【毛州三国志・義経】冥道の剣狼天

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月31日〜04月07日

リプレイ公開日:2009年06月08日

●オープニング

●奥州鬼軍
 下野国の北の境界、白河の関で行われた黒色槍兵団との激突に勝者はなかった。
 魔法戦で那須軍が局地的に優位に立つものの、戦局を覆すほど効果的な使い方をさせなかった鬼軍大将の兵法による。
「我は王熊! 人どもが互いに争っている今こそ好機! 赤頭が足踏みしているのであれば、我らが下野を頂く!!」
 統一された装備、統率された軍勢、統合的な作戦‥‥
 髪を逆巻かせ、瞳を紅に輝かす熊鬼王の兵法は、那須与一だけなく、多くの者に危機感を与えた。
 ただ、先だっての戦いで興味深い情報が得られたのは確かだ。
「悪路王が奥州侵略を始めたようだ。藩や本国で何か起きたのか‥‥ 申し訳ないが、我らも知るところは少ない。
 ただ、目の前の王熊軍、八溝山の赤頭軍は鬼軍の関東侵略の尖兵にすぎん。
 白河の拠点は重要だが、本国のものにとっては蘆名藩の方が大事だからな‥‥ 我らへの援軍は見込めん」
 そう語った蘆名の武将は、こうも続けている。
「奥州鬼軍は残虐無慈悲。今まで冒険者たちが相手をしてきた鬼たちなど赤子同然だ。
 思えば、人と魔の力は拮抗していたのかもしれん‥‥
 人同士が大きな争いを起こしたことで、彼奴らに付け入る隙を与えてしまったのだとすれば‥‥」
 消耗しきって自力で本国まで退却できない蘆名軍40は、現在、那須医局の手により治療を受けている。

 さて‥‥
 関八州に魔の手を伸ばす鬼軍は黒色槍兵団だけではない。
 先に蘆名武将が語った八溝山の赤頭鬼軍は、要石のように諸藩の軍勢の動きに重石を与えていると言っていいだろう。
 これに対峙しているのは源義経公の軍勢300。
 本来、義経・那須・宇都宮の三公軍の連携で退治する手筈であったのだが、孤独な戦いを強いられている。
 那須軍が黒色槍兵団と対陣、宇都宮結城軍が上州や武州に睨みを利かせている状況では、そうもいかなくなったからだ‥‥
 ただし、孤独な戦いといっても那須や宇都宮が義経軍を見捨てた訳ではない。
 可能な限りの補給は行われるし、敵情報の交換は盛んに行われているからだ。
 かといって、このまま戦い続ければ義経軍の消耗は激しい。
 敵150鬼は山城に立て篭もってゲリラ戦を繰り広げている。
 顧みて、実兵数250と、倍にも届かない戦力を鑑みて義経軍は攻めあぐねているという者もいる。一方で‥‥
「奥州だけでなく、多くの者が僕を利用しようとしている‥‥
 ただ、那須の人々が、関東の人々が鬼軍に苦しむのを看過するわけにもいかない‥‥
 僕はどうすればいいんだ‥‥」
 兵の中には、そう呟く義経公を見たという者もいる。
 義経軍の士気は停滞し、いや、落ちていると言ってよいだろう。
 だが、撤退するといってもどこへ?
 300名もの武力集団を見返りなしに受け入れてくれるところなどあろうか‥‥
 不安が不安を呼んでいると言ってよかった‥‥

●赤頭鬼軍
 八溝山に陣取る赤頭鬼軍は、ゲリラ戦により義経軍を苦しめている。
「あははっ、王熊の御蔭で戦いやすくなったよ。
 宇都宮の大将を討って敵の一角は崩したけど、それでも3倍4倍の敵の来襲は覚悟してたからね」
「義経の小僧程度相手なら積極的に討って出られるからな。
 いくら手練が多くとも、所詮は根無し草の軍。攻めるに攻められず、退くに退けず。
 俺の配下に組み込んだ犬狼鬼騎兵隊の残党は、特にこういう状況に向くしなぁ」
 山伏姿の狼頭鬼は、じゅると涎を飲み込む。
「ところで、犬鬼の騎兵頭を殺したんだって? 私も気をつけないとなぁ」
「お頭を? 冗談なしだぜ。あんたを殺したら、俺が自由に戦えなくなるじゃないか。
 それに、素直に協力すれば死なずに済んだんだ。悪いのは向こうだと思うがね。違うかい、赤頭?」
「まあいいさ。その分、働いてくれればね」
「安心しろ。くくく‥‥」
 悪意が深まり、害意が渦巻いてゆく‥‥

