ゴタ消し乱れ咲き
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月19日〜08月24日
リプレイ公開日:2009年08月28日
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●オープニング
神田明神の片隅。
小さな社の形をした小屋に、小さな狐が住んでいる。
お稲荷さん、江戸では珍しい神様ではない。
それが子狐ながら、9本もの尾を持っていることを除けば‥‥
「こいつ、何者なんだ?」
「この前、旅の僧侶が退治したはずなのに、また居ついていやがる‥‥」
敵意を向ける視線を一手に引き受けているのは、九尾の子狐ではない。
数人の少女や女の子たちは、社を背に大人たちを遮るように両手を広げている。
「きゅうちゃんは悪くなんかないもん」
どこかで前に見た風景だな‥‥
近くにいた冒険者が言った。
「たすけて‥‥」
幼子が裾を引っ張る。
妖魔の跳梁、上州での下克上、江戸城失陥、死人騒ぎ、魔王の出現‥‥
ここ数年、関八州は大荒れに荒れている。
そこにきて、家康公の江戸奪還作戦‥‥
戦火は広がる一方である。
そう、江戸では数年前に大火があった。
ああいった火であれば、逃げる知恵も逃げる場所も想像がつく。
だが、今回の戦火は別だ。
逃げようにも、どこで起きるかもわからないのでは、どこへ行っても逃げ場がない。
ともすれば、民衆が苛立つのは仕方なかろうが、それが幼い子たちに向けられるなんてことは見ていて気が重い‥‥
「おぅ、おぅ、大の大人が女子供相手に息巻いてどうするってんだ」
「あ、ゴタ消しの桜の。もしかして、逃がし屋の件か?」
「そうさ。だから、場所を変えるぜ。詳しく話してやらぁ」
息巻いていた男が、遊び人風の男について場を離れ、気をそがれたのか、少女たちを囲んでいた輪も緩んでゆく。
「働き手を探してたってんで、住みこみでいけるそうだぜ」
「そいつはありがてぇ。戦が終わるまででも江戸を離れられりゃあ助かる」
桜のと呼ばれていた男は、去り際に一瞬振り返ってニコッと笑った。
とはいえ‥‥
「どうにかしたいとこだが‥‥」
「これで知恵を貸していただけませんか?」
きゅうちゃんを守っていた武家の娘が巾着を示すが、冒険者は困り顔で小さく溜息。
「ギルドに来な。良い知恵を持ってる冒険者を紹介してくれるだろうさ」
微笑む冒険者に、武家の娘は力強くうなずいた。
●リプレイ本文
●問題2つ
「馬鹿を言うな。邪悪な存在が悪さもせず、あまつさえ神聖な神社に住み着けるはずがない!」
群雲龍之介(ea0988)は柄に手を掛けて少女たちを脅す暴漢の手を捻り上げた。
「しかし、こいつは妖だ! 人に害を成す!」
「否! 害をなす物の怪を妖と呼ぶんだ!! 妖の疑いだけで人に害を成すと決めつけるのは偏見に過ぎるであろう」
「この間、旅の御坊が密教の秘術とかで、こやつを悪鬼だと断じておったぞ!」
暴漢と群雲の遣り取りは完全に水掛け論。思わず沈黙が流れる。
「きゅうちゃんを滅したお坊さん、本当に信用出来る方なのでしょうか??」
沈黙を破った酒井貴次(eb3367)に周囲の視線が突き刺さる‥‥
「きゅうちゃん贔屓する訳でもないですけど‥‥」
ちょっとはあるかな‥‥と苦笑いする表裏のない言葉に、周囲も険を僅かにそがれた。
「そもそも、きゅうちゃんが悪鬼というのは、その方1人の言い分ですよね?
ちゃんと調査したのかも怪しいですし、名声を得るために安直な宣伝行為として行われた、とか有り得る気もします」
「どうであろう? 狼が山神の使いであるとするのと同じく、狐は伏見の稲荷神の使いでもあると言う。
一説によれば、安な世の中を迎える吉兆であり、幸福をもたらす吉兆の瑞獣であるとする向きもある。
九尾狐、即ち悪と断ずるのも如何なものであろうかな?」
話に割り込みながら屈みこんで、浦部椿(ea2011)は、きゅうちゃんの頭を撫でる。
「片方が手を出せば、傷つけられた方は敵意を抱く。それは、今のこの状況と同じではないかな?
