ガラクタの海賊

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月31日〜09月07日

リプレイ公開日:2004年09月04日

●オープニング

 この時期に海が時化(しけ)るのはよくあることだ。
 猟師の船、商船は当然のこと、戦船だってただではすまない。すべからく沈まない船はないと言うことで‥‥

「おやびん、何でこんなことになっちまうんですかぁ?」
「俺に聞くな!! 占いでは‥‥晴れるって‥‥出てたんだよ」
「そんな聞きかじり、しかもかじったばっかりの占いで命かけるんじゃ、こっちの身が持ちませんぜ」
「「「「「「はぁ‥‥」」」」」」
 盛大に溜め息をつくと、男たちは陸(おか)に上がっていく。
「船はなくなっちまった。そいつは仕方ねぇや」
「で‥‥、これからどうするんで?」
「フフフ、聞いて驚け」
「見て笑え」
「変な合いの手入れるんじゃねぇ」
 子分らしき男がポカッと殴られる。
「水際賊(みずぎわぞく)になるのよ」
「「「「「はぁ?」」」」」
 今度は同じセリフでも尻上がり、彼らの頭の上には『?』が飛び交っていた。
「なんですかぁ? その水際賊と言うのは‥‥ 俺の記憶の中に無いですが」
「なんだ、お前ら。こんなこともわからんのか。説明しちゃるから、よ〜く聞け」
 先祖が昔フランクという国で湖賊をやってたころから話が始まる。
(「長いんだよなぁ‥‥」)
 わかってて付き合うあたり、よほど人望があるのか、放っておけない雰囲気なのか‥‥

 とっぷり。とうに日は暮れてしまった。
「ほらそこ、鼻糞食わない」
「だって、おやびん〜。暗くなっちまったし、腹も減った〜」
「う〜ん、仕方ない。結論だけ話してやる」
(「「「「「始めからそうしろ」」」」」)
 子分たちが心の中で一斉にツッコミを入れる。
「つまり、船持ってない海賊だけど、山賊になるほど踏ん切りがついた訳じゃねぇってヤツだ」
「ハイハイ、それじゃあ‥‥」
 満足そうな顔をする親分を無視して、槍を担いだ男が仲間を立ち上がらせる。
「いっちょやるか」
「「「「「お〜!!」」」」」
 親分の声に応えて、子分たちの鬨の声が上がった。

「俺たちゃ黒ダコ水際賊団だ。命が惜しい奴は、とっとと行っちまえ。見逃してやる!!」
 脅かす水際賊と逃げ惑う村人たち。
 普通思い起こすような情景なら、村は火の海でそこらには女子供の死体も転がっているところだが、壊された建物もなければ死人もいない‥‥
「ガハハハハハ‥‥ ご先祖様から伝わる悪の美学って奴よ」
 親分の声だけが村に響き渡った。 

「という話なんだが、黒ダコ海賊団がなぜ陸の村なんか襲うのか良くわからんし、みずぎわぞく団ってのもさっぱり‥‥」
 ギルドの親仁は不思議そうに首を傾げている。
「まぁ、それはともかく、2つも村が襲われたが幸い2つとも死傷者0と村への被害はない。しかし、占拠されたまんまじゃかなわないってことでギルドに依頼が来たわけさ」
 なんで黒ダコ海賊団を放っておいたのかと聞かれ、親仁が少し吹き出すように笑った。
「商船を襲っては不殺の掟とか言って失敗するし、今までは特に被害が無かったのさ。そんな奴らのために、お上が動くわけないだろ?」
 要するにどことなく人畜無害ということらしい。だが、今回は違う‥‥

