【ゴタ消し・赤恨】食い止めなけりゃ
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:9人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2009年10月21日
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●オープニング
●妖魔の蠢動
くくくっ‥‥
「遠山金四郎めが。さぞや悔しかったろうて。今、思い出しても笑いが込み上げてくるわ。
味方であった石川数正に首をはねられるとはな。一族の恨みじゃ」
「左様で。して、いかなる御用で?」
禍々しい眼光の老婆に答えるのは、筋骨隆々として浅黒い肌の黒脚絆の男。
「江戸を失い、家臣や武士団にも見限られたというに、またぞろ家康が戻ってくるとか。
阿紫の百鬼夜行には足らぬが、動くには頃合やも知れぬな。吉次よ。
風水の守りなどという、江戸に要らぬものを完全に取り除くには、家康は邪魔じゃ」
「家康には負けてもらわねばならぬというのは、主の意にも沿うゆえ、いくらでも力を貸しましょう。
野心に駆られた馬鹿な人間どもを魔道に落とせば、百鬼くらい訳もありますまい。
少し悪鬼の力を貸せば飛びついてくる愚か者ども同士で殺し合わせてもよい」
「お主の好きにするがいい。我は、やっておかねばならぬことがある故な」
さっきまでの老婆の上機嫌は吹き飛び、囲炉裏の側で世話をしていた者たちは少しびびっている。
「それは、いかなる?」
「神田明神に人に飼われた九尾の子狐がいるとか。我ら妖狐の風聞にも関わる、由々しきことじゃ」
黒脚絆の男は、なるほど‥‥と不敵に笑う。
いかにして苦しめてやろうか‥‥ 堕落させようか‥‥
このように、邪な相談が繰り広げられていた荒れ屋敷の外では‥‥
身軽に崩れた壁に巨体を寄せると、山内志賀之助は空を見上げた。
「ちっ、逃がしたか‥‥」
月光に白む暗闇に溶け込むように消える黒脚絆の男を目で追いながら、山内は小さく呟きながら溜息する。
ところが、思わぬ姿を認めて、はっと息を飲む‥‥
あれは取り逃がしたシズナとかいう妖狐‥‥
奉行所や冒険者たちと激闘を重ねながら、四尾から五尾へと妖力を成長させた恐るべき相手だ。
「奥州へ引っ込んだと思っていたが、また江戸に災いをもたらそうというのか?」
黒脚絆の男を追うべきか、妖狐の老婆を追うべきか‥‥
●ゴタ消しの心配
江戸冒険者ギルドの一部屋にて‥‥
「手伝ってくれていた志賀之助が戻らない。さすがに心配でなぁ」
「探し人の依頼ですね?」
「まぁ、そういうことだ。けど、事務的だと味気ねぇなぁ」
袱紗を開けると、小判が姿を現す。
「依頼ならば、ちゃんと冒険者を斡旋しますので。それで、依頼人の名は‥‥ 出せませんか‥‥」
ギルドマスターの名前を依頼人の名として使っていいか、確認に向かおうとするギルド員を遊び人風の男が呼び止める。
「遊び人の金さんでいいぜ」
「危険では?」
「まぁ、こちらの事情をある程度知ってる者に来てほしいしな。そういうことでぃ」
こちらは構いませんが‥‥ ギルド員は依頼の受付を書き上げてゆく。
※ 関連情報 ※
【きゅうちゃん】
白面金毛九尾の子狐。
デビルが魂を集めるために可愛い姿に化けていたらしいのだが、旅の僧に退治された。
悲しむ少女たちのために狐が化けているらしいが、二代目きゅうちゃんは一尾の妖力しか持たない。
事情を知っているのは、一部の冒険者と神田明神の神主など少数。
冒険者ギルドの報告書だけでは、きゅうちゃんが二代目だとかいう真実を知ることはできない。
武家の少女(愛ちゃん15歳)を筆頭に、数人のきゅうちゃん親衛隊がいる。
【謎の男】
「ゴタ消しの」「桜の」と呼ばれる正体不明の町人。
田舎へ町人を逃がしたり、町で暴れる不埒な狼藉者をぶっ飛ばしたりと頼りにされているらしい。
