【毛州三国志】蘆名解放戦争

■イベントシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:53人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月20日

リプレイ公開日:2010年08月23日

●オープニング

 金売吉次一党の壊滅で、騒乱が収まれば、那須は一応の平安を得るのだが‥‥
「与一公。僕としては、放ってはおけない事態がある‥‥」
「お聞きしましょう」
 那須与一に促され、源義経が話し始める。
「熊鬼王・王熊に蘆名藩が占拠され、民が奴隷となっていることを、僕は放置できません。
 本来なら敵と拒絶されても仕方ない状況の中で、与一公と朝綱公は那須の鬼退治に助勢したいという僕らを受け入れてくれた。
 だから、那須に一区切りつくまでは‥‥と思っていたんです」
 義経の熱い視線に、那須与一は何も言わず、小さく頷く。
「僕は、蘆名藩を助けに行きたい。支えてくれる家臣たち、兵たちの中にも、きっと理解してくれると思うんだ。
 政宗公からも出陣要請が来ているけど、政治的な思惑とか関係なしにでも助けに行きたい。
 そのためには、白河の通行を許してもらわなければならないと思って‥‥」
「ならば、義経軍は八溝霽月城を拠点に使われるといい。那須からも兵を出しましょう。
 藩内の守りを手薄にするわけにもいきませんし、600が限度ですが」
「いいのですか? 600と言えば、総動員をかける必要があるのでは?」
「それは義経公が心配する問題ではありません。それに、我が藩だけの問題でもありませんしね」
 与一公が並べる書状の差出人は、藤原秀衡公、伊達政宗公、上杉謙信公‥‥
「実は、先に保護した蘆名武士たちの嘆願もあって、江戸と京都で水面下の調整をしていました。
 家康公の戦死という驚く事件もありましたが‥‥」
 与一公は、眉を寄せ、深くため息をつく‥‥
「しかし、奥州との確執深い家康公がいなくなったことで、一気に、この蘆名解放の話が進んだのも事実‥‥
 何が幸いするか、わからないものです‥‥」
「読んでも構いませんか?」
「構いませんよ」
 書状の内容に、義経公が瞳を輝かす。
 藤原公からは、悪路王を含む蘆名藩北方の妖魔百鬼を牽制するとの確約文‥‥
 政宗公からは、仙台藩から蘆名藩内へ軍を送るので、那須に援軍を求めたいとする要請文‥‥
 謙信公からは、親征の折、自ら出陣できるかわからぬが、義によって救援せんとすとの回答文‥‥
「政宗公の江戸入城の折、那須藩通過を要求してきたときは、一触即発だったんですけどね」
「何があったのです?」
 もういいでしょうか‥‥と、与一公は笑う。
「那須を通りたかったら、伊達の姫を輿入れさせ、加えて持参金として黄金1万両と軍馬100頭を要求したのですよ」
「それはまた‥‥」
「こちらとしても受け入れがたしという意思表示だったんです。
 後は皆が知るように、死人が跳梁する常陸方面を突破して、伊達軍は武蔵へ辿り着いた。何事もなかったようにね」
「行軍中に山賊どもを返り討ちにしたと、政宗公からは聞いていたけど‥‥」
「そう、何事もなかったかのように江戸に現れたと知ったとき、感心したものです」
 それから、各方面へ外交を続け、今回の蘆名救援の仕儀となったという‥‥
「与一公は、数年越しで外交を続けてきたんですね‥‥ 僕なんか、とても敵わない‥‥」
「そうでもありません」
 恥ずかしそうにする義経公に、与一公は安祥神皇の勅命書を示す。

『源氏棟梁・判官・源九郎義経。蘆名藩の救援を命じる。諸藩諸侯と協力すべし』

 家康公がいれば、源氏棟梁のくだりが火種となるが、現在の源徳勢なら説得する余地はあろう。
「源氏棟梁の件は、調停委任の日向殿の顔を立ててくれるとありがたい。
 そして、これは鞍馬山の僧正坊からの義経公へ。我が藩士・クーリアが、私宛に書状を預かっていましてね」
 封を開けると、九葉の太刀。あしらわれた羽は、新緑に色づいていた。
「文によると、元々は『髭切りの太刀』と呼ばれる、源氏棟梁に受け継がれてきた名刀だそうです。
 僧正坊様から、義経公が、持つに相応しい人物であれば渡してほしいとありました。
 私たちの誼の証として、これを『今剣(いまのつるぎ)』と名付け、義経公に佩いていただきたい」
「わかりました。御好意ありがたく、いたみいります」
 身の回り以外にも、知らないところで自分を応援してくれる人がいる。
 それが、源義経には嬉しかった。

 福原郷神田の八幡宮にて‥‥
「源氏棟梁・源義経の名の下に蘆名救援の兵を起こす!
 蘆名藩の解放は、父がわりであった藤原秀衡公からの頼みであり、奥州副王・伊達政宗公らも援軍に駆けつけてくれる。
 恩深い那須与一公にも加勢頂けることとなり、戦神・上杉謙信公の助勢もある。
 後の世に退魔戦記として語り継がれる戦とせんことを、福原八幡宮にて皆に誓おう!!」
 源義経の宣誓により、今、蘆名解放戦争が始まった。

※ 関連情報 ※

■熊鬼■
 熊鬼軍500以上(詳細不明。完全武装の熊鬼を中心に、小鬼や犬鬼などを足軽に擁する)

