【毛州三国志・ジャパン大戦】捨て身の与一
|
■イベントシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 13 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月03日
リプレイ公開日:2009年11月14日
|
●オープニング
「天使は天の秩序、鬼は世を映す鑑、悪魔は地の混沌‥‥ 概ね、そのようなものなのでしょうかね‥‥」
「自分たちには、よくわかりません。殿に従い、殿を助け、殿の行き着く先へ参ります」
「おそらく、これからの戦は、日本の歴史に残る大戦となりましょう。いえ、すでに世界大戦といって良いのかも‥‥
私は秩序、中立、混沌のいずれなのか‥‥ どの道を行けば良いのか‥‥」
「殿が悪魔であるなど、誰も思いませぬ。鬼でないのも確か。ならば、天使以外にありますまい。
これまでも民を助け、民たちと共に進んで参ったではありませんか」
「私が天の秩序であろうはずもない。いたずらに戦いを長引かせ、死を振り撒いてきただけではないかと思う。
だからこそ、伊舎那天が私の夢枕に現れたり、戦場で死者を導いたのではなかろうか?」
「下野の国の民は誰もそのようなこと、思ってはおりませぬ」
「何にせよ、力でねじ伏せるだけでは世の中変わらない。無理に力を加えれば、大きく歪む。
蘆名がいい例です。奥州の大軍を背景に那須の地を侵略し、挙句の果てが熊鬼王に蹂躙されて、人々は奴隷と化している」
「鬼を利用しようとした天罰でしょう」
「そうではないと思います。うまくは言えませんけれど‥‥
でも、放っておいたなら取り返しのつかないことになりそうな気がします。
そして、行き着くところまで行かなければ戻れないところへ来てはいないと信じたい」
「だから那須を離れた‥‥ということでございますか?」
「えぇ。面目や誇りなしに生きることは難しい。たぶん、話をしたとしても、簡単に考えは変わらないでしょう。
でも、面と向かって話さなければ、意志は伝わらないと思います」
「あ‥‥ 力を振るう者に、民や冒険者の言葉を伝えるために、那須へは帰らない‥‥と」
「私のような立場でなければ会えない人もいますからね。ふふっ、神剣騒動の折が懐かしい気がします」
「しかし、国守ともあろう方がすることではないですよ。毎度のことで慣れましたけれど」
供の護衛や密偵らと酒を酌み交わしているのは、下野国の国守、那須藩主、那須与一、その人である。
※ 関連情報 ※
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
特に七瀬計画に基づく薬草事業は藩を代表する産業となっており、那須医局の発展も著しい。
那須医局では、治癒魔法に頼らない、または治癒魔法を効果的にするため、薬品で生命力を高める研究がなされている。
ドクターなる冒険者の影響を受け、軍師・杉田玄白により、人体の解体に関する研究がなされている。
病気治癒の霊薬、三途の川の途中にある死者を現世へ引き戻す霊薬など、神の奇跡に頼らない医術が開発途上にある。
【那須藩の略歴】
妖狐・阿紫の策謀を防げず、那須茶臼岳に封印されし九尾の狐の復活を許してしまう。
奥州連合の侵略により白河地方を失い、蘆名藩が白河小峰城を占拠。
八溝山を奥州の鬼軍頭目の1人である赤頭に占拠される。
宇都宮藩主・宇都宮朝綱、義勇軍大将・源義経と共に三公連合軍を結成し、赤頭討伐を行う。
伊達政宗公の仲介で蘆名藩との和睦が成立し、白河地方を回復。
決戦の末、八溝山の赤頭一党を討ち滅ぼすが、赤頭以下の大幹部を取り逃がす。
●リプレイ本文
●御前への奏上
「久しいですね、藤原宗高。此度は、色々と話をしてください」
「はっ、陛下。京が危難にありながら、上洛できなかったこと、真に申し訳ございません」
