●リプレイ本文
●いきなり状況は最悪
「ゴブゴブゥ!!」
「ギャッ! ギャッ!!」
「ここを通すなぁ! 持ちこたえろぉ!!
小鬼と僧兵らしき声に混じって剣戟が寺の外まで聞こえてくる。
「中から声は聞こえてるよ。まだ間に合う!」
駆けつけたアーク・ウイング(ea3055)たちが壊れた表門を見て愕然とする。
門どころか、周囲の壁まで壊れて、瓦礫に埋もれるように丸太が何本も落ちていた。
「破城槌か‥‥」
カイ・ローン(ea3054)は感心しながら走る速度を上げる。
門の中では本殿へとつながる区画への門を守って僧兵たちが小鬼の猛攻を受けていた。
幸い、こちらの存在は、まだ向こうには知られていないようだ。
冒険者たちは寺へと走りながらやった簡単な打ち合わせ通りに、大きく2つの集団に分かれた。
その間にアークはブレスセンサーで敵の数を把握し始める。
「今のところ小鬼の気配ばかりみたいだよ。数は12‥‥ でも」
報告しながら、アークが目の上に手をかざして、残りの手で遠くを指差している。
小鬼たちの影に埋もれるようにして、槍の穂がチラホラさせながら山鬼の肩から上が見えている。
「噂の山鬼って、あれだよね? だとしたら、あの辺りにも小鬼がいるからね。多分もっと多い」
戦場が広すぎてアークのブレスセンサーでは捉え切れなかった鬼がいるようだ。
「私もそう思います。戦場が広すぎて把握しきれませんね」
塀の向こう側には何も感じなかったので目の前に見えているのが全ての鬼であると荒神紗之(ea4660)が皆に伝える。
門の周りには5人の反応を感じていた。おそらくそれが僧兵であろう。
「これでは裏門の戦力がどれくらいか、わからないな」
「まずは目の前の敵を倒すのが先だね」
アークを先頭に冒険者たちが門の中に雪崩れ込む。
バガンッッ!!
空気を引き裂く音が光と共に響く。
「蹴散らせ!!」
山王牙(ea1774)の太刀から放たれた剣圧が空気を歪ませるように広がり、小鬼たちを襲う。
しかし、小鬼たちは体勢を崩した仲間を踏み越えて、山王たちに迫ってくる。
息を整え再び奥義を放つが、やはり数を活かした突進を止めることはできない。
「巌流西園寺更紗、参る!」
西園寺更紗(ea4734)が山王とアークの射線を塞がないように小鬼たちの前に飛び出す。
「それじゃあ大仏とクソ坊主どもを助けるとしますかねェ〜。
この死んだ坊さんじゃあ報酬は払ってもらえそうにねーからなァ、ムヒヒ」
ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)は、息絶えて倒れている僧兵を一瞥すると小鬼に突っ込んでいった。
小鬼の斧をかわしながら日本刀が振るわれるたびに血飛沫が舞う。
「ヒャッ、ヒャッ、ヒャハハハ」
深手を連続で受けた小鬼が逃げようとするが、すぐ後ろには味方の小鬼がいて下がれない。
「オイ、あんまりくせー顔近づけてんじゃあねえぜ、このビチグソがァ」
「ギッ」
怯える小鬼が衝撃波に飲まれた。後方でも何体かの小鬼が倒れるのが見える。
「ムシャアアアッ! ノロマなんだよ、このマヌケ面がぁ―――っ!」
しかし、さすがに何10体もの小鬼を相手に少数では、敵陣を切り裂くのは難しい。
アークはたまらず下がり、山王も猛攻を受けるのに精一杯だ。
西園寺も長巻で掃うが、後が迫ってくる。
「次から次へと限りがありまへんぇ」
小鬼の体にめり込む長巻を引き抜き、際どいところで全ての攻撃をかわす。
個人個人ではヴァラスも西園寺も小鬼を圧倒している。
しかし、小鬼を圧倒するのとは別に、西園寺の目の前には小鬼の肉の壁という障害が存在している。これを無視して進めはしない。
「おっとォ。頼んますぜ〜、後続さぁ〜ん!」
ヴァラスの声に応えるように2つの班が左右から包み込む。
「斬った張ったは好きじゃあないが!! 一応俺でも鬼殺しだしな‥‥ たまには派手に暴れますかね‥‥」
秋月雨雀(ea2517)が浪人と僧兵を引き連れ、斬り込んでいく。
彼らが目指すのは寺の本堂。そこには僧侶たちが本尊を守って篭っているはずである。
3人の前を小鬼たちの肉の壁が塞ぐ。
「鬼殺しの秋月雨雀、舐めてくれるなっ!!」
秋月の意図を察して浪人と僧兵が小鬼を押しとどめた。
ゴゥ!!