【王熊】
 逆巻く髪に赤い瞳をした、兵法家の鬼王。直属の熊鬼武士は、黒一色の武具に身を包む。


■義経■
 義経軍300(親衛隊40、天義騎兵30、伊達騎馬隊20、歩兵隊100、猟兵隊40、毛野坊隊10、武蔵坊隊10)
 八溝霽月城兵50(侍10、足軽25、その他15)

【源義経】
 源氏直系の少年武将。亡命先の奥州藤原氏から、伊達政宗と共に江戸入城を果たした。
 家康は父の敵、源氏棟梁‥‥と政争の具とされていることに気づき、それを好まず、独自の道を歩み始めた。
 1日1日と成長を続け、家族と思える仲間たちと信頼を重ねている。

【佐藤兄弟】
 継信・忠信の兄弟。義経家臣の中でも右腕・左腕と呼ばれる。元は奥州藤原氏の武士。

【重蔵】
 義経軍で折衝役を務める客将。隠居出戻りの坂東武士で冒険者。
 剣術と闘気魔法に優れるが、時折、瀕死級の腰痛に見舞われるのが珠に瑕。

【義経四天王】
 佐藤兄弟、陸堂明士郎、来迎寺咲耶の4名。侍大将以上の地位にあり、義経の信頼篤い。


■那須■
 与一隊300(侍80、医局員20、御家人40、足軽70、蒼天隊40、密偵40、エルフ魔法戦士10)
 赤士虎隊50(大将・福原資広)
 白河小峰城300(大将・杉田玄白、後詰め)
 ※)御家人は、騎乗戦闘力を持つ足軽で、那須軽騎兵へ編成可能
 ※)福原神田城200(大将・結城義永)、矢板川崎城400(大将・小山朝政)は藩内守備

【那須与一】
 下野国守。那須藩主。弓の名手。須藤宗高、藤原宗高、喜連川宗高などよりは、那須与一や与一公と呼ばれる。

【蒼天十矢隊】
 那須藩士として徴募された11名(欠員1名)の冒険者。
 退魔決戦や藩財政再建に功績を残すも、謀反の疑いにより解散。
 後に汚名返上し、那須藩預かりの冒険者部隊に『蒼天隊』の名が与一公から贈られた。

【白河小峰城】
 奥州と関東を結ぶ軍事と交通の要衝。

【八溝霽月城】
 那須藩東部の堅固な山城。城主は源義経家臣・陸堂明士郎。

【杉田玄白】
 欧州遊学の経験と博識で活躍する那須軍師。那須医局長。白河小峰城代。

【福原資広】
 志士。与一公の甥。与一公の兄である福原久隆の子。那須藩の客将。私兵の赤士虎隊50を率いる。

■奥州連合■
 藤原軍以下の連合軍1万数千は、奥州内の妖魔百鬼を押さえるため、蘆名へは入藩せず

■伊達■
 伊達軍600(侍150、足軽300、その他150、大将・猪苗代盛国)

【猪苗代盛国】
 蘆名藩家臣。蘆名藩滅亡の折、仙台藩へ亡命。今回は所領回復の軍を預かる。

■上杉■
 武名に恥じぬ大将と派兵を約するとのこと。

●今回の参加者

山王 牙(ea1774)/ 結城 友矩(ea2046)/ 九竜 鋼斗(ea2127)/ ルナ・フィリース(ea2139)/ カイ・ローン(ea3054)/ 七神 斗織(ea3225)/ 日向 大輝(ea3597)/ 七瀬 水穂(ea3744)/ 神田 雄司(ea6476)/ 九紋竜 桃化(ea8553)/ 白翼寺 涼哉(ea9502)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ フィリッパ・オーギュスト(eb1004)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ キルト・マーガッヅ(eb1118)/ 不破 斬(eb1568)/ 将門 雅(eb1645)/ 八城 兵衛(eb2196)/ クーリア・デルファ(eb2244)/ パラーリア・ゲラー(eb2257)/ 明王院 未楡(eb2404)/ 静守 宗風(eb2585)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ 玄間 北斗(eb2905)/ 所所楽 柊(eb2919)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ 将門 司(eb3393)/ ケント・ローレル(eb3501)/ シルフィリア・ユピオーク(eb3525)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ レジー・エスペランサ(eb3556)/ 将門 夕凪(eb3581)/ 明王院 月与(eb3600)/ アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)/ クリューズ・カインフォード(eb3761)/ 桐乃森 心(eb3897)/ 葛城 丞乃輔(eb4001)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 宿奈 芳純(eb5475)/ マイユ・リジス・セディン(eb5500)/ 木下 茜(eb5817)/ ルンルン・フレール(eb5885)/ 鳴滝 風流斎(eb7152)/ 水上 銀(eb7679)/ エル・カルデア(eb8542)/ ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)/ 各務 蒼馬(ec3787)/ 来迎寺 咲耶(ec4808)/ 叶 陣護(ec5084)/ リンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)/ アザスト・シュヴァン(ec5560

●リプレイ本文

●星辰一耀
 イザナギ決戦の影響で進発が遅れる義経軍のことを考慮し、那須軍は伊達軍と共に猪苗代湖を東回りに北上する作戦を発した。
 伊達軍大将・猪苗代盛国の所領を奪回し、補給や救護のための機能を持たせて、今作戦の橋頭堡にしようというのである。
 これは、いざ敵の知るところになったとしても、敵の目を北に向けさせ、義経軍と上杉軍のための陽動になる思惑もあった。
 緒戦において、那須軍・伊達軍は、忍者や密偵を中核とした、総勢100にも及ぶ先行偵察遊撃隊の投入していた。
 この先遣隊の活躍で、猪苗代領の都市部だけでなく周辺農村なども解放され、奴隷や人質にされていた武士や民の保護に成功する。

