【毛州三国志・那須・義経】馬頭に眠るもの
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月10日
リプレイ公開日:2009年11月14日
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●オープニング
阿修羅と見紛う馬頭寺の馬頭観音像。
阿修羅の剣と思しき、八溝霽月城で発見された一振りの紅蓮剣。
那須の天狗が守る封印の要石の下にあると言われる地下空間。
渦巻いていた謎が、一気に形を見せ始めたかのように思われる。
だが、赤頭一党は行方不明、金売吉次の黒脛巾組が動きを見せたという話も聞かない‥‥
さても、これまでの調査では目ぼしい情報が得られなかったのも気になるところ。
踊らされると分かっていても、数少ない鬼軍に関わりある馬頭の迷宮はやらなければなるまい。
ここで得たものを横取りするため、黒幕や、それに類する相手が姿を現すことがあるやもしれぬ‥‥
もとより、要石の地下空間は那須藩の機密なればこそ、勝手都合を知る冒険者による調査が好ましい。
要石警備に全権委任にある小山朝政は、蒼天十矢隊の一矢であったカイ・ローンの願いを受け入れ、調査の許可を出した。
「霽月城で体験した、あの不思議な感覚は一体なんだったんだろう?」
カイが発見した阿修羅の剣は、今、お忍びで探索に同行する予定の源義経の手にある。
本来、この剣は、発見者であるカイが手にするのも順当といえた。
ただ、那須領内で発見されたものだから、那須与一公に渡すべきなのかもしれないし‥‥
八溝霽月城で発見されたものであるし、城主・陸堂明士郎が所有権を主張すれば通る‥‥
俺? 自分が? みたいな感じで収まりが悪いため、それじゃ僕が持っておくよ‥‥と、そんな経緯で。
ともあれ、不安は増すばかり。
どうも歯車が合い始めいている気がするのだ。
「これが阿修羅の剣で、馬頭の下に眠っているのが阿修羅だとしたら、剣を携えて探索にゆくべきなのか‥‥」
「置いてゆくにしても不安があるし、確かに問題ね」
同行する陸堂や九紋竜も、どうすればいいのか判断に迷っているようだ。
いざとなれば、剣を置いてゆくこともできるが‥‥
さて‥‥
馬頭寺住職が古文書の断片を発見していた。
『那須岳の竜脈、日光の霊脈、八溝の鬼脈を用いて、奈落の底に封ぜしは‥‥修羅の剣‥‥』
『人の軍勢により、岩嶽丸の鬼脈失わるる。殺生石に封じた九尾の妖力を用いて、代わりとす』
恐らく、肝心要の馬頭遺跡にも関係あるものと思われる。
危険な探索になることは想像に難くない‥‥
※ 関連情報 ※
■義経■
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
八溝山の鬼軍退治に一区切りついたことで、次の活躍の場を求められることに。果たして‥‥
【佐藤兄弟】
継信・忠信の兄弟。
奥州藤原氏の武士から、源義経の家臣となる。
能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。
【重蔵】
義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
【義経四天王】
佐藤兄弟、陸堂明士郎、来迎寺咲耶の4名。
いずれも義経軍の侍大将以上の地位にあり、義経の信頼に篤い。
■那須■
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
八溝山の赤頭鬼軍を討伐し、八溝地方を回復。
【馬頭】
馬頭観音を祀った馬頭寺を中心に発展した下野国東部(那須藩南東部)の都市で温泉郷として有名。
八溝山の麓にあり、馬頭観音を祀った馬頭寺あります。
【馬頭温泉】
身も心も滑らかになる『美人の湯』と人気を博していた温泉郷。大小の温泉宿が点在。
那珂川の清流を眼下に、白煙なびく那須岳を始め、高原山や日光連山などを一望できる景勝地に位置する。
近年の戦乱で客足が遠のいていたが、馬頭寺参りの領民が多数押しかけている。
【福原神田城】
那須藩の政治・軍事・信仰を束ねる中枢。
【白河小峰城】
奥州へ向かう兵の集結地点として知られる軍事と交通の要衝。
城主は那須藩宿老・小山朝政。
【矢板川崎城】
天然の川を幾重もの堀とする要害。那須藩の西の玄関口として要衝を固めている。