「孤軍奮闘の状況なんて長くは続かない。赤頭鬼軍が討って出てくるなら、むしろ好都合ではありませんか。
 1鬼、また1鬼と敵部隊を削れば義経軍の勝利へと繋がりましょう!!」
 源義経家臣の1人、来迎寺咲耶の檄は、萎えかけていた義経軍の士気に種火を着けた。
 それはまだ燃え上がってはいないが、消えかけた勇気の炎に油を注ぐ可能性はある。
 無論、精神論だけで勝てる相手ではないのは義経軍上層部も承知している。
 今までと同じ、いや、崩れかけていると敵に思わせなければ敵を誘き寄せるなど上手くゆくはずはない。
「ならば打つ手はひとつ」
 客将・重蔵の言葉に、義経公は力強く頷く。
「冒険者を主力とする鬼斬りの別働隊を編成しよう。僕らは普段と同じく軍を動かす」
「御意。軍資金に多少の余裕はあっても、兵に余力はないですからな。この時期ならばこそ慎重にゆかねば」
 懐刀らしく佐藤兄弟は主君を補足した。
 散発的にゲリラ戦で波状攻撃を仕掛けてくる敵を一網打尽にするのは、兵数に圧倒的な差があったとしても物理的に無理だ。
 だが、付け入る隙があるのなら付け込むのも兵法。相手は悪逆非道の殺戮集団であれば、容赦無用である。


※ 関連情報 ※

【源義経】
 源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 次々現れる鬼軍や各地で勃発した戦に胸を痛めている。

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
 剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。

【宇都宮藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の南半国で、大都市・宇都宮を中心とする交通の要衝にある藩。
 宇都宮朝綱公の戦死により、結城秀康が軍事の実権を握り、宇都宮成綱が神社や寺社を束ねている。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陸堂 明士郎(eb0712)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ マリアーナ・ヴァレンタイン(eb7019)/ アルミューレ・リュミエール(eb8344)/ 伊達 久作(eb9250)/ 清家 幽斎(ec1177

●リプレイ本文

●鍛えし者は
「鬼退治と言っても、こっちの鬼は随分と豪勢らしいじゃねえか」
 重蔵を中心とする隊長格の集会に席を並べる日高瑞雲(eb5295)たち。
 用兵、統率、奇策‥‥ 話を聞くほどに普通の鬼と比べて一筋縄ではいかないようだ。
 そろそろ戦の作法が通じないのには慣れてきたとは言え、人対人の戦では想像もしない場所や刻限で襲われては消耗は激しい。
「で、襲撃を受けた地点は?」
「それだがな‥‥」
 重蔵が示す義経軍の布陣と襲撃の状況を見るに、相手の主力は妖狼や化け犬の類や犬狼鬼騎兵。悪路での機動力が違うのだ。
 地形で義経軍の機動力が一方的に削がれるのを十分わかった上での用兵ともなれば、ゲリラ戦を続けられるだけ不利は必至。
「イギリスのオーガ族とは何度か交戦したけど、腕っ節だけが自慢の脳筋ばかりって印象だったなぁ‥‥ 俺みてえな」
 己を笑い飛ばし、日高は敵の老練さに心当たりを問うと、隊長の1人が呟く。
「古来より続く武士との抗争が、鬼を育てたとすれば皮肉なものだが‥‥」
「なら、鼻っ柱へし折ってやんぜ。人が成長するとこを見せつけてやるよ」
 日高の鼻息に重蔵たちも大きく頷いた。
「だが、開けた場所では攻めてこないのと、移動中を狙われているように思えますね」
 鬼斬り(おにぎり)を飲み込んで九竜鋼斗(ea2127)が襲撃地点を指す。
「相手の立場なら、隠れて機を待つ‥‥ ならば逆手に取って密集地を魔法攻撃し、混乱した敵を各個撃破できないだろうか?」
 敵が集結しそうな場所を特定できるか、もしくは誘い出せれば面白いのだが‥‥と、超美人(ea2831)は何箇所か指摘してみた。
「何となくでも何処を通ってくるか予測できるかと、私も気にしてるんだけど」
 マクファーソン・パトリシア(ea2832)は超に同意すると、自分の目と土地勘を信じて候補地を挙げる。
「問題は別のところにもありそうだね。三尾だか五尾だかの妖狼を見た者がいる。それに猛者を遊ぶように弄ぶ狼頭の野武士もね」
 負傷兵を治療していたカイ・ローン(ea3054)が会議への遅参を詫びながら陣幕へ入ってきた。
「おおぅ、気になるのは、それよ。今度の狼鬼軍は存外に手強い」
「弄ばれたのは俺の部下の話だな。あいつが後れを取るくらいだ‥‥」
 全滅した部隊の生き残りや物見からの報告を重蔵たちが始める。
「そいつらが黒幕なら話は早いんだがな。鬼共が徒党を組み、何か目的があるかのように動くことが多いと見受けられる」
 三菱扶桑(ea3874)は杯に口を付け、思わずニヤリと笑う。
「お主、悪鬼の跳梁を疑っておるのか?」
「さあな。俺は暴れる鬼共を止めるだけさ。ただ、今回は鬼の方に主導権があるように見える。襲撃に対応するしかないだろう」
 重蔵に付き合って三菱は苦笑いした。
「ならば、まずは迎撃を確実にこなすのが最善でしょう。追撃は敵の実力を見てからでもいいでしょう」
 攻勢を主軸に置いた作戦案をアルディナル・カーレス(eb2658)が除くと、作戦の候補地が絞られてくる。
「それならば、ここにいたそう。義経公の許可を頂いてくる」
 しばらく作戦が話し合われ、重蔵が腰を上げると承知の声が響いた。

