【毛州三国志・那須・義経】イザナギ決戦!
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:13 G 3 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月08日〜01月15日
リプレイ公開日:2010年01月17日
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●オープニング
馬頭の地下遺跡で繰り広げられた摩訶不思議アドベンチャー‥‥
彼らは、国造りの神の力を取り込もうとした異痕の企みを阻止し‥‥
享楽的に人を殺め続けて京都鞍馬山の大天狗僧正坊の転生を阻止し、その神通力を我が手にせんと欲した狼神を倒し‥‥
那須藩や義経軍を騙し、赤頭鬼軍らを操って、分断封印された能力を取り戻そうとしていたイザナギの完全復活を阻止した。
だが、全てが終わったわけではない。
イザナギは3分の2で復活し、江戸方面の部隊こそ壊滅させたが、那須には金売吉次の幹部たちが残っている。
「お頭、ご命令を」
「お頭か‥‥ その呼び名を変えねばな。俺が金売吉次の頭領を名乗ることは、もうあるまい」
「そういえば、そうでございますね。イザナギ様」
「これからは、金売吉次をイザナギ軍と呼称する。まずは、小うるさい武将どもを除き、東国を支配下に置く。
千五百の産屋を造営し、神造人間を使えば‥‥」
そこまで言うと、イザナギの顔から笑みが消え、憤怒で顔を真っ赤にさせて火を吐く。
「全く‥‥ 結界が緩んで、身体だけ復活できたはいいものの、この身は中級悪鬼の力しか持たず‥‥
奥州で鬼道忍軍を育て、各方面の政治や経済へ浸透し、何十年、何百年と復活の用意してきたというのにな‥‥」
那須での政府転覆計画、連年の動乱、妖魔襲来‥‥
それだけでは語りきれないであろう何かを思い出すように、イザナギは溜息をつく。
完全復活が成らなかっただけでなく、大デスハートンの珠は失われてしまったのだ‥‥
「神造兵士を生み出す千五百の産屋の製造技術の記憶は、我がデスハートンと共に失われてしまった‥‥」
「兵力不足を解消するために、人間どもを扇動するにしても限りがあります。いかがなさいますか?」
認めたくなかったのだろうか‥‥ イザナギは沈黙を続ける。
その間、受け答えしていた6人の褐色の巨人は、微動だにしない。
「新たな方策を立て直す。だが、その前に冒険者どもは倒しておかねば、気がすまん。
そうだな‥‥ まずは八溝霽月城を落としてやろう。冒険者が城主の城だ。丁度いい。
それに、あの男の魂を貰い受けねばな。契約は守らせねば。
ん? そうだ。あの男を使って冒険者を集め、我が契約者を増やし、冒険者ギルドを乗っ取って‥‥
義経や与一も使えば、冒険者を切り取るのも用意であろうしな」
「新しい方策が浮かんだようですな。イザナギ様」
「だが、これは方策の一つ! 我が身を割いた、あやつに復讐するためには、もっともっと力を蓄えねばならん」
行くぞ‥‥ 号令一過、イザナギ軍が動き始めた。
那須藩では、緊急会議が行われていた。
「イザナギは倒さねば危険。水穂殿も言っていたが、あれは禍ツ神だからね。古の盟約によりて、那須藩に討伐を要請したい」
隠れ里のエルフの若長が提案する。隠れ里からは、魔法戦士10と石化能力を持つエルフの神弓(残弾2)が出せるという。
「要石の封印を守ってきた、我ら那須天狗にしても、今回は中立というわけにはいくまい」
那須天狗の白狼神君にも異論はないらしい。白狼神君と烏天狗4が参戦を表明した。
そして、鞍馬山の大天狗・僧正坊のストームの神通力の残滓が残る白羽の九葉の太刀を置いた。
「みなさんの協力があれば百人力です。ほんとうにありがとう。