神の使いならば、祀れば加護を授け、蔑ろにすれば祟るかもしれぬぞ。
よくよく調べてから行動に移しても遅くはないと思うが、いかがかな?」
「なぁ、この案件は暫く預からせてもらえまいか? 不埒な輩なら僕たちで止める故」
浦部の説得だけでは顔を見合わせる町人たちに、瀬崎鐶(ec0097)は、軽く頭を下げた。
「まぁ、お侍が頭を下げてるんだ。ハッキリしないことで揉めても仕方あるめぇ」
ゴタ消しの男が仲介に入り、調査の結果を町人たちにもわかりやすく知らせることで、とりあえずの危機は去ったのだが‥‥
「それが一番難しいのですよね」
齋部玲瓏(ec4507)は溜息をつきつつも、方策に思案を巡らせることにした‥‥
冒険者たちの考える問題点は2点。
きゅうちゃんが正邪のいずれなのか、旅の僧による事の顛末の正誤はいずこにあるのか‥‥
「退治をされた後にも現れるということは、この神田明神に余程の強い思い入れがあるのか‥‥
まぁ、何にせよ、この狐との縁がないか、神官方に神田明神と境内の稲荷社の縁起を調べられるか頼んでみるのも手であろう」
「それならば、御本人に聞くことも忘れてはいけませんわ」
浦部の言葉を笑顔で遮り、齋部は印を組む。
『先ほどの方たちは苛立ちの捌け口が見つからないだけなのです。人を嫌いにならないで、愛想つかさないでほしい』
『酷い目に遭っても戻って来てくれたんだし、世知辛い状況だからこそ疑うよりは信じることを大事にしたいかな‥‥って。
あなたが邪悪な存在であれば、戻ってきた時点で仕返しとばかりに何かしている筈ですし‥‥ねぇ』
テレパシーの術ならと酒井も印を組んで術を成すと、齋部に目配せして頷く。
『絶対そ〜♪ 悪さをシた訳じゃないんだから、広い心できゅうちゃんのコト見守ってあげてねってオネガイして回るから♪』
火妖精の夕ちゃんや忍犬の桃と、毛並みに顔を埋める御陰桜(eb4757)は、インタプリタリティリングの効果でワイワイと。
『わっ、わわわ‥‥ ちょ、助けて』
『駄〜〜〜目っ♪』
御陰のもふもふ攻撃に、きゅうちゃんが目を回している。
御陰にされるがままでも怒りも反撃もしないあたり、これが邪悪と名指しされた、あの妖狐と同一とは思えるはずもなく‥‥
『申し上げる。何者なのか、御名は何か、何の目的があってお姿を現されたのか、また、神田明神様との御縁など覗いたく』
恐れ戦(おのの)く力ではなく、せめて畏れ敬う力であれば共存の糸口にならぬかと、齋部は探りを入れる。
『あ〜〜っ、はっはっはっ。わかったって、うわぁ』
側に控えていた齋部の相棒・狐の葛の葉まで、じゃれつく始末。
●その正体
依頼人の少女たちが葛の葉や夕ちゃんや桃たちにかまけている隙に、酒井たちはきゅうちゃんとの話を再開する。
「もっと美人さんになるんだから、ジッとしてるの♪ ほぅら、もっと可愛くなった〜♪」
「むう‥‥ きゅうちゃん‥‥ 可愛いなぁ‥‥」
御陰に櫛で毛並みを梳かれているきゅうちゃんに、群雲は目尻を下げている。
「丁寧にぶらっしんぐシたら、つやつやのぴかぴかになったわね〜♪」
陽光を受けて稲穂のように金色に波打ち、その瞳はあどけない。
「なんとしても、きゅうちゃんが邪悪な者ではないと証明して見せるぞ!!」
「そのためには町人たちに無害であるとわからせなければならないのですよね‥‥」
受け取ったきゅうちゃんを抱きかかえ、幸せそうに宣言する群雲を諭して齋部は印を組む。
『聞けば、一度退治され給うたとか。御社の力が凝って狐の形を成したゆえ、一度消えてもまた再び‥‥?』
『‥‥』
「あ、綺麗に梳いてもらったんだね。好物だって聞いたから、そこで作ってもらったの」
神妙に黙りこくるきゅうちゃんだったが、瀬崎がお稲荷さんを持ってくると嬉しそうに頬張った。
『こんなに可愛いし、人畜無害に見えるんだがなぁ。
退治したお坊さんに話を聞いてみたいけど、また悪鬼と断じられて退治されるなら秘密の方がいいんだろうか‥‥』
『そこなのです。旅の僧が退治したと見せかけたということも考えると探さない訳にもいきません』
