【ゴタ消し】あの金売吉次を討て

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2009年12月06日

●オープニング

 長期に渡って遠山金四郎と山内志賀之助が追い続けていた忍びの一団がある。
 奥州商人・金売吉次の肩書きで世間に身を隠し、奥州忍者・黒脛巾組として暗躍してきた者たちだ。
 那須の政府転覆を画策し、江戸の治安破壊を狙った者どもで、この災いの根を断ちたいと思う者は少なくない。
 江戸冒険者ギルドでは、彼らが阿紫による百鬼夜行の手引きもしたのではないかと推測している。
「金四郎、幹部会義の情報が得られるなどという千載一遇の機会は、またとあるまい」
「あぁ、一網打尽に殲滅しなきゃ意味がねぇや。かといって、今の俺たちが奉行所の力を借りるわけにもいかねぇしな」
 遠山金四郎は、伊達政宗が江戸城を占拠した折、民衆を煽って城門を攻めたとして、町奉行にあるまじきと断罪された。
 その際に切腹を申しつけられ、石川数正が取り仕切ったのだが‥‥
「ほんとなら、こちとら生きちゃいねぇし、こんな風に隠密してるってのもなぁ」
 このように生きているのは、冒険者でも数人が知る秘中の秘。
「俺も、だいぶ前に隠密からは引退して、悠々自適の冒険者家業だったのに。江戸城が落ちてから忙しくていけないぜ」
「そう言うねぇ。隠密してても、源徳にも伊達に不義理はしてないんだからよ」
「まぁ、江戸の町を守りたい。今のお前は、それだけだからな」
 遠山と山内は、手にした龍の描かれた割符を見つめ、黒脛巾や刀などの残された装備を見下ろす。
「それにしても、倒したら消えちまうってのは厄介だぜ。悪鬼や悪魔の類だったのか?」
「かもな。そういや、お前さんの体格。奴さんに似てたよなぁ」
「言っとくが、変装したって見破られるのが落ちだぞ。なんてったって、忍び相手だからな」
「言ってみただけじゃねぇか。そんなに睨むなってば」
 苦笑いというか、照れ笑いというか‥‥ 信頼しあった者どうしの微妙な間が流れる。

 江戸の、とある町道場‥‥
「再び江戸を大混乱させるぞ。家康が江戸城を攻めている今が好機」
「はっ」
 腕組みをして胡坐をかく褐色の肌の巨人が言い放つと、黒脛巾を着けた者たちは一斉に答える。
「百鬼夜行の手筈を確めるため、近々、他の頭がここに集結する。抜かるなよ」
「シズナの件はどうしましょう?」
「手筈が出来次第、配下となる者を送れ。鬼、悪鬼、化生の者、悪人、何でも良い。
 阿紫しかり。妖狐は人に恨まれてなんぼだ。あれには百鬼夜行の張本人になってもらわねばならん」
「我らの計画も最終段階。仕上げを確実にするには、まだまだ人間たちには死んでもらわねばなりませんからな」
「悩まされ続けてきた風水都市の機能を、今は我らが活用させてもらう」
「重石の殺生石から九尾が解放され、邪魔なスサノオも今はなく‥‥ 思えば永き仕儀であった」
 忍び姿の褐色の巨人は不敵に口を歪めた。

 江戸の冒険者ギルドに秘密依頼がもたらされ、数名の冒険者に声がかけられた。

『世を乱す金売吉次が幹部会義を開くという情報が、山内志賀之助よりもたらされた。
 君たちは山内志賀之助と行動を共にし、吉次一味を殲滅してほしい。
 なお、別班の冒険者たちが連携して君たちの行動を支援してくれるが、一筋縄ではいかない相手だ。
 失敗のないよう、気を引き締めて依頼を遂行してほしい』


※ 関連情報 ※

【遠山金四郎】
 「ゴタ消しの」「桜の」と呼ばれる正体不明の町人として、江戸に暮らしている。
 田舎へ町人を逃がしたり、町で暴れる不埒な狼藉者をぶっ飛ばしたりと頼りにされているらしい。
 顔も広いようだし、腕も立つようで、町民からは陰で頼りにされているようである。
 謎の町人の正体は、切腹したはずの遠山金四郎であるのだが、そのことを知る者は少ない。