「義経公は大丈夫なのですか?」
 重蔵に同行した義経家臣・来迎寺咲耶(ec4808)は、家臣としてだけではなく、1人の人間として思わず口にしてしまった。
 慌てて口を押さえ、目を逸らす来迎寺に、重蔵の表情は優しい。
「己が目で確かめるといい。誰が何を言うより良い」
 そうこうしている間にも義経公の陣幕に着く。
「重蔵でござる。入りますぞ」
「あぁ‥‥」
 幕を手繰ると、重蔵は来迎寺を促す。
「此度の戦の手筈を確認していただきたく参りました」
 うんと頷く義経公に覇気は見えない。
 夜襲に警戒しつつ、小競り合いの最中に好機があるように見せかけ、迎撃で敵の特化戦力を漸減させる作戦を説明する。
「了解です。継信と忠信に伝令を」
 重蔵に伝令と親衛隊の指揮を任せると、下がって良いと一言、義経公は再び思索に没頭し始めた。
「お待ちを。家臣・陸堂明士郎が書状を、これに」
 アルディナルが預かってきた義経家臣・陸堂明士郎の手紙を来迎寺が差し出すと、義経公は静かに手に取った。

『噂を耳に挟んだので敢えて言わせて頂きます。
 利用されるのが嫌と嘆く程度の覚悟で源氏の棟梁が務まろうか。
 まして、そのことが原因で将兵の士気を下げるなど言語道断。
 今の義経公は、華の乱の御神輿の頃の義経公ではない。
 源氏の棟梁たる者、利用する者を逆に利用するぐらいの気概を持たずして如何なさるか。
 自分の件とて然り。大儀を成すのならば、悔やむより前を見られよ』

「諫言御免。決断は兎も角、心に留めておいて頂きたいとのことです。
 他にも九竜鋼斗殿から、兵たちを動揺させないために、人々を脅威から救うために目の前の鬼退治に集中すべきと進言が」
 書状に目を通し終えたのを確認して来迎寺は付け加える。
 重蔵に説かれ、アルディナルも九竜も同行しなかったが、本来の義経公なら会いに行かずとも来てしまうくらいだったはず‥‥
「ますます戦乱は極まっている。だからこそ、動くより前に考えることも必要なんだ‥‥」
 義経公の悩みは思ったより深いらしい‥‥
(「煽るだけ煽って「出来ませんでした」なんて報告、義経公にはできない。易い相手ではないけど、道を切り拓こう」)
 来迎寺の決意を感じたのか、重蔵は微笑んで頷いた。

