【毛州三国志】第二次八溝山決戦

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 86 C

参加人数:15人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月03日〜09月10日

リプレイ公開日:2009年09月13日

●オープニング

●総攻撃
 那須・宇都宮・義経の三公軍が、下野国を鬼軍の魔の手から護るべく馬を並べて幾ばかりか‥‥
 最近の膠着状態は鬼軍に打つ手が減ってきていることを示しているのだと那須軍師・杉田玄白は語る。
 熊鬼軍とは一進一退を繰り返し、ついに蘆名の地へ追い返したことも大きい。
 これには熊鬼軍との緒戦を冒険者たちと跳ね返し、痛み分けにできたことが大きいというのが軍義での主流である。
 ただ、相変わらず八溝山に陣取ったままの赤頭の鬼軍を取り除けなければ意味はないが、これ以上ない好機が到来した。
 ついに那須軍と義経軍の全軍を八溝山に集結させることに成功したのだ。
 これには関八州だけなく、全国各地で戦が起きており、戦力のスライドが置き難いという皮肉な理由からなのだが‥‥
 最大戦力の宇都宮は上州と武蔵に睨みを利かせるために参加していないのだが、これは戦略上、仕方ないこと。
 那須軍・義経軍は乾坤一擲の総攻めを開始しようとしていた。

 数年前の岩嶽丸討伐のための八溝山決戦を覚えている者もいよう。
 ただ、あのときとは大きく違うことがある。
 那須天狗たちとの交流もなく、隠れ里のエルフたちの同盟軍の参加もない‥‥
 ただ、目の前の戦局に邁進した武士たちだけが戦地にある。
 名を馳せた蒼天十矢隊も、いまや散り散りで那須以外に各々の居場所を見つけた者も多い。
「それでも勝たなければならないのです。5年も民を戦火にさらしているのですから」
「えぇ。赤頭を倒し、共に下野に平和をもたらしましょう。そのために全軍投入の決意をしたのですから」
 頷きあい、手を取り合う与一公と義経公。
「今日は宇都宮の計らいで全軍に振る舞いがある! 警備の兵も交代で英気を養ってほしい!!」
 与一公が愛用の弓を鳴らすと、兵たちもこれに倣う。
「南無八幡大菩薩、別しては我が国の神明、日光権現、宇都宮、那須湯泉大明神、願わくは、鬼難に立ち向かう加護を与え給へ!」
 与一公に続けて大合唱が起こった。

●乱戦の予感
「悪路王の援軍も大したことなかったね。鬼軍稀代の兵法家が来たからには安心されよ〜とか言ってなかった? あの熊」
「確かに。疲弊した那須に勝てぬとは、存外手ぬるいかと」
 肌の青白い幽鬼の如き武将は、軍略図に足を投げ出す赤頭に答える。
「東国一の弓取りと恐れられたお前の腕前を見せ付けてやれ。いいな」
 御意。そう短く答えると、数名の夜叉を従える美しき鬼女の脇へ控えた。
「異痕(いこん)、この男がどれほどの役に立つ?」
「それはもう、姿形だけでなく能力や記憶も、そのままですもの。からかわれてるとは思わないでしょうね。人には酷だもの。
 そんな訳で、閻魔に疎まれた我が能力のほど、とくと御覧あれ。いくよ、朝綱、迅雷」
「承知した」
「ごふぅ、敵、倒す。俺、幸せ」
 前線へと赤頭軍の隊長たちが散って、鬼の咆哮が八溝山の各陣地から上がる。
「俺は好きにやらせてもらうぜ、赤頭」
 眼下を見渡しながら赤髪を揺らす赤頭に、狼の顔の武人が話しかけた。
「構わないよ、狼神(おおかみ)。その方が戦力を活かせるし、そろそろ潮時だしね」
「奥州に戻るのか?」
「わからないけど、これだけ戦えば吉次への義理も果たしたしね。好き勝手、暴れたくなった。狼神はどうする?」
「さあね。どこでも人は殺せる。ここで勝って、もっと殺すさ。それが那須なのか、他の場所なのかは、わからんがな」
 那須・義経の連合軍と赤頭鬼軍との決戦が始まろうとしている。

※ 関連情報 ※

■義経■

 兵数280のうち、実働230が八溝山に布陣。喜連川の療養所に傷病兵50。
 義経親衛隊、元源徳騎馬隊、伊達騎馬隊、歩兵隊、猟兵隊、僧兵隊などに分業されています。
 武蔵の戦局に応じて伊達騎馬隊は帰還したがっています。

【源義経】
 源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
 当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
 次々と現れる鬼軍や各地で勃発した戦に胸を痛めている。

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。
 奥州藤原氏の武士であったが、源義経の家臣となる。
 能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
 剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。

■那須■

 那須宿老・小山朝政を大将に兵数800(那須軽騎兵、赤士虎隊を含む)が八溝山に布陣。
 神田福原、白河小峰、矢板川崎などの守備兵を加えると、後先考えない那須の総動員と言ってよい。