 ところが、王熊の陣取る会津若松を目指せの声が高まる中、那須軍と伊達軍は猪苗代領内で遅滞していた。
 猪苗代盛国が、猪苗代領内の安定なしに進軍しては補給が危ういなどと理由をつけて進発を遅らせたのが原因である。
 確かに仙台藩との補給路は太くなりつつある。それに、兵に休息を取らせることができ、また、救護所も初期の軌道に乗った。
 だが、今この時も最前線にある先遣隊は、時間が経てば立つほど敵軍に隠密行動を知られる確率が高まっているのだ。
 加えて、仮に那須軍と伊達軍が遅れ、上杉軍や義経軍が敵中に孤立すれば、補給が望めない状況だけに壊滅もあり得る。
「問題は猪苗代領に留まりません。我らだけでも先に行きます」
 単独で軍を進めれば、伊達の黒脛巾組の支援が薄くなる。危険度は増すが、時間を浪費するわけにはいかない。
 結局、那須与一公は、那須軍だけで侵攻する決意を下した。
「苦しい戦いになりますね。伊達は何かを狙っているのでしょうか?」
「それを言ってはいけません。最も苦しいのは伊達の兵士でしょうから」
 大将が軍を動かさないと言っているのだ。勝手に兵を動かせば、軍規違反で命の保障はない。
 騎馬を並べる与一公とルナ・フィリース(ea2139)の視線の先には、唇をかむ伊達の兵士の姿があった‥‥

 那須軍が単独出撃を決めたころ‥‥
 奥羽街道を北進し、猪苗代湖の南方から源義経公の一軍が蘆名藩へ侵入していた。
 いまのところ鬼軍に察知された気配はないのは、金売吉次、いや、イザナギの忍者組織を壊滅させたことが功を奏しているのか?
「曲‥‥」
「しぃ‥‥ 話を聞いてくれん?」
 義経軍も、将門雅(eb1645)ら忍者や猟兵を大量投入し、鬼軍の支配域を秘かに削り取る作戦を進めていた。
 これが有効なうちは、できるだけ民を保護し、蘆名兵を内応させるのが初期の作戦だからだ。
 王熊が、蘆名兵を使い捨ての駒にしたり、人質を盾にすることは周知の事実。
 罠にはめる餌にしたり、見せしめに殺したり、鼻や耳を削いで恐怖心を煽ったり、冷静さを失わせる策をとることも‥‥
「鬼軍の見張りがおらんなら協力して。見張りがおるならこそっと教えてね。仲間がうまくやるから」
 この時期に雪中行軍など、普通の神経なら行うはずもないとでも思っているのか、熊鬼軍は見張りや伝令は最低限だとか‥‥
「にゃは。そもそも足軽の犬鬼や小鬼たちも絶対数が不足しているみたい」
 桐乃森心(eb3897)が物陰から現れる。敵は小勢で、どうやら主力は会津若松城で冬篭りらしい。
 関東討ち入りの影響で雑兵となる鬼の絶対数がいないのか、兵力の補充ができていない理由でもあるのか‥‥
 そこまではわからないが、敵雑兵が少ないのは有利な情報に違いない。
「このままやっても鬼軍に食われるだけや。義経はんや与一はんと一緒に明るい未来を考えん?」
 初対面で突然の訪問者に言われたからといって、信じられようか?
「うちは義経はんの御用聞きやから、商いの名目で復興支援を提案するから」
「鬼軍に従ったところで、希望もなく無駄死にさせられるだけ。人同士で殺し合いなどしたくないんですっ!」
 村を支配していた茶鬼たちを全滅させたことを伝えると、蘆名兵に涙が込み上がる。
「何が起こってるんだ?」
「義経はん、与一はん、伊達はん、上杉はん、そういった周辺諸侯が蘆名解放の挙兵をしたんよ」
 思考の混乱する蘆名兵が暫くして、予想外の事態を理解すると、思わず泣き崩れるのだった。

 この直後‥‥
 蘆名藩内を切り取りはじめた義経軍の元へ那須密偵が訪れ、伊達軍が動かないことを知らされた。
「最悪、我々と那須の2軍で戦わなければならぬ状況になりますな」
「城攻めには4軍のうち3軍は欲しいところですが‥‥」
 義経四天王・佐藤兄弟は、目線で大将の下知を促す。
「予定通りに軍を進めるよ。僕らが二の足を踏んで、伊達も上杉も足を止める最悪の事態だけは避けたい」
 だが、冬季の長期戦は無理だ。攻めあぐねたときの士気の低下も、普通の戦より影響が大きいのも間違いない‥‥
「4つの軍勢のうち、3軍というなら、僕らと那須で2軍。残りの1軍が、伊達になるのか、上杉になるのかは問題じゃない」
「城から出てきてくれれば、くれるほど、こちらとしては有り難い‥‥とは簡単には言えぬのが、冬将軍の怖いとこじゃがな」
「何にしても行くよ。信じないで共同作戦はできない」
 家康公の亡くなった経緯を忘れたか? 相変わらずの甘ちゃんと言わざるを得ないが、それが義経の良いところでもあった‥‥
「おぅ!」
 と掛け声ひとつ、義経四天王・陸堂明士郎(eb0712)や重蔵たちは腰を上げた。
「やれやれ、武人の誉れとは違うが‥‥ これはこれで」
「いやいや、これで武運には恵まれているんだぞ。あの御仁は」
「そう願うよ」
 苦笑いする歴戦の冒険者・結城友矩(ea2046)の肩を、重蔵がポンと叩く。

