【ゴタ消し】明神自衛隊

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2009年09月30日

●オープニング

 神田明神の片隅。
 小さな社の形をした小屋に、小さな狐が住んでいる。
 お稲荷さん、江戸では珍しい神様ではない。
 それが子狐ながら、9本もの尾を持っていることを除けば‥‥

 ヒトが異形のものを受け入れるには、結構な勇気が必要だ。
 とはいえ、冒険者長屋に足を踏み入れる勇気があれば、江戸は竜や精霊とだって会える可能性のある素敵な都市なのだ。
 神田明神の監視つきということもあって、周辺住民たちが騒ぐことも徐々に減っている。
 極一部だが、献身的に九尾の子狐を守る少女たちの存在に絆された住人がいることも、まぁ、否定できない。
 その一部の筆頭が、近所の子供たち。
「きゅうちゃん、神田の守り神になってくれるのかねぇ」
 きゅうちゃんは、近所のおばちゃんが持ってきたお稲荷さんを美味しそうに食べている。
「あちしたち、きゅうちゃん、お手伝いして神田を守るの。おばちゃん、当てにしててね」
「あら、頼もしいわね。期待しちゃおうかしら」
「みんな〜、お稲荷さんのお礼に張り切っていこ〜〜♪」
 お〜〜〜とか鬨の声を上げちゃってかわいいこと。

「おぅおぅ、可愛いねぇ」
「だからってのもあるんだがな。ゴタ消しの」
 屋台の寿司を頬張りながら、女の子たちの様子を背中越しに話す男たちもいる‥‥
「神田明神を中心に自衛隊を作りたい? 兵隊と戦ったりしたら、一たまりもねぇぞ?」
「だから、あんたに頼んでるんじゃねぇか。元はといや、おぶ‥‥」
 寿司を放り込まれて、男はもがもが。
 ゴタ消しの男が言うように、数もそこそこの町人風情が手に手に武器持って集まったって、武装集団に敵うわけない。
「とはいえ、江戸に残ると決めた町人も少なくないしな‥‥ 何とか手を考えなきゃ‥‥」
 男は思案顔で寿司を頬張ると、よっと腰を上げた。

※ 関連情報 ※

【きゅうちゃん】
 白面金毛九尾の子狐。
 デビルが魂を集めるために可愛い姿に化けていたらしいのだが、旅の僧に退治された。
 悲しむ少女たちのために狐が化けているらしいが、二代目きゅうちゃんは一尾の妖力しか持たない。
 事情を知っているのは、一部の冒険者と神田明神の神主など少数。
 冒険者ギルドの報告書だけでは、きゅうちゃんが二代目だとかいう真実を知ることはできない。
 武家の少女(15歳)を筆頭に、数人のきゅうちゃん親衛隊がいる。

【謎の男】
 「ゴタ消しの」「桜の」と呼ばれる正体不明の町人。
 田舎へ町人を逃がしたり、町で暴れる不埒な狼藉者をぶっ飛ばしたりと頼りにされているらしい。
 顔も広いようだし、腕も立つようである。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3585 ミハエル・アーカム(25歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec4507 齋部 玲瓏(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244

●リプレイ本文

●名の売れた者
「きゅうちゃん、久し振りぃ♪」
 もふもふっ。
 きゅ〜〜と目を回すきゅうちゃんに、超絶もふもふ♪
「駄目ですよ。きゅうちゃん、身が出ちゃう」
「ぶっ! 出ちゃうって♪ そんなに強く抱いてないよね、きゅうちゃんっ〜♪?
 愛(めぐみ)ちゃんたちと違って、普段は会えないんだからイイじゃない」
 きゅうちゃん親衛隊のリーダー格やってる武士娘に、御陰桜(eb4757)が九尾から顔を覗かせて笑っている。
「あ‥‥ あの‥‥ 九尾の狐がいるように見えるのですが‥‥」
「そうだな。それよりも明神自衛隊を作るんだって?」
 目を丸くする七神斗織(ea3225)に、群雲龍之介(ea0988)は「何か問題でもあるのか?」と本題に入る。
「え? 九尾ですよ?」
「世の中、広いからな。九尾の善狐がいても不思議ではなかろう?」
 九尾や四尾といった妖狐と遭遇した経験を七神が話すと、群雲は少しはぐらかした。
 そうよ、そうよと口を揃える愛ちゃんたちに聞えぬよう、仔細は後で‥‥と付け加えて。
「って、独り占めは、ずるいって〜」
「この前だって、ずっと抱いてて放さなかったでしょ! 今日は、あたしっ♪」
 あぁ、ここにも抱きつき魔が♪