●闇に蠢く
「いっそのこと八溝山を力攻めにすればいいんだっ! このままじゃ気が狂いそうだぜ!!」
 連日の狼鬼兵の襲撃、そして、夜間の遠吠え。すわ敵かと起こされれば、おちおち寝てはいられない。
 練度の上がってきた義経軍が少数の敵相手に苦戦している原因は、間違いなく精神的な消耗であろう。
 魔力不足で救命僧兵隊による治癒が回らないのも、これにより睡眠不足がたたっている部分が大きい。
「みんな疲れている。機という点では、これこそ敵にしてみれば攻め時ですね」
「長時間追跡し、狩りの成功率が低くても気にしない。相手が疲れ果てるのを待って、食べられるときに一気に食べる‥‥」
「そうか、狼の狩りの習性か‥‥」
「だが、狼は火など使わない。とはいえ、習性があるなら利用できるんじゃないのか?」
 猟師部隊と情報交換を行う超たち。
 風上で火事が起きたこともあるらしい。そのときは火が回ったりはしなかったらしいが‥‥
「一箇所に集まって警戒している相手を好き好んで襲わない。だが、休ませてあげるほど慈悲深くはないわけだ。やるねぇ」
「集団ではそうでも、個体では違うこともあるのかな? 妖狼が襲ってきたのは夜だったと」
「それなら返り討ちにしてやる。相手が少なければ、守るものも少なくて俺らにとっては好都合。そうじゃないか?」
 見張りを交代して酒壷を抱えて寝息を立てる三菱に、出番が来たら起こすよとカイは思わず微笑む。

 夜が開け、浅い眠りから覚めた義経軍は、朝飯を済ませて八溝山へ進路を取った。
「あとは食いついてきてくれるかですね」
 狼の習性に従うなら、群れから逸れた個体を襲うはず。
 猟師足軽隊との情報交換で作戦に突破口を見出した来迎寺隊は、前線にありながら迷子になるべく移動を開始。
 ほどなく本隊の方では散発的な戦闘が始まり、戦の声が小さく聞えるようになった。
「そろそろ注意が必要かもしれない」
「うん」
 緩やかだが窪地の底のような地形。襲撃にはもってこいに思える。
 警戒を促す超の傍らでマクファーソンが身構えると、足軽の猟師が走りこんできた。
「やつらが出たぞ。あとは任せる」
 逃げながら数えたのは軽装の鎧武者が4名と狼が10頭ほど。
 カイのリカバーを受けている間に情報を得るが‥‥
「囲まれたな」
 戦闘態勢を取るアルディナルらは猟師を中心に円陣を組んだ。

●撃破
 輪が狭まる中、突出するアルディナルへ好機とばかりに狼が殺到する。
「そうそう思い通りにはさせないわ。歓迎させてよ」
 マクファーソンのファイヤーボムが飛び、火球による乱れに乗じてアルディナルのホーリーランスが狼を串刺しにした。
 アルディナルは火傷を負っていない。予想の有無は兎も角、まさか味方ごと範囲攻撃をしてくるとは思わない。
 レジストマジックの効果で虚を突いたアルディナルたちは一気に勝負に出る。
「こんな戦いは初めてだろ」
 ウイングシールドのフライ効果で宙に舞った日高は、軽装武者の頭上から鬼切丸の太刀で衝撃波を浴びせる。
「剣閃・一刃」
 九竜の刀が鎧の隙間に滑り込み、混乱と傷で立ち尽くす軽装武者を三菱が一刀。
「俺の獲物まで取るなよ」
 その風貌は、よほど敵より鬼らしい。
「勢いは我らにあり! 一気に殲滅する!」
「了解。敵に態勢を立て直す暇なんて与えない!!」
 来迎寺の突撃にあわせて超も突貫。
「はぁあ!」
 身構える軽装武者の背後から、天馬に跨ったカイの穂先が挟み撃ちにする。
「くそっ、何だこいつ‥‥らっ‥‥」
 追い討ちに天馬メイのホーリーが突き刺さり、月人ユエのスリープが眠りの淵へと誘った。
「えぇい!!」
 ピューイ! 最後の軽装武者の口笛に反応して撤退する敵へ止めの一撃。
「逃げようったって、そうはいかないわよ。ちゃんと土産も持って帰りなさい!」
 マクファーソンのウォーターボムが何頭かの狼を骸に変えた。
「ふんっ、どうやら小物だったみたいだな。張り合いのない」
 三菱は不服そうに鼻を鳴らすと鞘を鳴らした。
「もっと大物がかかれば良かったんですが‥‥」
 来迎寺たちの勝利は、局地戦の小さな功績だったかもしれない。
 だが、赤頭鬼軍の狼鬼隊の動向を判断する材料を多く手に入れられたことは、次への一手を生むはずだ。
 それに、化け狼の武者を捕えることができたのは大きい。