拝謁の間に座し、礼服に身を包んだ那須与一が礼で答える。
本当ならば、いかに与一が国守といえど、御所では余人を介して互いに声をかけることもない立場。
それが権威というものだが、此度は面会を許され、図らずも神皇から声をかけられた。
「事情は聞き及んでいます。下野の災難は、どうですか?」
こうなれば、同席する公家たちも黙るしかなく、与一としても答えることができた。
「八溝山に巣くう鬼軍を退治し、早急に守りを固めております。
これには宇都宮朝綱殿や源義経殿に大いなる尽力いただきました。
また、源徳家康公からは、百鬼夜行以来、軍資に援助を頂いております。
昨今では、伊達政宗公からは鬼軍討伐の兵をお借りすることができ、蘆名藩との和睦の仲介をいただきました。
何とか下野国を倒さずにいられますのは、多くの方々の助けがあったればこそ」
滅んだはずの源氏棟梁の直系の一子・源義経、更には朝敵・家康の名が出て、公家たちに剣呑な雰囲気が漂う。
「ん。多くの者の助けを得られたのは、宗高の人望であろう。下野の鬼軍討伐の恩賞に望むものはありますか?」
神皇の唐突な申し出に、公家たちが息を飲む‥‥
「では‥‥」
遠慮しないとは何事! とは、公家たちも流石に口には出さないが、与一へ刺すような視線を送る。
「民の言葉をお聞き頂ければ幸いです」
「わかりました」
これには流石の公家たちもザワつくが、神皇の言葉に押し黙るしかない。
1万両の寄進があった故、与一が神皇の近くで会えるよう手配したのだが、予想外の展開に深い溜息が流れた。
さて‥‥
まずは、志士・天城烈閃(ea0629)の提案する『学問の都』構想。
危難に喘ぐ因幡・但馬・美作を官軍を以て回復次第、朝廷の威光で取りまとめようというのだ。
そのために、農耕、工業、設計、建築、医術、薬学など、様々な分野の技術者を招聘し、開発と育成にあたる。
また、各地へ流れた難民たちを呼び戻すのにも一役担わせ、因幡・但馬・美作の国力回復を狙おうというのだ。
だが、公家たちの心の内は恐らく違う。
要は陰陽寮が精霊魔法を独占しているようなことを産業の分野でも行い、朝廷の威信を高めようというのか‥‥
そう思い描いているだろうなと考えながらも、与一は、実現すれば医術や薬学の研究成果を提出しましょうと言及した。
ただ、国や藩を支える振興の要となる技術だけに、簡単に手放すとは思えないし、一朝一夕に最高の技術は集まらないだろう。
ケンブリッジのような学問都市が形になるには時間がかかるが、何事にも最初の一手は必要だ。
それに、民衆という財産を手に入れた群雄たちが、難民たちを手放すかという問題もある‥‥
それらを加味しても、日本を巻き込んだ大計画だけに、神皇の耳にいれられただけでも重畳といえよう。
「まずは戦費と復興支援のために、寄進した1万両を御使いくださいますれば、ありがたく存じます」
「ん。そのように計らいましょう」
公家たちは、与一の言に怒りすら覚える。
すでに、あれもこれもと使い道を考えていた者もいようほどに‥‥
「挙国一致で当たらねばならない事態でありますに、陛下の心中、いかばかりかと察します。
私も兵を率いて、馳せ参じることができれば良いのですが‥‥」
「ほ。余裕がない‥‥と? 宇都宮の兵を武蔵へ差し向けておろうに。それを上洛させるのが忠義ではないのかな?」
「宇都宮の兵が江戸を目指していることに、申し開きは致しません。
ただ‥‥ 伊達殿が江戸を占拠しているのが、坂東の兵を西国へ集中できぬ原因の一つ。
しかも、京から兵を送って油に火を注いでいる状況です。
そもそも、一部で言われているように家康公が朝敵と謗られる落ち度があったとは、私は思いません。
加えて、騙まし討ちによる失地であるが故、秀康の親を思う気持ちを汲んで黙認しております次第」