顔も広いようだし、腕も立つようである。
【神田自衛隊】
医者や的屋など、神田界隈に住む町衆の手によって組織された互助組織。
武力集団として戦に巻き込まれることを避けるために武力は持たず、難事には一丸となって当たろうと結束を固める。
きゅうちゃん親衛隊の親たちが中核となって、組織作りを進めている。
【シズナ】
赤面黒毛五尾の妖狐。
老婆の姿で現れ、様々な呪いを現し、妖狐や化狐や霊狐を配下に源徳家の凋落を狙った。
遠山金四郎が江戸奉行にあったころ、一党の討伐が行われたが、全滅には到らなかった経緯がある。
【山内志賀之助】
冒険者長屋のヌシともいえる浪人。
江戸のギルドマスターとは顔見知りらしく、冒険者の兄貴的存在。
ジャイアントの巨体に似合わず身が軽く、ギャップの大きさで相手を翻弄することを得意とする。
●リプレイ本文
●金売吉次
わわわん、わわわん、わわわんわん♪
山内志賀之助が自ら足取りを隠しているとすれば、人相書きで探すのは拙かろうと、犬に臭いを追わせることに‥‥
そうはいっても、人半分、犬半分。いやぁ、凄い数である。
「くれぐれも無茶はしねぇように。俺の方は、俺で情報筋を当たってみらぁ。それじゃ、また後でな」
棲家から失敬してきた山内の着物を渡すと、遊び人の金さんは雑踏へ消えてゆく。
「にしても、金さん‥‥ですか。生き延びて‥‥ いえ、死地から帰ってきた、のでしょうかね」
「どうしました?」
「いえ。急を要する事態だといけません。出発しましょう」
のんびり再会を祝ってられない状況に限間灯一(ea1488)は小さく溜息し、遊び人の後姿を見送りながら仲間を促す。
さて‥‥
臭気追跡で商家を訪れた難波幸助(eb4565)たちだが、周囲に張り込みする志賀之助の姿はない。
金さんによると、この商家は、伊達政宗の庇護の下、関東に進出してきた奥州商人の1人らしい。
あの金売吉次の拠点かもしれぬ場所だし、街中の忍び仕事で騒動になって奉行所が介入してくると面倒。
志賀之助が囚われている可能性を潰すため、ここの潜入は本職の御陰桜(eb4757)に任せ、難波、限間の2人を残すことに。
「いっつも冒険者長屋の入り口でぶらぶらシてる志賀之助さんを捜せばイイのよね?」
「いざという事態に自分たちが備えていますが、無理はしないでくださいね」
「了解♪」
お世話になったゴタ消しさんが困っていることだし‥‥と、ウインクした御陰は陰から影へ消えてゆく。
だが‥‥
蔵などに志賀之助が捕えられている様子もなし、隠し部屋や抜け穴のような忍者屋敷の仕掛けもない。
商人たちに悪の組織や忍者の気配がないと帰ろうとしていたとき‥‥
「どうも、あらぬ噂を立てられて商売にならん」
「金売吉次の忍び働きという、アレですか? 旦那様」
「藤原の殿様に御用商人として認められた、名誉ある金売吉次の称号であるのにな‥‥」
「那須藩の転覆を狙ったとか、江戸の大火は金売吉次の手によるとか、迷惑この上ない‥‥」
じゃあ、金売吉次の全てが悪党じゃないってコト? 御陰は話を聞き終えると潜入を終えた。
●ジャイアント見っけ
志賀之助の臭いを追う群雲龍之介(ea0988)たちは、中心部から外れて探索の足を伸ばしていた。
ただ、街中の忍び働きならまだしも、壁を乗り越えたり、水辺で臭いが途切れたりすれば、探索に足踏みは仕方ない。
「相手は忍びだからな。十分注意しないと」
「はい。吉次は妖狐とも繋がりのある忍者。相手が相手だけに心配ですね」
那須藩に縁のある七神斗織(ea3225)にとって、金売吉次は宿敵。
とはいえ、今は志賀之助の状況が逼迫していないことを切に望むのみ。まずは、安否を確認せねば‥‥
「まだ、何日もかかるかもしれないな。この分だと‥‥」
九竜鋼斗(ea2127)は、遠くからガンつけてくる奴らをひと睨み。
何軒かある廃屋に流れ者が住みついているようで、治安は決して良くない。
おん?