【山内志賀之助】
 冒険者長屋のヌシともいえる浪人。
 江戸のギルドマスターとは顔見知りらしく、冒険者の兄貴的存在。
 ジャイアントの巨体に似合わず身が軽く、ギャップの大きさで相手を翻弄することを得意とする。

【金売吉次】
 財力を傘に那須藩転覆を画策したり、江戸で破壊活動を繰り返してきた奥州忍者・黒脛巾組の頭領。
 褐色の肌のジャイアントであるのが確認されている。
 江戸に大火をもたらしたとも、九尾の狐を何体も従えているとも言われている。

【金売吉次】
 奥州藤原公が金売吉次を名乗ることを特別に認可した商人たちの総称。
 冒険者の流言で商売がしにくいと苦笑いしきり。

【黒脛巾組】
 伊達政宗なども手駒に使う奥州忍者を代表する一派。
 那須や江戸を混乱に陥れた金売吉次の黒脛巾組は、黒脛巾をトレードマークとしているという。

【シズナ】
 赤面黒毛五尾の妖狐。
 老婆の姿で現れ、様々な呪いを現し、妖狐や化狐や霊狐を配下に源徳家の凋落を狙った。
 遠山金四郎が江戸奉行にあったころ、一党の討伐が行われたが、全滅には到らなかった経緯がある。
 直近では、金売吉次の探索で遠山金四郎と遭遇戦になって逃亡している。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3556 レジー・エスペランサ(31歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 神田 雄司(ea6476)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ ミハエル・アーカム(eb3585)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●突入準備
 銭投げの平治親分の協力で、雨風を凌げる見張り場所を四方に確保できたとはいえ、最近とみに冷え込む。
「あったまりますぜ」
 携帯火鉢、徳利酒、懐炉に乗せられた弁当‥‥ 隠密の探索では、こういう差し入れは本気でありがたかった。
「ありがたゃいな‥‥」
「ずっ‥‥ これで終わりにしたいで」
 毛布に包まる群雲龍之介(ea0988)とアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)は、火鉢に手を当てて、ほっと一息‥‥
 最適の見張り場を占めていようほどに、見張りの規模が判明すれば、金売吉次の規模も自ずと見えてくる。
 道場の四方に見張りが2人ずつ8名。交代いれて2倍や3倍はいるということ‥‥
 当初に2ヶ所の見張りが4ヶ所に増えたということは、総勢で4隊16名か5隊20名という線が濃いのか?
 ともあれ、これ以外に実行部隊がいるであろうことを考えると、想像するだに恐ろしい‥‥
「有志の協力があると言っても、大仕事ね。久しぶりに腕が鳴るわ」
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、弓矢の手入れを念入りにするのだった。

 戦続きの江戸を飛ぶなど、いつ撃ち落されても文句は言えないが、それでも飛ぶのが冒険者。
 飛行禁止空域に近寄ったりしなければ、どの陣営も、好んで冒険者を敵に回す愚は冒さないといったところか‥‥
「きゃ‥‥ 」
 手綱を握る神聖騎士のカイ・ローン(ea3054)の腰に、ドキドキしながら、ぎゅっとしがみつくのは七神斗織(ea3225)。
 天馬も、風に煽られたふりで、わざとグラついてみせたり?
 裏地図を片手の食べ歩きデートに、町人たちはアツいアツいと冷やかすが‥‥
「今日は小春日和ありませんでしたわよね?」
「うん。それよりも、吉次を討って、那須での鬼軍の残党探索に人手を増やせるといいんだけどね」
 はい‥‥と、七神は頷いた。
 らしい2人である‥‥