●猪苗代救護所
「クー、こいつを後方に送ってくる」
 ケント・ローレル(eb3501)は、馬の背に応急処置を済ませた怪我人を載せた。
「あん、こういうのは後で」
「だったら、戦が終わったら温泉行こうな! 妻の柔肌を守るのが旦那の務めだしよ〜♪」
「言ってることが無茶苦茶なんだから」
「だって、めでてェことが増えると家族増やしたくなってなァ〜」
「しょうがない人♪」
 鎧越しの柔肌を想像するお砂糖ナイトを、クーリア・デルファ(eb2244)はキスで送り出す。
 と‥‥
 作戦の橋頭堡・猪苗代に設置された救護所には、作戦によって解放された蘆名の民たちが保護されていた。
 どの顔も幽鬼のように落ちくぼみ、腹をすかせた姿は餓鬼のようだ‥‥
「可哀想に‥‥」
 弱々しくすがりつく子の口に粥を運びながら、那須医局課長・七神斗織(ea3225)の頬に涙が伝った。
「医師薬師の仕事は、戦後がほんとの肝心なのです! 那須医局の面子に掛けて、手を抜いたりしたらボコボコですよ!♪」
 救護所の手厚い看護は当然のこと、七瀬水穂(ea3744)部長率いる那須医局の面々の献身的な治療は、蘆名の民の心を打っていた。
「蘆名は、那須に攻め込んだのに‥‥」
 友軍の治療が作戦上の優先とはいえ、領民を見捨てることのなきよう‥‥とは、救護所設置に尽力する与一公や義経公の意向だ。
 冒険者たちからの義捐金などが運営に当てられ、特に与一公からは下野の薬草蔵が空にして構わないとまで下知が発せられている。
「国と国が争っても、それが人と人の争う理由にはならないと存じます」
 那須軍師にして、医師としても名を挙げつつある杉田玄白に会い、少なからず影響を受けた白翼寺涼哉(ea9502)が言う。
 敵兵士も見捨てずに救え。敵領民は見過ごさずに救え。いわんや自らの隣人をや。
 それが、今回の救護所に徹底されるところであり、それぞれの技量と那須の医術薬方をいかんなく発揮せよと達しが出ている。
「那須医局から薬草の追加です。そして、お子らには、これを」
 て、ででん‥‥ でん‥‥ で‥‥
 明王院未楡(eb2404)が空輸補給の合間に仲良くなった那須の子たちからの玩具の贈り物。
「ぅ‥‥」
 言葉を発することもできぬほど疲弊した子に僅かに浮かぶ微笑みに、未楡は一筋の希望を見た気がした。
「ほら、あばばばば。持ってきてよかったね、かあ様」
 孤児の赤子をあやしながら明王院月与(eb3600)が笑顔を振り撒く。
 地獄の沙汰も笑顔次第。そうやって地獄での戦いでも切り抜けてきたのだ。
 救護所が正常に設営・運営されていることを確認すると、彼女たちは一時の休息の後、飛び立ってゆく。
「1人でも多く救いたいですね」
「当然なのですよ♪ 救護所が前線へ出張る余力を得るためにも、ここはガンガン行くですよ〜〜♪」
 七瀬部長の元気に圧倒され、白翼寺たちにも自然と笑顔が零れた。

●仁義なき戦い
 この時期、那須の八溝霽月城へ襲撃があった。
 源義経や城主・陸堂、義経軍主力のいぬ間に、攻め落とそうとイザナギ残党が集結したのだ。
「動死体や怪骨などの不死兵たちは、遊兵のように八溝地方を徘徊中ですわ」
 キルト・マーガッヅ(eb1118)の偵察によると、敵は浪人や鬼など、およそ100と小勢。
 霽月城と連携態勢にある那須軍イグ隊や那須天狗たちが、これを各個撃破中とのこと。
「防備の補修は万全ではありませんが、守りを厚くしておけば大丈夫。守備兵は冷静に対処するように」
 留守居のアルディナル・カーレス(eb2658)は、霽月城守備隊50あまりに対して城を枕に防御に徹する正攻法を命じた。
 白河小峰城や矢板川崎城へ独断で伝令を送ったらしい。
 指揮官不足が明白なイザナギ軍を防御施設に引き込んで分断しては、矢は魔法で被害を与え、側背に討って出る。
 こつこつ築き上げて強化してきた防衛力を当てにした、地道だが確実な戦術に、敵は次第に消耗してゆく。
 そして、矢板川崎からの那須援軍50が、彼らの後背を突いたとき、完全に勝敗は決した。
「アル、陸堂さんに報告しますか?」
「そうだな‥‥ 多少の被害は出たが、緊急を要するものでもないし、杉田殿の後詰めに一報を託せばいいだろう‥‥」
 本気で霽月城を落とすなら、200以上の兵を集め、かつ、福原や白河や矢板などに陽動をかけるのが兵法というもの。
 仮に他方面と連携できているなら下野内の補給戦を乱すことにこそ、減じた兵力の活かしようがあったはず。
 よって、これ以上の規模の襲撃は考え難い‥‥ それが、那須宿老・小山朝政や霽月城留守居アルディナスたちの判断であった。