 さてさて、どうなることやら。

●今回の参加者

 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●黒ダコ水際賊団
「おやび〜ん、いつまでこんなことしてるんですかぁ?」
 退屈そうに小太刀の手入れをする子分その1。いや、退屈しているのは彼だけではない。
「船ができるまでだ。幸い先祖の残してくれた遺産が沢山あるからな。
 別に宿暮らしでも借家住まいでも何でもいいんだけどよ。
 それじゃあ俺たちの悪ってヤツが錆び付いちまうだろう?」
「そうだったんすか。おやびんかっこいい」
「悪ってのは常に磨いてないと錆び付いちまうのよぉ」
 片足をちょいと曲げて体重を乗せ、大槌を構える。
 まぁ、月でも出てて、もうちょっとマシな決め台詞でもあれば合いの手でも入るんだろうけど‥‥
 あほらしいという顔で槍持った子分その5が通り過ぎる。
 その槍には洗濯物が‥‥
「おやびん、魚が焼けましたぜ」
「おう、すぐ行く!!」
 焚き火の番をしていた子分その3の声におやびんがとっとと駆け出す。
「待ってくださいよ〜」
 わ〜って、あんたら子供か‥‥

●怪しい奴ら?
「ふっ、いるいる美しくない輩どもが」
「です‥‥」
 崖の上から頭を覗かせる男女の影が2つ。
「こらしめちゃいましょう♪」
「その前に水際賊団とは何なのか聞きませんと」
 さらに男女の影が2つ。女の影は馬に乗っている。
「森賊団とか川辺賊団とかもあるのでしょうか?」
「う〜ん、きっと温泉族団とかも」
 うち2人が本気で考え込む。
「ふっ、水際賊団‥‥ 名前からして何かとギリギリそうな相手じゃないか、面白い。
 この虎杖・薔薇雄(いたどり・ばらお)、美しく倒してあげようではないか‥‥」
 薔薇を手にした男がクルリと回る。
「村を占拠されては皆様お困りでしょうが、話を伺う限りあまり悪人とも思えず。
 少々お灸を据える程度で退いて頂けると良いのですが‥‥」
「美しくないものはいりません。それだけは見極めないとね」
「私たちは討伐団じゃないんですか?」
「そんなものは、お上の都合ですよ。私たちは依頼を達成できればいいんです」
 薔薇の男が花の香りを楽しんで、虚空の1点を見つめる。
「はぁ‥‥ 必要とあらば私も尽力は惜しみませんけれど」
「何、ごちゃごちゃ言ってるんだ? 早く行こう」
 巨躯の影が1つ。これは‥‥ 女?
「えぇ、こんなところにジッとしていても美しくない」
 上半身を揺らさずに歩く薔薇の男を先頭に一行は村へと歩を進める。
 それを追いかけるように影が1つ。まさに影のように‥‥

