【毛州三国志】白河小峰城を救援せよ!!

■イベントシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 90 C

参加人数:41人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月17日

リプレイ公開日:2009年05月25日

●オープニング

●黒の軍勢
 下野国の北の境界、白河の関は奥州から見て関東への玄関、関東から見れば北国奥州への玄関である。
 大軍を配置することができる地勢もあってか、この5年来、戦のないときはなかったと言ってもいい。
 八溝山に岩嶽丸なる鬼が集結した折には那須軍の最前線にあり‥‥
 奥州藤原氏を筆頭とする軍勢が那須へ押し寄せた折には、蘆名氏が白河小峰城を占拠し激戦が繰り広げられ‥‥
 後に奥州勢の副王とも称される伊達政宗公の仲介で小峰城が返還され、八溝山に陣取る赤頭の奥州鬼軍と対陣し‥‥
 そして、出現した200以上にも及ぶ黒の大鎧を纏った熊鬼の大軍勢‥‥
「猪突してくれれば策に填めることもできように‥‥」
 ただ押し寄せるだけでなく、統制が取れているのが、那須軍にとって厄介この上ない‥‥

 黒の軍勢の主力は、朱槍と大弓と黒の大鎧で身を固めた熊鬼200鬼です。
 那須軍との緒戦で小鬼や犬鬼などの雑兵は、約150鬼に数を減らしているようです。
 なお、那須蘆名の和睦で蘆名勢に残された白河の支城の陥落は、時間の問題と見られています。

●那須軍
 那須では、以前にも岩嶽丸の軍勢に、このような黒の一団が加わっていたのが確認されている。
 また、仙台藩から追い出されたらしき黒き熊鬼の寡兵と戦ったこともある。
 それと同じものであろうと那須上層部では結論に到っていた。
「密偵の報告によりますれば、小鬼や犬鬼を足軽のように引き連れ、熊鬼らは武士の如く君臨しているとのこと。
 黒色槍兵団が束になって掛かってくるとすれば、油断はできませぬ」
 宿老・小山朝政が眼前の軍略図に目を配る。
「我が兵には緒戦での疲弊も出てきております。ここは冒険者を召集なされては?」
「熊鬼の大将は、軍略を知る者と見て間違いありますまい。蘆名の城が落ちれば、攻め刻と考えておりましょうし」
「そうですね。蘆名を囲んでいるのは策だと思っていましたが、これだけ時間を掛ければ那須に有利‥‥」
 腕組みをする那須与一公に、軍師・杉田玄白が苦笑いで問いかけた。
「蘆名の兵を救えないものか‥‥と御考えですか? 殿」
「因縁はあっても見過ごすのは情に薄い」
「ならば策ごと噛み砕く牙が必要でしょう」
 小山朝政の静かな笑みに、与一公は頷く。

 白河小峰城には那須正規軍400と一門衆の福原資広の赤士虎隊50が配備されています。
 白河は何本かの川で南北を分断するように小峰城の支城や砦が4つあり、防衛の観点から橋はほとんど掛かっていません。
 なお、那須主城の福原神田城には250、西の要である矢板川崎城150の那須軍が守備についています。

●宇都宮軍
 下野にあって宇都宮藩は微妙に動けない状況にある。
 上州にある新田貞義は、宇都宮の軍権を握る結城秀康の実父である源徳家康公とは不倶戴天の敵。
 家康公の陣に参じ、宇都宮を開けて新田に切り取られでもすれば、新田は後顧の憂いを1つ取り除くことができよう。
 他にも、伊達、里見なども油断ならない。宇都宮が親源徳派と見られている以上は‥‥
 第一、結城秀康は、今なお与一公の家臣である。与一公の下知なしに兵を動かすには覚悟がいる。
「英気を養い、鍛錬を怠るな!!」
 結城秀康の訓令に応え、宇都宮武士団は軍馬を並べた。