私は江戸の和睦で動き回っていて、那須にいることができませんでしたが、此度は、私が指揮を取ります」
那須与一公が、細い目を更に細めて、円座の参加者たちに微笑みを投げている。
禍根を断とうと、藩の総力を挙げるべく、着々と準備を重ねているという。
「与一公。みんな。是非、僕にも協力させてほしい。源氏の棟梁として、禍ツ神は倒す。
それに、知らずにイザナギ復活の手助けをしていたわけだし‥‥ 何より、僕の家族たちが黙っちゃいないからね♪」
源義経公は快気したようだ。彼の兵300は、八溝霽月城で英気を養い、猛訓練と八溝領経営に邁進している。
「それでは決まりですね。我らは退魔同盟を以て、禍ツ神イザナギを討つ!」
与一公の言葉に、小山朝政や杉田玄白、イグや虎太郎、重蔵や佐藤兄弟など、連座した多くの者たちが声を上げた。
※ 関連情報 ※
■義経■
【源義経】
源徳台頭以前の都での貴族たちの内乱で絶えたと思われていた源氏直系の遺児を名乗る少年武将。
当時赤子であった義経は政争に利用される事を恐れた近臣の手により都を逃れ、奥州藤原氏に匿われたとのこと。
1日1日と成長を続け、家族と思える仲間たちと信頼を重ねている。
【佐藤兄弟】
継信・忠信の兄弟。
奥州藤原氏の武士から、源義経の家臣となる。
能力も忠義心もあって義経の右腕・左腕といえる彼らだが、様々に苦労は絶えない模様。
継信は、無事に蘇生した。
【重蔵】
義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
剣の腕や身のこなしに優れ、おまけにオーラ魔法まで使えるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。
【義経四天王】
佐藤兄弟、陸堂明士郎、来迎寺咲耶の4名。
いずれも義経軍の侍大将以上の地位にあり、義経の信頼に篤い。
■那須■
【那須与一】
下野国守、兼、那須藩主。
弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ぶ方が通りが良い。
【那須藩】
下野国(関東北部・栃木県の辺り)の北半分を占める藩。弓・馬・薬草が特産品。
伊達政宗公の仲介で和睦が成立し、白河地方を回復。
八溝山の赤頭鬼軍を討伐し、八溝地方を回復。
【八溝霽月城】
那須藩東部の山岳地帯にある山城。
峻険な地形が攻め手を阻む天然の要害。防護施設が整備されており、堅城と評価が高い。
城主は源義経家臣・陸堂明士郎。
【蒼天十矢隊】
冒険者から徴募された那須藩士たち。11名(欠員1名)が所属した。
退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも謀反の疑いをかけられ部隊は解散したが、後に汚名返上。
那須藩預かりの冒険者部隊には『蒼天隊』の名が与一公により贈られた。
【杉田玄白】
欧州遊学の経験もあり、広い知識で活躍する那須軍師。那須医局長、矢板川崎城代。
白河小峰城にあって八溝地方復興に着手。
■イザナギ■
【イザナギ】
国造りの神。イザナギとの夫婦喧嘩が原因で、何者かに魂魄を3分割され封印されてしまった。
悪鬼修羅の剣と大白子珠の入手を試みたが、異痕の裏切りと冒険者の活躍で3分の2でしか復活を遂げられなかった。
悪の秘密結社・金売吉次の大首領。
【金売吉次】
那須藩転覆を画策したり、江戸で破壊活動を繰り返してきた奥州忍者・黒脛巾組の頭領。
褐色の肌のジャイアントであると言われている。
【金売吉次】
奥州藤原公が金売吉次を名乗ることを特別に認可した商人たちの総称。
冒険者の流言で商売がしにくいと苦笑いしきり。
●リプレイ本文
●激戦