「本拠である江戸城を失っただけでも、源氏の棟梁にあるまじきと思うが?」
「それでは、兄は、魔物に国を荒らされた陛下を神皇にあるまじきと?」
「それは!」
「関東の一件を以て家康公の摂政の任を解き、朝敵と呼ぶのなら同じことです。
違うのなら、事件の最初の責任を明らかにし、罪のある者に公平に処罰を行い、要らぬ汚名はそそいでいただければ幸い。
主君を除くのが是、騙まし討ちで同盟を反故にするのが是、というなら、信義は成り立たぬと存じますゆえ。
そんな関係で忠義を全うしろと言われて、人心をつかめましょうか?」
不忠者め‥‥ 同席する公家の誰かが呟く‥‥
「いささか口が過ぎました。お許しを、陛下」
「黙らっしゃい。そなたは国へ戻り‥‥」
「落ち着きなさい」
与一に処分が下される寸前、安祥神皇が公家を制する。
「宗高にしては挑発的な言葉ですね」
「西国の状況を考えれば一刻を争う仕儀にて、口を滑らせました。御容赦を賜りたく存じます」
加えて‥‥という与一の言葉に頭に血を上らせる公家たち。
「世の中には『今の朝廷の仕組みが争いを作り出してる』者もおります。
諸侯が争うのは、朝廷による治世の仕組みが立ち行かず、争いを止められないからだと。
その者は、陛下の剣となる者を募り、官位を廃して諸侯会議を開き、争いの場を議場に移すべしと申しておりました」
水上銀(eb7679)の意見を挙げると、卒倒する公家まで出る始末。
「ただ、国政機構を破壊して改革することに、私は賛同しかねます。
神皇陛下の気分1つで国が左右されぬよう、実権を分散しているのが現在の朝廷です。
我が国の象徴たる陛下はそのままに、権力の偏りを解消するのが肝心ではないかと思う次第。
国難に当たるに新たな枠組みを作る暇は勿論、政治的な駆け引きを楽しむ暇もありませぬ。
虎長殿が志士を束ねて陛下の剣となり、摂政・家康公と関白・秀吉公が政治を取りまとめる‥‥
思えば、朝廷が陛下の威光を上手く照らしてくださっておれば、日本は強大な国力を維持していたと思えてなりません。
今こそ有用な人物を登用し、地位や名誉を回復すべき者がいるはずでございます」
「仮に宗高なら、誰を推しますか?」
「摂政に源徳家康公、関白に藤豊秀吉公、征夷大将軍と京都守護職に平織市殿、神帝軍総督に上杉謙信公。
近畿守護職に武田信玄公、関東守護職に上杉憲政公、奥州守護職に藤原秀衡公。
現職と被る部分、私が西国の事情に疎いこと、それらは察していただきたく思います。
ともあれ、朝敵の汚名をそそぎ、江戸回復を伊達との和睦の条件として勅命を出し、家康公に復権していただくのが肝要かと。
勿論、朝廷としては関東を混乱させた源徳連合と奥州連合は両成敗なのでしょうが、責は西国平定の後に問うてはいかがかと」
「宗高殿、そなたにも責任を問うぞ?」
好き勝手言い放つ与一に、公家も恨み節を投げかかける。
「無論です。それらを鑑みる前提で、今は有能の士を積極的に登用すべきと考えます。
伊達政宗公、源義経殿、源徳義仲殿、北条早雲公、徳側信康殿、新田義貞殿、真田昌幸殿‥‥
まだまだ有能の士はおりましょうし、野にある有志を募ることも必要でありましょう。
陛下が天下に号令をかけるにあたり、今は清濁合わせて飲み込むべきか、一気に清算して事に当たるのか‥‥
いずれにせよ、覚悟が必要であると愚考します」
重要なのは、例え敵味方であっても手を携えて神皇の威光の元に国難に当ること。
与一が語っているのは、アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)の「神権集約論」の論旨を一部代弁するものである。
「宗高の考えは、よくわかりました。これからも忠節に期待します」
神皇が座を外し、不満そうな公家たちが退席するのを見送って、那須与一は思わず溜息をついた‥‥
●与一公の江戸陣中見舞い