 宇都宮では正規軍1000が藩内の守備に当たっていますが、動員には多少の余裕があるものと思われます。
 故朝綱公の鍛えた質実剛健な武士団の練度が強みです。

●義経軍
 白河北方に新たな鬼軍が出現してより、源義経公は八溝山の赤頭鬼軍の封じ込めのため連戦を続けていた。
 那須・宇都宮の両藩から補給物資の調達が受けやすい状況になったとはいえ、孤軍奮闘は辛いもの‥‥
「孤立した隊を救援に行く!! 継信、忠信、続け!!」
 義経隊の両翼を佐藤兄弟の部隊が固めて、赤頭鬼軍に斬り込んで行く。
「よし、我らは本陣の後方を固めるぞ! 負傷者を内側に!!」
 客将・重蔵の指揮で突撃について行けなかった者たちが隊列を組み始めた。
 毛野坊・武蔵坊の両僧兵隊により多少の負傷回復はあるものの、連戦は精神の磨り潰しあいと言ってよかった。
 ほんの少しでも兵たちが休息できる間が欲しいところだが‥‥
 重蔵は同志たちを見渡した。

 義経軍は、八溝山の麓に放棄されていた那須藩の砦を攻略中。
 兵数は300を割っており、補給線が細っているため、現在の実働数は約250です。
 義経親衛隊、元源徳武士の騎馬隊、伊達騎馬隊、歩兵隊、猟師足軽隊、僧兵隊などに分業されています。

 赤頭鬼軍150鬼は、八溝山の岩城を拠点にゲリラ戦を仕掛けています。
 鬼種は雑多ですが、犬狼鬼騎兵隊や疾風迅雷牛頭隊など能力に特化した部隊で混成されているのが特徴です。


※ 関連情報 ※

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
 城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散。
 汚名返上して、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。

【杉田玄白】
 広い知識を持ち、軍師的な活躍もしている那須藩士。欧州勉学の旅を終えて帰国したところを与一公に招聘された。

【小山朝政】
 那須藩の宿老。白河小峰城城主。結城秀康の兄。
 与一公の右腕として活躍する勇将。下野の南部を地盤とする豪族。源氏との繋がりが深い。

【福原資広】
 志士。与一公の甥。与一公の兄である福原久隆の子。父の命により京より帰国した。
 那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊50を率いる。

【結城秀康】
 白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。結城朝光から改名。
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱を養父に、実父の源徳家康を烏帽子親に持つ。
 宇都宮で軍事の実権を握る。

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半国で、大都市・宇都宮を中心とする交通の要衝にある藩。
 宇都宮朝綱公の戦死により、結城秀康が軍事の実権を握り、宇都宮成綱が神社や寺社を束ねている。

【源義経】
 源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 次々現れる鬼軍や各地で勃発した戦に胸を痛めている。

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
 剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。

●今回の参加者

ルーラス・エルミナス(ea0282)/ 結城 友矩(ea2046)/ 九竜 鋼斗(ea2127)/ カイ・ローン(ea3054)/ 七神 斗織(ea3225)/ 円 巴(ea3738)/ 七瀬 水穂(ea3744)/ 音羽 朧(ea5858)/ イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ 武藤 蒼威(ea6202)/ トマス・ウェスト(ea8714)/ ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)/ 紅 千喜(eb0221)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ フレア・カーマイン(eb1503)/ クーリア・デルファ(eb2244)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ ケント・ローレル(eb3501)/ アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)/ クリューズ・カインフォード(eb3761)/ 鬼切 七十郎(eb3773)/ 飛葉 静馬(eb4754)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ 空間 明衣(eb4994)/ 木下 茜(eb5817)/ エル・カルデア(eb8542)/ 張 源信(eb9276)/ 伊勢 誠一(eb9659)/ ロッド・エルメロイ(eb9943)/ アンドリー・フィルス(ec0129)/ ガルシア・マグナス(ec0569)/ ジャッカル・ヘルブランド(ec3910)/ 琉 瑞香(ec3981)/ ダリウス・クレメント(ec4259)/ ラディアス・グレイヴァード(ec4310)/ 藤枝 育(ec4328)/ 来迎寺 咲耶(ec4808)/ カナード・ラズ(ec5148