大聖不動明王の旗印が本丸に掲げられた。
「あからさまな挑発だが、乗ってやろう」
イザナギは、炎を吐き、言霊や悪鬼呪法で惑わして、義経軍を翻弄させ、霽月城の本丸へ飛空兵を取り付かせる。
「悪魔の跳梁を終わらせて、平らな世をもたらしましょう」
フィーネ・オレアリス(eb3529)の祈りと武蔵坊隊の念仏が、悪鬼防御の加護を重ねた。
麓では‥‥
「左翼、弓射が薄い! 歩兵隊は天義隊の突入にあわせて突っ込め!!」
「みんな、作業を急いで!」
運搬中に放棄された材木を、クーリア・デルファ(eb2244)は臨時の馬防柵に組み、津波の如き大百足を待ち受ける。
巨体の勢いさえ殺せば、状況は一変できるはずと信じての被害覚悟の決死行だ。
「完成した柵からは離れて!」
マイユ・リジス・セディン(eb5500)はアイスコフィンで柵を次々と氷結させてゆく間に、大百足の群れは距離を詰める。
「これは、阿紫の率いた百鬼夜行より強力だぞ‥‥」
弱音を吐いた冒険者の1人が、鋭利で頑強な槍と化した柵を頭部に刺したまま突っ込んできた大百足に踏み砕かれた。
「諦めないで!!」
クーリアの檄で突撃を始めた天義隊の一斉騎馬突撃で足を止めた大百足へ、九竜鋼斗(ea2127)たちが斬り込む。
「節を狙え!」
「獲ったぁあああ!」
「鉤槍と掛け縄で動きを止めろ!」
大百足の急所であろう節の隙間を狙う者、重量武器で叩きのめそうとする者、絡め武器で自由を削ごうとする者‥‥
まさに死力を尽くした戦いだ。
「ああ、くそ。遅れた分は、援護で取り戻すよ!」
大百足に生半可な矢は通用しないと判断した来迎寺咲耶(ec4808)は、負傷者を救助後退するべく、猟兵隊の突入を命じた。
襲撃に遭ったとはいえ、八溝領民を逃がすのに時間をとられすぎた‥‥
「領民の避難が終了したこと、本陣へ知らせてきます。」
来迎寺たちにグットラックの加護を与えると、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)は天馬で飛翔する。
「わかった、フィリッパ。ここは、私が受け持つ!!」
他方面を見ると、伊達騎馬隊が鬼軍に遊撃をかけている。あそこなら‥‥
「負傷者を回収した者は、城へ帰還せよ! 残りは伊達騎馬隊を支援する!!」
倒された大百足の下から兵を回収する猟兵を残し、来迎寺たち猟兵隊は弓の弦を張り、鬼軍を射程に捉えるべく駆けた。
さて‥‥
鬼、動死体、妖魔どもの間断ない攻撃が、八溝霽月城の首を絞めてゆく。
「遊兵を作ってしまったな‥‥」
飛空兵力の攻撃に対するためには、城の広範囲に兵を貼り付けなければならなかった。
しかも、隠密鬼道たる吉次相手では、油断すれば切り崩されるのは目に見えていた。
「何とか倒してきました‥‥」
「大丈夫か、明士郎!」
城主・陸堂明士郎(eb0712)他、飛行できる騎獣やペットや武具を携える兵は少なく、この方面での消耗が激しい。
この出撃で吉次の2人を倒してきたというが、出撃の度に陸堂らをボロボロにするあたり、敵も然る者。
「天梯光臨! イザナギと思われます!!」
「やっと来たか‥‥」
見張りの大音声に、息を切らしながら陸堂は立ち上がる。
「まだ、動かないで」
フィーネや武蔵坊隊の加護がなければ、既に城は落ちていたはず。
華の乱の撤退戦が可愛く思えるほどなのは、神と呼ばれたイザナギの本気なのだろう‥‥
「始まっているようだね‥‥」
那須与一率いる軍勢の行く先には、黒煙が上がっている。
「それでは先行します」
「任せたよ、カイ、七神」
「「はっ」」
天馬の腹を蹴るカイ・ローン(ea3054)を追いかけ、七神斗織(ea3225)も馬足を速めた。
●絶対王者
「お前たちの相手だ」
呪言と共に金売吉次から放たれた瘴気が膨れ上がると、そこに現れたのは、白兜‥‥
