【ゴタ消し・赤恨】きゅうちゃんは貰ったよ

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月01日

リプレイ公開日:2010年01月07日

●オープニング

 長期に渡って遠山金四郎と山内志賀之助が追い続けていた忍びの一団がある。
 奥州商人・金売吉次の肩書きで世間に身を隠し、奥州忍者・黒脛巾組として暗躍してきた者たちだ。
 那須の政府転覆を画策し、江戸の治安破壊を狙った者どもで、この災いの根を断ちたいと思う者は少なくない。
 江戸冒険者ギルドでは、彼らが阿紫による百鬼夜行の手引きもしたのではないかと推測していた。

 そして、様々な破壊活動を繰り広げていた金売吉次の黒脛巾組が、壊滅的な打撃を受けてから数日‥‥
 志士、陰陽師、僧侶などの協力を得て行われた町奉行の吟味により、吉次下忍から様々な情報が得られている。
 そのうち、重要視されたのが、五尾の妖狐シズナによる百鬼夜行。
 イザナミに対する西国派兵で、兵力が減少した状態で、百鬼夜行を受ければ江戸の被害は計り知れない。
 折りしも、乾燥する冬なれば、火をかけられれば、大火で江戸が灰燼に帰す恐れもある。
 実際、吉次たちは放火を行う予定だったようで、源徳や伊達が和睦で兵を自由に動かせない時期を狙う悪辣さは周到‥‥
 ただし、今回は運よく、民間の通報者の働きで吉次一党の幹部を全滅させることができ、実行部隊の動きを捉えることができた。
 時を移さずに、伊達の支配域では伊達軍や奉行所が、源徳の支配域では源徳軍が、討伐に動いたからだ。
 このあたり、前線の実行部隊単位では、実利が噛み合えば、協力し合えるということだが、水面下の話‥‥
 そんな計画があったなどとは、施政者の立場では口が裂けても言えない‥‥
 勿論、自分たちの勢力争いの隙を突かれそうであったなどとは‥‥

 ただ‥‥
 この百鬼夜行が、全て御破算になったわけではない。
 頭目たる赤面黒毛五尾の妖狐シズナの部隊が、討伐されていないからである。
「ここに来て、まとまりを見せるか‥‥ 人間どもめ‥‥」
 老婆の周りには、黒脚絆の忍びたちや浪人や剣客らの姿がある。
「お前らが悪鬼修羅といえど、個々では大したことはできぬ。それは、わしとて同じこと。
 ここまで戦力を潰されてしもうては、江戸を転覆させるなど難しかろう‥‥」
 ならば、ひと暴れして江戸を離れようというのだ。
「九尾十尾を目指して復讐するも良かろう。一族の妖狐、化狐、狐霊‥‥ 全て失ってしもうたからな。
 恨みなら誰にも負けぬ。わしと共に戦う者があれば、来い。戦う気がない者は、ほとぼりが冷めるまで江戸を去れ」
 逃げるつもりなら、こんなところに集まったりはしない。
 残忍な笑みが彼らの顔に浮かぶ‥‥

 さて‥‥
「きゃ〜〜〜! きゅうちゃん、どうしたの? わたしたちがわからないの!?」
 親衛隊の女の子たちを追いまわす、きゅうちゃんが2頭‥‥ 3頭‥‥
「うむっ! そやつら、悪鬼じゃ!! きゅうちゃんの姿をしてはおるがな!」
「なんてこった! いくぞ志賀之助」
 神田明神の神主の声に、遠山金四郎や山内志賀之助が刀を抜く。
 だが、きゅうちゃんは金さんたちを嘲笑うかのように逃げてゆく。
「きゅうちゃんは預かった。遠山金四郎、子狐を助けたくば、吉次たちを討った町道場へ来るのだな。
 四半刻もあれば着けるだろう? 人の脚では、走らねば間に合わんだろうがな」
 親衛隊の子たちも慌てふためいて、きゅうちゃんを探すがいない‥‥
「わかったよ! 行ってやらぁ!!」
 傍らの志賀之助に目配せして、遠山金四郎は走り出す。
「嬢ちゃんたちは、ここにいるんだ。きゅうちゃんをどうにかさせたりしない。頼むぜ、愛ちゃん」
 金さんが走り去った後、山内志賀之助は、塀を乗り越え、堀を飛び越え、冒険者ギルドへ向かった。