「よく来られた。那須公、久しいな」
「本当にご無沙汰していました」
江戸攻略を進める源徳軍の陣中に姿を現した那須与一の手を取って、源徳家康は満面の笑みを浮かべている。
「御身が難儀な仕儀にありながら、鬼軍討伐の軍資を長々と用立てていただき、領民共々感謝しております」
「いやいや、下野が保たればこそ、我々も捲土重来の機会を得られたと思うておる。今後も力を貸してもらえると有り難い」
「失礼ながら、家康公への恩義は海よりも深いですが、私は国守として下野の保全に当たったまで。
新田義貞には、憂国よりも野心を感じましたゆえ、信義を重んじればこそ、家康公に加勢したまでのことです。
裏切り者の伊達政宗公の肩を持つ気はありませんが、朝廷工作を怠ったのは家康公らしくありませんでしたな」
「ふっ、与一公らしいわ。耳が痛いが、肝に銘じておこう。それよりも、安祥神皇に拝謁したと聞いたが?」
「それについては、家康公の復権を願い出ておきました。
実現すれば、西国平定の後には、我らも奥州も関東混乱の責を問われましょうが」
「それまでに、わしにも功を成せと言われるか。全く馬鹿正直な律義者よ。
それでいて民の声に耳を傾けすぎるのが、お主の長所であり、欠点であるな」
「褒め言葉として聞いておきましょう」
苦々しく笑う家康に、与一は軽やかな笑顔で返す。
「秀衡や伊達や新田までも推挙したそうだな」
まるで殺すような家康公の視線‥‥
「えぇ。家康公が政治の駆け引きを御望みならば、駆け引きなされば宜しいでしょう。
重々重ねますが、私は伊達や新田の裏切りや謀反を許す気にはなれません。関東を乱した責任は必ず追及します。
とはいえ、そこにある危難に際して、有能の士を推挙せよと所望され、彼らの名を挙げないの国の損失と考えます」
「それは、わしへの裏切りと思われるとは考えなかったのか?」
「私は神皇陛下へと忠節を捧げ、下野の民の安寧を守るべき身。家康公とは信義で繋がる間柄でありましょう?」
「よかろう。お主への信義を失わない限り、我らの盟約は永代変わらぬということだな?」
「いかにも。家康公が人心の道を外れぬ限りは、御味方いたしましょう。それが烏帽子親への義理でもあります」
暫く無言で、家康公と与一公の視線が交わる。
「与一公、お久しゅうございます」
挨拶が済んだと見て、鎌倉藩主・ジークリンデ・ケリン(eb3225)が話しかけた。
「おぉ、ジークリンデ殿。宇都宮藩には格別の助力をしてくれているようですね。ありがたいことです」
朝廷の許しもなく家康公が勝手に藩主に据えたして、彼女は、いつ藩主の地位を剥奪されるかわからない立場である。
鎌倉藩主の地位を本物にするには、彼女自身で朝廷に認められる功績を残すか、家康が朝廷に復権して認めさせるか‥‥
「家康公や与一公に、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
ともあれ、彼女は鎌倉藩主の立場で、与一の礼に謙遜し、尋ねた。
「この国は、こんなにも疲弊し、苦しみが満ちてしまっています。
その責を為政者は如何にとり、如何に国を再建し、民に平和と豊かさを与えられるようにするべきでしょうか?」
「信義を以て、民と向き合って政を行うことだと思います。
ただ、民に平和と豊かさをもたらす政治的手段が、往々に民に塗炭の苦しみを与えることもあります。
それをも乗り切るには、身命を賭して、信義を貫いて、民の信頼を得るしかありません」
「民の平和と豊かさは、国に集まる利益の再配分を行う為政者の力で決まるもの。
他の権力者に淘汰されるにせよ、民に滅ぼされるにせよ、責任の取り方は、人それぞれであろう」
「人それぞれですか‥‥」
ジークリンデは難しい顔で思案した。
「藩という枠組みを取り払って、人と人を結べるシステムが作れないものでしょうか?