大自然の覇王たる風格を備えた、あの超巨大熊‥‥
思わず唾を飲むカイたち蒼天隊‥‥
「美味しく育った、お前たちの魂。刈り取らせてもらうぞ」
吉次たち悪鬼の罵詈雑言が、蒼天隊士の魂を殺ぎ始める‥‥
「神仏を騙る相手に、ここで退くわけにはいかない!!」
「御武運を!」
七神のオーラエリベイションと七なる誓いの短剣への祈りが、カイの勇気を奮い立たせた。
勝機があるとすれば、吉次の1体が白兜に憑依したことだろうか‥‥
天馬のレジストデビルやホーリーフィールドで凌ぎながら、飛行する吉次に海王の槍を繰り出す。
「決着をつける!」
「俺相手に一騎討ちとは、舐められたものよ」
カイの海王の槍が唸り、天馬も懸命にホーリーなど飛ばすが、それだけで倒せるほど吉次は甘くない‥‥
「怯んではいけません。高速詠唱のない術師は、下がって、詠唱に専念して!」
七神を中心にランクの違うホーリーフィールドを幾重にも張り、術者が結界で持ち堪えているが、いつまでもつのか‥‥
獣の知性しかない熊であれば、撹乱のしようもあるが、残忍で狡猾な吉次が憑依しているのだ‥‥
最も先に倒さねばならない相手を的確に突いてくる‥‥
しかも‥‥
「こいつ、図体の割りに速い‥‥」
他の冒険者たちが白兵戦を仕掛けるが、白兜の巨体そのものが、一撃瀕死の打撃武器である。
一撃狙いの冒険者たちは近寄るに近寄れず、回避に優れた者は掠り傷を負わせるのが精一杯‥‥
駄目かと気持ちが折れかけた瞬間‥‥
「南無八幡大菩薩、日光大権現、宇都宮権現、温前大明神、悪鬼退散に加護垂れ給え!」
ぎゃうっっっ!
那須与一と那須軽騎兵の大合唱と共に、流麗な所作で強弓から放たれた風切り音が戦場を震えさせる。
「悪いけど、白兜には死んでもらうです」
レミエラで爆発範囲を抑えた七瀬水穂(ea3744)の超越ファイヤーボムが白兜の顔を焼いた。
いかに体力がある白兜といえど、強化弓から繰り出されるポイントシューティングの矢襖と超越火力では分が悪い。
そして、僅かなりとも足を鈍らせる冒険者たちではなかった。
「右脚を狙って!!」
七神の声に兵が殺到し、ついに白兜の巨体を横たわらせる。
「くそっ‥‥」
憑依を解いた吉次が空中へ逃れた。
「部長命令なのですよ! 医局員、一斉斉射! 焔法師、火の鳥の術♪」
那須医局員たちのオーラショットとホーリーが乱れ飛び、七瀬の超越ファイヤーバードで滅多打ちして吉次を吹き飛ばす。
「カイを救援せよ。撃て!」
那須軽騎兵の集中弓射に怯んだ吉次に、カイは海王の槍を突きたて、霧散させた‥‥
吉次2体と白兜を撃破した那須軍だったが、代償は大きかった。
蒼天隊は被害甚大。そして‥‥
「カイ様‥‥ 三途の川を渡ったりしたら、許さないから」
涙して口づける七神の腕の中には、事切れたカイの体が‥‥
この場に蘇生を行える者はいない。それができる仲間を呼び寄せるにも、この混乱した戦局では‥‥
「負傷者には護衛と治療班を残し、本隊は霽月城の救援に向かう」
与一公の号令一過、七神たちを残し、那須軍は進撃を再開した。
●時間稼ぎ
「この中にデビルはいません‥‥ 悪魔魔法で操られているとでもいうの?」
味方を攻撃する義経兵たちの行く手をフィリッパたちは塞ぐが、魂を奪い操る法や言霊を使う悪鬼がいるのはわかっている。
ゆえに、簡単に手を出すことは、できない‥‥
このままでは、クーリアたちも動死体として大切な仲間を襲うようになってしまいかねない‥‥
それだけは嫌だ‥‥
『鬼は姿を変えているだけ‥‥ 勇ましき娘よ。本質を見抜くのです‥‥』
鞍馬山の大天狗・僧正坊の優しい声が、クーリアの心に響いた。
「はっ‥‥ みんな! 言葉を掛けて、私たちのわからない返事をする相手が鬼だ」
ごぶごぶっ!
