれば軍事拠点に接近しなければならず、そのためには物資を消費する‥‥
攻めなければ疲弊するのみ‥‥
守勢に入るだけで鬼軍に対して兵糧戦を行っているようなものだ。
ただし、自由に鬼軍を領内を移動させる訳にはいかないし、最低限の偵察や戦闘は必要である。
そのための方策を立てねば‥‥と、三公軍は頭を捻っていた。
そんな折、冒険者・陸堂明士郎から御意見番の重蔵を介して源義経公に書状が渡ることになる。
その内容は、次のようなものであったという。
『現在の義経軍は、実戦経験を積んできたとは言え、源徳や伊達に縁のある者、浪人や侠客などからなる混成軍である。
然るに、個人の錬度や連携だけでなく、結束を高めることが軍事的に重要な課題であると考える。
指揮系統の強化を図るため、伊達や源徳の柵に囚われない純粋なる義経軍の中核を作ることも大切ではなかろうか?
そのためにも、また、これから数ヶ月の戦闘を鑑みるに、雪中での訓練を行うことが好都合かと』
これを受けてか、源義経は指揮下の軍に号令を出した。
「この時期の行軍は、僕たちも苦しいが、赤頭鬼軍も苦しい。
敵の補給が細っている今だからこそ、八溝山に釘付けにしておく必要があるんだ。
民を抱えて那須や宇都宮は動きが取りづらい状況でもあればこそ、僕たちが赤頭鬼軍を討つ!!
そのために必要だと思われる方策を皆にも考えてほしい!!」
那須藩と宇都宮藩、そして奥州商人らから補給物資の調達を得た義経軍は、雪中行軍の実戦訓練を行う運びとなった‥‥
※ 関連情報 ※
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
成長した義経は源氏の正統な後継者として、江戸城攻めの先頭に立ち、ついに伊達政宗と共に江戸城入城を果たした。
様々な柵(しがらみ)に縛られて、勇気ある一歩は、一気に駆け出すことを許されないでいる。
まさに一歩一歩進んでいる状態。
源氏の棟梁として、夢見る瞳は何を映すのか‥‥
【佐藤兄弟】
継信・忠信の兄弟。
奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。
【重蔵】
義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの元侍。坂東武士の心意気を示すため冒険者稼業をしている。
剣の腕は立ち、身のこなしも熟練。おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
ギルドの親仁らからは法螺話っぽい武勇伝がチラホラと聞けるぞ。
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
【宇都宮藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半分において各国への分岐点ともいえる交通の要衝にある藩。
下野国一の大都市、宇都宮を中心とする。
宇都宮朝綱公の戦死により、結城秀康が軍事の実権を握り、宇都宮成綱が神社や寺社を束ねている。
【八溝山】
那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。
●リプレイ本文
●毛野坊隊、武蔵坊隊
僧侶や武僧や修験者たちを中核とした治療遊撃部隊が編成され、それぞれ『毛野坊隊』、『武蔵坊隊』と名付けられた。
前者は下野出身や由来の者たち、後者は武蔵に縁のある者たちである。
ホーリーフィールドやディテクトアンデッドが使えないため、カイ・ローン(ea3054)の懸念する対悪魔戦では懸念が残る。
ただ、リカバーやホーリーが使える者がいるということは軍の生存率を高めてくれる。
この部隊の効果的な運用や戦力強化が行えれば大いに心強かろうが、それは今する話ではない。
「負傷者の応急手当と魔法治療を優先するんだ! 薬が飲める者は受け取って戦線に復帰せよ!!」
坊隊の運用が始まったものの、指揮官の候補がいないのは痛い。
今回はカイが指揮官を務めているが、いつもという訳にもいかないのだから‥‥
「他の部隊との連絡は!」
「駆けつけるまで今少し必要であろう」
聖女の祈りの十字架を手にホーリーフィールドを張り、カイが黒色槍兵団の突進力を逸らす!
ビュビュッ!!