 さて‥‥
 親衛隊が神主さんに呼ばれている隙に、群雲は仲間にきゅうちゃんの仔細を話した。
「そう、貴女は、あの方ではないのね‥‥」
 良い子ね‥‥と、悲しそうな色を浮かべる七神を、きゅうちゃんは、ぺろりと舐める‥‥
 将門公の巫女ミズクの人の心が、九尾の子狐の姿に転生したのではと期待したのは、七神が優しさだろう‥‥
「人に危害を加える存在ではないのは、よく判りました」
「神通力は一尾だけど、人を癒す力は九尾級だって保障できるよ」
「この子の思いを無駄にしたくはないですわね」
 駆けてゆくきゅうちゃんと戯れようとして、慌てて戻ってくる御陰と群雲に、七神は思わず吹き出してしまった。

 そんなこんなで始まった神田自衛隊の結成の論議。
「神田の皆さんを守るには、やはり武装するべきでしょうか?」
 きゅうちゃんを抱くのは発言の機会に。
 え? なんの話かって?
 親衛隊の愛ちゃんの提案で、なんか、そんな流れに♪
 不思議な光景に、当のきゅうちゃんは首を傾げつつも、大人しく膝の上に座っている。
「そんなことはないんじゃないかな。僕が思うに、何かの戦力だと思われたら逆に大変だよ」
 ぶっきらぼうだが、瀬崎鐶(ec0097)の言うことも正論だ。
 無愛想だが、次にきゅうちゃんを渡さないあたり、何か言いたいことがあるのか、それとも可愛いのか。
 ‥‥
「武力化については、あまり興味は無い‥‥が、一言だけ言わせてもらう。
 素人が慣れないことをしても痛い目を見るだけだ。止めておいた方がいい」
「確かに‥‥
 護ることが目的ですし、武器をとるよりも、愛着のあるこの地、特に人命を護ることが、まず大切かと存じます。
 火事のときのように、身を守るための行動に力を入れたほうが良さそうですね」
 各々が考える暇も暫くあって、瀬崎の考えには齋部玲瓏(ec4507)ら皆が納得したように同意を告げる。
 その間にも、ミハエル・アーカム(eb3585)の膝から齋部の膝へと渡り、きゅうちゃんはされるがまま。
 まるで借りてきた猫。
「そのためにも、神田の町は神田の皆さまがお護りする‥‥ そんな自衛隊を組織した方が良いのでしょうね」
「あぁ。もともと俺は戦が大嫌いだし、人々をそんな下らないことに巻き込みたくない!
 神田の人たちが、そんなことに足を突っ込まなくても無事で居られるようにしたいが、どこに協力を求めるか‥‥」
 救急や救命のための組織作りに重きを置き、それを発展させて防災や緊急について調整することになりそうだ。
 ‥‥と、きゅうちゃんをかいぐりながら、群雲は調整すべき役所や施設をかいつまんでゆく。
 御陰が指をくわえているが、なかなか話は終わらない。
「香具師に当たりをつけるってぇなら、うちの親父ね。任せといて」
 とは、親衛隊のお久美。愛ちゃんの話によると、神田明神の参道に露店を並べる的屋の娘らしい。
 他にも、香苗が商家の娘、お咲が長屋の医者の、お鳶がとび職の、お葉とお志乃が寺の拾われ子らしい。
 親衛隊の娘らの親を一通り当たれば、なんとか救急防災のための組織作りの大枠はいけそうな感じ。
「そいつはいい。皆の親に相談してみるとして、変に勘繰られるのも何だ。奉行所にも一言お願いするとしよう。
 そうは言っても、御奉行に会うのは大変だな。何とかして役人に頼み込むか?」
「あっ、ずるい。次は、あたしの番なのに」
 どこぞの札遊びかのように、きゅうちゃんが逆回りに群雲へいきそうになるのを、御陰が、ひしっっと捕まえる。
「あの‥‥」
 手を上げる愛ちゃんに、一同の視線が集まる。
「次は、あたしの番だからね」
 御陰は、ポンと愛ちゃんの膝にきゅうちゃんを乗せた。
 って、そういうことじゃないんだって。
「私の父上、奉行所で務めているんですが‥‥」
 ええぇええ‥‥
「上手いこと、いき過ぎ‥‥」
 首を振る瀬崎は、じと見する御陰に「発言の順番を飛ばすつもりはないから」と釘を刺す。
「は〜い、いくら娘でも奉行所に簡単に入れないと思いま〜〜す♪ いやん」
 ようやく自分の膝の上にやってきたきゅうちゃんを、もふもふしようとしていた御陰だが、ひょいと攫われる。
「その辺は、俺に任せな。多少は顔が利く。奉行は無理だけどよ。与力くらいは紹介できるぜ」
 ゴタ消しの男は、悲しそうな御陰の顔を見て、「すまねぇ」ときゅうちゃんを返した。