『わかったよ。お稲荷さんのお礼に教えてあげる』
悩む酒井や齋部らに視線を投げ、依頼人の少女たちの死角へ駆け込むと、きゅうちゃんはクルッと一回転。
ほわっと煙に包まれると女の子の姿になった。
「もしかして化け狐か?」
酒井の問いに、女の子は「はい」と頷く。
「ちょっと待て。なら僧は偽りを語っていたのか?」
「それは違います。あれは本当に悪鬼だったのです。あの子たちも、実際に白子を抜かれていたんです」
??? 瀬崎たちは頭を抱えた。
玉葉と名乗った化け狐は、きゅうちゃん退治の経緯を話し始めた。
ただ、可愛い姿で人に近づいて白子を集めるはずが、町人たちと衝突する羽目になり、少女たちのいないところで悪態をついていたようだ。
結果、冒険者を呼び寄せてしまい、近所の動物を変身させて探知魔法をやりすごすなど足掻くものの、とうとう旅の僧侶に見鬼法(ディテクトアンデッド)で正体をつかまれ、戦いに。
悪鬼は少女たちを操って抵抗するものの、彼女たちを不動金縛り(コアギュレイト)で封じた僧侶は、きゅうちゃんを倒した。
「退治された後、あの子たちの悲しむ姿ったら見ていられなかったの‥‥」
きゅうちゃんに供えられたお稲荷さんをこっそり頂いていた玉葉は、慰めてやりたくて九尾の子狐に化けたとのこと。
「じゃあ、お坊さんて、名を売るためにきゅうちゃんを退治シたと言ったわけじゃないのねぇ」
「そうは言っても、そのままを伝えれば依頼人が悲しむし、隠したままで町人の説得は難しかろう」
御陰にしろ、浦部にしろ、簡単に上手い考えは浮かばない様子。
「悪と決めつけ、退治しようとしたド腐れ坊主に、きゅうちゃんは悪ではないと教えてやろうと思っていたが‥‥」
「それは駄目です。優しそうなお坊さんだったもの」
拳を握る群雲の前で、あわあわと玉葉は手を振る。
「九尾、即、悪なんて考えさえ静まれば何とかなるんですけどね‥‥」
酒井たちは、悩みに悩んで1つの行動を起こした。
●坊主の芝居
「忙しい所、申し訳ないけど、ちょっといいですか?」
瀬崎たちは、幸運にもまだ江戸にいた僧侶を見つけ出すことができた。
悪鬼退治について僧侶の話を注意深く照らし合わせると、冒険者たちが把握する事実に矛盾はない。
神田の稲荷社に縁のない化け狐であったが、神主は妖狐と貸さぬよう見守ろうとの言質は得ている。
瀬崎たちの申し出を、僧侶は快く引き受けてくれた。
さて‥‥
印を組んで気を発すると、きゅうちゃんは禁じられ、抵抗も見せずに魔除けの札を張られている。
「ややっ、魔除けの札が利かぬとは。これは御仏の慈悲にふれ、改心したのであろう。
皆で長く愛すれば、神田明神の末社に祀られるほどの稲荷となろう」
「そりゃそうさ。抱っこしたり、撫でたら、凄まじく癒されてめっちゃ幸せな気持ちになれるんだからな!!」
坊主の棒読みを打ち消すように、鼻息荒く力説する群雲!
「お稲荷さんが大好きで、魔除け札を貼り付けても、なんともない子が本当に悪鬼かな?」
瀬崎が札を剥ぐと、きゅうちゃんは彼女の手からお稲荷さんを食べている。
「此方が悪意で接すれば、成長した子狐から悪意が跳ね返ってくるのは間違いなかろう。
犬でも世話と躾で熊をも狩る猟犬となるが、世話を怠り野放しにすれば野犬となり害をなす」
浦部の話を聞いて、確かにと頷く者もいる。
「陰陽師として箴言しよう。神田の稲荷社で悪鬼が滅び、入れ替わりに神の使いが現れたことは意味がある」
「そうです。この九尾の子狐を可愛がり、慈しめば、必ずや稲荷神のご加護がありましょう」
陰陽師の酒井と齋部に断言されれば、そういうものかと町人たちも思ってしまうのだった。
「徳の高い坊さんらしいが、役者としては二流だねぇ」
小さく吹き出したゴタ消しの男が、群雲に小声で呟く。
「ほぅ、誠心誠意、じ〜っくりと話し合うかい?」
「ははは、上手いこと収めたもんだと感心してるのさ。とやかく言やぁしねぇよ。問題は‥‥」
逃げられない者たちの土地への愛着をどうすれば戦火から守れるかだ‥‥とゴタ消しは眉を顰めた。