●リプレイ本文

●戦場の駆け引き
 イリアス・ラミュウズ(eb4890)が天馬の背から射る鉄弓の矢は、敵の射程外の上空から眼下の鬼軍へと吸い込まれた。
 ただ、天馬の背で風に揺れる中、しかも騎乗射撃の戦技なしでは、射撃と騎乗の腕があろうと命中弾は少なくなる。
「なんじゃ‥‥ あれは?」
 疲労困憊した蘆名の白河支城へと、太陽の光を纏って天馬たちが舞い降りる。
「迎矢もないとは‥‥」
「戦意喪失というとこやな‥‥ こりゃ、いつ落ちても、おかしゅうない」
 警戒していたイリアスとフレア・カーマイン(eb1503)は思わず呟いた。
「とりあえずの援軍としては心細いかも知れんへんけど無いよりましやで」
 降り立つフレアは、蘆名弓兵に声をかけるが、士気は低く、力なく立ち上がるのみ。
「伊達家臣・イリアス・ラミュウズ、蘆名に加勢する」
「那須藩士・七瀬水穂。与一公の使者です。助けに来たですよ」
 那須藩の旗印をはためかせるのは、那須藩士・七瀬水穂(ea3744)だ。
「まさか、那須藩が救援に駆けつけるとはな‥‥ 話を聞こう‥‥ 今は伊達公の和睦の仲裁が有り難いとしか言い様がない」
 城主を名乗る蘆名の武将も、無精髭を伸ばし、隈の上に目を血走らせている‥‥

 一方‥‥
「ん? 何かおかしい‥‥」
 ロッド・エルメロイ(eb9943)の魔法支援により渡河進撃を敢行した冒険者たちと那須軍。
 敵の布陣に乱れを生じさせなければ蘆名支城の救出は難しいためにかけた敵本陣への陽動攻勢だが、敵の動きが鈍い‥‥
「くそっ、人形だ! 敵の本陣は空じゃないのか?」
「いやっ! 人もいる!!」
 突撃にあわせて前進した魔法班の見たものは、ボロボロの鎧を着せられ炭で黒く塗られた案山子と瀕死の男たち。
 広範囲のローリンググラビティで巻き上げられた彼らは、手を縛られ、目と耳を潰され、受身も取れずに地面に叩きつけられたのだ。
「大丈夫? なんて酷いことを‥‥」
 おまけに舌も抜かれており、喋ることができないとは‥‥
 一刻も早く本陣の救護所に運んでリカバーやクローニングを施せば、死なずに済むかもしれない。
 彼らを空飛ぶ絨毯に乗せようとしたとき、どよめきに琉瑞香(ec3981) は振り向いた。
 布や枝を振り飛ばし、伏せていた黒熊鬼兵の突撃!
「これしきで混乱するな!! 弓隊と魔法班に援護射撃を伝令!!」
 遊撃隊蒼天隊長の陸堂明士郎(eb0712)は、敵の突進を阻止すべく隊を動かし、那須軍へ支援を要請する。
「小鬼の数が多い!!」 
「いや、小鬼にしては大きい! 熊鬼にしては小さいです」
 フレイ・フォーゲル(eb3227)のインフラビジョンが戦塵の中の敵影を分析するが、確証がある訳でもない。
 僅かに判断に躊躇している間に敵と乱戦に入ってしまった‥‥
 どういうことだ? その疑問は一気に氷解する。
「うがぁあああ!!」
 真っ黒に塗られた顔に血の涙を流し、慟哭しながら槍を突き出す男たち。
 那須軍と遊撃隊の思考が止まる‥‥
「熊鬼じゃないじゃなぃ。どぅすんのよぅ! 倒しちゃっていいのかぃ?」
「敵なら倒すしかない‥‥けどっ!」
 哉生孤丈(eb1067)や藤枝育(ec4328)は戸惑って、思わず防戦。
 それは、あちこちで起きている。
「こやつら‥‥ 人質を取られておるのか?」
「隊長、大変です! って、わかったからって、どうすればいいんでしょう!! 邪悪な奴らめ‥‥」
 リードシンキングで思考を読んだガルシア・マグナス(ec0569)の言葉をイレイズ・アーレイノース(ea5934)が通訳。
 一先ずはバーストアタックを使える者は率先して敵の武具を破壊。
 ホーリーフィールドなどで接敵を防ぎ、コアギュレイトなどで無力化!
 隊長の指揮よりも早く対応し始めるあたり冒険者の対応力は高い。
「もしかして白河小峰城が狙われている?」
「大丈夫だ。防備の城兵は残されている! まずは無力化するぞ!!」
 イレイズの不安を吹き飛ばすように陸堂は檄を飛ばす!
 そこへ風切り音‥‥
「だ、駄目だ!! 撃つな!!」
 要請していた支援射撃が敵兵に降り注ぐ!
「何てことっ!!」
 冒険者たちの叫びは無常にも届かない‥‥
 当の支援部隊にも危機が迫っていた。
 戦塵に紛れて接近したのであろう熊鬼たちが一糸乱れぬ動きで那須軍後方へ突き進んでいる。
「けひゃひゃひゃひゃ。試獲留丸、ブレスだ〜! 羽有渡丸、ウィンドスラッシュだ〜!」
 トマス・ウェスト(ea8714)の精霊獣たちが敵勢の突進を緩めるが、全てを止めるまでには及ばない。
 矢を斉射して他の目標に狙いを変えるには相当な戦闘訓練が必要だ。
「分散するな! 弓を捨てよ!! 近接戦闘よーい!!」
 分隊長として後方部隊の護衛に当たっていた飛葉静馬(eb4754)は、白銀の大槍を構えて弓兵隊の前に立つ!
「鬼が兵法を知るが如く振舞うとは笑止千万、片腹痛い。拙者の刀で目にもの見せてくれようぞ」
 結城友矩(ea2046)ら騎馬隊が遊弋して救援に突っ込んできた。
「これでもくらえっ」
 オーガスレイヤーの弓からラディアス・グレイヴァード(ec4310)の放つ矢が熊鬼兵の目を射抜き、態勢を崩す。
 そこへ槍を抱えたルーラス・エルミナス(ea0282)が助走の威力ともども激突して跳ね飛ばした。
「負けてはおれぬ!! 天下の大猪の名が泣くわ!」
 結城らの活躍もあって次第に敵軍は撃破されていくのだった‥‥