●桜吹雪
 奉行所の与力に接触するとして、勤務時間外を狙って下手な勘繰られるよりは、正規の手順を踏むべし。
「お久しぶりです。覚えていらっしゃらないでしょうが、四尾の件で何度かお目に掛かっていますよね?」
「まぁ、なんだ。世話になった人の顔くらい覚えてらぁな」
 それだけ聞ければ十分。
 現在の立場から察するに、正体が遠山金四郎であることは伏せているのだ。
「お元気そうで何よりです」
「これしててくれると、ありがてぇ」
 口に指を当てて、人懐っこく笑う。
「まぁ、遊び人さんが口説いて良い方ではありませんのよ。所領を安堵された那須藩士の方なのですから」
「そいつぁ出世だ。めでてぇ。美女に囲まれて祝い酒といきたいねぇ」
 ゲンナリする愛ちゃんを見て、七神と御陰が笑う。

 と、ゴタ消しの男が門番に何やら耳打ちすると、裏口に案内してくれた。
「いいんですか? こんなとこに現れて」
「心配ねぇ。奉行が登城してる刻限を狙って来てるってば」
 ほどなく男が顔を出した役人とゴタ消しが話しているところへ、御陰の色香が漂ってくる。
「いつも町のヒトたちが安心して暮らせる様に頑張ってくれてアリガト♪
 でも、近頃、物騒なコトも多いし、いつもいつも頼ってばかりじゃ大変でしょ?
 だから、このコたち、自分たちでできるコトは自分たちでシたいって言うの。良かったらイロイロ教えてもらえないかしら?」
「礼には及ばねぇよ。力になれることなら、いくらでも力になるぜ」
「父上、決め顔で鼻の下を伸ばさない」
 任せておけと言いかけた役人が御陰の手を取ろうとした瞬間、愛ちゃんが視線が刺さる。
「愛っっっ‥‥ なんで奉行所に?」
「神田の自衛隊のことで相談に参ったのです」
 昼行灯と名高い只野新三郎だが、神田明神と言やぁ、銭高平治の親分、岡引の銭高のと言やぁ、与力の只野様とくる訳で。
「そいうことネ♪」
 寺社奉行の管轄で手出し無用とは言え、神田明神の九尾に町奉行が口出ししなかった原因は‥‥
 御陰は、なぁる‥‥と手を叩く。
 まぁ、一介の与力に、寺社奉行に圧力をかける力があろうはずもないが‥‥
 兎も角、町奉行所に味方がいるのはわかった。
「じゃ、そういうことなんでヨロシク♪」
「何も話してませんわ、御陰様」
「あれ? そうだっけ?」
 まぁ、町奉行への繋ぎがついたってことに変わりはない。

●自衛隊の大枠
「いざってときには任せてよ。料金もらえれば、敵陣にだって一っ飛びなんだから♪」
 まぁ、外交の書状をシフール飛脚便で送りつける横着者は、普通いないから。
 ともあれ、緊急の連絡をつけるのに飛べるってのは適任なのかも。
 それでも、岡っ引きに、火消しに、医者にと、簡単に適任者が見つかったのは江戸の治安が優れていたからだろうか‥‥
 こういうものは一朝一夕にできあがるものではないだけに、源徳体制が優れいていたのだろう。
 伊達が大きな行政改革したわけではないのだから‥‥
「権力者共が、己の勝手で人々を殺し、家や田畑を焼き、自然を汚しておいて‥‥ いい気なもんだ‥‥
 しかし、その権力者のやってきたこと全てが無駄ではないということか‥‥ おや、何か用か?」
「御用で使う呼子笛の合図とは違えねぇと。間違って奉行所が駆けつけてくるんじゃ、元の木阿弥だ」
 ミハエルは、故郷の欧州で使っていた呼子笛の合図を教えることにした。
 生存術での飲み水の作り方、応急手当の教授。教えることは幾らでもある。
 誘導のための経路確認、破壊消火のための手順確認。いくらだって。
 大火を想定しての防火水槽の増設もそうだ。ないよりマシ。
「神田自衛隊は、個人でできることを手広くすること。次に、お隣や長屋で協力して行動すること」
 瀬崎は丁寧に「一番大事なのは、1人で行動しないこと」と、付け加えた。
「お腹空いたろ? 飯にしよう♪ きゅうちゃんには稲荷な♪」
 群雲は、腕によりをかけた訓練用の炊き出しを、親衛隊の子らと装って配っている。
「考えているうちに被害が拡大すてしまうことがあるはずでしょう。
 町の皆さまが、いざというときに何をすれば良いのか、お嬢さま方も覚えておいてくださいね」
「うん。お年寄りや幼い子供の手を引いてあげればいいんだよね?」
 そう‥‥ 嬉しそうに齋部は御握りを結んだ。