【那須与一】
 下野国守、兼、那須藩主。
 弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。

【那須藩】
 下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
 伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。

【八溝山】
 那須藩東部の山岳地帯。赤頭の率いる鬼軍の関八州を侵す拠点。
 峻険な地形が攻め手を阻む天然の要害。以前に比べて防護施設が整備されている。

【福原神田城】
 那須藩の政治・軍事・信仰を束ねる中枢。

【白河小峰城】
 奥州へ向かう兵の集結地点として知られる軍事と交通の要衝。
 城主は那須藩宿老・小山朝政。

【矢板川崎城】
 天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
 城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。

【蒼天十矢隊】
 冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
 退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散。
 汚名返上して、那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。

【小山朝政】
 那須藩の宿老。白河小峰城城主。結城秀康の兄。
 与一公の右腕として活躍する勇将。下野の南部を地盤とする豪族。源氏との繋がりが深い。

【杉田玄白】
 欧州遊学の経験もあり、広い知識で活躍する那須藩士。軍師、那須医局長、矢板川崎城代の肩書きを持つ。

【福原資広】
 志士。与一公の甥。与一公の兄である福原久隆の子。父の命により京より帰国した。
 那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊50を率いる。

【結城秀康】
 白河結城氏の当主。矢板川崎城城主、兼、ギルド那須支局目付。結城朝光から結城朝康、結城秀康と改名。
 宇都宮藩主・宇都宮朝綱を養父に、実父の源徳家康を烏帽子親に持つ。
 宇都宮で軍事の実権を握る。

■赤頭■

 八溝山の岩城に150鬼が布陣。
 鬼種は雑多ですが、犬狼鬼騎兵隊や疾風迅雷牛頭隊など能力に特化した部隊で混成されているのが特徴。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1568 不破 斬(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ジャッカル・ヘルブランド(ec3910

●リプレイ本文

●戦場の修羅
 義経軍の任務は出城攻略。那須軍が出城を気にすることなく城に取り付けるようにするのが役目だ。
 ただ、敵に軍略に長けた者がいるらしく、一進一退のギリギリの戦が続いていた。
「このままでは埒が明かない。的を絞って何か1隊でも撃破できればいいんだけど‥‥」
 そんな義経を朝笑うかのように、殲滅しようかとすれば鬼神のごとき武者一騎に潰されるのだ。
 それでも那須救護隊のおかげで兵力の回復は早く、出城を背に戦わせるところまでは追い詰めつつあったのだが‥‥
「危険だが、お前の力も借りねばな」
 戦馬の背を撫でながら、農兵を率いる超美人(ea2831)は義経公を守るべく親衛隊の前に組した。
 大概に敵も粘り強い。だが、それも終わりに近づいていた。
「来たな。猟兵隊の情報どおりだ」
 カノン・リュフトヒェン(ea9689)が馬列を組む騎馬隊に合図すると、地形の影から犬狼鬼騎兵隊へ向かう。
「このところ、人同士の争いばかりが目立っていたが‥‥ 鬼を斬るというのなら、悪くはない」
「それよ。家康公が江戸を奪還しに来たと聞いているが、人同士が戦うなんぞ、今の時勢、馬鹿馬鹿しくてな」
 退魔の戦いに身を置いている安心感‥‥と言ったら変な表現だが、そう思っている者は少なくないとカノンは感じていた。
 騎兵の数は互角。相手は機動力と毒だけが売りの兵科なれば、後れを取るわけにはいかない。
 超率いる農兵に狙いを定めた敵の脇腹に喰らいつくべく、隊長の合図で一斉に馬の腹を蹴った。
「天義隊! 突撃せよ!!」
 今や主君と仰ぐ義経公から『義』の一字を頂き、天駆けるがごとき働きを決意した武士団『天義隊』。
 猟兵隊の偵察により犬狼鬼騎兵隊の正面を捉えることに成功し、横隊から中央を厚くしながら犬狼鬼騎兵を追い込む。
「ここで逃がせば、次のチャンスなんて、いつくるかわからない! 逃すな!!」
 食糧確保も兼ねて鷹狩りを重ねてきた天義隊にとって、こういう追い込みは得意とするところ。
 超隊の歩兵を壁に網を引き絞ってゆく!
 ぎゃん、がぅうう‥‥
「突撃部隊の勢いを無くせば、あとは歩兵中心。ここで、こちらの優勢を決定付けるんだ!」
 天義隊の蹄に踏み潰され、あるいは槍衾に潰されて数を減らす。
「頭を潰して浮き足立った敵を各個撃破! まずは指揮官ぽい犬鬼は片っ端から撃破する!!」
 隊長格を探して倒せなんて命令を農兵中心の超隊が正確に実行できるわけないが‥‥
「ともかく、強そうな奴から倒せばいいんでしょうが!!」
 農兵たちも今まで指をくわえて見ていただけではない。
 鬼との戦闘をこなしてきた兵である。
 えい、えい、おぉおおお!!
 勝ち鬨が上がるのには暫くの時間が必要だったが、超隊と天義隊は犬狼鬼騎兵の全滅に成功した。