※ 関連情報 ※

【きゅうちゃん】
 白面金毛九尾の子狐。
 デビルが魂を集めるために可愛い姿に化けていたらしいのだが、旅の僧に退治された。
 現在は、悲しむ少女たちのために狐が化けているらしいが、二代目きゅうちゃんは一尾の妖力しか持たない。
 事情を知っているのは、一部の冒険者と神田明神の神主など少数。
 冒険者ギルドの報告書だけでは、きゅうちゃんが二代目だとかいう真実を知ることはできない。
 武家の少女・愛ちゃんを筆頭に、数人のきゅうちゃん親衛隊がいる。

【遠山金四郎】
 「ゴタ消しの」「桜の」と呼ばれる正体不明の町人として、江戸に暮らしている。
 田舎へ町人を逃がしたり、町で暴れる不埒な狼藉者をぶっ飛ばしたりと頼りにされているらしい。
 顔も広いようだし、腕も立つようで、町民からは陰で頼りにされているようである。
 謎の町人の正体は、切腹したはずの遠山金四郎であるのだが、そのことを知る者は少ない。

【山内志賀之助】
 冒険者長屋のヌシともいえる浪人。
 江戸のギルドマスターとは顔見知りらしく、冒険者の兄貴的存在。
 ジャイアントの巨体に似合わず身が軽く、ギャップの大きさで相手を翻弄することを得意とする。

【シズナ】
 赤面黒毛五尾の妖狐。
 老婆の姿で現れ、様々な呪いを現し、妖狐や化狐や霊狐を配下に源徳家の凋落を狙った。
 遠山金四郎が江戸奉行にあったころ、一党の討伐が行われたが、全滅には到らなかった経緯がある。
 壊滅状態になった江戸の金売吉次残党を従えて、阿紫に続く百鬼夜行を目論む。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3556 レジー・エスペランサ(31歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3585 ミハエル・アーカム(25歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●年越しの挨拶
 ギルドで報告書を読み返し、1年を振り返る‥‥
 今では年中行事のようになった感のある風景だ。
「那須の方は、何とか落ち着いた‥‥ 金売吉次も、片はついた‥‥」
 ギルドの書庫を後にする九竜鋼斗(ea2127)。
「気がかりなのは、まだシズナが残ってるってことか‥‥」
「おや、九竜。あんたも、もしかして神田明神へ?」
 ミハエル・アーカム(eb3585)の声に視線を上げると、他にも冒険者たちの姿が。
「きゅうちゃんの大好物なんだよな。喜ぶ顔が目に浮かぶよっ♪」
 稲荷寿司の包みを目の前に掲げ、群雲龍之介(ea0988)は、満面の笑みを浮かべる。
「そういえば、きゅうちゃんに会ったことなかったか‥‥」
「それは、いかんな。きゅうちゃんを、もふもふすると、それはそれは楽土」
 群雲の力説に、軽く吹き出すと、町娘が声を掛けてきた。顔が近い‥‥
「これから、きゅうちゃんをもふもふシに行くんだけど、一緒にイク?」
 『イク?』肩のあたりを炎の精霊妖精が舞う。なるほど、御陰桜(eb4757)か。
「夫婦になって、ついこの前、夜十字桜になったのよ♪」
 相変わらず、彼女の人遁は超越級だ。
「でね、デネ♪」
 はぁ、疾風超越と一緒に夜寝る前に使うのが日課なのよ♪‥‥って‥‥
 新婚さんの夜の生活を聞かされても、顔を赤くするしかないってば‥‥
 そんなこんなで、いつの間にか神田明神へ着いが、何やら騒がしい‥‥
「愛ちゃんたち、ナニ騒いでるのかしら?」『かしら?』
 きゅうちゃん親衛隊の愛ちゃんが、泣きじゃくる女の子たちをなだめている。
「ちょうどいいとこに来た。手を貸してほしい!!」
 ギルドへ向かおうとしていた山内志賀之助が言うには、斯く斯く云々‥‥
「何だって? くそっ、シズナめ! アンタ、きゅうちゃんの何なのさ!!」
 今年も無事に過ごせた御礼参りに来たっていうのに‥‥
 その場に居合わせたレジー・エスペランサ(eb3556)は、愛弓の弦を張って臨戦態勢に入る。
「シズナぁァッっ!!!!」
「あたしたちのきゅうちゃんに手を出したらどうなるか、まだ分かってなかったみたいね」
 大激怒の割りに、稲荷寿司や精霊妖精なんかを愛ちゃんに預けるあたり、群雲も夜十字も一端の冒険者。
「愛ちゃん、みんな♪ きゅうちゃんは、あたしたちが取り返シてくるから♪」
「ほんと?」
「あら、あたしが嘘ついたこと、あった?」
「ない〜〜」
 女の子たちの頭を撫でると、夜十字は頷いた。