 一方‥‥
 本庄繁長が率いる上杉軍の揚北衆(あがきたしゅう)600騎は、豪雪に難儀しながらも阿賀野川を遡上。蘆名藩へ到着した。
「敵は鬼軍だけど、蘆名軍多数。人質が何人も磔にされてるよ‥‥」
 ベゾムに乗り、航空偵察したシルフィリア・ユピオーク(eb3525)は、愕然と事実を伝える。
 動揺しつつも上杉軍が対陣すると、熊鬼武者が上杉の陣の鼻先で口上を述べた。
「我は王熊の一門・刀鉄! 命が惜しくば、疾く去れ! 人は石垣、人は城! 兵法とは、このように使うのだ!!」
 敵将は豪快に笑って女の首を投げてよこすと、義を侮蔑する言葉を垂れ流して自陣へ戻ってゆく。
「なんて奴らなのかね‥‥」
 謙信公に僅かに知己を得ただけの水上銀(eb7679)でさえ、激しい感情を抑えられそうにないというのに‥‥
「全軍‥‥後退せよ‥‥」
 上杉の兵士たちの胸の内は如何ばかりか‥‥

●オウガとの決戦
 合流を果たした那須軍と義経軍の存在は、ついに敵に知られるところとなった。
「キツいのは、ここからです」
 王熊の一子・王牙率いる主力が会津若松城から討って出たのは意外だったが、これは好機でもあった。
 敵軍の一部を各個撃破できる、あるいは連れてきた人質を解放するという‥‥
「グハハハ! 篭城で大魔法に磨り潰されたり、奴隷救出の阻止に気を使うなど、愚の骨頂!!」
 那須・義経連合軍に迫る熊鬼将軍・王牙は、蘆名の姫の髪を掴み、前衛の蘆名兵に突撃を強要する。
 血の涙を流し、唇を噛み締めて、決死の突撃を敢行する兵士たちへ、ジークリンデ・ケリン(eb3225)ら魔法兵団が防御陣を引く。
 熱砂の雨で築かれた砂塁をも突き進み、焼け爛れた皮を引き摺りながら迫る彼らを見ては、魔法戦術を中止せざるを得なかった。
「しくじったかもしれませんね。悪かった視界が、さらに‥‥」
 もともと雪で視界は悪かったのに、熱砂のもたらした蒸気が視界を一層悪化させてしまっては‥‥
「蘆名兵との激突は免れそうにありませんか‥‥」
「別働隊が成功するまで、もたせるしかないですね」
 与一公も義経公も覚悟したのか、将几から腰を上げ、それぞれの陣に出撃準備の指令を下してゆく。

「熊さん、めっ〜だよ〜」
「えぇい! 怯むな! 撃ち返せ! 小蝿どもを近づけるでないわ!!」
 上空のロック鳥から矢を放つパラーリア・ゲラー(eb2257)に対して、熊鬼たちは膂力に物を言わせて強弓を唸らせた。
 きゃあおう! なまじの矢など受け付けぬはずのロック鳥が悲鳴を上げる!
「く、時間稼ぎもさせてくれぬのか! 元を辿れば人の争いが生んだ禍! なれど、義によって助太刀致すというに!!」
 敵の武具を砕いて回るアンリ・フィルス(eb4667)も、ついに纏わりつく蘆名兵を捌ききれなくなり、足止めを食らう。
 これが鬼であれば、躊躇なく首を刎ねるであろうし、オーラアルファーで吹き飛ばしてもくれようものを‥‥
「神よ‥‥ 加護を‥‥ 奇跡を垂れ給え‥‥」
「恨む‥‥な。主家のためだ」
 フィーネ・オレアリス(eb3529)が絶望の祈りを捧げるが、ホーリーフィールドで蘆名兵を遮るにも限界がある。
「鬼が悪いのではなく、人も鬼も同じ、慾と争いを望む心こそ戒めるべきなのに‥‥」
 平和を祈るフィーネの周りで倒れる蘆名兵たちの死に顔が、穏やかなのが唯一の救いか‥‥
「下種どもめ!」
「勅命により、討たせてもらう!」
 突入の好機を狙っていた結城や日向大輝(ea3597)も、焦る気持ちを抑えながら我慢の戦いを続けるしかなかった‥‥

 そのころ‥‥
 王牙隊本陣の後方を配置することに成功した那須・義経連合軍の別働隊は、人質救出作戦を実行に移した。
「それじゃ、派手にやるよ‥‥」
 義経四天王・来迎寺咲耶(ec4808)の符丁で、義経猟兵隊が矢を放つ。
「襲撃は失敗だ!! 退け!! 退け!!」
 鬼軍が追撃態勢に入ると、叶陣護(ec5084)たちによって索敵済みの脇道や間道を避け、敵を誘き出すべく猟兵隊は後退を開始。
 熊鬼武者の制止の咆哮も、勝利に興奮して追撃をかける茶鬼たちには効き目が薄い。
「かかったな。来いよ」
 忍者たちとの連携で熊鬼武者を間道に引き込み、これを叶たちは袋叩きにして撃破!
「深追いするなよ。領民を盾にされたんでは意味がないからな」
 八城兵衛(eb2196)らの猟兵分隊は、数合交えると、ソニックブームで巻き起こした雪煙を隠れ蓑に撤退。
 隊長格を失った鬼兵隊を、戦車の両輪の如く連携し、猟兵隊が引き回してゆく。
 一方‥‥
「ここで死んでも、家族がいずれ同じ目に合う! ならば、攻勢が始まっている今こそ、立ち上がれ!!」
 各務蒼馬(ec3787)ら隠密部隊に救出された人質たちは、蒼天隊に守られれて死力を振り絞る鬨の声を上げていた。
 この声よ、前線の蘆名兵士に届けとばかりに!!
「人質は救出しました! 福原殿、出番です!!」
「待っておったぞお! 敵は鬼軍! 手加減無用!!」
 那須蒼天隊長カイ・ローン(ea3054)の一報を待っていた与一公の一門衆・福原資広率いる赤士虎隊の暴力は容赦を知らない。
 圧倒的な魔法力と一騎当千の剛剣の連携が、まさに小鬼や犬鬼を蹴散らし、鎧袖一触、完全武装の熊鬼をも物ともしない。
 まして、蘆名兵の肉の壁さえなければ‥‥ いや、蘆名兵たちまで反乱しては、王牙自慢の熊鬼軍の陣など機能すべくもない!
「鬼に二度と南下する気を起こさせないよう、那須に蒼天隊ありと思い知らせてやろうじゃないか」
「了解した。だが、下手に突っ込むと赤士虎隊の攻撃に巻き込まれる。気をつけてくれよ、隊長」
 人質を奪回せんと突撃をかける熊鬼武者の背後を微塵隠れで取ると、各務は兜面の隙間を狙って刃を滑り込ませる。
「よくもっ、よくもっ!!」
 反乱した蘆名の兵と民の向こうでは、赤士虎隊によって業火で焼かれ、衝撃波で切り刻まれ、鬼軍が地獄へと叩き落されていた。