高所の林から矢が熊鬼兵を襲った。
真っ先に駆けつけたのはセピア・オーレリィ(eb3797)の同行した猟師隊の一部である。
「矢の効き目は薄いわ。私たちの役目は分かってる?」
「坊隊に攻撃が集中しないように矢を射続けること。白兵戦に持ち込まれないように注意して、時間を稼ぐこと‥‥だろ!」
猟師の言葉にセピアは頷く。
『勝利にあっても、一敗地に塗れようとも、義経軍の武勇は全員のもの。それぞれの役目に邁進されたし』
前線の働きも裏方の働きも差別なく戦功として評価するという源義経公の訓示が活きている。
「そうよ! 格闘戦に不向きな部隊が飛び込んでも邪魔になるだけ! 矢襖で敵を寄せ付けないことが肝心ね!!」
このまま意識が浸透してくれれば、義経軍は強固になるはず‥‥セピアは仲間たちを激励した。
とはいえ、黒鎧と朱槍で統一された敵の戦闘力には舌を巻く。
援護の矢は半端なものは弾き返されてしまうだけに、カイや武僧たちの奮戦がいつまでもつか‥‥
●黒色槍兵団
カイらが戦闘に突入する少し前‥‥
八溝山の尾根沿いに進んでいた熊鬼の部隊50は、白河小峰城の背後を突くべく進撃を開始した。
それは偶然の産物であったが、義経軍の偵察と前衛の部隊が通り過ぎたところへ横合いから現れたのである。
中陣として進んでいた歩兵隊は、前方で味方の陣が崩れたのを見て取った。
さては赤頭鬼軍と遭遇戦になったかと本陣に伝令を送り、最大戦速で部隊を進めたのだが‥‥
「連携を忘れるなよ!」
「おうよ! 相手は鬼だ! 一騎討ちの作法など弁えない相手なのだから数で押すんだ!!」
九竜鋼斗(ea2127)を先頭に浪人たちの群れが熊鬼兵に斬り込んで行く。
ところが相手も然る者。片手で隣の熊鬼の胴丸の端を掴み、朱槍を脇に挟んで一丸となって隊列を押し並べてきた。
「くっ‥‥ やるっ! 散開だ!」
個々の質量では圧倒的に黒色槍兵団の方が上である。ぶち当たれば怪我をするのは義経軍の兵。
しかも、その最大の武器を活かす方法を知っているとあれば、厄介この上ない‥‥
敵の穂先を避け、槍柄に脚を掛け、巨体をかわして刀を兜の隙間に滑り込ませる。
ただし、こんな運任せの方法が何度も通用する訳がない。その証拠に逃げ遅れた農兵がひき潰されていた‥‥
「こんなの端から叩くしかない! 騎馬隊がいればぁ!!」
九竜が叫ぶ! 歩兵隊では機動戦闘は無理だ。
剣術や体術に長けていても、1対1で乱戦を行う場があってこその個人技なのだから‥‥
「牛頭隊といい、こいつらといい‥‥ 厄介な奴らだ‥‥」
宇都宮軍を苦しめたのも敵の巨体そのものだった。下手に手を出せば押し潰され、矢は弾かれる‥‥
「それに、敵の練度が高いっ‥‥」
それを経験している九竜だけに、無駄な矢を使わず、斬り崩して乱戦に持ち込むよう指揮するが、簡単にはいかせてくれない。
義経軍も互いに連携が取れる訓練をしていたため、直ぐに崩れることなく孤立だけは避けるように戦ってはいるが‥‥
●撤退
冒険者たちの差し入れが義経軍の軍資金や物資の足しとなったことは、ほんの少しでも義経軍の指揮を高めていた。
奥州商人たちからの援助物資が全て義経軍に回るとは限らないし、訓練を兼ねた鷹狩りでの食糧確保も限界があるからだ。
飢えた軍勢ほど最悪なものはないからな‥‥ 重蔵が苦笑いするのも無理はない。
ともあれ、白河小峰城の支城に集結した義経全軍は、八溝山を目指して軍を進発させた。
騎馬武者に足軽といったバランス型の編成がなされている先鋒の指揮官は、佐藤忠信。足軽任務と強行偵察任務を帯びている。
次鋒の指揮官は佐藤継信。先鋒部隊を補佐しながら敵を駆逐する主力部隊であり、線で行われる先鋒の偵察を猟師隊が補う。