 さて‥‥
 ここで敵の集結が収まった。
 相手の正確な規模がわからないだけに、これ以上、待つべきか判断が難しいと、九竜鋼斗(ea2127)は思う。
 遅れいている幹部がいるのなら、もっと構成員が多いはずで、敵を取り逃すことになる。
 だが、集結する幹部が、これで全部であった場合、幹部の1人が集まらないのだから、時間を置けば警戒感を抱かせる。
「ここが攻め時なのかな?」
「幹部会義の時間も敵の数もわからないですからね‥‥ 幹部全員が集まっていたのか、捕えて調べれば良いでしょう」
 敵の規模が推測できる手がかりでもあれば良かったのだが‥‥
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)のテレスコープとエックスレイビジョンの合わせ技によると、敵数は15〜20。
 これだけ大所帯となると、エックスレイビジョンで透視しても像が重なったりして正確な数まではわからない‥‥
 だが、他の班の報告や推測などとも一致する。おそらく、数に間違いはない。加えて、敵の配置は丸見え。
 それに、これ以上、敵が増えると、こちらの手が足りなくなる。攻め時と言って良かった。
「それじゃ、踏み込む配置に着くね。手筈の合図で飛び込んで、キツイのかましてくるから後ヨロシクねっ♪」
 神田明神のきゅうちゃんをもふもふしてきて元気補充完了の御陰桜(eb4757)。
 吉次一味の討伐には、正直あんまり興味ないが、きゅうちゃんを狙ってるシズナが現れれば、これを倒す好機!
 そんなこんなでフレイムエリベイションなど支援魔法を掛けてもらうと、勇んで配置に向かうのだった。


●襲撃
「お頭、雲が出てきました‥‥」
「雨は遠慮願いたいな。火の回りが緩む」
 道場の稽古場の真ん中に車座に座る巨漢たち。
 ばんっとの物音に、吉次たちは武器に手を掛け、防御陣を敷くと、がたっと戸板を開けて小町娘がニッコリ笑う。
「ね? ね? あんたたち、悪巧みシてたでしょ♪」
 なぜ、こんな所に町娘が? 人遁で御陰に欺かれ、思考が固まる吉次たちに微塵隠れ!!
 ずがぁああん!
 超越微塵隠れの爆発が黒脛巾の者らを吹き飛ばし、あまりの威力に下忍と思しき一部は、膝をつく‥‥

 西班‥‥
「平治の親分さんたちの野次馬整理が始まったみたいだ」
 奉行所与力・只野たちが『たまたま』見回りに出ていて、騒動に出くわしたようだ。
 人数など普通の見回りにしては多いし、装備も物々しいが、『たまたま』である。
 包囲の内と外の人の動きを遮断することで、殲滅戦を円滑にし、援軍を阻止し、逃亡者を囲い込むつもりなのだ。
 野次馬の冒険者が、いつの間にか交通整理を手伝ってたりするが、『たまたま』ってこと‥‥
「御用でえ!!」
「さすが本職! 堂に入ってるな!!」
 遊び人の金さん、瀬崎鐶(ec0097)、山内志賀之助は、飯屋の2階の窓から軒を飛び越え、通り向かいの2階を押し破る。
「刃向かえば斬り捨てる!」
 言う傍から、男たちは抜刀しながら、1人が畳返しから、もう1人が春花の術を仕掛け、戸を閉めて階下へ。
「逃がしゃしねぇ!」
 山内は、畳返しで露な床板を引っぺがすと、身を躍らせた。
「荒っぽいなぁ」
 瀬崎らも、それに続く。

 東班‥‥
 カイと七神を乗せた天馬が、東方の見張り台へ蹴り込むと、道場の騒ぎに見張りは背を向けていた。
「聖母セーラの愛に誓う。七神斗織を護らんことを」
 七なる誓いの短剣に念を込めると、天馬を彼女の護衛に残して海王の槍を構える。
「なに言っちゃってるん‥‥だ?」
「言いたいことはわかるけど、油断しすぎだ」
 おぶっ‥‥
 レジー・エスペランサ(eb3556)のダガーofリターンが、見張りの1人を斬り裂いて、その手に戻った。
 そのまま、カイの振るう穂先が斬り払い、レジーのダガーが喉元の急所に違わず突き立つ。
「くそっ、手練だ」
「に、逃がしませんわ。オンキリキリ‥‥」
 ホーリーフィールドに遮られ、もんどりうつ忍びに、七神は頬染めながらコアギュレイトで不動縛り。
 身動き取れなくなった見張りに止めを刺すと、カイと七神は天馬に跨り、道場を目指す。
「抜け道を押さえる。頼んだぞ!」
 レジーは、屋根から屋根へ飛び移りながら、敵の撤退路を潰すべく配置についた。