●耽美戦隊 大江戸華激団
「おやびん。毎日魚っすけど、おいしいっす」
「塩漬け、干物、刺身、焼き魚‥‥ こんなに色々食べれて、ぼかぁ幸せだなぁ」
「おやびん〜」
 水際賊団の食卓?が笑いに包まれる。
 しかし、その団欒(だんらん)を壊す声が!!
「そこまでよ!! 黒ダコ水際賊団!!」
「だ、誰だ!!」
 子分その4が立ち上がって辺りを見渡す。
「だ、誰だ!! と聞かれたら」
「答えてあげるが、世の慣わし」
 声のするほうを見ると屋根の上に5つの影。逆光を浴びて、その姿はよく見えない。
「ふっ、君たちに美しく戦いを挑みにきた」
 胸をチラリとはだけ、片足を上げて指先にまで集中して格好を取るこの男。上げた片足には赤い薔薇をはさんでいる。
 金色の髪は縦巻きに、開いた股間にはハタハタと揺れる薔薇の染付けの褌‥‥
 虎杖薔薇雄(ea3865)、江戸では噂の薔薇の人だ。
「そう、この世にはびこる悪は許さない!!」
 桃色の現の証拠 (げんのしょうこ)を持って可愛く見栄を切っているのが大宗院鳴(ea1569)。
「水の志士の鷹波穂狼だ。神皇様と信長様に代わっててめぇらを成敗しにきた。覚悟しな!!」
 3枚葉と小さな黄色い花が可愛らしい酢漿草 (かたばみ)を指先に摘んで聳え立つのは鷹波穂狼(ea4141)。腕組みが男らしい‥‥
「秘める言の葉、『変わらぬ愛』。遠き故郷の愛しき妻と二人の可愛い吾子の為、静かに燃ゆる蒼紫花。静寂の青、参上仕ります」
 美しい紫の桔梗を持たされて松浦誉(ea5908)が現れる。
「ちょっとお茶目なお薬屋さん。日夜、江戸の笑いと健康を守る水穂ちゃんですよ〜」
 紅色の唐葵 (からあおい)を持つのは七瀬水穂(ea3744)。『水穂印のお薬よろしく』の看板を立てて見得を切る。
「「「「「我ら、大江戸華激団!!」」」」」
 5人が声を合わせて見得を切ったまま動きを止める。
 ずどーん。10秒ほどして上空で爆発が起きた。
 熱がる4人に対して姿勢を崩さない薔薇の人。チチチと優雅に指を振りながら困ったような顔をする。
「う〜ん、今のは美しくないですね。紅の人、気をつけるように」
「てへ♪」
 七瀬がペロッと舌を出す。
「順番を変えたほうがよかったですか‥‥」
 5人は屋根の上でワイワイやっている。
「何、ボォッと見てるんすか」
「いや、こういうのは最後まで聞いてやるのが礼儀かなと‥‥」
「ホント、人がいいですね」
 おやびんの言葉に子分その5が溜め息をつく。
「まずは1人‥‥」
 忍者刀の峰で首筋を一撃され、気絶する子分その2‥‥
「あ、それは美しくない」
 屋根の上の味方からツッコミを受ける黒い影。
 おやびんからもウンウンと頷かれ、影も立つ瀬がない。
「仕方ないなぁ」
「続き、いいぞ〜」
 影が屋根の上に登るまでしっかり待ってやるところが分からないというか何というか‥‥
「世の影となり、江戸の‥‥」
 黒紫色の小さな花、黒花引き起こし(くろばなひきおこし)をさりげなく皮兜に挿しているのが神山明人(ea5209)。さっきの影の人である。
 まぁ、この時期に咲いている花をよく集めたもんで。特に薔薇なんて希少品でしょうに‥‥
 さて、またもや、ずど〜んと‥‥
「今度は早かったね。ごめんなさい。はいこれ、『水穂印・火傷の薬』」
 七瀬‥‥ もしかして商売のために?