「右翼の犬鬼は天義隊と超隊長に任せよう」
「伊達騎馬隊がおれば、援軍を回せるのだがな」
「どこにいても、一度は志を一つにした仲間です。彼らには彼らの戦場がある」
 重蔵が呟きに、義経は笑顔で返すが、そのころ義経軍も猛反撃を受けていた。
 攻勢の激しさからすると、残りの兵も他から来る。必ず‥‥
「熊鬼が一線に並んで突っ込んできます!」
 案の定。佐藤兄弟の部隊が弓射で応戦するが、分厚い毛皮が相手では効き目は薄い。
 それでも慌てず長槍を並べるあたり、義経軍も戦いに慣れた証拠である。
「怯むな! 気圧されたら潰されるぞ!!」
「その通り! 我が騎馬隊相手の猛訓練を忘れたわけではあるまい!! 自信を持て!!」
 佐藤兄弟が檄を飛ばすと、兵らは鬨の声で応えた。
 どどんん‥‥
 完全には防ぎきれないが、槍衾に飛び込んだ熊鬼たちもただではすまない。
 合図で一斉に振り上げられた穂先が狙いも付けずに地面に叩きつけられると、避ける場所のない熊鬼たちへ降り注いだ。
「よしっ、いける!!」
 誰が叫んだか、次の瞬間、数mも跳躍し、最前線を巨大な塊が飛び越える‥‥
「やる‥‥ 流石は公の采配‥‥」
「熊鬼に集中しろ! 殲滅したら反転し、本陣を救出する!」
 佐藤兄弟は一度だけ本陣を振り向くと、自らも熊鬼討伐に斬り込んでいった。

「連続斉射! 撃ち手を緩めるな!! 最後の一踏ん張りといこう!!」
 迅雷隊の後背を突いたのは来迎寺咲耶(ec4808)の猟兵隊。
 偵察で義経軍騎兵隊の戦場を確保してきた影の功労者が、ついに姿を現す。
 姿を隠して戦い続けた彼女たちが姿を見せるということは、それほどに今回は布陣を崩されている、そういうことだ。
「さあ、志を片手に集った私たちが、もう片手に鬼軍の脅威から人々を救った英傑の一員という誉を得る最大の機会だ!」
 反転突入してくる牛頭鬼に桜華の刀を討ち込むと、大刀はグニャリと歪む。
「我が主君の、切なる願い!」
 相討ちの激痛をオーラボディが和らげた。
「長い戦いも、これで終わらせるんだ!!」
 両脚で体を支えて小太刀を抜き、二天一流の構えから桜華を薙ぎ、小太刀ソメイヨシノの桜咲く舞。
 瞳を裂かれ、のたうつ鬼に容赦なく突きと薙ぎを繰り出す。
「何をしてる! あの敵へ向けて、撃て!!」
 来迎寺が指差すと、血の桜はヒラリ舞い落ち、地を染めた。

 眼前に迫る迅雷隊の牛頭鬼に、義経親衛隊は身を固める。
「間に合いました!! メルカバ、ホーリーフィールドをお願い」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の張ったホーリーフィールドに激突して迅雷が弾き飛ばされる!
 義経公の傍らに着地したペガサスが集中すると、純白の羽根が舞い、結界として薄く透明に広がる。
 ガガンッ! ガンッッ!!
 跳躍力を増した上に牛頭鬼の質量が乗ったチャージングが相手では、結界もそうはもたない。
 地上から、空中から、降り注ぐ牛頭鬼の五月雨‥‥
「桃化! フィリッパ! よく来てくれた!」
「話は後です。今は防御陣を組んで耐えてください!!」
 フィリッパとメルカバとは、互いに隙を補うようにホーリーフィールドを展開し続ける。
「伊達隊が戻ります。義経様、それまで辛抱を!」
 九紋竜桃化(ea8553)は、騎乗するペガサスに結界を張らせながら胴田貫を抜く。
「承知! みんなっ防御円陣だ!!」
 義経の命に親衛隊は一斉に従う。
 ぶぉおおぅ、おぅううう‥‥
 程なく、法螺貝の音と共に現れたのは伊達騎馬隊の幟!
「この伊勢、貴公らの働きの意義、必ず政宗公に伝えてみせる。行こう、」
「言うな! 政宗公の深慮は、俺たちが簡単に図れるものではなかったということを忘れていた」
 感状と引き換えでなければ戦えないなど伊達の武士ではない!
 伊達政宗の檄を携えた伊勢誠一(eb9659)は、義経軍を離れようとしていた伊達騎馬隊を喜連川で引き返させたのだ。
 戦時ゆえに政宗公との面会や説得に時間が掛かったこともあり、結果、遅参しただけに槍の如き死ぬ気の突撃である。
「遅参、御免被る!」
 2つ、3つの穂先が牛頭鬼を貫き、くの字に折れた体を義経本陣から引き離すように軍馬の搭載力で押し返す。
「ええぃ、槍が折れた!」
「些細な事を! 義経公に伊達騎馬隊、ここにありと示すのが先だ!!」
「みな‥‥ 牛頭に止めを刺したら隊列を組みなおす! 行こう!!」
 馬首を並べる同僚に、伊勢も気を発して騎馬を巡らせた。
「ころす! ころす!! ぎゃはは」
 他の牛頭鬼よりも一回り逞しい別格。そう、迅雷である。
「そなたは一度滅びた身、とく地獄へ落ちよ!!」
 フィリッパの結界を容易く破ってくる相当な相手だ。容易に討ち込めば、ただでは済まない。
「義経公にあられては、まずは伊達騎馬隊の槍働きを御覧じろ!」
 伊勢は騎上からハッと飛び、迅雷の背に組み付いて目を潰した。
 唸る斧を避けるように振り落とされるが、着地すると指笛を鳴らす。
「フィリッパさん!」
「大丈夫、まだもちます!!」
 言葉を信じ、伊勢は伊達騎馬隊と迅雷隊を一鬼、一鬼と屠ってゆく。
「やぁああ!!」
 ペガサス騎乗で直上から九紋竜の胴田貫が迅雷の重斧を狙い、粉々に打ち砕いた!
「国難に対して、武士が率先して当たるべき! 桃化殿の意気、たしかに承った!!」
 伊達騎馬隊の複数の槍が迅雷の背を貫き、その巨体が九紋竜の前にひれ伏す。
「その身、動くことあたわず!!」
 フィリッパのコアギュレイトが迅雷の動きを封じ、九紋竜の胴田貫が迅雷の首を落とした。
「ぐわぁああ!」
 ドロドロに溶けてゆく身を見て、鬼ではなかったか‥‥ 誰となく呟く。