●激突
 敵の波状攻撃に相当な損害を出した那須軍は、ある決断を迫られた。
 居るべきところに居なかった敵軍本隊の所在をどこに求めるのか‥‥
「負傷者は、後ろには優秀な治療班がおるから一時退避すると良い。今無理するべき時ではないからな」
 時間を掛ければ支城の蘆名が危ういし、この場で治療するのは敵に利する。
 この場での治療は避けた方が良いというのが、医師の心得のある空間明衣(eb4994)らの判断だ。
 無論、負傷者を抱えたままでは戦闘力も機動力も死んでしまう。
 かといって、兵を割いて後送するのでは意味がない‥‥
「蒼天隊から護衛を避けぬだろうか? 腕が立ち、医術の心得のある者が同行すれば最小限の兵を割くだけで済む」
 これが後に戦局を左右するのだが、誰にわかろうか‥‥
「しかし、回復役を残さなければ、いざという時に困ります」
「人選は任せます」
 蒼天隊長・陸堂は、了解の意を示すと隊を分けた。

 集結と後送を行う間、偵察が行われ、一時の休息が行われたのだが‥‥
「自分なら、この霧に隠れて接近します」
 アルディナル・カーレス(eb2658)の進言もあって警戒態勢を強化していればこそ、敵の奇襲を防ぐことができた。
 小鬼を率いた黒熊鬼兵が突撃を掛けてくる。
 背後の影も数えると40〜50鬼は下らないだろう。
「抜刀術・瞬閃刃!」
 九竜鋼斗(ea2127)は視界の悪さを考慮して確実に一撃を入れにゆくと、小鬼がたまらず血を吐く。
 すかさず討ち込まれる円巴(ea3738)の居合い突きに小鬼は動かなくなる。
「騎馬まで居るの!?」
「へっ、止めてやるよ!!」
 回避に優れた者たちでも押し迫ってくる壁を避けるのは用意ではない。
 ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)は、円らを護るように体を張ってタイミングよくダメージを逃がす。
「流石に効くな‥‥」
 と、落馬した敵を見て愕然。
 那須軍の藩章だ。しかも赤‥‥
「この藩章は赤士虎隊か!?」
 那須藩士の驚きの声に冒険者たちも血の気を失った。
「同士討ちだぁああああ!!」
 ダリウス・クレメント(ec4259)は、小鬼に火炎槍を突き立てると、声の限りに叫ぶ!!
「たく、久しぶりの戦だってのに、鬼はこれだけかよ」
 武藤蒼威(ea6202)は黒熊鬼を斬り倒して馬蹄で鎧を踏み砕くと長曽弥虎徹の血を払った。