●きゅうちゃん救出
「こんなに速く着くとは思ってもいないだろうさ」
 オーラマックスを使って、街中を飛ばした金さんと志賀之助。
 レジーの旅歩き用のセブンリーグブーツなんかでは、人混みの中、追いつくのも必死であった。
 町道場への途中、急を察知した七神斗織(ea3225)が、軍馬に乗せてくれなかったら、遅れた者もいたはず‥‥
「この前の作戦で、地図は頭に叩き込んであるが‥‥」
 相手の裏をかかなければ、きゅうちゃん救出は難しい。
 偽者に変身しているのか、幻影でも使っているのか、定かではないが、本物を見極めなければ‥‥
「さて、どうしたものか‥‥」
「俺に考えがある」
 頭を悩ませる金さんに、群雲が不敵に笑った。
「成る程な。それでいこう」
 咄嗟に細かい打ち合わせができるあたり、気心の知れたもふもふ仲間である。
 それぞれに顔を見合わせると、うんと一度頷いて、持ち場へと散ってゆく。

「きゅうちゃんに何かあったら、ただで済むと思うなよ! シズナ!!」
「すまねぇな。あんたらが騒ぎを大きくするんで、勝手について来ちまった奴がいる」
 道場へ乗り込んだ群雲の隣へ陣取り、金さんが腕組みして仁王立ち。
「1人も2人も変わらないよ。死ぬ人間が増えるだけの話さ」
 道場の奥には、きゅうちゃんが3頭‥‥
「た、たす‥‥けて‥‥」
 仕込杖の刃を当てられているのが、おそらく本物だが、確証はない‥‥
「人質とは腐った真似をする奴だ。それに組するお前たちも、相応の報いは、必ず受けてもらうぞ」
 ミハイルは、思わず足を止め、打つ手がないように焦ってみせる。
 時間を稼いでみるが、やはり、見た目で見分けはつかない‥‥
 ふるふる‥‥
 七神が首を振る。ディテクトアンデットで悪鬼がいることはわかっても、どれが変身かまで見破るのは難しいようだ‥‥
 ならば、残る手立ては1つ‥‥
「玉葉! 俺たちを信じて、変化を解け!!」
「な、なんのことじゃ!!」
 叫ぶ群雲に、何事かとシズナたちは思わず焦る。
「玉葉っ!!」
「はいっ!」
 どろん‥‥
 九尾は失われ、葉っぱを頭に乗せた狐が1頭あらわれた‥‥
「はぁ?」
 シズナたちは、あんぐり‥‥
「きゅうちゃんは、もらったよ‥‥ってネ♪」
 夜十字の微塵隠れの爆音が響き、化け狐は彼女に抱えられて、金さんたちの後ろに保護された。
「ワシら妖狐が手玉に取られるとは‥‥ 殺しても飽きたらん。悪鬼どもよ、必ずや、こやつらの魂を地獄道へ落とせ」
「言われなくてもやるさ。シズナ、吉次様でもないのに、俺たちに命令するな‥‥」
 どうやら、金売吉次の不在が、彼らの纏まりを欠く原因を作っているらしい。
 だが、敵の不和は、冒険者たちにとって望むところ。隙を見逃すほど、甘くはない。
「くっ、挟み撃ちか‥‥」
「鬼道衆が一人‥‥『抜刀孤狼』、九竜鋼斗」
 背後からの居合いが、浪人の急所を貫く‥‥
「もう逃がす訳にはいかない! ここで決着を付ける!」
「お前は‥‥」
「忘れたとは言わせん‥‥ 俺は、必ずお前を狩ると言ったはずだ!」
 ずずっと刃を引き抜き、流れる所作で鞘に戻すと、居合い抜きの型に戻る‥‥
「数は、こっちの方が上なんだ。畳んじま‥‥え!」
「おっと、逃がさないからね」
 九竜の背中越しに、レジーの矢が浪人の喉を捉える。