●戦場の死神
 さて‥‥
 時間は少し前後し、犬狼鬼騎兵や迅雷牛頭隊との激戦が繰り広げられている最中‥‥
 出城への先鋒を務めることになった陸堂明士郎(eb0712)の武辺隊は、異様なオーラを放つ鎧武者と対峙していた。
 ざしゅっ、ざしゅ‥‥
 50対1という絶望的な兵数差など全く意に介さないように鎧武者の歩みは軽い。
「どうした。それだけ束になっておきながら臆したか?」
「言ってろ!」
「馬鹿者! 相手の力量がわからないか!!」
 武辺者の剣を鎧で受けながら、鎧武者は急所を貫いた血槍を一挙動で引き抜くと、二撃、三撃。
 一緒に斬り込んで炎に包まれ、火達磨になった者もいる‥‥
「抑えるんだ。俺が仕掛けるから手出しするんじゃないぞ。にしたって‥‥ 何手繰り出したんだ?」
 自らを盾に火傷にのたうつ部下を救出させながら、部下が踊りかかるのを制す。
 相当な手練だ。今まで八溝山での戦いに登場しないかったのが不思議なほど‥‥
 にしても、炎が意思でも持ったかのように斬り伏せられた武辺者の髪や服に燃え移り、陸堂にも襲い掛からんばかり。
「退くわけにはいかないが、どう攻めれば‥‥」
「陸堂さん、重蔵さんと伝令に‥‥って」
 グリフォンに乗ったリン・シュトラウス(eb7760)が、重蔵と共に本陣からの伝令としてやってきた。
「こんな状況になっていようとは思わなかったが、ここはお主らが支えねばならん。増援は出せん。
 それに、宇都宮公をあのまま、いつまでも放っておくわけにはいくまいて」
 重蔵は槍を振り上げると、ぶぶんと振ってみせる。
「宇都宮‥‥公? まさか」
「重蔵殿は流石だが、陸堂よ、気付かぬとは寂しいぞ」
 馬鹿な‥‥ 思わず呟く陸堂を横目に、重蔵は朝綱公に目を睨みつけている。
 鎧兜から覗く顔は確かに‥‥ そういえば声にも聞き覚えが‥‥
「あれが朝綱公であろうがなかろうが、倒すしかあるまい。お主の部下を殺したんだからな」
「ですがっ‥‥」
「情けをかければ、亡くなられた宇都宮公の名に傷をつける。そうは思わんか?」
 混乱する陸堂らを見て、朝綱公は愉快そうに声を漏らしている。
「ムーンアローで偽者か確かめます」
 リンが放ったムーンアローは、朝綱公へは向かわず、リンへ舞い戻ってくる。
「ということは、本物‥‥」
「そうとも限らん。本質を知るなら本物か確認せんか」
 あ‥‥ リンが再びムーンアローを放つと、鎧武者に月矢が向かいつつも結局は術者へと戻ってくる。
 偽者でも本物でもない?
「ははは、そろそろ仕掛けさせてもらうぞ」
 話している間にも、朝綱公がオーラ魔法や火の精霊魔法を使うのが見えた。
「この期に及んで時間を掛けてもいいことはないか。リンさんは魔法で援護を頼みます。
 重蔵さん、いけますね? 互いに守りながら戦えるほど、器用なことができる相手ではなさそうですよ」
「抜かせ。若造には負けぬよ」
 重蔵の突き出した業物の槍は朝綱公の鎧を切り裂くが、公の槍もまた重蔵を捉えていた。
 次の瞬間、穂先が交わり、オーラの光と瘴気が弾け飛ぶ。
「やるわ。流石に一角の武者よ!」
「一気に終わらる! 宇都宮公に二度も無念を味あわせるものか!!」
 陸堂のバーストアタックEXにスマッシュEXを乗せた渾身の一撃は、公のオーラシールドで防がれてしまう。
「甘いわ!」
 必勝の一打を防がれた一瞬の虚を突かれ、陸堂や重蔵諸共に遠巻きにしてた武辺者を巻き込みながら火球が次々と爆発する。
「だが、槍は奪った。勝機はある!」
「邪悪な術を身に付けおって、武士の誇りを何だと思っておるのだ!!」
 強がってみたものの、魔法防御の高い自分は兎も角として、あの火球の連発はヤバい‥‥
 重蔵は気合(オーラリカバー)で負傷を癒し、リンもレミエラの力でムーンフィールドを展開して凌いだようだが‥‥
 一刻も早く決着をつけなければ‥‥
「ええぃ!」
「甘いと言ったあ!!」
 討ち込む陸堂を嘲笑うかのように、宙へ逃げた朝綱公はオーラショットを撃ちこんでくる。
「ぐっ‥‥ 空へ逃げられては‥‥ だが、天運は我にあり!!」
 陸堂は轟雷の魔剣を天高く突き出し、念を込めると暗い灰色の刀身が魔力を放ち、天空の雷雲の電荷を敵へと導いた。
「この魔力は‥‥ その剣は‥‥ 魔王バアルの‥‥」
 稲妻が、リンのムーンアローが、重蔵のオーラショットが、朝綱公を焼く‥‥
「最強武将の能力と記憶を手に入れた俺が‥‥破れると‥‥言う‥‥のか‥‥」
 公も必死にオーラリカバーするが、一撃一撃が公の体をドロドロに溶かし、形を保てなくなった体から武具が外れてゆく‥‥
 そして‥‥
 最後に空から落ちてきたのは、デスハートンの白い珠‥‥
「宇都宮公の魂を弄んだ悪魔が赤頭軍に潜んでいるということか‥‥」
 激しく口を結ぶ陸堂の唇からは、血が滲んでいた‥‥
「はい‥‥ はい、義経様。こちら陸堂隊。出城の大将らを討ち取りました。負傷者多数ですが、増援は不要です。詳細は後ほど」
「何とも後味の悪い戦いだったな」
「うん‥‥」
「て‥‥ い、痛たたた‥‥」
 無茶するから‥‥ 重蔵を労わるリンの頬に涙が伝わる‥‥