パラスプリンタードッグの跳丸が消え、群雲の側へ現れたことに目を丸くしているのは、山中志賀之助、その人。
「まさか、化かされてはいないよな?」
抜きかけた剣を鞘へ戻そうとして、九竜は手を止めた。思わずパニック。
「そうですね。相手が忍者なら、山内様に化けている可能性は‥‥」
「ちょっと待て。そんな身なりでうろついていると危ないと教えに来たのに、それはないだろ?」
確かに、いいとこの御嬢さんぽいのが護衛2人と犬3頭連れでは、ぎりぎり襲われない線なのかも‥‥
「金の字め。危ないことを‥‥ 俺が体張ってる意味がなくなったらヤバいだろうが‥‥」
屈託なく苦笑いする様子は、いつも冒険者長屋で見かける山内志賀之助である。
「どうやら本物みたいだ」
「ですね」
臭い突き止めたの、褒めて褒めてと犬たちは尻尾を振っていた。
●嫌な再会
ともあれ、途中で合流した御陰たちをシズナ一党の張り込みに残し、志賀之助たちは金さんを安心させるために冒険者長屋へ。
「僕ら、大変だったんだから‥‥」
瀬崎鐶(ec0097)は、茶を口にして一息‥‥
志賀之助の探索予定にあった荒れ寺に向かったはいいものの、盗賊団がいたらしい。
「何とか蹴散らしたが‥‥ まだまだ詰めが甘いか」
連れてった犬が、良かれと飼い主に警戒を促すために吼えることだってある。
それでは、レジー・エスペランサ(eb3556)の隠密達人も役に立たない。まぁ、そういうことだ。
だが、逆を言えば、シズナたち一党の潜んでいる場所でなかっただけ運がよかった。それだけは言えた。
「山内殿が無事で安心したが、神田明神のきゅうちゃんというのは?」
そうそう‥‥
五尾の妖狐シズナが、きゅうちゃんを狙っていると聞いても、空間明衣(eb4994)たちには、いまいちピンとこない。
「そりゃあもう、優しい子狐なんだ。ふんわかした抱き心地で、もふもふすると癒されまくるんだから‥‥」
「急いだほうがいいと思うの。力説には同意するけど」
群雲の肩を、瀬崎がぽむ♪
神田明神の九尾の子狐と赤面黒毛五尾の妖狐の情報が交換され、一行は御陰班に合流するべく急いだ。
「厄介な奴が江戸に残っていやがったっ」
幸いにもシズナを入れて敵数5と多くないが、戦力もわからないでは下手な手出しは得策ではない‥‥
とはいえ、様子を見て神田明神が戦場になるなんてのは駄目だ。シズナにしてみれば最も癪に触る策を採ることにした。
「悪事しかできないカスの分際で‥‥きゅうちゃんに係わろうと考えるなァっ! この阿呆がぁァっッ!!!!」
「ええぃ、小癪な!」
老婆へ届こうかという群雲の銀の爪は、割り込んだ霊狐に邪魔され、シズナは妖狐に変化して後ろにかっ飛ぶ。
「妖狐で厄介なのは月夜。それさえ避ければ!」
レジーの手元に戻るダガーofリターンは、側近の鮮血を空に引いた。
「目、目がぁ」
投げた刃の帰る軌道を考え、相手の死角から目に当てるなんて毎度の芸当ではないが、今回だけは上手くいったようだ。
「ええぇい、やっておしまい」
「させない。五尾のシズナには、ここで倒れてもらう」
「‥‥(頷き)」
エプンキネの構えで刀を握り、態勢を立て直す敵からレジーを守るように空間は盾を前に出す。
斬りかかってくる側近の男の刃を盾で捌くと、盾の陰から閃華の技で急所を一突き。追い討ちに瀬崎の胴田貫!