「人が、これほど侮れぬ存在であったとはな‥‥」
 シズナは、老婆の姿を捨て、五尾の妖狐へと変貌する。悪鬼たちも、九尾の子狐からシズナへと変身した。
「さしずめ、悪鬼忍法ってとこね。分身なら負けないんだから」
 相手の4分身に対抗して、夜十字が8分身してみせる。
 呆気に取られる敵味方を他所に、夜十字のマグナソードがシズナへ一太刀!
「運は、こちらにあるみたいね♪」
 クリティカルヒットで斬り落とされた尻尾が、どす黒い執念で夜十字を襲うが、分身を3体消したところで、遂に霧散する。
「ぬぅうう!」
「そんなに人々が憎いか?! それ程、この世に不満があるか?!!」
 銀の手甲を叩き込んで、月魔法の詠唱を邪魔する群雲に、シズナは、鋭い爪と高速詠唱で対抗する。
「憎いね! 我らの棲み処を奪い、邪魔だからと言っては狩る!」
 七神のオーラエリベイションの御蔭で、シズナの精神魔法は、群雲を捉えられない。
「おっと、お前の相手は俺だろう?」
 ミハエルは分身シズナを斬り刻む。
 足を止め、尻尾を切り落とし‥‥
 ミハエルも無事ではないが、分身シズナは術を使ってこず、肉弾戦だけということであれば、何とか‥‥
「なぜだ! なぜ、効かぬ!! 闘気の技か! 火精の術法か!!」
「シズナ‥‥ 今こそ、お前との因縁の鎖を断ち切りましょう。遠山様もきゅうちゃんも、お前の犠牲になど、させませんわ!」
「五月蝿いわ! 小娘が!!」
 きゅうちゃんや七神を狙ったムーンアローも、ホーリーフィールドの結界に阻まれた‥‥

●悲しき最期
「これで、終わりにしようぜ」
「こんなところで倒れてたまるものか!」
 金さんと山内が止めを指そうとしたシズナの分身は、変身を解くと消え去る‥‥
「やれ、金四郎!」
「おおぅ、逃がすかよ!」
 金さんがオーラアルファーの闘気の爆発するが、山内はレジストオーラで平気の平左。
 消え去ったかに見えたシズナの分身は、床に落ちて蝿の変身が解け、悪鬼の姿へと戻り、霧が晴れるように形を失ってゆく‥‥
『あ、上から油揚げが!』
「馬鹿におしでない!!」
 流石に、こんな引っ掛けが通用する相手ではない。
 ないが、気を逸らせたという意味では、レジーは心理戦に勝利していると言ってもいいのかもしれない‥‥
「抜刀術・瞬閃刃!」
 その証拠に、九竜の一撃をかわしきれずにいる。
「教えてもらえるかな? 百鬼夜行に江戸の大火を仕向け、裏に表に利用した者の名前と、源徳潰しの本当の筋書きをさ」
「答える必要はない! 恥知らずの人は、積年の恨みを知れ!!」
 レジーの心理戦は続く。
「こんなの、間違ってる!! 私たちときゅうちゃんは、こんなに仲良くやっているのに!!」
 七神の瞳には、涙が流れていた‥‥
「ありがとう、おねぇちゃん」
「みんな、あなたのこと、大好きだから。あんな風には、なっちゃ駄目よ」
 きゅうちゃんが、こくりと頷く。
「いちいち、癪に障る者どもめぇえええ!! く、うぉっ!!」
「獲った!!」
 夜十字の8分身ヒマワリで一瞬躊躇したシズナの首を、群雲が締め上げる。
「その怒りや憎しみに、多くの者を巻き込むな! 世界が嫌いなら、二度とこの世に生まれてくるな!!」
「我が妖力は、人の作り出したもの! 人の世がある限り、第2、第3のワシが、お前たちを恐怖に陥れるのさね!!」
「だったら、何度でも倒してやるさ! 消えろっ! シズナァぁッっ!!」
 ごきん‥‥
 鈍い音と共に、シズナの首がおかしな方向へ曲がり、体は力を失って、群雲をよろめかせる。
「危ない!!」
 ミハエルのスカルダガーが、蠢く尻尾を斬り払う!
 助走は足りないが、体ごと押し込むように突撃すると、尻尾が千切れ、飛びかかろうと身を縮めた。
「そは、動くことあたわず! ヲン、キリキリ‥‥」
 それを、七神が不動縛りで動きを封じる‥‥

「こうは、なりたくないもんだ‥‥」
 結局、シズナは自らの尻尾の怨念に喰われ、その身を消滅させた‥‥
 七神の念仏が、シズナの魂を成仏させられれば良いのだが‥‥
「シズナ塚でも作って、供養でもするかねぇ」
「それがいいのかもな‥‥」