城主は那須藩家老・結城秀康、城代は那須藩軍師・杉田玄白。
【八溝霽月城】
那須藩東部の山岳地帯にある山城。
峻険な地形が攻め手を阻む天然の要害。防護施設が整備されており、堅城と評価が高い。
城主は源義経家臣・陸堂明士郎。
【蒼天十矢隊】
冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散したが、後に汚名返上。
那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。
【小山朝政】
那須藩の宿老。白河小峰城城主。結城秀康の兄。
与一公の右腕として活躍する勇将。下野の南部を地盤とする豪族。源氏との繋がりが深い。
矢板川崎城に入って宇都宮に睨みを利かせる。
【杉田玄白】
欧州遊学の経験もあり、広い知識で活躍する那須軍師。那須医局長、矢板川崎城代。
白河小峰城にあって八溝地方復興に着手。
【福原資広】
志士。与一公の甥。与一公の兄である父・福原久隆の命により京より帰国した。
那須藩の客将扱いで、私兵の赤士虎隊50を率いる。
■赤頭■
【赤頭(せきとう)】
奥州で名の売れた、赤毛の子供の姿をした鬼。
空を飛んだり、水晶剣を使ったり、地震を起こしたのが確認されている。
【狼神(おおかみ)】
山伏風の赤黒い僧衣と鴉羽根の陣羽織を着けた、狼顔の剣士。
背負った九枚の黒羽の太刀は天狗級の霊力の証であり、瘴気渦巻く黒旋風を起こしたのが確認されている。
白狼神君と鞍馬山で修行していたが、冥府魔道に落ちて修羅道を突き進んでいる。
【異痕(いこん)】
正体不明の悪鬼。
部下も含め、美しい女性の姿をしていると噂されるが、何にしろ情報は少ない。
牛頭鬼・迅雷や宇都宮朝綱公など、死者を再生しているようだが、こちらも情報に乏しい。
■金売吉次■
【金売吉次】
那須藩転覆を画策したり、江戸で破壊活動を繰り返してきた奥州忍者・黒脛巾組の頭領。
褐色の肌のジャイアントであると言われている。
【金売吉次】
奥州藤原公が金売吉次を名乗ることを特別に認可した商人たちの総称。
冒険者の流言で商売がしにくいと苦笑いしきり。
●リプレイ本文
●産道巡り
八溝決戦での鎮魂を願うため、佐藤継信の率いる義経軍は馬頭寺を訪れ、要石の近くに屯所が置いた。
白狼神君が呪文を唱え、十拳剣を突き立てると、要石は重々しく奈落の穴を現す。
「どこまで続くのかしら‥‥」
九紋竜桃化(ea8553)らが進む穴は長い長い坂で、暗黒は地の底まで続いているのではないかと思わずにはいられない。
「不動が怯えるくらいだからな。何が出てきてもおかしくない‥‥」
忍犬らが感じる何か微妙な変化を陸堂明士郎(eb0712)たちも漠然と感じるが、わからないのが不安を助長させる。
松明の、レミエラの照らし出す灯りは、血に濡れたような赤土‥‥
「まさか、このまま地獄へ繋がっているのでしょうか?」
触るとヌルジトッとする感触は、クーリア・デルファ(eb2244)たちに黙示録の戦いで経験のあるものだった。
古文書の断片が地脈との関係を示しているとすれば‥‥
流石に想像力で埋めてよいとは思わないが、悪い予感だけは、ひしひしと増す。
「陰気なところだ」
九竜鋼斗(ea2127)が輝きの石で照らすと、焼け爛れたような壁面は肉の焦げたような臭いがして蛆が這っている。
何とかテントを張れそうな場所を見つけると、交代で休息を取ることにした。
「ん〜、面白そうだと思ったのにぃ。だんじょん突撃りぽ〜た〜、少し退屈っ‥‥」
変化のない不気味な坂を延々降りるだけの探索に、ヴェニー・ブリッド(eb5868)は、ふて寝。
魔法探知に引っかかるような呼吸も隙間もなく、忍耐力がなかったら、とうにマッピングなんか止めている。
「失われた鬼脈の代わりに殺生石に封じた九尾の妖力で封印とすると文献にあったです。
ということは、地脈や霊脈を使った大規模な封印自体は、さらに古代からあったってことですよ。
九尾の封印で、その封印を強化できたということは、少なくとも、そのころ封印の情報はあったってことです。
もしかして、那須では過去に危険な情報を秘匿するため、意図的に文献の破棄や捏造が行われたですか?
そのせいで、今の那須藩には必要な情報までも伝わっていないですか?」
封印を守る白狼神君が襲われたのも、生き証人かもしれないエルフの長老が行方不明なのも、口封じなのか?