「那須蒼天隊が人質救出に成功。なお、義経軍遊撃隊、那須赤士虎隊は、敵本陣への攻撃を開始しました」
 空飛ぶ箒で敵陣を突っ切った玄間北斗(eb2905)は、傷を負いながらも無事に那須・義経連合軍本陣への伝令を果たした。
「伝令、大儀! 総掛かりの準備を!!」
 両軍による総掛かりが始まれば、数の優位も士気の高さも連合軍が有利。勝負が決するまでに時間は掛からなかった。
「話に聞く赤頭とやら、また来ると思うかねぃ?」
「油断は禁物だが、本当に観戦だけだと有り難いところだな」
 義経公の直衛たる哉生孤丈(eb1067)は、アザスト・シュヴァン(ec5560)の乗騎の背を借り、義経公の騎馬突撃に乗じた。
「敵騎兵隊、本陣へ接近!」
「密集せよ。突撃態勢!!」
 最後の足掻きとばかりに、損害無視で乱戦を抜けてきた犬鬼狼騎兵だ。数は少ない。
「皆の衆、遅れを取るなよ!」
 重蔵に遅れまいと騎馬隊が一斉に大地を蹴る姿は、敵防御陣地を大魔法で遠隔攻撃する魔法兵団とは違った趣で心逸らせる。
 びゃびゃっ! と、アザストらの騎乗射撃で撃ち減らすと、蹄で地鳴らす一丸の軍馬が、鬼軍騎兵を木っ端微塵にした。
「新撰組が義経公を守る。不思議な感じだけど、こう言うのも良いもんだねぃ」
 朱槍を並べて迫る王牙の黒色槍兵団の闘気に、哉生は思わず唾を飲む。
 そこへ側面からの那須軽騎兵の一斉射撃!
「えぇい! 猪口才な!!」
 王牙の悲鳴ともとれる怒号は、熱砂の雨に、溶岩の柱に、局地地震に、掻き消される。
「人間どもめぇ! やらせはせんぞぉおお!!」
 飛来した天馬騎兵・九紋竜桃化(ea8553)フィリッパ・オーギュスト(eb1004)らに王牙は討ち取られ、その軍も消滅した。
 ただ、肝心の蘆名の姫が影武者などと、姑息というか、卑劣というか‥‥ 王熊、許すまじの念を新たにするのだった‥‥

●時代の闇
「奥羽に名高い熊鬼武者といっても、俺と夕凪の連携の敵ではないなぁ〜」
「戦い中で無駄話をしないの」
 熊鬼武者の朱槍を得物で受け流しながら、将門司(eb3393)は将門夕凪(eb3581)を小脇に抱えて一足飛び‥‥
 ちぃ‥‥
 得物を潰されて舌打つ司は、脇に着地した夕凪の代わりに熊鬼武者は朱槍の柄を司に抱え込む。
「司と私の連携の敵ではありませんね」
「だな」
 十二形意拳・巳の奥義が手刀が顔面を捕らえ、ごうと熊鬼武者が倒れこんだ。
 視界の向こうでは、赤士虎隊・蒼天隊の猛烈な攻撃が繰り広げられている。
「那須軍への救援の必要はないようだな」
「むしろ邪魔になるかも」
「遊撃隊は引き続き、敵本陣後方を突いて、蒼天隊の撤退と味方主力の反撃を陽動する」
「‥‥ 宗風サン‥‥」
「応」
 義経軍の遊撃隊長・静守宗風(eb2585)は、目端に引っかかった赤毛の子供の異質な姿に寒気を感じた‥‥
「悪・即・斬‥‥ 壬生の狼の剣、その身で味わえ!」
 ふわりと宙に浮いて逃れた子供は、僅かに届いた切っ先で布が斬れ落ち、赤髪が露にする。
「赤頭だな?」
「危ないなぁ。せっかく観戦してたのに」
 行軍中に保護していた蘆名の民に紛れていたのか? いや、この時点で発見できて良かった‥‥
「そんなに警戒しないでよ。王熊たちを助ける義理なんて最初からないから。それに、悪路王への義理も返したしね」
 赤毛の少年は、不敵に笑いながら宙で逆さになって、おどけて見せた。
「どういうこと?」
 静守の隣で、所所楽柊(eb2919)は殺気を放つ。
「俺らには住みにくい時代になりそうだしね‥‥」
「何が言いたいか聞いているんだが?」
「怖い怖い‥‥」
 赤頭は首をすくめて高度を取る。
「イザナギを討ち取り、また、ここで悪路王に何もさせずに、王熊の軍を全滅させるとはね。人とは、全く侮りがたい存在だよ」
 いずこへとなく赤頭は去っていった。