空気の唸る音と共に隊列の後ろから押されて小鬼がその空間に投げ出される。
苦しそうにもがくが、その小鬼の行き場はどこにもない。
やがて悲鳴をあげるように口をパクパクさせて動かなくなった。
小鬼たちは見えない壁を避けるように移動を始めるが、どこまで安全なのかわからずに、時折突出してくる。
「あと何箇所か真空の壁を作ってもらったら、ここは俺だけで大丈夫だ!! 頼む」
氷川玲(ea2988)が小柄を構えて小鬼を待ち受け、片っ端から気絶させていく。
秋月の術が完成するたびに小鬼たちの隊列に綻びが生じていく。
気絶したまま真空の檻の中で絶命した小鬼もいる。
ゲレイ・メージ(ea6177)のウォーターボムが作る陣形の隙に、得物に炎を纏わせた山崎剱紅狼(ea0585)と風間悠姫(ea0437)と志士が切り込む。
しかし、ウォーターボムの被害は軽微。切り倒せなかった小鬼たちの反撃に2人が囲まれそうになった。
山崎は防戦一方、なんとか重い野太刀を扱う風間が小鬼に傷を負わせていく。
そこへ弓矢に持ち替えたゲレイと志士からも援護の矢が飛ぶ。
志士の弓術は兎も角、ゲレイの射撃は味方の2人に当たらないかヒヤヒヤものである。
「グルゥァアアアァーーーーッ!!」
山崎が般若の面で脅かすが、見慣れた鬼の顔。
小鬼たちは、おっかないおっさんがいるなくらいにしか感じていないようだ。
「ちょっと待てぃ!!」
相手の手数の多さはやはり、一騎打ちに特化した冒険者にはきつい。
それでも何とか先んじて突入してきたカイたちによって状況は好転しつつある。
「この雑魚どもが!!」
ポーションを飲んで戦線復帰した山崎が小鬼たちを切り刻む。
「そこっ!!」
「ここは貴方達の住処ではありません。消えて貰います」
ズガンッ。ブオゥ。
アークのライトニングサンダーボルトが放たれるたびに小鬼が仰(の)け反り、山王のソードボンバーが唸った。
荒神が小鬼を引き受けてくれているおかげで2人は大技に専念できていた。
しかも小鬼の攻勢が弱まる一瞬を利用して生きている小鬼たちが纏まった場所を魔法で調べ、2人に伝えている。
「くっ、後から後から」
背後からの攻撃に気づき、それを何とかかわす。
小鬼は背が小さい分、乱戦では死角に入りやすかった。
それも何とか切り伏せることに成功した。
「さぁ、反撃開始です」
少し後ろに下がった2人の援護が始まると小鬼たちが微妙に押され始めた。
「風の運び手‥‥御蔵忠司、義により助太刀に参りました」
ようやく御蔵忠司(ea0901)が浪人とシフールのクレリックを従えて表門へ辿り着いた。
「ここは通しません!! 仏像には指1本触れさせませんよ」
全ての攻撃をかわしきれず傷を負いながらも、槍の穂先を小鬼に突き出した。
「無理はしないで」
浪人の援護とクレリックの回復で小鬼たちと何とか渡り合っている。
「数が多すぎる‥‥」
よくもこれだけの猛攻を耐えてきたものだと御蔵が感心する。
「今です」
たじろぎ始めた小鬼たちに冒険者を押しとどめる力はなく、秋月たちは表門を守る僧兵たちと合流すると本堂の場所を聞いて中へ突入していった。ヴァラスたちもそれを追う。
「俺はともかく、周りはかなりの腕利きばかりだ。安心しろ」
「承知‥‥」
言葉少なに僧兵が麻生空弥(ea1059)に答える。息も切れ、かなり苦しそうだ。
「あんたは休んでな。三下どもが! 掛かって来いやぁ!!」