僧正坊の言葉と自分の判断を信じ、教会の刃・クーリアは冷徹に戦神の盾で剣を受け、ミョルニルで叩き潰す。
「イザナギ‥‥ 嫌な戦い方をしますね‥‥ これでは、助けにもいけない‥‥」
切り崩され、撃破された死体は、しばらくすると魔法が解け、鬼へと戻った‥‥
コアギュレイトで動きを封じた鬼に、フィリッパは降魔刀を突き立てた。
特大の火球を鬼軍に叩き込む七瀬の隣で、隠れ里のエルフたちの放つ精霊魔法がイザナギ地上軍の一角を崩す。
そこを那須軍が騎乗弓射でこじ開け、錐揉み、軍勢で抱え込んだ義経軍の負傷者を医局員たちが気功と念仏で癒してゆく。
「那須に存在する全ての勢力を一致団結する退魔同盟、ある種の理想かもしれませんね」
この戦場にこそいないが、河童イグの率いる水中機動部隊たちも、イザナギ軍を川で寸断しているはず。
「もはや、隠れては生きていけない時代なったのかもしれません」
エルフの若長は、曲者の大百足を空中に落し、地面に叩きつけた。
那須軍による徹底的な矢と魔力によるアウトレンジ攻撃で、天義隊や伊達騎馬隊の機動力も復活してくる。
「勝てる‥‥」
九竜の呟きは、疲弊の極にあった義経軍、誰しもの代弁であった。
「イザナギが本丸に取り付いている。指揮は任せて、来迎寺たちは決戦の場へ行け!」
「重蔵さん、格好つけても駄目。腰が痛くて、動けないでしょ」
「霊薬を何本か置いてゆけ。後は何とかする」
あの歳で朱槍を振り回してりゃ、腰も痛めるわ‥‥とか思うが、この元気な爺さんを見てると、へたってはいられない。
「四天王の働き場所は、義経公にべったりって訳じゃないって!
守備隊だけ残し、全軍で出城から討って出る! 那須軍の後背を狙ってる鬼軍を蹴散らすよ!!」
重蔵に霊薬を投げると、来迎寺は義経公より贈られた愛馬・秋水に跨る。
「敵の増援は途絶え、那須軍も来た! 我らがすべきは、敵を城に取り付かせないこと! 一刻も早く、敵を一掃することだ!!」
佐藤継信の訓令に、どこからとなく鬨の声が那須軍と義経軍に伝播してゆく。
「猟兵隊、突破口を広げるよ!」
「負けてられるか! 歩兵隊、俺に続け!」
来迎寺や九竜たちが逆襲に出た。
「与一公! 乗ってください!!」
「頼む!」
フィリッパの天馬に与一公が相乗りした。
「勿論、御供するですよ♪」
七瀬が焔の翼で舞い上がった。
●決戦
「厄介な奴がいるな。僧どもから殺せ」
超越レジストデビルの加護で悪魔魔法や言霊に抵抗し、右手の炎の紋章を全開にしたイザナギの炎の息の威力すら減じる。
おまけにエボリューションをニュートラルマジックで解かれた隙を突かれ、縊鬼ら下級悪鬼たちを減らす基点となっていた。
しかも、フィーネの周囲であれば、義経兵は即座に蘇生されてくる。
さすがにクローニングが必要なほどの損失を被った者は、戦力が落ちてしまうものの、異常なしぶとさはイザナギを辟易させた。
「日本武尊‥‥ ご存知でしょう?」
フィーネは語りかける。イザナギを封じた者がわかれば、今後の事態収拾の一助になるかもしれない‥‥
「大神は1人でいい。いずれ異痕の術を紐解き、全てを飲み込んで唯一大神となる俺に、日本武尊ごとき小神の話などするな」
「でも、そんなあなたを分割し、封印した者がいるのでしょう?」
「くはは! 使徒たちだけで俺を止められるなら、やってみせるがいいさ」