●優勢の隙
 宇都宮朝綱公という思わぬ伏兵の出現に戦場の華を出城攻めの義経軍に奪われてしまった那須軍。
 しかし、主戦力は兵力の8割弱を有する那須軍であることを忘れてはいけない。
 義経軍が出城にだけかまけていられるのは、那須軍が二方面から車掛かりで岩嶽城を圧迫しているからだ。
「これから行う治療に関しては那須医局を信じてください。大丈夫ですから」
 小山朝政の重厚な布陣を支えているのが、七神斗織(ea3225)ら那須医局員たちの救護隊の存在である。
 生死を司るアポロンの弓矢で手隙の兵に射てもらい、負傷を軽減して七神らのリカバーで治癒‥‥
 これまた意識のある者に清めの聖錫を使用させて犬鬼につきものの毒を解毒‥‥
 冒険者に時折見られるような負傷の度合いで治療を優先するような救命よりも、1歩進んだ効率の良い救急救命といえた。
 局所的な回復力であるものの、何より魔法を使う者の負担が少ないことが絶大である。
 これにより、那須軍の継戦能力は飛躍的に上昇し、小山朝政は義経軍の兵も受け入れるよう指示を出していた。
 おかげで那須軍救護所は常に火の車であったが、戦いが長引くにつれ、赤頭軍の疲弊は動かないところとなった。
「無事に帰れるように祈りを捧げたから。気休めにしかならないかも知れないけど、想いで少しでも力になれれば」
 回復魔法の使い手としての忙殺から免れたクーリア・デルファ(eb2244)は、得意とする武具の手入れをしている。
「はい、終わったよ」
 前線に戻る者にとって、武具の手入れがされているのといないのとでは安心感でも大きな差があるのだ。
「ありがと‥‥よ♪」
 ずん‥‥
 足軽を一太刀で斬り伏せ、獣の吐息が場を支配する。
「死に損ないは、死んでおけばよいものを‥‥」
 ずるっ‥‥
 修験者風に赤黒い僧衣を着こなした狼頭の剣士が、刃を倒れた足軽に突き立てる。
 七神は、オーラの障壁に身を包むとアークスタッフとブリトヴェンを手に医局員たちに避難を促した。
 空からの敵の襲撃を予想しないわけではなかったが、赤頭軍には航空兵力が極端に少ない。
 犬狼鬼騎兵や牛鬼疾風迅雷鬼隊など、機動力や突破力を打ち出した部隊に特色があったため、空への警戒が薄いのは仕方ない。
 戦闘中に一鬼を見逃したとしても責められようか‥‥
「クーリア様!」
「わかってる。ここは、あたいが受け止めるから、負傷者の方をお願いします!!」
 相手の太刀筋からいって七神では勝負にならない‥‥
 周囲には傷病兵と医局員たち。回してもらった僧兵らにも手に負えるとは思えない。
 証拠に、負傷の癒えぬ侍が繰り出した十字槍を薙ぎ払うと、狼頭の修験剣士は鋭い突きで頚動脈を断ち切った。
 まずは、時間を稼がねば‥‥
「いきなりね。名前、聞かせてくれるかしら?」
 戦神ミョルニルの金鎚と軍神ルエヴィトの盾を構えながら、わざとクーリアは間合いを詰めた。
「聞いてどうする? 冥土の土産にでもするのか?」
「いいじゃない、減るものでもないしね」
 クーリアの構えから実力を察したのか、修験剣士は鴉羽根の陣羽織を翻し、切っ先を向けた。
「狼神(おおかみ)だ。来世への因縁と思っておこう。参る‥‥」
 一閃を盾受けカウンターで反撃するが、決まったと思った一撃も高速詠唱オーラシールドで受けきられてしまった。
「やるじゃないか。生贄には、これくらいの方が丁度いい!」
 くくくっと狼神が笑い、一呼吸。
「おらっ、僧正! 血を吸わせてやるぜぇぇええ!!」
 瘴気に渦巻く暴風でクーリアを吹き飛ばし、体勢の取れない空中で斬撃! 斬撃!!
 さすがに対応しきれずに、クーリアが文字通り地煙に舞う!
 鎚と盾を支えに地面を削りながら転倒だけは避けるクーリアは、背中にクククと笑う嫌な声を聞いた‥‥
「楽しかったぜ‥‥」
 純白の戦乙女のドレスが紅蓮に染まる‥‥