「福原様! あれは御味方、本隊でございますです!!」
「なにぃ!! 攻撃を止めよ!! 全軍停止だ!!」
 木下茜(eb5817)の伝令に慌てて攻撃命令を取り消す福原資広だったが、赤士虎隊は怒涛の攻撃が身上。
 簡単に止まるようでは赤士虎隊ではない。
 クリューズ・カインフォード(eb3761)の指示で足軽の矢避けの竹巴が押し出されるが、範囲魔法までは防げない。
「落ち着くんだ! 敵じゃない!」
「うるせぇ! 鬼が人の言葉を喋るなんて気色悪いんだよ!!‥‥って‥‥」
 刀を盾で受けられ、カウンターの穂先を寸止めにされて、赤士虎隊の武士が息を呑んだ。

●兵法者
 全滅の危機にあった蘆名勢は、使者である七瀬の条件を入れて那須へ恭順することとなった。
 城兵の救命と引き換えに、白河小峰城の支城や砦は全て那須藩の元へ返還される運びだ。
「ここで死んだら意味がないですよ〜〜! もう一息、頑張るです〜♪」
 七瀬は眼前まで攻め寄せるのを待って、猛火球で鬼軍を撃退するが、魔力は無尽蔵ではない。
 ろくに休憩もさせてくれない状況では、ここまで蘆名兵が持ちこたえたことは賞賛に値すべきであった‥‥
「那須軍が到着するでござる。兵の数を考えれば、敵の力攻めは本気ではござらぬな」
 忍術で包囲網を突破した音羽朧(ea5858)は、伝令を終えると姿を消した。
「矢が心許なかったんだ。正直ホッとした」
 越後屋で強化したイリアスの鉄弓やフレアの短弓が、雑兵の小鬼らの脚を止め、あるいは一撃で瀕死にする‥‥
 矢弾に限りがある以上、完全武装の黒熊鬼兵は狙いを外すしかないのが痛い‥‥
「休むまないで撃つんだねっ!」
 魔力を温存しながらも、カナード・ラズ(ec5148)は敵の気を削ぐためにムーンアローを撃つ。
 敵を押し留めることができれば、この戦場での戦いは勝ちだ。
 暫時、頑張りを報いてくれる怒声が戦場に響き渡る。
「おのれ、散々に引き摺り回しおって! 奴らに容赦など無用!! 蒼天隊は手出しするなよ!!」
 福原資広の赤士虎隊は囮に翻弄され、戦らしい戦もできなかった。
 その憂さを晴らすように猛攻撃を開始するのが蘆名の支城から見える。
 だが、それすら相手にされず、蜘蛛の子を散らすように敵は散り散りになってゆく。
「助かった‥‥ これで宇都宮軍が那須軍の守りに動いてくれてるといいんだけどね‥‥」
 手段を選ばない敵と聞いて白河小峰城の危機を危惧するカナードの不安は‥‥
 現実のものとなるのだった‥‥

 煙の上がる白河小峰城‥‥
 幸か不幸か救護所に多くの冒険者が詰めていたことが危機を救った。
 それもこれも手ひどくやられた那須攻撃軍の負傷者撤退に人手を割かれたからであった。
 本来なら本隊と行動を共にしていた救護班が重傷者の搬送などに付き添い、一時的に後退していたのだ。
 ともあれ、白河小峰城、絶体絶命の危機。
 城内に突如として現れた敵兵の襲撃で、那須守勢は混乱をきたしていた。
「いったい何処から‥‥」
 カイ・ローン(ea3054)らが武器を手に熊鬼を押し留めようと踏ん張るが、その巨体と膂力は彼を圧倒する。
「させません!」
 紅千喜(eb0221)の双撃が鎧の隙間に吸い込まれ、脚払いをかけるが倒れない。
「汝、慈愛の神の名において動くことを禁ず!」
 アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)のコアギュレイトで動きを止めた敵に何本もの穂先が、剣先が吸い込まれる!
 どがぁぁん!
 柵を押し砕き、黒鬼は地面へ雪崩れ落ちた。
「防衛線を張ります! 動ける方は、動けない負傷者を庇うように円陣を組んで!!」
 那須藩士クーリア・デルファ(eb2244)の戦神の金槌が、熊鬼兵の朱槍を打ち砕く!
「うおぅ〜、コレぞ生ける女神! 我が妻ながらまぶしいぜぃ!!」
「そんなこと言ってる場合か! 押し返せ!!」
「夫が妻に見とれて悪ィかよ!!」
 那須兵にどやされて、嬉しそうに聖剣を薙ぐケント・ローレル(eb3501)。
「ホーリーフィールドを張りました。一先ずは安心。私たちは守備に徹しましょう」
 シェリル・オレアリス(eb4803)ら超越級の回復魔法を使える者たちを死守するのが最優先。
「命の恩人を助ける機会が、こんなに早く巡ってくるとはね!」
「立派な考えですが、無理はしないでくださいよ」
 瀕死から回復したばかりの者や蘇生したばかりの者たちにも無理をさせるわけにはいかない。
 那須兵の肩をポンと叩くと、張源信(eb9276)は大鴉の杖を突き出して教を唱えて気を静める。
「城代家老様の身が心配です! 一刻も早く態勢を整えて安否を確認いたしましょう!!」
 那須藩士の七神斗織(ea3225)は恐慌する足軽たちにメンタルリカバーをかけ、那須兵たちに発破をかけた。