「お前のような妖狐に好きにさせるほど冒険者は甘くないよ。憶えておくが良い」
「‥‥(うんうん)」
2人の威嚇の気合に、側近は思わず後ずさり。
「あら、逃げちゃうの?♪」
側近の足下の影から微塵隠れで現れた御陰が、投げキッス。
「雑魚は任せてください。シズナを頼みます」
難波の振るう刀身の降魔成道の経文が、側近の血に染まった。
そうして現れたのは、金さん。
シズナの恨みを最大限に引き受け、きゅうちゃんへの害意を逸らすために。
「遊び人の金さんの桜吹雪も許しちゃおかねぇぜ! 覚悟しな!!」
もろ肌脱いで、べらんべぇ!
左の肩には髑髏の刺青! 右の肩から桜吹雪が吹き流れる!
「貴様はっ! 遠山金四郎ではないかぁ!!」
「無粋な奴だぜ! 今は、遊び人の金さんと呼びねぇ!」
シズナの形相が激怒に変わるのが、狐の顔からでもわかった。
「なぜ、生きている!! 愛しき子らの仇がぁ!!」
「待ちなさい。肉を切らせて骨を立つ、よもや、この限間灯一の剣を忘れてしまったとはいいませんよね?」
「ちぃいい!」
金の字をかばってシズナに斬り裂かれた限間は灰と化し、代わって現れた限間の倶利伽羅の剣がシズナに傷を付ける。
「取り逃がした四尾‥‥‥‥ いえ、今は五尾シズナですか。私もいますよ」
「ぎぃいいい!!」
七神に歯噛みするシズナ。そこへ‥‥
「もらった!」
九竜の抜刀術・双閃刃の手応えは、月光の揺らめきを弾く。
「覚えておれ! 遠山金四郎、それに冒険者どもよ!! 百鬼夜行を覚悟せよ!!」
一度に5つの月光の矢を放って志賀之助らを怯ませると、五尾の妖狐は黒い体毛を影に溶かすかのように飛び去る。
「ありゃ、もしかしてレミエラか? にしたって、逃がしちまったか。しくじったぜ」
「そんなことはない。手がかりはある。これは、金さんに預けておくよ」
群雲が手甲の銀の爪に引っ掛けているのは、シズナの服だ。
「もふもふしに行こうっと♪ きゅうちゃんに事情を話しておかないとね♪」
「抜け駆けしないだけ成長したな、御陰殿」
「もふもふ隊の隊規に従っただけよ♪ 群雲さんっ」
きゅうちゃん・もふもふ隊規とか、いつの間に‥‥
「遠山殿‥‥ いや、今は遊び人の金さんか。また、あんたと荒事をするとはねぇ‥‥」
「ま、ばれちまったのは仕方ねぇ。付き合せて、すまなかったな。
しかし、こりゃ、黒脛巾組‥‥、あいや、伊達政宗にも知られちまったかもな。
大殿が江戸城を奪還してくれなきゃ、これからは陰ながらって訳にもいかなくなっちまうかもしれねぇ。
ん? ちょっと待て‥‥
もしかして、吉次が1人じゃないってことは、黒脛巾組にしたって、吉次のと政宗のとじゃ違うのか?」
「吉次とか、黒脛巾組とか‥‥ あぁもう、頭こんがらかる‥‥」
頭を抱える金さんも九竜も‥‥
「みんなのお礼は何がいいかなぁ」
ペットたちへの感謝を忘れない瀬崎も‥‥
「赤面黒毛も、何故其処まで人を憎み恨むのか‥‥」
限間も‥‥
誰もみんな、みんなを守りたいだけなんだが‥‥