 意識を取り戻したクーリアが見たのは、薄っすら涙を浮かべ、歯を食いしばりながら微笑む七神の顔。
 くらくらする頭で、クーリアは七神の涙を拭いてやる。
「大丈夫、何とか助かりそうですっ」
 あらゆる手段を講じて救わんとする七神の努力が通じたのか、クーリアも侍は一命を取りとめたようだ。
 最初に斬られた足軽は助からなかったが、あの敵相手に死者1名で済んだのは運が良かったと言うべきだろう。
「七神さんの、皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
 立ち上がって手を振るクーリアの姿を見て、周囲の兵たちも安心したようだ。
 那須医局員たちは、仕事を再開し始めている。
「狼神に九葉羽の太刀ですか‥‥ あの禍々しさは気になりますね」
「あの技は剣技とは違うようでしたし、何者なのでしょうか‥‥」
 あれが、長くゲリラ戦法で那須軍や義経軍を苦しめていた狼頭の剣士‥‥
 2人の周囲の重い空気は、戦塵が吹き散らす!
 八溝山決戦は、まだまだこれからだ!!

●赤士虎隊の大猛進!
 佐藤隊の反転、来迎寺隊の救援、天義隊の活躍により、出城の兵は総崩れとなった。
 それを機に、全軍総攻撃の命が下り、那須軍は圧迫を強めた。
 といっても、義経軍に前進する余力はなく、出城を占拠して残党を殲滅する旨、小山朝政には伝令済みである。
「雲が晴れたか」
 戦場に差す陽光から現れたのは、一面三目二臂の忿怒相に三鈷戟を携えた人影‥‥
「十二天の一、伊舎那天?」
「御仏も見ておられる! 天の加護は我らにあり!!」
 僧兵らの騒ぎから、那須・義経連合軍の士気は鰻上りに高まってゆく。

 度重なる寄せ手に、崖は傾斜を緩くした場所が出てきて防壁の役目を失いつつある。
 攻め口に倒れるのも、ほとんどが鬼だ。既に飛来する矢も疎ら‥‥
「落とされる岩だけを警戒しろ! ここで負傷は止むを得ん!! 一気に攻め寄せよ、我らには伊舎那天の加護がある!!」
 矢盾で隊列を組み、落石を防ぎながら崖に近づき取り付こうとする那須兵たち。
 次から次へ新手を繰り出す那須軍に凌ぎきれず、ついに均衡は破れた‥‥
「良いか! 雑魚は他の隊に任せれば良い!!」
 兵を鼓舞するのは福原資広。与一公の一門衆にして、志士や陰陽師を従える赤士虎隊の隊長、その人である。
「我らが狙うは赤頭!! 体力、魔力を温存してきたは、この時のため!! 八溝山で赤いのは赤士虎だけで十分だ!!」
 ごぉおおおう!!
 訳わからない訓辞だが、意気軒昂。兵も吼えるように応える!!
 そして、一癖も二癖もある隊員たちだけに、行動を共にすることにした冒険者たちもウカウカしていれば出番がないかもしれない。
 作戦は、こうだ。