中軍は、来迎寺咲耶(ec4808)たち家臣たちの指揮する歩兵主体の予備兵力を中心に、新設の坊隊が組み込まれている。
これに伊達騎馬隊や源徳騎馬隊を両輪とし、重蔵を筆頭とする近侍騎馬隊が義経公の指揮する本陣を固める。
本格的な陣立てが可能となったのは、新たに家臣に加わった陸堂明士郎(eb0712)ら武士たちの存在が大きい。
この仕官の動きは『国家安寧のために源氏の棟梁として諸悪と戦う』と義経公が兵たちに宣誓したことが影響したと思われる。
来迎寺の士官推薦やセピアの意識向上の働きも小さくはないと、御意見番の重蔵は言う。
軍は義勇の志だけで簡単には纏まらない。時代で意識は変わってゆくものだろうが、今は忠誠こそ義経軍を纏める‥‥とも。
目指す先にあるものが同じで、方法が間違っていなければ、今はそれでも良かろうと‥‥
そうそう、同盟軍として参加している伊達騎馬隊は兎も角、源徳騎馬隊に関しては名称を考えねばなるまい。
元源徳兵であって、今は袂を分かっているのだから‥‥
重蔵は、そうも言っていた。
さて‥‥
中軍の乱れを報せる早馬の到着と共に本陣が押し上げられ、虎の子の騎馬3隊が地鳴りを上げ始めた。
それを察知してか、熊鬼兵たちは退き始めた。
「大丈夫か、カイ!」
陸堂が進軍停止を下知すると、配下の農兵たちに長槍の穂先を地面に下ろして一息ついた。
負傷兵が出ているが、武装と練度の高い巨躯の鬼に対して奮戦した方だろう。
陸堂隊の槍の方が長かったこと、他の部隊と連携して囲い込めたことなど、理由は色々あろうが、敵が退いてくれたのが一番。
「恐らく探りを入れに来たんだろうな‥‥ 兵法を知る者が指揮を取っているんだろう」
「赤頭の?」
「どうかな‥‥ 先発した佐藤殿たちの索敵をすり抜けているのが気になる」
陸堂は逃げ遅れた熊鬼に一刀を喰らわせると指示を出して、長槍農兵たちに止めを差させた。
「別働隊か増援もしれないな。赤頭軍の編成に、あんな部隊はいなかったはず」
九竜は息絶えた熊鬼の黒い大鎧を苦々しく見つめて息を整える。
「黒の鎧兜の熊鬼の軍勢‥‥ 八溝山の岩獄丸討伐、そして奥州勢の白河攻めの際にも現れたのを憶えてる。同じ奴らかな‥‥」
カイたちは伝令を飛ばし、部隊の収拾を始めた‥‥
●白河の黒い影
セピア隊に先導され、余力を残していた来迎寺隊は熊鬼兵の追跡を行った。
刃に血の桜吹雪を舞わせ、脱落した熊鬼を仕留めた来迎寺は、義経公から下賜された戦馬・秋水の手綱を引いて声を上げる。
「追撃中止! 深追いは禁物だよ。このまま追跡だけして敵の退く先を探る」
「猟師隊の半数は先行して偵察。くれぐれも無茶はしないようにね」
「おおぅ!」
義経兵たちは、来迎寺とセピアの指揮に応えた。
「どこへ向かうんだろう‥‥ あの手並み、はぐれ者とは思えないんだよね‥‥」
「この前の戦いで、毛州での戦いにまで悪魔が手を伸ばしてることがはっきりしたばかり‥‥ これ以上の敵は御免よ」
敵の撤退先は北方。あきらかに八溝山ではない‥‥
このまま行けば白河の関‥‥
隙あらば追撃を‥‥と狙っていたが、熊鬼にしては意外にも慎重に退いてゆく‥‥
「え‥‥ あ、あれは‥‥」
「嘘よね‥‥」
来迎寺とセピアが驚きの声を上げた。不安的中である‥‥
びびり、びびっ、びびび‥‥
それは黒一色に統一された大鎧を鳴らして白河小峰城に迫る熊鬼たちの軍勢‥‥
朱槍と鉄弓で武装した屈強な軍団である‥‥
見えるだけでも200はいるであろうか‥‥
それが隊列を組み、白河の関に陣を張ろうとしている‥‥
この軍が赤頭鬼軍と合流すれば脅威となろう。いや、それ以前に白河城が陥落しかねない方を心配するのが先か‥‥
雪に阻まれ、また、各地での戦乱で他国からの援軍を期待できない今、毛州に危機が迫る‥‥