●焚き火を囲んで
「あんたら何しに来たんだ?」
「そうでした。お聞きしたい事が‥‥」
 いそいそと松浦が屋根を降りて、おやびんに頭を下げる。
「あ、いや。これは丁寧にどうも」
 おやびんも頭を下げる。
「それにしても水際賊とは? 海を臨み育ちました私としては非常に興味が。水際賊なるものについて、是非親分様に御教授賜りたく」
 松浦がどぶろくを取り出す。
「いやぁ、土産持参とは。気が効くねぇ」
「いえいえ、お口汚しで申し訳ありません。
 実は我が家の祖は海賊あがりでして、海に関わり深く‥‥ されば、水際賊についても詳しく知りたいと思った所存です。
 立ち話も何ですので何処かでゆるりと‥‥ ああ、子分様方はお構いなく続けて下さい」
 さすがにこのように言われ、礼を尽くされては何となく戦う気にもなれず‥‥
 子分たちも焚き火の周りに腰を落ち着けてしまった。
(「私が注目されないなんて‥‥」)
 薔薇の人、屋根から飛び降りて美しく決めたというのに‥‥
「て、敵か?」
 子分その2が目を覚ます。
「いいから静かにしとれ‥‥」
「へぇ」
 子分その5が小声で話しかけながら無理やり座らされる。
「俺は先祖がフランクちゅう国で湖賊をしてたのを誇りにしてるんだ。
 湖賊をやめてからは、アキテーヌとかいう国で女将軍(決して『おかみぐん』ではない)の下で船団を率いていたとか」
 その瞳は夢多かりし少年のそれだ。はっきり言って外見はおっさんなんだけどね。
「黒ダコ水際賊団とおっしゃっておりますが、村を襲ったら村賊ですね。海賊と全く関係なくなっています」
 言ってることはちょっと的外れでも鳴の指摘は、ある意味で的を得ている。
「今、俺たちはその遺産で海賊をやってる。
 だけど船が時化で沈んじまってよ。
 海賊が陸に上がってまで海賊を名乗るなんて、おこがましい真似はしたくないんだ。
 だから水際賊団。俺たちゃ、山賊にゃあなれねぇ。
 悪にも美学ってものがあるのよ」
「おやびんさんの悪の美学はちょっとかっこいいかもです」
「不殺の掟は素晴らしい。ぜひその意味を教えてもらいたいものだ」
「そうか?」
 七瀬、ほんとに?
 って‥‥ あ、薔薇の人が何気に無視されて、こめかみをヒクつかせている。
「おやびんさん、おやびんさん、黒ダコ水際賊団ってかっこいいですねー。名前の由来はなんですかー。鉄の掟なんてあるんでしょうか」
(「きっと、おやびんさんと子分さん達は、うどんのダシより薄くても血よりも濃い絆で結ばれているですよ。きゃ♪」)
 とか身悶えながら思考の深遠へと一直線。最早、聞いちゃいない。
 焚き火の近くで薔薇の人が腰をクネクネさせているが、みんなおやびんに注目している。はっきり言って薔薇の人はご機嫌斜めだ。
「そいつは‥‥」
「海賊を水際でやるな! 海の漢なら海で生きろぃ! 未練たらしいこと言うんじゃねぇ!」
「確かに‥‥」
 おやびんの言葉を遮った鷹波の激昂に松浦も同調する。
「船待ちなのさ。手頃なヤツを手に入れて海に出てから本格的に新しいやつを探そうと思ってな」
「でも、陸の堅気の衆に迷惑かけちゃ、あんたの悪の美学って奴が廃(すた)るぜ」
「すまねぇな。あんたの言う通りだ」
 夕日を背にして、がっしりと肩を組む鷹波とおやびん。その指差す方には真っ赤な太陽が‥‥

「それで‥‥ 戦わないのかね? 私は、かなりその気なのだが」
 さっきから無視されているので、薔薇の人はかなりご立腹のようだ。
「この黄色の人の言う通り、俺たちはこの村から去るよ」
 子分たちもウンウンと頷いている。
「なんと‥‥ 君たちを改心させようと思っていたが、仕方ないな。
 そうであった。1つ言いたかったのですよ。
 なぜ君たちは黒ダコ水際賊団などという美しくない名前を名乗っているのか! もっと美しい名前にしたまえ!」
「黒ダコの通り名は、先代から受け継いだものだ。変えるつもりはない!!」
 どぎゃ〜ん。
 薔薇の人に衝撃が走る。
(「そんな理由のために、この美しくない名前を使い続けているのですか‥‥」)
 そこかい!!
「それなら、せめて私の美を少し分けてあげよう。嬉しいだろう?」
 せめて少しでも美しくしようと、おやびんの股間を日本刀で切り裂き、薔薇を突き刺す。
(「く‥‥ やはり美しくない」)
 そりゃあ、ポロリがあればねぇ‥‥

●一件落着?
「わたくし、折角、海に来たのですから、海鮮料理が食べたいですわ」
「なら丁度いい。魚ならいくらでもあるから、たらふく食べな」
 確かに目の前には、ご馳走がずらり。
「おいしそうですわ」
 鳴がポンと手を合わせる。
 それを皆で食べることにした。
「おやびんさん、海賊、頑張ってくださいね〜」
 七瀬がおやびんに酌をする。
「このままじゃ刺身が痛むだろ」
 鷹波がアイスコフィンで刺身を封印する。焚き火の火で溶け出しても、まだ美味しく冷えてるに違いない。
「戦いたかったのによ‥‥」
 いじける神山が物陰で呟く‥‥
 薔薇の人が踊りまくる楽しい夜は、あっという間に更けていく。

 こうして黒ダコ水際賊団の脅威は去った。
 ろくすっぽ戦いもせずに‥‥
 江戸の平和を守るため、明日も戦え!! 耽美戦隊 大江戸華激団ッ!!