 岩嶽城の重要区画は、先の八溝山決戦の折に岩嶽丸がいた岩の広間。
 多少隊列は長くなるが、以前に抜けた洞窟を通れば、そこに出る。
 赤頭がいるにしろ、他の幹部もいるにしろ、一気に指揮系統を叩けば、後は烏合の衆。
 軍略を持たぬ寡兵に大軍勢を支えきれるはずもない。

 単純すぎるが、単純すぎるが故に正論である。

 リンからの連絡を受け、風のように怒涛のように八溝山を駆け上る一団がある。
 千切っては投げ、投げては千切り!
 抵抗力の弱まった一点を見抜いた赤士虎隊は、文字通り小鬼や犬鬼を薙ぎ払い、城内へと斬り込んでゆく!
「こうも上手くゆくと、後が怖いな‥‥」
 個性的な独立部隊の赤士虎隊であれば、敵将への強襲という重要作戦を好むとの判断だったのだが‥‥
 カイ・ローン(ea3054)は、愛用の槍を抱え、七なる誓いの短剣にて隊長を守護する制約を交わす。
「えぇい! 不愉快な!!」
「って、不愉快になったなら、何で俺っちを斬るのさ〜〜〜‥‥」
 人を不愉快にさせる言霊を物ともせず、福原資広は天邪鬼を斬り捨てる。
「加勢は無用でしたか!」
「その通り! だが、礼は言うぞ!!」
 存外悪い人物ではないのかも‥‥
「「やぁあ!!」」
 福原の一蹴とカイの突きが馬頭鬼を捉えた!
「もらったぁ、剣閃・一刃!」
 一、二、三! 九竜鋼斗(ea2127)の斬撃が馬頭鬼の急所を捉えた。
「右の裂け目! 敵が隠れておる!!」
 赤士虎隊の志士や陰陽師たちが使う精霊魔法の探知能力は、暗闇の中では大きな武器となる。
「邪魔はさせないですよ〜! 燃える魔球で消し飛ぶですっ!!」
 七瀬水穂(ea3744)が指された場所に火球を投げ込み、鬼たちの悲鳴と共に肉が焼ける臭いが広がる!!
「先に行くぜ!!」
 動かなくなった馬頭鬼を踏み超え、我先にと洞窟を抜ける赤士虎隊。
 このあたり、猪突猛進が似合う!

(「邪魔だ!」)
 足音を殺して駆ける不破斬(eb1568)は、すれ違い様に茶鬼を斬り伏せ、戦果も確認せずに奥へと進む。
 これまでの通路のように所々に篝火があるわけではない。灯りがある‥‥
 壁に身を寄せて中を覗うと、七瀬やカイが教えてくれた通り石柱が並んでいた。
 背後に気配を感じて不破は、部屋の中へ体を滑り込ませると物陰に隠れた‥‥
「やったぜ、俺が一番乗りだな! 赤頭! 出てくるがいい!!」
 駆け込んできたのは赤士虎隊の志士!
「五月蝿いなぁ。もうしばらく麓で殺しあってれば良かったのにさ」
 石柱の張りに脚を掛けて逆さにぶら下がっている子供がいる。
「なんだ、お前は。ここは危ない。子供のいるようなとこではないぞ」
 刀を鞘に収め、志士は手を差し出す。
 馬鹿っ‥‥不破が喉を通ろうとした瞬間、赤髪の少年は、くるりと回転して音もなく着地した。
 ふわさっと重力に引かれた赤髪の中から現れたのは角‥‥
「まさか‥‥」
「そう。まさかだよ」
「く‥‥、体が鈍い‥‥」
「どうやら、仲間みたいだね。でも、間に合わないっ♪」
 赤頭は水晶剣を作り出すと、膂力で志士の首を刎ねた。
「あと、隠れてるやつ。いるんだろう? 出てきなよ♪」
 水晶剣で隠れ場所を指されては、不破も覚悟を決めるしかない‥‥
「様々な鬼、そして酒呑童子とも会ったことがあるが、此度はもっと異質のようだな。赤頭とやら」
「それって酒呑童子よりも上ってこと? だとしたら名前を売った甲斐があるってもんだね」
 幼い容貌に惑わされてはいけない‥‥
 力比べをしても勝てるかどうか‥‥
 そこへ飛び込む黒い雷!
「我こそは天下一の大猪でござる。一騎討ちを申し込む。いざ勝負!」
 突き刺さった小鬼の腕を血糊でも掃うように刀を振るい結城友矩(ea2046)が眉を吊り上げている。
「怖い顔だねぇ。だけど、お前の相手はこいつだ」
 迅雷‥‥
 疾走の術を使うという、あの牛頭鬼の隊長‥‥
「確か義経公の軍が討ったと聞いていたが」
「聞き間違いじゃないの〜〜?」
「良かろう。何度蘇ろうが、倒し続けるまで」
 結城は一の太刀で迅雷の重斧を砕き、肉を爆ぜさせる。
 疾走の術でも使われるかと思ったが、違うらしい。一気に押し込むと、脆くも倒れた。
「で、隠れんぼは止めようよ」
 いつの間にか柱の影にでも隠れてしまった赤頭の声が響く。
 多人数で囲む予定だったが、バレているのでは仕方ない。
「いるだけで囲むぞ」
 九竜の他、赤士虎隊の者も何人かいる。
「今度こそ、長く続いた那須の戦乱に終止符を打つのです」
「させるかい」
 赤頭が印を組むと、必殺の集束ファイヤーボムを唱える七瀬の視線を遮るように岩が飛んできた。
「終わりだ!」
 目標を見失って慌てる七瀬に、飛来する岩陰から赤頭が迫る。
「ホーリーフィールド!」
「馬鹿だね。効かないよ」
 反転した重力に巻き上げられ、七瀬を守ろうとするカイ諸共に赤士虎隊員たちが天井に激突。続けて地面に叩きつけられた。
「ええぃ、猪口才ですっ。ぷ」
「無事ですね‥‥ くっ‥‥」
 七瀬を庇ったカイは、頭から血を流し、打撲で肩を抑えている。
「不破が狼剣士、斬‥‥参る」
 壁や柱だけでなく、天井も足場に乱戦に持ち込んでくる赤頭が、さっきの術を使ってくるのでは、剣や盾で庇うのは意味がない。
 咄嗟に判断した不破が斬り込むが、急所を狙う切っ先は逸れてしまう。
「面妖な術を使うが、斬り合いにさえ持ち込めれば、あるいは‥‥」
 結城を見て斬り合いを避けたのなら、あるいはと思ったが、赤頭はニヤッと笑って宙に浮かんだ。
「鬼神々の怒り!!」
 印を組んだ手を振り上げ、親指を叩きつけるように地面を指す。
 立つことも叶わぬ大地震!
 浪人が柱に押し潰され、洞窟からは悲鳴が響く‥‥
「これくらい殺しとけばいいよね。んじゃ、じゃあね〜〜〜♪」
 まさに飛ばされるが如く跳躍し、赤頭は那須の空に消えてゆく‥‥
「赤頭。何という奴‥‥ ち、これでは動けぬか‥‥」
 結城は岩を支えながら呟いた。