体を捻りながら石突で突いて小鬼を気絶させていくが、麻生の受ける傷も多い。
「まだもう少し、回復の術が使える。安心して戦ってくれ」
僧兵の言葉に傷つきながら麻生は突きを繰り返す。
「力量不足なんてのは俺が一番解ってるんだよ! だが、戦わなけりゃぁ、いつまで経っても強くなれないんだよ!!」
こちらが押し始めているとはいえ、周囲の小鬼の数は無視できない。止めをさす前に、気絶させては起き上がってくるのだ。
秋月たちが抜けた分、五分に戻ったと言ってもいい。
かくして激戦が再開された‥‥
●裏門
「うおっ‥‥」
傷だらけの僧兵が覚悟を決めたとき、目の前の小鬼が崩れ落ちた。
「うちが気持ちよく逝かせてあげますぇ」
小鬼が算を乱して散っていく。
「ムホホ! まったく今日はたくさんブッた切れて気分最高ォ〜だねッ!」
ヴァラスはそれを追っていった。
山鬼から受けた傷は裏門へ来る途中にポーションで回復していたので、疲れは感じるものの元気だけはあり余っている。
「これだけどすか‥‥ もう少し早う、うちらが来とったら‥‥」
ビュッと長巻を振り、血糊を掃った西園寺はフゥと息をついた。
小鬼の死体に混じって僧兵たちの死体もたくさん混じっている。
生き残りは2名。
「いえ、本当に助かりました。それで表門の方はどうなのです? 本堂からの使いも来なくなって大分経ちます」
「そちらは仲間が戦こうてます」
「行きましょう。もう、ここにいても意味はない」
僧兵たちは自らの傷を癒していく。
「すぐ戻ってきますよって、堪忍な」
倒れた仲間に手を合わせ、簡単に経を唱えると僧兵たちは西園寺を先頭に本堂へと向かった。
●対決!!
「あの角は!!」
孫陸(ea2391)には山鬼の角に見覚えがあった。
江戸に接近した山鬼たちの頭領格‥‥ 以前に逃がしてしまった、あの山鬼である。
「以前逃した山鬼が、また人に害を成すとは‥‥ それが今回の事件を引き起こす原因になってしまったのか‥‥」
孫陸が悔しそうな表情を浮かべて唇を噛んでいる。「それもここで終わりにしてやる」
奴の強さは以前の戦いで知っている。
逃がさないためには周りの小鬼たちを何とかするのが先決だった。
「はぁっ!!」
拳に闘気を集め、小鬼に鉄拳を叩き込む。
3体目の小鬼を倒したところで、山鬼戦士と目があった。
向こうも孫の顔に見覚えがあるのか、小鬼を掻き分け近づいてくる。
「孫!!」
味方の声も空しく、山鬼戦士の槍を続け様にかわしきれずにくらってしまった。
ガクリと膝をつく。こんな傷を何回も受ければ、耐え切れない。
ふらつきながらも何とか戦線を離脱する。
「山崎殿‥‥ 頼む‥‥」
山崎の脇を固める形で丙鞘継(ea2495)が少しだけ引く。
同程度の実力を持つと思っていた孫陸があの様子では、自分も同じ運命をたどることは容易に想像がつく。
炎を纏った日本刀を振り回して、小鬼を切り伏せていく。
塀の上に陣取ったアークから雷光が次々と放たれる。
「危ない!!」
アークの魔法による援護射撃。突破班を含め、多くの者たちが窮地を救われていた。
角度の付いた攻撃であるために、長射程の割に範囲に入る敵は少ない。
しかし、強力な攻撃魔法を敵に邪魔されず撃ち込むことができれば、戦場で魔法使いたちはこれ以上ない戦力になるのだ。
アークの魔法が発動する度に小鬼たちの悲鳴が上がり、次第に櫛の歯が欠けるように小鬼たちが数を減らしていく。
「グァァ!!」