 南班‥‥
「見張り台は任せてください」
「じゃ、遠慮なく行かせてもらう」
 迎撃を試みようとする忍びたちだが、体が石化してゆくのに気がつくと慌てふためくのみ。
「い、嫌だぁあ!!」
 逃げようとする忍たちの目の前を一陣の煙が舞う。
 ぱぱらぱ〜♪
 腕を広げて微笑む巨人の風女神に、身動きとれず‥‥
 そのまま、石像のように、いや、石像になって動かなくなった。

 北班‥‥
 忍犬らが吼え、動きに躊躇した一瞬に、アルスダルトのローリンググラビティーが忍びたちを捕える。
「飛ばさないわ!」
 アイーダの矢が、空中に落とされた忍びを撃つ。
「こなくそっ!!」
 櫓に足を掛けて逆さに飛び上がり、忍者刀を突き出して自重を威力に乗せてアルスダルトめがけ飛び降りる!
 仲間を狙う凶刃を十手で払い、群雲は短刀・包丁正宗を突き立てる。
 落下ダメージの加わった、クリティカルのカウンター!!
 短刀が折れぬよう柄を離すと、もう1人の忍びの刃を十手で受け止め、襟を掴んで投げっ放しスープレックス!
 苦悶の表情で立ち上がろうとしたところを、アルスダルトがグラビティーキャノンで転がす。
「ここは頼むわ。御陰さんを助けないと」
「行け!」
「すぐにの」
 アイーダが道場へ向けて連続射撃する間にも、群雲の空手が忍びの鳩尾へめり込み、意識を飛ばして地に崩れさせた。

●殲滅
「構わない! やれ!!」
「は〜い♪」
 微塵隠れの爆風を祈りの結界で防いだ瀬崎は、祈りの聖矢に調伏を願う。
「くっ、分が悪い!」
 空を蹴る吉次に、アイーダの矢が次々刺さり、ジークリンデのマグナブローが焦がす。
 態勢を崩した吉次へ、漆黒の装備で暗闇に身を潜めたレジーの弓矢が、不意打ちに近い追い討ちをかける。
「江戸を混乱に陥れた報いだよ。お前らの理屈で語る正義なんか聞きたくもないね」
 レジーは容赦なく矢を撃ち込む。
「各個に退路を切り拓け!!」
「ははっ」
 甘ぁ〜〜い。
 印を組んでウインクすると、手の平に息を吹きかけ春花の術の香りを流し、下忍たちを眠りに落としてゆく。
「敵味方関係なしか! ん? 人間どもめ、なぜ寝ない? くそっ、術法かっ‥‥」
 冒険者たちが、春花の術をフレイムエリベイションか何かで無効化していると知るや壁を押す‥‥
「ん? 仕掛けが‥‥」
 制圧した見張り台から魔法を飛ばすジークリンデの布石が、じわり吉次たちを追い詰めてゆく。
「残念だったな。道場は石化した。逃げ道はない」
「是非もない」
 結局、九竜たちが全滅させるまで、5人の吉次たちと配下の抵抗は終わらなかった‥‥

 激戦の跡‥‥
「これは‥‥ 他の幹部の割符だね」
 虎、鼠、兎、牛、蛇? そして、先に倒した幹部が持っていたのが龍の割符‥‥
「これが十二支なら、叩いたのは半分だけってことらしいね」
「四神で終わりだったら気が楽だったのによ‥‥」
 表情を曇らせる瀬崎に、山内が苦笑いで返す。
 今回の討伐で捕えた下忍を吟味して判明したことがある。
 金売吉次こと黒脛巾組の幹部『たち』は、全て筋骨隆々で褐色の肌の巨漢の悪鬼で、羅刹のような存在と思われる。
 体型や様相に微妙な差異はあるものの、双子のように姿が似ていた。
 倒せば現世の仮初の肉体は霧と消え、地獄で復活する悪鬼とあれば、彼らからの情報収集は難しい‥‥
 それはそうと、雇われ忍者としてクリーチャーの変魔や妖狐なども加わっており、純正の悪鬼忍軍ではないようだ。
 江戸で決起する部隊の連絡に齟齬が出て、実行前夜らしき百鬼夜行を諦めてくれればいいのだが‥‥
「少なくとも、シズナだけは諦めなねぇだろうな‥‥」
 金さんは腕組みして首を振った‥‥