ここ最近の出来事を見るに、地脈による馬頭の封印はかなり綻んでる可能性が高いのかもしれない‥‥
七瀬水穂(ea3744)は、封印強化の手がかりに、遺跡内で碑文でも見つかればいいのにと溜息をついた。
炎をあしらった紅蓮の十握剣。阿修羅の剣かもしれないが、いまだ鑑定による特定には及んでいない。
本物なら伝説級の神器だけに、剣に意志や使命が持ち主を選ぶとすれば、今は源義経ほどの英雄が帯剣しているのがいい。
「拝見してもいいですか?」
「持っていても、抜いても、特段の変化はないみたいだけど‥‥」
欧州では儀礼剣の名品には、云われや意図が意匠に施されていることがある。
そういったものがないかクーリアは鍛冶師の経験から注意深く調べてゆくが、剣としての実用性は決して高くない。
意味があるとすれば、やはり紅蓮の炎か‥‥
「馬頭に阿修羅の剣があるかも‥‥と思っておりましたのに、暫定阿修羅の剣の出現で、何だかよく判らなくなりましたわねぇ」
「そうだね。この剣は、そもそも何を意味するんだろう‥‥」
近っ‥‥ 声の方へ向こうとして、覗きこむカイ・ローン(ea3054)の頬に鼻の頭が触れそうになる‥‥
周囲の赤い壁。ありがとう‥‥
「まぁ、とにかく、那須の為に自身たちにできることを精一杯やりましょう」
「うん。赤頭とか吉次を倒せるような方法が見つかればいいんだけど」
七神斗織(ea3225)は、カイの横顔を視界の端に入れながら、ぎこちなく間を取る。
●奈落の荒野
どれほど歩いただろうか‥‥
行き止まりには、まるで貝のような形の扉。観音開きらしき扉は、ぴったりと合わさって開きそうにない‥‥
「ぶち壊すか?」
結城友矩(ea2046)は得物を構えてみせる。
「待って。調べてみるわ」
ヴェニーがクレバスセンサーを使うと、扉の隙間の向こう側には空間があるのは確からしい。
だが、ウォールホールは精霊力が正常に働かないのか、魔法で穴を開けて壁を抜けるのは無理そうだ。
この向こうを調べるには、扉を何とかするしかない‥‥
「悪魔の気配はありませんわ」
七神のディテクトアンデットには反応なし。
『殺さないで‥‥ 父さま‥‥』
子供の声だ‥‥
「何かある‥‥」
義経が扉に触れると、漏れ出す光の向こうにある紅蓮の輝きに呼応するように阿修羅の剣が炎に包まれる。
「義経公! ちょ‥‥ 待っててば!」
来迎寺咲耶(ec4808)が咄嗟に手を伸ばすが、義経の体ごと炎に包まれてしまった!
焼けども厭わず、その手から剣を離そうとするが、何者かに奪われるのを防ぐために、しっかと結び付けてしまっている。
「何でこんなことに‥‥」
焦れば焦るほど、解くに解けない。小柄で切ろうにも、義経が暴れて手元が定まらない‥‥
「カイさま、不動縛りを!」
「そうだね!」
七神が叫ぶと、カイのコアギュレイトで義経の身動きが封じられた。
バランスを崩して倒れこむ義経。
「駄目ぇ‥‥」
来迎寺ごと、扉を焼きながら突き破り、光の中へ倒れこんだ。
『お戻りなさい‥‥ そして決して振り向いてはなりませぬ‥‥』
光が漆黒の瘴気に染められてゆく中、優しかった女性の声に恨みが乗ってゆく‥‥
『みんな死んでしまえばいいのよ‥‥』
『それならば、お前が殺す以上に、産屋を増やそう』
女性の恨み言を、男性が拒絶する声が響く‥‥
「カイ、この声‥‥ あのときの女の声‥‥」
「そうだよな‥‥ やっぱり関係あるんだ。馬頭と八溝山は」
九竜とカイは顔を見合わせる。
「この感覚は、悪魔の反応? うっ‥‥」
「あのの邪印なのですか? ひ、開くですぅ。いやぁああん」
七神と七瀬が、ぐるんぐるん回る‥‥
開いた宙の邪印の中にヴェニーが見たのは、古代魔法文字のような印形‥‥
「勲? あぶほぅす? 誘う?」
奇妙な肉片が飛び回り、生れ落ち、混ざり合い、そこら中に開いた口に飲み込まれる。
ヴェニーたちは飲み込まれ、やがて荒野に放り出された。
「体よく巻き込まれてしまったな‥‥」
明確な敵が何かを奪いにでも来てくれれば、腕っ節が活きてこように‥‥
義経の無事な姿にホッとしながら、陸堂は片方で思わず恨み言を飲み込んだ。
「どうやら修羅の剣ではなかったみたいね」
九紋竜の手の平には、大きな灰色のデスハートンが‥‥
「も〜〜ぉお!!」
七瀬のファイヤーボムが、押し寄せる奇妙な生物を焼き尽くす。
『焼け死んでしまうとは‥‥ 愛しき妻よ』
「義経公、こちらです!」
男性の声を頭から振り払い、身を挺して義経を庇う来迎寺は一歩も怯まない。
『坂を登って逃げなさい‥‥ 決して振り返ってはいけません‥‥』
また、あの女性の声だ‥‥
「あそこです!」
九紋竜の手の平の珠から一筋の光が洞窟を示す。
「遅れないで!!」
「拙者に続け!」
九紋竜が押し通し、結城とクーリアが砕いて砕いて、道を切り開く!