山鬼戦士が絶命した小鬼を掴んで投げた。
ドサリと音を立ててアークが塀の上から落ちる。
「大丈夫か?」
「うん。でも、魔法は撃ち止めだね」
「がんばったな。後は任せてくれ」
カイの魔法で回復したアークは仲間の邪魔にならないように後方へと下がった。
「片逆手二刀の構えが‥‥ な、何なんだよこの強さは!!」
決して鬼神ノ小柄が不幸を呼び寄せているのではない。本当に強いのである。
「小鬼を片付けるまで頑張ってください‥‥」
必死の山崎を余所に、丙は淡々と小鬼を狩っていく。
傷ついてはリカバーを受け、淡々と狩る。背中を山崎に任せて‥‥
その効果はすぐに現れはじめた。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
ようやくカイの参戦がなったのである。
当然のように攻撃の薄くなった表門も小鬼たちを撃破した。
一気呵成に攻め込み、表門近くの小鬼は終に全滅した。
見たことある顔がたくさんいるとでもいうのか、山鬼戦士は冒険者たちを一瞥すると槍を振るいはじめた。
ゴゥ、ゴゥと唸る穂先に冒険者たちが気圧される。
しかし、攻撃する相手が増えたために山鬼戦士の手数がバラけたのを見過ごすような冒険者たちではない。
山鬼戦士は矢を弾き、小柄を物ともせずに槍を振るった。
その度に冒険者たちの包囲に穴が開く。
すでにカイや僧兵たちの回復をもってしても回復しきれない者もいる。
「しつこい!!」
山崎の太刀が山鬼戦士に流血を強いるが、それでも倒れない。
「はぁあ!!」
間合いを詰めて密着した氷川が山鬼戦士の背後に回りこみ、槍を扱う右腕の肘に小柄を突き立てる。
掠り傷から血が噴出し、山鬼戦士が苦痛の表情を浮かべる。
お返しとばかりに器用に槍を短く持ち替えて氷川を切り裂く。
それにしても強靭である。
これだけ攻撃を受けても、まだ山鬼戦士は立っている。
回復手段を持ち、数で勝っている冒険者であったが、気を抜けば犠牲が出る可能性はある。
一撃が大きいだけに慎重にならざるをえなかった。
ゴクリ‥‥
喉を鳴らす音が聞こえるようである。
そのとき、山鬼戦士が動きを止めた。
表門の小鬼を片付け、駆けつけたシフール・クレリックのコアギュレイトが、ようやく山鬼戦士の自由を奪うことに成功したのである。
「往生‥‥せぃやァッ!!」
いち早く気づいた山崎の刀が首筋に突き刺さり、引き抜くとパクッと半分切り離された。返す刀でその首を落とす‥‥
ドドンッ‥‥
前の依頼で取り逃がしてしまった者たちが倒れる山鬼戦士を見て、安堵の表情を浮かべている。
相討ちになりながらも逃がしてしまった戦士は大きく溜め息をついた。
●これ以上、何ができたのか‥‥
山鬼戦士を倒した山崎たちが小鬼を全滅させ、本堂に駆けつけるとそこでも戦闘は終わっていた。
裏門に向かったヴァラスたちもその場にいて、本堂を守るように武器を構えていた。
本堂の前には小鬼の死体が転がっている。
「仏像も住職たちも無事です。しかし、裏門の僧兵たちはほとんど死んでしまったようです」
秋月や御蔵は仏像に傷がなかったことを喜びながらも、それを手放しで喜べずにいた。
「お主らはよくやってくれたよ。寺はこの通り生き延びた。それで満足せねば罰が当たるわい」
手を合わせる老僧がかけてくれる慰めともとれる労いの言葉だけが、冒険者たちの心の中のモヤモヤを僅かばかり晴らしてくれるのであった。