 救護班が反転攻勢をかけた頃、守備隊も指揮系統を取り戻し、城外からに押し寄せる敵本隊を押し留めていた。
 鬼面に黒衣の神兵らが、城代家老らと共に前線で奮戦していた。
「遅い! だが、何よりの援軍だ。後は任せて構わぬな」
「はっ」
 位の高そうな鎧武者が、鬼面の神兵に頭を下げ、礼を取る。
「しかし、蘆名の者たちめ。わしの居らぬ間に要らぬものを作りおって‥‥」
 結城鬼面党の頭を名乗る老人は、抜け穴の存在を城代家老に伝えると埋めるよう指示して一党と共に去っていった。
「あの方は?」
「先代白河城主の‥‥ いや、あの方は行方不明だからな。人違いじゃ、人違い。それよりも残党が居らぬか警戒を怠るな!」
 暫時、蘆名支城の後始末を遊撃隊に任せた那須本隊が引き返してくると、黒色槍兵団は整然と兵を退いた‥‥

●勝者なき戦い
 下野国の北の境界、白河の関で行われた黒色槍兵団との激突に勝者はなかった。
 魔法戦で那須軍が局地的に優位に立つものの、戦局を覆すほど効果的な使い方をさせなかった鬼軍大将の兵法による。
「我は王熊! 人どもが互いに争っている今こそ好機! 赤頭が足踏みしているのであれば、我らが下野を頂く!!」
 統一された装備、統率された軍勢、統合的な作戦‥‥
 髪を逆巻かせ、瞳を紅に輝かす熊鬼王の兵法は、那須与一だけなく、多くの者に危機感を与えた。

 さて‥‥
 消耗しきって自力で本国まで退却できない蘆名軍40を救出すると、那須軍は支城に火をかけて撤退した。
 一件落着すれば那須藩が支配権を主張できるが、今は確保に割く戦力的な余裕はなく、敵に使われる訳にもいかない‥‥
「悪路王が奥州侵略を始めたようだ。藩や本国で何か起きたのか‥‥ 申し訳ないが、我らも知るところは少ない。
 ただ、目の前の王熊軍、八溝山の赤頭軍は鬼軍の関東侵略の尖兵にすぎん。
 白河の拠点は重要だが、本国のものにとっては蘆名藩の方が大事だからな‥‥ 我らへの援軍は見込めん」
 白河小峰城にて那須医局の治療を受けながら語った蘆名の武将は、こうも続けている。
「奥州鬼軍は残虐無慈悲。今まで冒険者たちが相手をしてきた鬼たちなど赤子同然だ。
 思えば、人と魔の力は拮抗していたのかもしれん‥‥
 人同士が大きな争いを起こしたことで、彼奴らに付け入る隙を与えてしまったのだとすれば‥‥」
 げに恐ろしきことである‥‥
「人が鬼を恐れるように、鬼もまた人を仇にしているのかもしれん」
 戦全体を監視していたパラディン、アンドリー・フィルス(ec0129)の思索は深まるばかり。
 相当に兵法を用い、残虐無慈悲な策を躊躇なく用いる鬼の王‥‥
 一筋縄ではいかない相手だと思わず目蓋を閉じた。

 なお‥‥
 義経軍は八溝山の鬼軍を撃破するために邁進する意を発し、宇都宮結城軍は国境を固めて上州と武州に睨みを利かせているという。