経済を統合する大きな枠組みが作れれば、貧困に苦しむ末端の民にまで血を通わすことも可能なのではないかと思うのです」
学者としての意見に過ぎませんが‥‥と付け加えるジークリンデに、与一が答える。
「私は、地域に合った枠組みが藩、地方の政治が行き届く範囲が国なのだと思っています。
人や物の交流が盛んになれば、枠組みが小さく感じられるのは当然のことかもしれません。
それを束ねる者の権力が不釣合いな場合、上州のように国が乱れる。そう思います。
秀吉公にしても、政治形態を変えずに、経済の括りを大きくできたことが、勢力拡大の秘訣なのかもしれませんね」
「うむ。形式になってしまえば、それを枠組みにすることは難しくない」
「それは東国武士の西国派兵にも言えるかもしれませんね」
「そのときに江戸の月道を仕切っているのが関白や政宗などということは、看過できんぞ」
エル・カルデア(eb8542)らの危惧するように、長崎の月道が魔物の手に落ちるなどということはあってはならない。
それこそ、世界各地からの内政干渉の呼び水となってしまうからだ。
だが、家康の考えも間違っていようか?
権力の大きさは、自国民の繁栄に繋がる。
それは伊達にとっても、奥州にとっても同じだから困るのだ。
どこが落とし所なのか‥‥ 今少し迷走するのか‥‥ それは後の時代のみが知る‥‥
藩主クラスの難しい話を終え、宴席が設けられた。
蒼天十矢隊のカイ・ローン(ea3054)、那須藩医局課長・七神斗織(ea3225)らが従者の席で控えている。
「そういえば、長千代の元服の烏帽子親となってくれたそうだな。礼を言う。
大久保長安の手筈で烏帽子親が選ばれなかったのは、良かったのかもしれん。
何より本人が源徳の後継者を望んでおらんし、政治や権力に煩わされるのを嫌っとる‥‥」
酒を煽る家康の姿は、少し寂しそうだ。
転生した軍神が源徳の跡目を継ぐ。神皇の下で政治勢力を維持するのに、これほどの宣伝効果はないだろうから‥‥
「最前線で戦う冒険者として申し上げる。決戦の地は、江戸にあらず。武士の本分を果たすは、西方にござる。
烏帽子親の礼に来た冒険者が、そう申しておりました。
高尾山にあった大山津神は、西方よりの呼び声を感じたと言い残し、江戸城に眠りしスサノオは復活して京へと上ったとも」
「であればこそ、一刻も早く江戸城を取り戻さねばな。伊達が江戸城を失したとあれば、朝廷も和睦させやすかろう」
「戦わずに和睦で済めば、それが一番なのですが‥‥ ところで、家康公‥‥」
こういう機微には長けている家康である。素知らぬ顔で「何か?」と惚ける。
「源義経公と会談しませんか?」
「言っておくが、関白に対抗するためにも、源氏を纏めるためにも源氏の棟梁の座は譲れん。
まぁ、源氏直系を名乗るのは構わないが、それも証がなければ誰も信じぬぞ?」
確かに、義経は身の証を何も示してはいない。
「義経公は国家安寧のために武士として退魔の剣たらんと憚らない人物です。
政治権力には無頓着と言って良いでしょう。名を棄てて実を取るとはいきませんか?」
「義経と会ったことで、わしが源氏の棟梁として義経を認めたなどと吹聴されては叶わん。
江戸城奪還の後であれば、わしが源氏の直系だと後見しよう。源氏の証を手にすることは、損ではないだろうからな。
それに、政治権力に関心がないなら源氏の棟梁の立場は必要あるまい?」
「懸念はわからないではないですが、義経公を源氏の棟梁と信じて従ってきた者には受け入れられないでしょうね‥‥」
「最も権力を持つ源氏が、源氏の棟梁を名乗るというのは、単純な理だと思うがな。
それを覆すのだから、それに値する利をもたらすのでなければ、実を取るとはいくまい?」
状況さえ揃えば、認める認めないの時系列は千変万化。だが、その状況を揃えるのが難しい。
誰かがタイミングと切っ掛けを切り出さなければ‥‥ということなのか‥‥