●会津若松攻城戦
 王牙を破った那須軍と義経軍は、伊達軍との合流を得られずに会津若松城攻めを決行。
 問題は城内の人質の正確な数と安否だが、攻めながら救出を行うしか方法がないのは、作戦立案から懸念されていたこと。
 攻めあぐねて士気を落とすより攻略を開始するしかないという判断だったのだが、いざ攻めてると損害は馬鹿にならない‥‥
 主力部隊の攻撃を囮に隠密部隊を潜入させた。
「軒猿も大したもんだね‥‥」
「うん。忍者部隊で刀鉄を急襲して鬼軍を骨抜きにしてしまうとはねぇ‥‥」
 水上とシルフィリアは、上杉軍が耳目を集めている影で軒猿たちと会津若松城へ潜入していた。
「ん? 上杉の忍びと心得るが如何に?」
 見張りを倒した葛城丞乃輔(eb4001)が、気配に気づいて警戒する。
「遅参して済まない。他国の忍びと協力することになろうとは思わなかったが、今は使命の全うしようではないか」
「ルンルン忍法穏身の術‥‥ バッチリ見ちゃいました。あっちです!」
「と、今は無駄話をしている場合ではなかったな」
 ルンルン・フレール(eb5885)の報せに、軒猿と葛城たちは物陰へ消えてゆく。
「は〜い、ぱっくん♪」
 鳴滝風流斎(eb7152)が気絶させた豚鬼を、ルンルンが口寄せした大蝦蟇が一飲み。そのまま忍法を解除して、2人も闇に消えた。

 そこへ遂に援軍が来た!
「鬼畜王熊! 必滅必罰!!」
 烈火の如き本庄繁長の号令で、会津若松城へ攻め上る上杉軍。
「仏敵退散を邪魔すれば斬る。だが安心せよ。義を守り抜いた者には毘沙門天の御導きがあろう!!」
 武具に法衣を羽織り、憤怒の形相で『北倶盧洲守護 毘沙門天』の幟を圧し立てる威容に、かの蘆名兵も怯まずにはいられない‥‥
「馬鹿な‥‥ 刀鉄は如何にした!!」
 呪いの言葉を吐きつつも、王熊も上杉軍へ黒色槍兵団の主力を割く他はない。
「をん、べいしらまんだや そわか!」
 攻め寄る上杉軍が毘沙門天の真言を奉じる声が戦場に響く。
「なうまく さんまんだ ばざらだん かーん!」
 それに義経軍は不動明王の真言で応じ、戦場が異様な雰囲気に包まれた。
 だが、この時点で、王熊鬼軍の兵力は500あまり。対して、負傷者・死者を後送し、三軍合わせて1300に足りず。
「那須法師隊が足場を作ったら踏み込む」
 九竜鋼斗(ea2127)ら手練の冒険者を足軽頭に那須歩兵が防御陣地に取り付いた。
「任せるですよ。エルフさんたちと魔法投射なのです♪」
 那須の隠れ里のエルフ魔法戦士が数人掛かりのサイコキネシスで防護柵を押し倒し、アイスコフィンで蘆名兵を無力化。
 七瀬の業火球が鬼軍を選んで叩き込まれ、那須天狗の修験者や那須医局員たちのコアギュレイトが敵の動きを封じてゆく。
 それでも攻めきれるか微妙なところへ、現れたのは伊達軍600!
 3倍以上の兵力で囲めれば、勝機は十分。あとは、人質をどれだけ解放できるかだったのだが‥‥

●王熊の最後
「蘆名の姫を殺せ! 奴隷たちも全て殺せ!! 思い知らせてやれ、自分たちが何をしているのかをな!!」
 まだまだ肉の盾を使って戦いを引き延ばせると高を括っていた王熊は、予想外の伊達軍の猛進に苦戦していた。
 兵たちの戦の声の中に、阿鼻叫喚の叫びと獣の雄叫びが混じり、毘沙門天と不動明王の真言が響き渡る様は、狂気への誘い。
「早いっ‥‥ 突入が速すぎる‥‥」
 武蔵坊隊を伴って布陣した陸堂明士郎(eb0712)は、蘆名最後の姫の御命のためにと奮戦する蘆名兵と切り結びながら叫んでいた。
 戦場に後着した伊達軍は、敵陣の薄い部分を見抜き、蘆名兵を薙ぎ倒して城内への侵入を果たしたのである。
 人質救出の目処さえ立てば、争う必要のない蘆名兵にも容赦はなく、蘆名の民を盾にされても冷徹に踏み潰す。
 想定外の猛攻に、王熊も混乱を隠し切れぬのか、防衛線は寸断され、兵力は分散し、王熊は本丸館へ押し込められていた。
 大魔法飛び交うだけでも大混乱の戦場で、一方面の混乱に気づく者は少ない。
 熊鬼武者たちは持ち場に手一杯で気が回らないし、前線の蘆名兵たちも目前の四公軍しか見えていない。
 そもそも命令系統が混乱して伝令も走らない熊鬼軍に統制を求めるのが無理な話である。
「このまま無理押しでは人質が危ない」
「1人でも多く人質を救いたければ、ここは任せて、お主も無理を押し通すのじゃ」
 無茶を承知でアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)が独断専行を提案する。
「しかし‥‥」
「強行潜入した隊だけでは間に合わないと思っておるのなら、行くしかないじゃろうが」
 決断を迷う陸堂にアルスダルトは怒気を孕ませた。
「武蔵坊隊のホーリーフィールドと術師と弓兵の支援で暫くは持ち堪えられる!」
 アイスコフィンで蘆名兵を凍らせ、義経家臣マイユ・リジス・セディン(eb5500)は大きく頷いた。
「任せてくれ。時間が勿体ない! 早く行け!!」
 熊鬼武者に渾身の一矢を撃ち込みながら、レジー・エスペランサ(eb3556)が背中で叫ぶ。
「飛行できる者は、俺に続け! 一気に突入する。ただし、命の保障はない。志願者のみでいい!!」
 ウイングシールドで飛びあがった陸堂は僅かな仲間と共に死線に突っ込む。
「敵に射撃させるな! 陸堂隊歩兵総員、射撃用意!!」
 レジーや歩兵たちの弾幕に合わせて陸堂たち飛空隊が突入する。
「行ったな。不動明王の化身が。武蔵坊隊、正面防御! 結界を張れ!!」
 クリューズ・カインフォード(eb3761)は、『大聖不動明王』の旗印を見上げた。
「ここを支えることこそ陸堂明士郎と戦ったという証。夢想流の全てを出し切ってやる!!」
 異変を察知した神田雄司(ea6476)ら義経遊撃隊の一部が陸堂の抜けた穴を埋めるべく、横槍を入れた。
「助かる。押し返せ!!」
「他の隊との連携を取るんだ!!」
 結城や日向、アンリたちも含めて一騎当千の兵たちをしても、ここが陸戦の正念場だった。
 そもそも、蘆名兵の無力化・人質救出・治療・救護など、消耗しきっていた那須軍と義経軍に対応する余力は残されていない。
 着陣したばかりの上杉軍も王熊の主力を当てられては撃破には時間が掛かればこそ、他の3軍は伊達軍の突貫に対応できていない。
 悪鬼や悪魔がこの場にいれば‥‥ そう、イザナギでもいれば狂喜するような世界が、そこにあった。