●岩嶽城、陥落
 八溝山、岩嶽城の天守とも言える岩屋に那須軍の旗が、激戦を繰り広げた出城に義経軍の軍旗が棚引く。
 赤頭軍の残存兵力は恐らく50もいまい。下手をすると逃がした幹部に数名ということも考えられる。
 最終的に10や20の死者で済んだことも合わせ、圧勝であったと言って良かった。
 そんな歓喜の中、戦といえば恒例のあれだ。おにぎり(鬼斬り)が美味い‥‥ではなく、まぁ、それもあるが‥‥
 足軽たちは金子を頂いて躍っているし、鬼の首を並べて仕官を申し込む者もいる。
 そう、褒賞だ‥‥
「次に戦功第一であった者! 七神斗織、フィリッパ・オーギュスト、陸堂明士郎の三名には八溝に所領を安堵する!!」
 那須軍・義経軍に褒賞が与えられる中、小山朝政の言葉に義経公も嬉しそうにしている。
「受け取っておけ。戦功者に八溝領を与えよというのは、与一公より戦を前に下知のあったこと。
 領民が避難先から戻るまでは土地ばかりで申し訳ないがな」
 数年来の戦で断絶した家もあり、那須の武士たちの所領も様変わりしていた。
 神田や矢板に近いところへ所領替えした者もいて、要するに与一公の直轄領にするしかない場所なのだ。
 復興には那須藩の支援もあるということだし、貰っておいて損はないかな? ‥‥と、まぁ、そんな話だ。
「そして、朝綱公を名乗る不埒な輩を撃退した隊の中から、陸堂明士郎に八溝山城の城主を任せたい。
 まずは城の名を改めるといい。そして、どのように使うかは、お主次第だ」
 小山朝政は含みのある言い方で陸堂に手を差し伸べる。
「某は義経公の家臣。那須に領地など‥‥」
「そんなこと、殿は先刻承知だ。立場に隔てなく戦功を評価せよとの仰せだからな。無論、要らぬというなら、それでも良い」
「少し考えさせてください」
 小さな声での遣り取りだったが、義経公は陸堂の視線を正面から受け止めると静かに頷いた。

「長かった‥‥ ほんとに」
 来迎寺は陸堂と共に義経軍の侍大将に昇進とのこと。九紋竜も侍備の頭となったようだし、那須藩の方でも戦功者は出ている。
 主君の嬉しそうな横顔を見つめていると、思わず微笑まずにはいられない。
「まぁ、これからが大変でもあるんだがな。義経公の正念場だぞ」
「承知しています。残党狩りもありますし、義経様の身の処し方も」
「そういうことだな」
「まだまだ、働いてもらいますからね♪ 重蔵様にも」
「おうよ」
 重蔵の笑顔は成長を喜ぶ爺や。来迎寺は肩で笑いそうになって、思わず拳で口を押さえた。