『そうだ。登れ‥‥』
異形の生物を斬り伏せながら、九竜たちは坂を駆け上ってゆく‥‥
「道を作るわよ!」
ヴェニーのライトニングサンダーボルトが肉片や蛆を貫き‥‥
「休むな! 一気に走るんだ!!」
陸堂の剣が放つ衝撃波が道を開き、頭上の光へ駆け込んだ。
●四天王の死
地上に出ると、警備の義経軍20からの兵が全滅していた‥‥
「嫌な予感が当たったでござる‥‥」
高尾山の大天狗・大山伯耆坊殿と封印の組み合わせに続いて、ここでも似た状況で凶事に見舞われようとは思わぬ結城‥‥
「継信!」
義経の駆け寄る方には鎧武者が倒れていた。
「殿‥‥ 狼神と異痕は退けまし‥‥た‥‥ 御安‥‥心‥‥を‥‥」
息も絶え絶えの佐藤継信に、七神が癒しの法力や法具を向けるが、一向に好転しない‥‥
「そんな‥‥」
まるで魂の抜け殻とでもいおうか‥‥ 法力が生命力に反応しないのだ‥‥
「殿と過ごした日々‥‥ 思えば‥‥実に充実した日々だった‥‥」
「死ぬな、継信! これからじゃないか!!」
「そうです! 四天王が1人欠けて、どうするのです!!」
義経と来迎寺に手を握られ、継信が微笑む‥‥
「異痕は‥‥白子球を集めて何かする気です‥‥」
「わかったから喋るな、継信殿‥‥」
七神たちにどうにもならぬものは、陸堂でどうにもならない。
「狼神は‥‥ 鞍馬山の大天狗を呪い殺すために‥‥剣に血を吸わせるのだと‥‥申して‥‥」
言葉と共に、佐藤継信の息も消えてゆく‥‥
「狼神の奴めが‥‥ この体に自由が利けば‥‥」
封印解除の後、住職に匿われていた白狼神君が無事だっただけが幸い‥‥
「白狼神君さん、鬼神や大妖を封じて呪詛を為す場所って一体なんなんだろう?」
ヴェニーの問いに、白狼神君は首を振る。
「では、狼神が鞍馬山の大天狗を呪い殺すというのは?」
「そういうことか‥‥」
白狼神君は仮定を話し始めた。
「鞍馬山の大天狗、僧正坊様は年老いていながら転生を行う気配がないのだ‥‥
その魂の一部なりとも狼神が握っておって穢しているために転生できないのだとすれば‥‥」
「あ‥‥ それが、あの九葉の野太刀?」
「でも、そうなら神君と同じ白狼天狗が、ストームを封じた大天狗の羽団扇と同じ力を持つ太刀を使うのも道理‥‥ね」
思わず九紋竜とクーリアが頷く。
「白子珠を集め、魂を弄ぶ異痕なる鬼女も、狼神の所業に何か関係があるのかもしれぬな‥‥」
「隠れ里のエルフたちは長命な種族。魂を狙われたかもです‥‥」
「かもしれぬな。遺体がなかったは、魂だけ抜いたのではないということ‥‥」
「生かされているかもです」
白狼神君の言葉は、失意の底に突き落とされた心情の七瀬たちに、一筋残された蜘蛛の糸なのかもしれない‥‥