「一気に本丸を落とすのだ!!」
 猪苗代盛国の命令に不満を覚えながらも、伊達軍は一丸となって攻め上がる。
「このような戦いっ‥‥ 伊達の名を汚すのではないか?」
 天馬が羽ばたき、塀を足場に眼下の敵に矢を射ると、イリアス・ラミュウズ(eb4890)は馬体を巡らして着地する。
「こうなってしまったものは仕方ないさ!」
 こうなってしまっては、王熊を討ちもらすことこそ、取り返しがつかない。
 山王牙(ea1774)はテンペストを振るい、ソードボンバーやバーストアタックで敵を蹴散らしてゆく。
「猪苗代盛国殿が作戦を蔑ろにするなど、誰も考えませなんだ」
 テレスコープやエックスレイビジョンなどを駆使して、王熊の居所を探し出した宿奈芳純(eb5475)。
 どうやら、抜け道を使って落ち延びようとでもしているようだ。
「足止めしてみせます」
 疾走の術を使い、木下茜(eb5817)は黒脛巾組たちと共に先行しはじめた。
「せめて、王熊の首級だけは盛国の手柄にしてたまるか!」
 天馬騎士イリアスは、危険を承知で宙に舞う!
「行ってください! 私たちも同じ気持ちです!!」
 視界内の鬼たちを一斉に石化させ、エル・カルデア(eb8542)が叫んだ。

●戦いで残ったもの
 会津若松城は大乱戦の末に炎上し、潜入部隊の潜入も空しく、多くの人質の命が失われた‥‥
 独断で強行突入を行った陸堂たちやパラーリアたちが救えた人数も限られていた。
 猪苗代盛国の猛進が多くの連合兵士の命を救ったと、後世の歴史家たちは言うかもしれない。
 事の善し悪しは、終わってみなければわからないとも言うが、これは善かったのだろうか‥‥ 悪かったのだろうか‥‥
 なお、王熊の首級はパラーリア・ゲラーが挙げたというのだが、戦いの様子を語る者はいない‥‥

 メグレズ・ファウンテン(eb5451)や不破斬(eb1568)ら後方の護衛部隊にしてみれば、退屈な作戦だったのかもしれない。
 尤も、後詰めに戦闘の出番がなかったのは幸いなのだが‥‥
「あの森なんかカブトムシがよく取れそうでござるよ」
 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)など、気楽なものである。
「結局、物資の調達が問題か‥‥」
 リンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)は、物価上昇に頭を悩ませていた。
 ムーンロードで世界が近くなったとはいえ、世界各地から買い付けするのにも限界がある。
 商いに義理を押し付けて成り立つものでもない‥‥
 ともあれ、蘆名に残されていた物資は少ない。餓死や凍死する者が出ては、解放した意味も薄れてしまうだろう。
「苦しいときに苦しい顔をしないで行うのが、人道援助というもの。徳は己のために行う者にあらず‥‥ですよ」
 後詰めの大将・杉田玄白は、微笑みに苦笑いを浮かべるのだった。

「菩薩様、セーラ様、カイ様をお救い下さって感謝します」
 七神やカイたちのように無事を確認して抱き合う冒険者たちもいるが、今回の主役は彼らではない。
 大いなる悲しみの中で抱き合うことが叶った蘆名の民たちを見るに、そう思う。
 勿論、家族や知己を失った者たちもいるだろう。
 だが、連合軍や冒険者に新たな友人を得た蘆名の民も多い。
「蘆名藩は鬼軍より解放された! 主家なき今、蘆名の再建は、この猪苗代盛国に任せてもらおう!!」
 戦いの後、蘆名藩は消滅した代わりに猪苗代藩が建つのだが、それがどうなったかは想像に難くあるまい‥‥