言う間にイザナギが投げつける岩がフィーネと僧兵たちの周囲を埋めてゆく‥‥
継続的な質量衝撃に、いつまでも耐えられるほど、結界は万能ではない‥‥
「何とか隙間ができれば‥‥ 仕方ない。御免‥‥」
一縷の望みを託して、マイユは僧兵を何人かアイスコフィンで封じる。
「これで邪魔は入らん。契約を守ってもらおうじゃないか」
やがて、フィーネたちを覆う岩の天蓋が崩れた。
「悪いが、俺が頼んだ天は、貴様ごとき悪鬼に零落れたものではない。勝手に勘違いされては迷惑だ!」
「どう思おうと、お前の勝手など何の意味もない」
「そっくりそのまま、言葉を返してやる」
手持ちの霊薬や護符に限りがある。フィーネの超越リカバーがないのは痛い‥‥
「城下の大火球‥‥ どうやら那須軍が到着したようだね‥‥」
「もう少し持たせなければ‥‥ イザナギを倒してしまっては、元の木阿弥なのが辛いですね」
「だが、これで作戦の目処が立った‥‥」
作戦の要目を守るには、無茶を承知で時間を稼がねば‥‥
「明士郎!」
「はい!!」
義経と陸堂は、枯れかけの魔力でオーラマックスを発動させた。
「やった」
ミラージュコートで姿を隠し、アイスコフィンで怪鳥を氷漬けにしたマイユが、小さくガッツポーズ。
激戦に次ぐ激戦で、幹部の吉次は全滅する中、義経軍の本丸守備隊も戦闘力を失っていた。
気が付けば、イザナギ軍は全滅といえる損耗を負っていた。
絡め手の洞窟を塞いだり、敵地上兵力が取り付けないよう、守りを堅くしていたのが功を奏したといえる。
すっ‥‥
イザナギを過ぎる影‥‥
顔を上げようとした瞬間、七瀬の炎の翼が頬を叩く!
「猪口才な! 新手か!!」
殺気に驚愕したイザナギが天輪の中に見たのは、天馬の背でエルフの神弓を構える与一公の姿‥‥
「禍ツ神よ。二度と蘇らせぬよう、封じてくれる!!」
「人の力を見くびっていたのか? この私が? えぇい、神をも凌ぐ力を手に入れて何とする‥‥ 人間どもよ」
那須与一の放った矢が命中し、イザナギの身は石と化した。
「終わった‥‥」
怪我を承知でイザナギの石像を受け止めた義経公たちは、思わず膝をつき、寝転がり、そして気を失った‥‥
●封印者
「これで少しは平和になるでしょう‥‥」
馬頭寺の要石の下に石化したイザナギは封印された。
殺せば、地獄で復活して、いつか地上に現れる。
それを阻止するための方策だけに、あぶほぅすのいる荒野のどこに隠したのかは、秘中の秘だ。
「俺が死んだら、また泣いてくれるかい?」
「いやです。私のために死なないと誓って」
「楽しいときも、苦しいときも、共にあることを誓うよ」
七神の額を、カイの胸が受け止めていた‥‥
「らっぶらぶぅ♪」
「どうでもいいが、封印の術者としての自覚はあるのかねぇ‥‥」
「大丈夫ですよ。きっと。私としては、最善の人選をしたつもりなんですから」
「そうですかぁ?」
白狼神君の溜息に、与一公は微笑む。
要石の封印の術式は、あぶほぅすの邪印と共に、七瀬の両手の平に封じられた。
まぁ、七瀬が集中しなければ、紋様は現れないから、お嫁にいけなくなるわけじゃあなかろう。
あとは、本人の努力次第‥‥
「カップルの誕生ですね。ところで、義経様の好みの女性は、どのようなタイプなのですか?」
「僕の? そうだなぁ。芯の強い人がいいかなぁ‥‥って、夕陽が綺麗だぞ」
フィーネの突然の振りに、義経は赤くなって走ってゆく。